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軌道をめぐる同行者1

 ジェミニポートの五級生ダイバー、ルリエスが銛手ストライカーを務めるルリエス分隊。四名のダイバーらを率いる分隊のリーダーにして実質的な切り込み隊長を担う彼女が愛機を纏い、仲間たちを背に地球軌道を滑走している。

 オービタルダイバーに配備された軌道甲冑の現行機体・VLSの五機編隊。その中でも、自身のイメージカラーである真紅に塗装したルリエス機がひときわ目立っている。脚部航行ユニットから上げる炎の軌跡を、続く灰色のVLSたちが必死で追随する。

 ラムダ担当管理官より下された、箱舟・ディスカバリー6分離体Aの破壊作戦。

 目標物ターゲットの追跡を続ける中、ルリエスの右腕を務める五級生・シグノスの機体が急加速して背を地表側に向けると、向かい合う構図になったルリエスに合図を送ってきた。

 そして通常は使用しない共用回線アナログ越しに、彼の音声が割り込んでくる。


【――ルリエス分隊長。さっきからみんなやけに無口だなって思ってたら、これ、たぶんネット回線が切れちゃってないですか】


 最初は自分の口数が少ないことを遠巻きに揶揄しているのかと早とちりしてしまったが、シグノスが言ったとおり、確かに網膜下端末経由での通信ステータスが不通状態オフラインになっていた。

 彼女らの網膜下端末は、地球軌道上に点在する中継衛星のネットワーク網に強く依存している。だからそこに何らかの異常があればデータ送受信がストップし、この宇宙空間では会話もままならなくなる。


【例の通信障害の可能性がありますよ、最近噂になってる。この前も工場群島行きの軌道船が測位衛星を見失って遭難しかけたって、輸送班の連中が】


 彼の推測に、以前弟が言っていた話がすぐさま思い出される。


「……わたしも把握してる。他に異常は?」


【異常も何も分隊長、網膜下端末が動いてくれてないことにはディスカバリー6の艦影を捕捉できませんって! 距離的に、あと数分で接触距離のはずでしょう? 僕たちの隊は安全をとって、一旦基地まで引き返した方が……】


 言われてみれば網膜下端末のレーダーマップから敵艦影が見当たらなくなっていた。地表に広がるフューチャーマテリアルの地形を目印に飛んでいたせいで、計器の不調になど気付きもしなかったのだ。

 それよりも、ルリエスには一つ思いあたる節があった。


「……でも、これはちょっとヘン。噂の通信障害だとしたら、先行してるニルヴァたちはどうして戦えてる?」


 前方視界に、交戦の光を視認する。あれは先んじてディスカバリー6と接触したニルヴァ分隊の猛攻による光だ。


【あ……本当だ、なんでだろ。VLSが操縦困難になってるはずなのに、あの人らもさすがにそこまで命知らずだとは思えないし……】


 これは推測だけど、と前置きして。


「ニルヴァは手柄の独占を考えた。わたしたち分隊が引き返すように罠を張った」


 ルリエスが思い至った可能性はひとつ。これはただの通信障害ではなく、ニルヴァ分隊が()()()()()()()()()()()()()()()()通信障害だということ。


「ジャミング衛星という新型装備があったはず。それをニルヴァが使った可能性の方が高い」


 箱舟からのハッキング攻撃から軌道甲冑を守るために開発された、携帯型人工衛星のことをルリエスはふと思い出す。ジャミング通信を放ち、一定範囲内のネットワーク網を一時的混乱させるタイプの装備だ。きっとニルヴァが勝手に倉庫から持ち出したに違いない。


「こんな状態でも粗雑なあいつが飛べてるなら大丈夫。隊の皆はこのままの軌道を維持、前進して。今回は網膜下端末に頼らない目視戦闘となるから慎重に」


【えっ、ちょっ、目視戦闘とか、そんな無茶苦茶な――ルリエス分隊ちょおっ――――】


 開戦の火蓋を切るように、ルリエス機がブースター点火し速度を高めた。


「間もなく交戦宙域。我が隊も戦闘態勢に移行する」


 と同時に、前方視界をせめぎ合う戦闘の光へと五機が飛び込んでいく。

 ルリエスたちに先行していたニルヴァ分隊のVLSから放たれ、暗黒世界に乱れ咲く青緑色のレーザー光。それを浴びせられる度に、鈍色の巨大構造物――ディスカバリー6から分かたれた分離体Aが、断末魔の叫びを思わせる火花をチリチリと散らし続けていた。


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