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ヒーロー・チェーン  作者: 清泪(せいな)
Ed.

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46/54

.1 仄かに冷たかった。

「ヒーロー・チェーンって知ってる?」


 女子高生の間で流行ってるとかいう都市伝説。

 仕事場の休憩室で話題にと聞いてみたのだけれど、話を聞いていたはずの彼の反応は薄い。

 とはいえ、出会ってから大体いつもそんなものなので馴れてしまった。


「だから、ヒーロー・チェーンって知ってる?」


 彼は首を横に振るだけで答える。

 話題を提供してるってのに、素っ気ない男だ。

 仕事に忙殺されて疲れきってるとはいえ、休憩時間ぐらいは会話を楽しむ余裕が欲しいところだ。

 缶コーヒーを買ってくれる優しさはあるのに、会話にその意識を回そうという気はないらしい。


 しかし、我ながら物騒な都市伝説を話題として見つけてしまった。

 よく読めばよく読むほど、休憩時間に相応しくないものだ。

 食べログか何かで近くの美味しいお店を検索してた方が、有意義に休憩時間を過ごせただろう。


 ヒーロー・チェーンとはなんたるかを彼に説明しながら、私はそんな後悔を抱いていた。


 薄い反応しか帰ってこないまま休憩時間が終わりを迎え、私たちは休憩室を出ていった。

 粘ってみたところで彼の反応が大きく変わることは無いだろうと諦めた。


「ごめん、先行ってて」


 職場のある階に戻るエレベーターに乗り込む前に、私はトイレに寄っていくことにした。

 用を足したいのではなくて、確認したいことがあった。

 わかりました、と小さく返事する彼。

 先輩と後輩の関係だから仕方が無いのだけど、いつまで経っても敬語で会話する関係性は変わらなかった。


 休憩室のドアを通り過ぎて、女子トイレへと入る。

 入って正面、綺麗に磨かれた鏡の前に立った。


 鏡に写る、私。


 鏡に写る、痣。


 朝起きて、首筋に違和感があって、触ってみてその痣の存在に驚いた。

 昨日寝る前に化粧を落とす際に鏡を見た時は、痣なんてものは無かったはずなのに、その奇妙な感触に鏡を見てみればくっきりと痣がついていた。

 寝てる間にぶつけたのかとか、昨日実はどこかで打っていてじわりと滲み出てきたのかとか、色々考えてみたが痛みがないのが奇妙だった。


 とにかく変に目立つ位置なのでファンデーションで誤魔化してみてはいるのだけれど、しっかり間近で見ればわかってしまう。


 痣。


 さっき何気なく不意に調べることになった、ヒーロー・チェーン。


 痣。


 痣を、指でなぞる。


 わかっていたことだった。


 それをこの指が再確認する。


 彼が入社してきて四年。

 先輩として教える役としてコンビを組むことが多かったから、その分彼と共に過ごす時間が多かった。

 反応の薄い素っ気ない彼は、最初こそ返事ぐらいしか口を開きはしなかったが、少しずつ、ほんの少しずつ、彼は返事以外でも会話をしてくれるようになった。

 人見知りの激しい面倒くさいヤツ、と思ってた時期もあったが、少しずつ交わされる会話の中で彼の人となりを知って彼への興味が湧いて、やがてそれが好意へと変わっていった。


 わかっていたことだった。


 ヒーロー・チェーンの記事を読んだ時に、皮肉にも背中を押されるような確信を得てしまった。

 押された背中の行く先が、死刑台だともわかっているのに、私は私の気持ちがハッキリとわかって嬉しくもあった。


 ああ、私は彼の事がどうしようもなく好きなんだ。


 鏡に映るその痣は――

 指に触れるこの痣は――

 黒く伸びたこの恋心は――


 ――仄かに、冷たかった。





ヒーロー・チェーン、終。

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