7話 初戦闘
そして深夜。
俺達は人斬りを捕縛する為、サクラ町を歩き回り捜索を開始していた。
しかし、一向に人斬りが現れる気配が無いまま時間だけが過ぎていった。
そこで痺れを切らしたシルキーが口を開く。
「ねぇーグレンー。私もう疲れたよー」
「これも依頼の内だ。人斬りがいつ現れるかわからねぇ。お前も集中力を切らすなよ」
「はぁーい……」
シルキーは自分が言った不満をあっさりとグレンにいなされ、ふてくされながら空返事を返す。
「でも兄さん。このまま四人で固まって歩いていても埒が明かないよ」
「んーまぁ確かにそうだな。――――なら二手に分かれるか」
そうしてグレンの提案で俺とシルキー組、グレンとルドルフ組に分かれて町を捜索することとなった。
◇
二手に分かれて暫く。
時刻はは午前一時を回った頃だった。
グレンとルドルフ組は俺達と反対側の路地を捜索していた。
「兄さん、あの二人大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。リオンは昼間の役人とのいざこざを見た限り、身体能力は高えみてぇだし、ついでにシルキーも一緒だ。アイツはバカだけどよ、ドジさえしなけりゃ強ぇ。それはルドルフ、お前もよく知ってんだろ?」
「確かにそうだね。――――シルキー、ドジしてなきゃいいけど……」
「いや、シルキーだぞ? ドジするだろ……」
「兄さん…………」
((本当に大丈夫か……?))
◇
一方その頃、俺とシルキー組は。
「なーんかデートみたいだね、リオっち!」
「デートじゃなくて依頼だろ? 頼むから集中しようぜ? 俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ」
「カッコいいなぁ! 俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ! くぅーーー!」
シルキーは茶化すように俺の真似をした。
それに対し俺は不快感を露にする。
「なぁシルキー、やる気ある?」
「もちろんあるよー! もし今人斬りが襲ってきたら、私がリオっちを守ってあげるからねっ!」
シルキーはどこまでが本気で、どこまでが冗談なのかさっぱりわからない。
グレン達ならわかるのだろうか。
「はぁ……。わかったよ。じゃあ頼むね?」
「うん! 任せといてー!」
などと話していると、ザザッ! と砂埃を舞わせながら突然、俺達の目の前に、鬼の面で顔を隠し腰に刀を携えた武士が現れた。
「……っ! 人斬りか!?」
「ややっ! 現れたな!? このシルキー様が成敗してくれる!」
「…………シルキー?」
「へへっ。ごめんごめん。ちゃんとやるから……! それじゃあ、依頼達成目指して頑張ろー!」
軽い冗談を飛ばしつつもシルキーの表情はどんどん真剣なものへと変わっていく。
それに応じるかの如く、人斬りは刀を抜き構えると、こちらとの間合いをジリジリと詰めて来た。
そこで俺は重要な事に気が付いた。
「あ……。俺、誰かと戦ったりしたこと無かったわ……」
「えぇー!?」
シルキーは驚き、目が飛び出すのではと思う程、目を丸くして俺を見た。
「正確に言えば、役人達とちょっとしたいざこざはあったんだけど、あれは自分の身を守る為にやった事で、戦闘って言える程のものでもなかったし……。つまり、これが俺にとって初めての戦闘なんだ……」
シルキーはひどくガッカリした様子で俺に問い掛ける。
「えぇ……そりゃないよ〜。どうすんのさぁ?」
――どうすんのさぁって……。
そりゃあ戦うしかないけどさ、まずどうやって戦うかだよな。
周りに、刀とか武器になりそうな物は何も無いし、だったら役人達にやったみたいに殴る、蹴るか?
いや、人斬りは刀を持っているんだし、そんなもので勝てるわけないよな……。
じゃあやっぱりスキルで戦うしかない……か。
あれ気色悪いんだよな……。
あぁ、そんな事考えてたら何か色々思い出してきたぞ……?
でもスキルの使い方とかって確か聞いてなかったよな……。
役人に絡まれた時は咄嗟にスキルが使えて助かったけど、何か特別な使い方とかあるのか?
そんなこんなを考えていると、人斬りは突然走り出し俺に斬りかかってきた。
「うぉっ!! あっぶねーな……! 今考えてるんだからちょっと待って!!」
俺は何とかそれを躱し、そう叫ぶとシルキーの元へと駆け寄った。
「なぁ、シルキー! スキルってどうやって使うんだ!?」
そう聞くとあんなにいつも明るいシルキーの顔が見たこともない様な呆れ返った顔に変わった。
「はぁ……リオっち……。しょうがないなぁ……。あのね、スキルは身体の中にある物だからその能力を使うイメージをすれば身体が反応して使えるはずだよ」
「あ、ありがとう、シルキー」
ため息混じりに教えてくれたシルキーに礼を言い俺はスキルについて考える。
――能力をイメージする……か。
俺のスキルは【悪食】で使える能力は……左手の口で何でも捕食するだったか?
