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.4 丘の上の公園

 大学から暫く歩いて近くにある丘の上にある公園に辿り着いた。

 少し高くなった位置から、街を見渡せる見晴らしのいい場所で、きっと夜になるとデートスポットとかになったりするんだろうけど、平日昼間、周りに人は居なかった。

 青空の下でベンチに座ってのんびりするのが最高だろうな、とか今から聞くだろう話とは違う感想を敢えて考えながら、私は前を行く織田翔の後をついて行った。


「あのさ、話ってのはさ……」


 深呼吸をひとつして、ゆっくりと振り返る織田翔。

 頬を赤らめながら、真剣な面持ちでそう切り出した。


「俺と付き合ってくれないか? 俺、木根の事、前からずっと、好きなんだ!」


 チャラくてウザい、なんて思っていた織田翔が直球で告白してきて少し驚いた。

 そして、嬉しかった。

 私は、はい、と返事して頷く。


「あ、え、本当に? 本当に、今、はい、って言ったの?」


「はい」


 わざとらしく、返事を繰り返す。


「うおおおおおおおおおお!! やったーー!!」


 織田翔は今まで見たことないぐらいのガッツポーズと、聞いたことないぐらいの大声を上げて喜んでいた。

 まるで、見渡せる街中にその喜びを伝えようとしてるみたいだ。


 喜びたいのは、私も同じだ。

 けど、二人して大声を上げてはしゃぎまくるのには、場面として間違っている気がした。

 女子として、嬉しさを恥じらいと重ねて表現しなければ。


 モジモジ。


「ちょっ、正直、大学合格より嬉しいんだけど! うわっ、やべぇ、すげぇ!!」


 受験戦争への努力も報われたからか、織田翔のコメントは若干バカっぽかった。

 ただ、それさえ可愛く見えるのは、惚れた方の負けなんだろう。


 そうやって無邪気にはしゃぐ織田翔が、急に驚いた顔をして私の方を見つめる。


「あ、え、木根、どうしたの? 何で泣いてんの?」


 言われて私は自分の頬を触り、初めて自分が涙を流している事に気づいた。


「あ、えっと……その……私も、なの……」


 涙に気づけば、その理由など簡単にわかってしまう。

 はしゃぎたい気持ちを押さえつけたものだから、溢れる感情を言葉にするのに少し戸惑う。


「え?」


 心配するようにぐっと顔を近づける織田翔。

 少し前なら、嫌がっていた距離感も今は嬉しさで満たされる。


「私も、ずっと、好きだったの」


 一言、一言、区切って整理する溢れる感情。


 ずっと、好きだったから。

 きっと、それがこの涙の答えだろう。

 やっと、思いは通じて。

 もっと、織田翔を好きになれる。


 その嬉しさに、涙は勝手に零れ落ちた。


 こうして、私と織田翔は付き合うことになった。


 それから、私達は順風満帆な大学生ライフを過ごしていた。

 ダンスバカな織田翔も、ダンス関係以外のデートコースを組めるようになったし。

 お互いにバイトもしだしたので、お金に余裕があって、デートプランに幅も出来た。

 もちろん、織田翔は相変わらずダンスイベントに参加していて、私はそれを観に行ったりしていた。

 何度かローカルテレビ局主催のダンスイベントに出て、深夜帯だけどテレビ放送されたこともある。

 そういう時は織田翔はガチガチに緊張するので、結果としては散々なことが多いけど。


 安いアパートの一室を借りて、二人で住むことになった。

 私の中に小さな憧れがあって、アパートというのは私の提案だった。

 同棲については、両親の了解を得れた。

 織田翔は付き合うことになってから、私の家に足を運ぶことが多くなり、すっかり私の両親と溶け込んでいた。

 結果、両親はすっかり結婚を前提としたお付き合いだとして、同棲を認めてくれた。

 織田翔の両親には会えずではあったが、多忙な方々らしく子育ては放任主義なのだとか。


 狭い部屋に、二人。

 寄り添い合う、二人。

 憧れていた関係性は、しかしながら近くなりすぎた距離から問題が発生しだした。

 お互いを理解出来るあまり、喧嘩の数が増えた。

 喧嘩の理由は大小様々で、どっちが悪かったのかも言い合いの中でうやむやになっていった。

 解決方法は大体、怒りをどうすれば解消されるのかわからない私が家から出ていき、いつものあの丘の公園に辿り着いて、それを織田翔が追いかけてきて、謝ってくれて、おしまい、だった。


 私が原因だとわかりきってる時も、言い方が悪かっただの、わかってやれなくて悪かっただの、どうにかして謝ってくれていた。

 ただ、私が原因で喧嘩になるということは、ほとんど無かったけれど。


 そういうひと騒動も、山あり谷あり、なんて軽く受け止めれるぐらい、私達は順風満帆だった。


 ――いや、《だった》、はずだった。

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