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いぬの気持ちが分かりすぎるのもねっていう話

作者: wag

お久しぶりですリハビリ短編。

儲けた。



ロジータは目の前にドスンと積まれた金の山を睨みつけながら腕を組み唸った。



大変なことになったぞ。



天涯孤独の平民乙女ロジータは先日、住まい近くの下町の路地裏で良からぬ輩に襲われかけた同じ年頃の乙女を助け、自宅に匿い世話を焼いた。



分かるわけないじゃん、

その乙女がやんごとなき身分のお嬢様で、父親の政敵の手の者にウッカリそそのかされてお忍びで下町遊びに繰り出しまんまと待ち伏せされて襲われかけてたなんてさ。


おかげでロジータは消えたお嬢様を探す手勢に誘拐犯として捕縛されーの、助けた側だと分かれば手のひら返しで歓待されーの、しかしやんごとなきお家の種々のやらかし(罠にはハマる、冤罪はかける)の目撃者として扱いを会議にかけられーの、生きた心地なぞするわけもない時間を味あわされたのである。



本気でもう終わりかと思ったよね。


ウッカリお嬢様が襲われたなんて噂が広まりでもしたら、例え未遂でも信じてなんてもらえないだろうしね。

目撃者は消すに限るよね、私消されるよね…。



と思ったら、やんごとなき皆様は割と寛大であったようで、ロジータには多額の謝礼金が提示され、ご令嬢の恩人として大々的に感謝され、ヒーローインタビューの如く取材を受けたりした。



そして今。

まさに約束通りの額の金子が目の前にドッカンなのである。



儲けた。

大変だ、どうしようか。



ムズムズと湧き上がる浮かれ気分を抑えきれず、口がうにょうにょと変な動きをする。


これだけあれば、慎みを持って生きれば一生食うに困らない。むしろちょっとくらい遊んじゃっても暮らせるに近い額だ。


職場(服飾店)の、やたらロジータへの当たりの強い店主夫妻とも、やたら売り子の制服の露出を増やそうとするボンボン息子とも、店番中やたら絡んできやがる常連の軟派男とも、皆まとめてオサラバである。



安い家でも買おうか。

モフモフの大きな犬でも飼ってのんびり暮らそうか。



妄想止まらぬロジータの背中に、


「お顔がユルユルですわよ」


と声が刺さる。



なんとも否定しがたい指摘!

と思いながらバッと振り向くと、そこにはロジータが助けたお嬢様がいた。


サッと頭を下げるが制止され、逆に両肩を掴まれる。


「ロジータ、これからどうするおつもりです」


「どうするも何も…帰って頂いた金で暮らすつもりですが」


「おやめなさい」


んえ?

ロジータは思わず変な声が出た。


「いいですか、」


とお嬢様は続けた。



家はわたくしの醜聞を誤魔化すため、あえて今回の事件を隠すことなく、勇気ある平民ロジータ、つまりあなたの英雄譚を強調して公にしました。


英雄あるところに敵役あり、自然と今回の黒幕である政敵にはヘイトが向き、わたくしには敵役に襲われる、か弱い姫役が回ってきているのです。騙されたのはわたくしの愚かさゆえなのにね。


それはいいのですが、

問題は今、あなたがどう世間から見られているか、です。


我が家を救ったヒーロー、天涯孤独の身の上、その上現在、多額の金を持っている。


一人暮らしの女性が、何のセキュリティもない長屋に多額の金を持って帰って来る。


やることはひとつですわよね。


下手したらロジータあなた、帰宅の道中で殺されますわよ。


護衛?付けるわけありませんわ。

だって家としては、あなたが死んでも何も問題ないもの。


むしろちょっと好都合。



だから、ね、家に帰るのはおやめなさい。

殺されたくなければ。




ロジータは真っ青になった。

そりゃあそうだ、ロジータが一攫千金を成し遂げたことを、街中が知っている。



金を抱えて家に帰るなぞ、鴨がネギ背負ってやってくるようなものだ。



マズい。



「……どうしましょー…」


「…個人的な伝手ですが、信頼できる者を紹介します。護衛にお連れなさい。その者の導きに従い身を隠し、そして家はお捨てなさい。ほとぼりが冷めた頃に、街を出るのがいいでしょう」


