ログイーーーーン
「佐藤さん。じゃなくてえっと、妻藤さん・・・」
背後からかけられた声に、伽乃は振り返った。
担任の女史だ。
名前は忘れた。
「何か?」
伽乃は淡泊に問うと、女史は名字変更や婚姻に伴う書類の山を渡してきた。
学生婚はやっぱり大変だな。
「伽乃さん」
女史が、書類の説明を粗方終えて、今度は名前で呼びかけてくる。
伽乃が顔をあげると、女史は心配そうな顔を浮かべている。
「伽乃さん。何かあったら、相談して下さいね」
伽乃は目をぱちくりとさせた。
入学時、学校関係者には非常に驚かれた。
あの佐藤グループの令嬢が、家から一番近いという理由でごく普通の、割と馬鹿校の公立に入学してきたため。
入学式も、自前のカメラを持って参戦した父を除けば、まったく普通の制服で参列した。
なぜ驚かれるのか、理由は分かるが理解しようとは思わない。
が、大企業の令嬢がユルユルな警備の元ふらふら歩いていれば、教師陣が心配するのも無理ない。
「ご心配ありがとうございます。でも――
明日から旦那さんが迎えに来てくれるそうなので」
伽乃は淡泊にそう告げると、呆然とする女史の前を去った。
ほぼ同時にスマホでゲームアプリを起動しながら。