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.11 きた

 医者の診断は、わからない、だった。


 最近増えてきてる症状らしいが、今のところ身体の影響は確認されてないらしい。

 あらゆる可能性はあるものの、あくまで可能性なので処方箋も出せないとか。

 もっと大きな病院で、色々な設備を利用して調べるしかないそうだ。


 正直、専門医ではないとわかっているので期待していない部分もあったけれど、待合室で待った結果とりあえず紹介状だけを渡される処置にガッカリする分は多いし、ただわからないという不安だけが増大して残される形になった。


 診察室から出て、待合室に戻って周りを見回したが、先程の女性は既に居なくなっていてほっとした様な、何か言い返してやりたかった様な、複雑な気持ちになった。


「へんちん!」


 モヤモヤを抱えたまま帰宅し、着替えたり夕食を済ましたりお風呂に入ったりと、一連の流れを終えると剛志はまた特撮番組のお気に入りのシーンを観ていた。

 私のモヤモヤなんて、まったく関係無いのだと言われてるみたいで、また少しモヤッとする。

 剛志の事なのになぁー。

 あ、いやあの女性の言ってたことは私のことか。

 うーん。


 それにしても、よくも飽きないものだ。

 格好いいと喜んでいた包帯もすぐ嫌がるぐらいの気分の変わり身なのに、この特撮番組だけは毎日の様に見続けている。

 私も付き合わされて、ながら見でうろ覚えだと思っていたのに、すっかり台詞が頭に入っていた。


「つよくん、もう寝る時間だよー」


 壁にかけられた時計を見ると、夜九時を過ぎようとしていた。

 私には早くもあるのだけど、剛志には夜九時は結構遅い時間だった。

 これ以上遅い時間に寝させると、明日の朝、まったく目を覚まそうとしない。

 ふと瞼を閉じれば寝てしまうような状態の剛志に、朝の支度をさせるのはかなり骨が折れる。

 変なタイマーだなと思いつつも、私のためにも夜九時には剛志を寝かせるようにしていた。


「もういっかーい」


 いつもの駄々が始まる。

 この粘りも毎日のことだ。

 毎朝、毎晩のことだ。


「ダメー」


 毎度のことと思いながら、お約束のように却下してあげる。

 強引にTVを消してもいいのだけど、剛志はこのやり取りを楽しんでる節があるので付き合ってあげることにしている。


「もういっかーい」


 二度目の駄々が来るのも、半々ぐらいの割合の事だった。


「ダメだってー」


 長いと三回ぐらいは駄々が来るので、それを覚悟しながらやり取りに付き合ってあげる。


「れんしゅうするのー」


「ん、練習?」


 いつもと違う返しに何の話だと聞き返してしまう。


「れんしゅうー」


 剛志は変身ポーズを取ってそう繰り返した。

 練習って、何か発表会とかあったっけ?

 保育園からそんな連絡は受けてなかったはずだ。

 そういうのは見落とさないよう気をつけているから、間違いなく聞いていないはずだ。


「何の練習?」


「んーとね、えがおをまもるためのー」


「それって台詞じゃない」


「せりふ?」


「ん、ああ、えーっと……」


 剛志は同じシーンを何度も観てはいるけど、純粋にあのヒーローが実在してると思ってる。

 古田穣治に会えたのも、その信じる心に大きく影響している。

 だから、台詞とかそういうことは説明しないようにしている。


「とにかく、もう寝ないとダメー」


「もういっかいー、これでさいごだからー」


 剛志がこんなに駄々をこねるなんて、珍しかった。

 剛志はわりかし物分りのいい子で、逆に心配してたぐらいだ。

 大人が頷くだけの子供を心配するのを理解してか、程よく不満を漏らしたりする。

 しかも、フリだけ。

 言われたことにしっかり従う子なのだ。


 迷惑をかけない、剛志なりに大人に対して気を遣っているのだろう。


「わかった、本当に最後だからね」


「うん、さいごだからー」


 剛志が馴れた手つきでDVDを再生してるのを横目に、私は病院で聞いた言葉をスマートフォンで検索することにした。


 ヒーロー・チェーン。


 女子高生の間で流行っている都市伝説らしいそれは、理不尽な話だった。

 そりゃ都市伝説なんて理不尽なイメージしかないけれど、こんなにも救いがないなんて。

 怪談とかあまり得意じゃないから、普段なら鼻で笑ってそれでおしまいなのだけれど。

 痣、というのが気になった。


 痣、剛志の首にもできた痣。


 嫌な一致だった。


 その時だった。

 何処からか聞こえた低い唸り声。

 確か剛志が観ているシーンじゃ、こんな唸り声は聞こえなかったはずだ。


 と、TVに視線を向けると剛志はいつの間にかDVDを停止させていた。


「きた」


 窓の外、一点を見つめて剛志がそう言った。

 何があるのかと私も見たものの、何かを見つけることは出来なかった。


「つよくん?」


 低い唸り声が再び聞こえた。

 何故かはわからないが、身体中に言い知れぬ恐怖が過ぎった。

 理由が明確ではないのに、死を身近に感じる。

 唸り声の主が私を殺すのだ。

 それがハッキリと理解出来た。

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