「えぇー…」


「家にあるものでどうしても必要なものは?」


「ありゃしませんが…

 ああ、強いて言えば、タペストリーでしょうか」


「壁に掛けてあるの?」


「いえ、しまってあります。

 なんでも、赤ん坊の私が捨てられた時におくるみ代わりにされていたようで」


「分かったわ、それは確保できるよう手配しましょう」


「ありがとうございます」


「礼には及ばないわ、これは私の罪ほろぼしだもの」



ごめんね、巻き込んで。


お嬢様はそう言って、部屋を去っていった。


ロジータには引き続き客室が与えられ、数日滞在するよう言われた。



対策を練ろうにもなーんもできることがない。

非力なロジータはダラダラして過ごした。

庭にいる白いモフモフの大型犬と仲良くなり、この子うちにくれないかしらとモフモフしながら過ごした。



束の間の平和な昼下がり、

ロジータの部屋にババーンとひとりの男が現れた。


灰色の髪をふわふわさせた体格のいい男だった。


「ご令嬢からの命で派遣されたロイだ」


よろしく、と握手を交わす。


「では行くぞ」


荷をまとめよ、と短く言うロイにちょっと待て待てとロジータは慌てる。


「随分急なのね」


「ああ、急ぐ訳ではない。ゆっくりやるといい」


「世話になった人に挨拶をしたいのだけれど」


「それはやめたほうがいい。危険だ」


「危険」


「誰が君の財を狙っているか知れない。

 屋敷の中で強盗があると面倒だからしないが、君が一歩屋敷を出るその時を待っている者がいるかもしれない。動きは悟られないほうがいい」


「ひい…」


「金は今どこに」


「あの鞄」


「さすがに目立つな」


そりゃあそうだ、ズッシリじゃらじゃら重い、いかにもな鞄だもの。


「君、銀行に金庫持ってるか」


「ないわ」


「なぜ!」


「私平民だもの、財もないし必要ないわよ。

 それに私、保証人がいないから作れないのよ」


「よし、では明日だ」


「はあ」


「明日の午後にはこの屋敷を出る。

 荷造りは直前までしないように」


「はあ」


生返事を返した翌朝、ロイは銀行員となんとお嬢様のお父上、バリバリの貴族をカジュアルに連れてきた。


「貸金庫作ろう、保証人連れてきた」


「そ…そんな簡単に…」


「いいですね?」


「い…いいとも…」


お父上も困惑しちゃってんじゃん。

しかし大貴族を保証人に据えられちゃあ適当な取引きのできない銀行員、ガッチリセキュリティの金庫を貸してくれ、バッチリ護衛をつけて金を持って行ってくれた。


ロジータの手元には1ヶ月分の給金くらいの現金と貸金庫の鍵。


「よし、行こう」




かくしてロジータは身を隠すように屋敷を出た。

二人連れ立ってフードを被って歩く。

馬車は襲われた時逃げ場がないという理由で却下となった。


「ああ…」


「心残りがあるのか」


「犬…仲良くしてくれた犬にお別れが言いたかった…」


「犬か。そのうちな」


「そのうちなんて来ないぃ…」


「ところで君の家だが」


「はい」


「案の定荒らされていた」


「ヒッ」


「タペストリーとはこれのことか」


ぽい、と丸めた古い布を寄越される。


「そうそうこれこれ」


「運が良かった。

 金がなかったことの腹いせだろう、部屋中破壊されていたからな」


「あわわわ」


「念の為聞くが、職場は辞めるつもりか」


「そのつもり。あそこにいたら危なそう」


「賢明だ。

 君はあそこの息子と恋仲なのか?」


「まさか!」


「だろうな。そんな風には見えなかった。

 だが奴らは君のことを恋人だの婚約者だの触れ回っているぞ」


「おえ」


「帰ってこなくて心配している、見かけたら知らせてくれ、だそうだ」


「この街を出て二度と戻らぬ決心がついたわ…」



早足で歩きながらちらりとロイの横顔を見る。

さきほどの『そんな風には見えなかった』で気付いたが、この男店の客だ。

ロジータも接客したことがある。



確か最後に買っていったのは……



「ロイは私といていいの?恋人が怒らない?」


「恋人はいないが」


「え、でもあのオレンジのスカーフ」


「グフ」


「な、なによどうしたのよ」


「人の心の傷を容易くえぐるな」


「え、まさか、なにフラれたの?」


「言わん」


「え、あんなに時間をかけて選んだのに?