俺の左手が獣のような口になるイメージ…。
イメージ……イメージ……。
俺は目を瞑りひたすらにイメージをふくらませていった。
すると左手が段々と熱くなっていくのを感じ、俺はゆっくりと目を開けた。
「……よし! イメージ通りあの時と同じ様に左手が化け物の口に変わってる! これで俺も戦える!」
自分の左手を見てそう確信した俺は、意気揚々とシルキーの元を離れ人斬りに向かって走り出した。
そして俺はそのままの勢いで口に変えた左手を突き出しながら人斬りに飛びかかった。
すると人斬りは刀を構え、飛びかかっている俺に刀を突き出してきた。
ガキンッ…………!!
「へへっ。俺の『コレ』、刀も噛み砕けるんだわ」
「……………………っ!?」
俺はニヤリと笑いながらそう言い、人斬りの刀の半分を噛み砕いた。
そして怯んでいた人斬りをそのまま蹴飛ばそうと俺は足を蹴り上げた。
すると人斬りは後ろへ跳びそれを躱した。
「ね、ねぇ! リオっち! 今の何!? 左手が口みたいになって刀を食べちゃったけど!? それがリオっちのスキルなわけ!?」
「あぁ、そうだ! やれる事は食う事だけだけど、これなら俺も少しは戦えるだろ?」
「みたいだね! よーし、そうと決まれば私もやっちゃうよー!」
シルキーは意気揚々と素早い動きで人斬りへ向かっていく。
走りながら太腿に隠していた両手ナイフを抜き、人斬りの背後へと回り込む。
「よし! いいぞシルキー!」
俺がそう声をかけると、人斬りの背後から飛び上がり今にも首に斬りかかりそうになっていたシルキーの動きが止まる。
そして彼女の顔は真剣なものから、いつもの間の抜けた表情へと戻った。
「へ? なんか言ったー?」
「は……?」
あろう事か、シルキーは戦闘中にも関わらず、声を掛けた俺の方を向き返事をした。
俺はシルキーが何故こちらを見たのか全く理解出来なかった。
そしてその一瞬で人斬りは背後のシルキーへと反応し、刀の柄の部分でシルキーの腹を殴り、民家の外壁へと吹っ飛ばした。
シルキーはぐったりとしてしまい、すぐには動けない様子だった。
――シルキーがやられた……。
もうこうなったら俺がやるしかない……!
この左手の口でどこまでやれるか……。
食う事しかできないけど、さっきと同じように刀の残ってる部分を全部食えれば、人斬りは刀を失い無力化できるはず。
俺がアイツに勝つにはそれしかない。
そう心に決め俺は人斬りへと向かって行った。
「うぉおおおお!!!」
俺は人斬りが刀を振り下ろすようにあえて無防備に真っ直ぐ突っ込んだ。
しかし、人斬りは俺の策に気付いたのか刀を左手に持ち替え、右腕を俺の左手の口にわざと噛ませ、左手でその短くなった刀を振り下ろし、俺の体を斬りつけた。
「ぐあああああ!!!!」
俺は左手の口で人斬りの腕に噛み付いていたせいで上手く身体を動かす事が出来ず、右肩から腹にかけての大部分を斬られてしまった。
あまりの激痛に俺はその場で声を上げ、前に倒れ込んだ。
――痛い、痛い痛い……痛い……!
何だこれ……本当に斬られるとこんなに痛いのか?
やばい、これ死ぬやつだ……。
スキルを手に入れて調子に乗った。
戦い方もろくに知らないくせに、人斬りに勝てるなんて自惚れていた……。
「はは……。かっこ悪……」
俺は無様にも、そんな事を呟いた。
しかし人斬りは止まらない。倒れ込んだ俺の頭目掛けて刀を振り下ろした。
刹那――――
「勝手に死んでんじゃねぇよ!! 馬鹿野郎が!!」
グレンが叫び声を上げながら、人斬りの顔面に殴り掛かった。
しかし人斬りもそれに上手く対応し、後ろへ宙返りする形で躱した。
すると、人斬りが着地するのと同時にバンッ――――という銃声が鳴り響いた。その音の主はルドルフだった。
ルドルフは人斬りがグレンの攻撃を躱し、無防備になった瞬間を狙っていた。
そしてルドルフが放った銃弾は人斬りの右脚に見事命中した。
人斬りは右脚を引き摺りながら後退していく。
その隙に二人は俺の元へと駆け寄り、グレンは俺を抱きかかえた。
「おい! リオン! 死ぬんじゃねぇぞ!? しっかりしろ!」
「グ……レン。そんな事より……はや……く、人斬りを……捕縛し……ないと」
俺は斬られた箇所の激痛と出血により、意識を朦朧とさせながらも、グレンに人斬りを捕縛するよう訴えた。
「んなもん後でいい! お前の手当が先だろうが!」
「は……やく、逃げちゃ……うぞ……?」
そう俺が呟くとグレンは人斬りを睨み付け叫ぶ――――
「おい人斬りテメェ……!! よくも俺の仲間をいたぶってくれたな!? 次会った時がお前の最後だ! 覚えてやがれ、このクソ外道が……!!」
しかし人斬りは、その声に何の反応も見せないまま闇夜の中へと消えていった。
そしてグレンは俺を抱え、ルドルフはシルキーをおぶりオアシスへと戻った。
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