 ほんとに?」


「言わん!」


「うわードンマーイ…」



なんと失恋の傷をグリグリやってしまったらしいロジータ、ぷりぷりしているロイの顔を見てなんだかふっと安心してしまった。


そういえば、どこかずっと緊張していたような気がする。


思いがけず和ませてくれたロイ(の失恋)に感謝した。






「ここだ」


クタクタになるまで歩いて歩いて、

二人は小さな一軒屋に到着した。

周りにも似たような家が密集している、住宅街のうちの一戸である。

鉛筆を立てたように背が高く長細い家だった。


「こんな人がいっぱいいるとこでいいの?」


「木を隠すなら森の中だ」



ガチャリとノブを回して踏み込んだその家は、見た目通りこじんまりした3階建ての家だった。



「君の私室は3階、俺は2階。

 食事や水回りの共同スペースは1階」



荷物を私室に置いて1階リビング集合、と端的に指示され、休む間もなくリビングでロイと向き合う。



「さて。君にはこれからひとつ、術を覚えてもらう」


「術」


「不思議な魔術を使う民族がいることは知っているか?」


「知ってる、都市伝説だけど」


「それは事実だ。

 とある民族には昔から魔術が伝承されている。門外不出の秘術だ。

 そして俺がまさにその一族の者だ」


「それ私に教えてもいいわけ?」


「いい。

 君は恐らく同胞だからな」


「なんですって?」


「赤ん坊の君を包んでいたというタペストリー。

 アレを見たが、我が一族に伝わる護符の紋が、びっっっしり書き加えてあったからな」


「えっそうなの」


「正直、ちょっとした恐怖すら感じるびっしり具合だった。よっぽど君が大事だったんだろう」


「じゃなんで捨てたって話よ」


「多分だが、君は捨てられたんじゃない。

 君を生かすために郷から離されたんだろう」


「全然話が見えないんだけど」


「我々は身に流れる魔力と外界の魔力を使って術を使うんだが、稀にその魔力がべらぼうに強い赤ん坊がいる。

 そういう子は己の魔力で己を焼いてしまうことがある。人体発火現象だ」


「こわい」


「対処法はひとつ、魔力に触れない場所に置いて、魔力の薄い空気にじわじわ馴染ませて中和するしかない」


「ふむ」


「郷の空気は魔力が濃いし、両親に流れる魔力も君には刺激になる。君の両親は君が愛おしくても君を抱けなかっただろう」


「……」


「それで、郷から離れ、かつ人の目につくところに君を置いて無事を祈るしかなかったと推測する」


「はあ〜〜…」


「理解したか?」


「頭ではね。気持ちの方はまだ」


「まあ、それは追々だ。

 そして君に覚えてもらう術は『変化』だ」


「ほう」


「こうだ」



パチン。

ロイは軽い泡が弾けるような音をさせて、大きな白い犬に変化した。


「え!君!」


ヘッヘッと舌を出して尻尾を振るその犬は、

あの屋敷の庭にいたモフモフ君だった。


「君ー!また会えて嬉しいよー!」


思わず抱きつきモフモフと撫で回すが、

ちょっと待てコレ変化って言わなかったか?


「あれ、君ロイ?」


「ゔぁふ」


「これまでも?」


「うぉん」


「ええー…」


思わず身を引くと、

「なぜ撫でないもっと撫でよ」とでも言うような目で見てくる。


うう、ズルい犬め…


誘惑に負けふわふわとやると、気持ちよさそうに目を細める。


「で、私も犬に変化すればいいの?」



パチン、とまた音がして、

床に這いつくばって頭にロジータの手を乗せた成人男性が現れる。


「うっわ絵面すご」


「仕方なかろう」


むくりと起き上がると、


「君も犬になる必要はない。

 そうだな、髪の色と顔の造作を少し、あと衣服を変える程度でいいだろう」


「変装ってこと?」


「そうだな、その方が簡単だ」


「うん、なんでロイは犬なの?」


「………」


「なんで?」


「……犬のほうが、色々便利だからだ」


「色々」


「…やましいことはしていない」


「私のとこに忍び込んでたくせに」


「それは!

 あの屋敷では番犬のバイトをしていただけで、

 お前は撫でるのも上手いし菓子もくれるしつい…」


「つい?」


「つい…懐いてしまい…」



つい懐いてしまい。


すごいパワーワードだな。


「とにかく、別に悪さをするために犬を選んでいる訳ではないのだ」


「まあいいわ。そういうことにしといてあげる」


「信じてないだろう!」


「もしかしてオレンジのスカーフのひとも、犬の自分を可愛がってくれたから好きになっちゃった〜、とかじゃないのー?脈アリとか勘違いしちゃったんじゃないのー?」


「ぐうっ…!なぜそこまで分る…!」


「えっホント?チャレンジャーすぎない?」


「今でも忘れられないのだ…彼女の不審な者を見る目が…」


「いっそ哀れだわ…いやもちろん彼女がね…」



見知らぬ男性から『あの時お世話になった犬でございます』と愛を告げられた日にゃぁ、ロジータなら警備隊に駆け込む。




とまあ軽いやりとりから始まった二人の隠遁生活(兼修行)であったが、意外なほど上手く回っていた。


お互いあまり他人を気にしない性格なのか、私室にいようが共有スペースにいようがあまり邪魔にならない。



驚くほどアッサリと生活は馴染み、術も発動の兆しを見せ(思わぬ形で故郷を知ったロジータは複雑でもあったが)、上手く行けば数ヶ月のうちに街を脱することができるだろう、と思われた。




その日、ロジータはロイと買い出しに出ていた。


買い出しに行く際にはロイに認識阻害の術を掛けてもらい、護衛として近くにいてもらっている。


「ごめんね、付き合ってもらっちゃって」


「わふ」


普段は人の姿での同行だが、本日は犬の姿での同行であった。


なぜならば行き先が、女性の下着屋だから。


玄関先で待つにしても成人男性の姿よりはまだ恥ずかしくない、という理由で犬をチョイスした。



しかし二人はしくじった。


選んだ下着屋が元勤め先と親しく、ロジータが手早く商品を選んでいる間に手を回され尾けられてしまった。


食料などを買い足して帰宅し、一息つくのもそこそこにベルが鳴る。


「出よう」


ロイがドアに手をかける直前、外からやかましく叫ぶ声がする。


「おお、ロジータよ!いるんだろう!」


ロイがこちらを振り返る。

いやいや知らないよ。


「僕だ、君の運命、ケンゾだ」


うわあああ(元)職場のボンボン息子!!!

売り子の制服の露出をどんどん増やそうとしたろくでもない奴!!!!

そんでもってあからさまにロジータの金目的で付き合ってたとかホラ吹きまくってる奴!!!


「運命ってなによ気色の悪い…」


「まずいな」


ロイがドアに背を付け腕組をして天井を仰ぐ。


「多分だが、囲まれたな」


「え、家を?」


「そうだ。君、変化のほうはどうだ」


「どうだろう…ちょっと自信ない」


「頑張れ。ひねり出せ。何とかしろ」


「無茶言わないで」


「クオリティは問わない。とにかく思いっきり術をかけろ。全出力だ」


「わ、わかった、あんまりブスになりたくないけど」


「ブスのほうがいい、本来の君とより遠ざかる」


「わかった、がんばる」


「俺は最低限の荷をまとめる」


バタバタとロイが階段を登って去る。

外からは朗々と「我が愛しのロジータ」とかいう気色悪い口上が聞こえてくる。

ロジータはええいままよ、とキツく目を閉じる。



いけ!やれ!やれるはずだ!

やれて…くれ!


ロイのレクチャーをイチから光速で思い出し、

己の魔力とやらを全解放する。



どうやらべらぼうに多いらしい、でもロジータ本人にはまるで馴染みのない力。

つい最近知り合ったくらいの関係だけど!

ずっと無視しててごめんだけど!

お願いちょこっと都合つけてくんないかなー!



とまるで金でも借りるかの如く懇願すると、

身の内からぞわぞわと何か迫り上がってくる。


え、何これ、発動する?発動するの?

えっどうしようまだ変化イメージついてない!


ロイはどうしてたっけ、ロイは…


あれ、そういえばさっき、遠まわしに美人って言われた?


いやー余計なこと考えちゃったーあーもう間に合わなーい!




…………荷をまとめ、エントランスに降りてきたロイは思わずつぶやいた。



「なぜそうなる?」



そこには、フッサフサの毛並の、


大きな栗色の犬がいた。




ーー犬になったロジータは「わっふわっふ」としか言わないし、仕方ないのでロイは自らが白髪混じりのナイスミドルに化け、あえて堂々と扉を開けた。



「騒々しい、何の用だ」


「お…おお、紳士よ、こちらに若い女性がいるでしょう。姿をくらました私の運命なのです、どうかお引き合わせを」


「何のことだ。このあたりは似た家が多い。

 家違いだろう」


「そんなはずは!」


「それになんだ、この人数は。恋人を迎えに来たと言うより、まるで捕り物のようだ。いやまてよ、女性の名はロジータといったか?」


紳士ロイがじろりとケンゾとお連れ様(十数名)を睨む。


「い…いや…紳士よ…」


「なるほど読めたぞ。わたしはこれから食材の買出しだが、先に警備隊に寄ったほうが良さそうだ」


「いや!それは!…帰るぞ!」


ヘタレなケンゾは撤収令を出し、そそくさと帰っていった。


紳士ロイは彼の愛犬ロジータの頭を優しく撫でながら、


「やれやれ、物騒なことだ。

 その女性も可哀想にな、

 善行をしたばかりに狙われるとは」


と大きめの声で独りごちると、


膝を落としてロジータ(犬)の額に唇を寄せ、


「まだ見張りが残っているな。市場に着いたら物陰で俺も犬になる。それからは野良犬のふりをして脱出するぞ」


と囁いた。


哀れロジータは「わふ」としか答えられなかったが、


内心では

「ありがとうありがとう本気で気色悪かった何よあの人数誘拐する気マンマンじゃんロイがいなかったら本気でもう駄目だった頼りになるありがとう大好きぃぃぃぃ」


と大騒ぎであった。



かくして無事に市場を経由し街を脱出した二匹であったが、



そこから先が大変であった。



火事場の馬鹿力で成し得たロジータの変化が、

解けなくなってしまったのだ。


正確には、変化の術(高出力)に匹敵する変化解除の術(高出力)がなかなか出せなかったのであるが。



ロジータは大焦りであった。


姿形もそうであるが、

犬になってからというもの、

食事の世話や毛並みの手入れ、排泄管理に至るまでの生活の全てをロイに握られる生活となり、


それが全然嫌じゃないのである!


撫でて!かまって!ごはん!お散歩!

とロイの膝に甘え、頭や顎下、耳の下あたりをわしわし撫でられると、もうロジータ(犬)はメロメロである。


しまいにはころりと仰向けに横になり、無防備に晒された腹を撫でるようロイを誘い、腹をさする大きな手のひらの心地よさに身もだえるのであった。



「君なぁ…犬適性ありすぎだろう…

 成人女性なんだぞ…」



まあ確かに、成人女性が横になって腹を撫でるのを強請るなど、完全に破廉恥だ。


ロイも想像したのか顔を赤くしているし、何だかいたたまれない。



……どうしよう!

身も心も犬から戻れなくなったら!

ロイは最後まで飼ってくれるんでしょーね!



との心配は唐突に終わりを迎えた。

またある日ベッドの上で腹を撫でてもらっていたところ、急に何だかやらしいことをしている気分になってしまい、猛烈に迫り上がってきた恥ずかしさと共に、



「……解けた」



お久しぶりに成人女性の姿に戻ったのである。


しかしながら絵面はベッド上で睦み合う男女。


しかもちょっとやらしいムードつき。


あっという間にスイッチ入ったロイによって、


ロジータは美味しく頂かれてしまったのであった。



それがまた全然嫌じゃなかったのが、

なんだかなぁ…と腑に落ちないロジータなのであった。



それから二人の故郷である魔術士の里に戻ったり、

ロジータの両親と再会したり(拍子抜けするくらい親子がそっくりだったため、思わず笑ってしまった)、

ロジータも魔術士としてちょっと修行したり、

ロイが里の若手でいちばんの術士だとかで嫁の座を狙ったバトルに巻き込まれたり、



なんだかんだあった後、


ふたりはとある大きな街の郊外に大きな庭付き店舗を買った。

資金はもちろん、あの謝礼金である。



店の名は

『R&R(ロイ&ロジータ) ドッグカフェホテル』


その名の通り、街の飼い犬と飼い主のための憩いの場である。


広いドッグランと犬・人双方に美味しい食事。

くつろげる休息スペース。


飼い主が用事で不在の期間の飼い犬の預かりも行い、ふたりは忙しなく過ごしていた。



そのうち二人に子供が産まれたり、

時を同じくして店先に産まれたての仔犬が捨てられているのを拾ったり、

ロジータは人の姿と犬の姿と両方で子育てすることになったり。


兄弟のように育った一人と一匹が、パートナーとして魔術士の仕事を請け負うようになったり。




何だかんだあったが、

総じてふたりは幸せであった。



リハビリ、リハビリ…

わん。

大型犬派です。

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