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彼の魔女『狙撃手』  作者: 影乃雫
プロローグ
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第0話 火花散る

 目の前のイノシシに感謝と謝罪をして、私は引き金を引く。ズダンと一撃目の辺りに撃ち込むと、イノシシは倒れて動かなくなった。


 慎重に斜面の方から、息絶えていることを確認して回収する。


 もう分かっていると思うが私は女猟師だ。猟師とは言っても趣味程度だが。


 ――趣味で命を奪うなんてと言われるが滅相もない、これはれっきとした仕事なのだ。趣味で仕事とは矛盾しているようにも思えるが、兼業なので仕方ない。


 無駄話はさて置いて、イノシシを回収した私は猟友会の軽トラックの荷台にイノシシを乗せる。


 「雨が降りそうな雲行きだ」なんて考えていると、不意にトランシーバーから声が聞こえてきた。


「……た、たす……け……」


 年配の堀田さんだ。藻掻くようなその声に、私は考えるよりも早く駆け出していた。


「あ、ちょっと新井さん!」


 後ろから呼び止められたが私は止まらず、堀田さんの待ち伏せ場所に向かうと、そこには太ももから大量の血を流した堀田さんがいた。きっとイノシシの反撃を食らったんだ。


 包帯を取り出して止血しようとしたとき、堀田さんは私の方を指差した。


「ぁ、危ないっ……!」


 その瞬間、ドッと何かに突き飛ばされる感覚がした。


 ――あぁ不味い。こっちは沢に繋がる崖じゃないか……。刑事ドラマとかで突き飛ばされる人はきっとこういう気分なんだろう。


「堀田さ――」


 崖に投げ出される寸前、こちらに手を伸ばす堀田さんと、私を突き飛ばしたイノシシの姿が見えた。


 あっと言う間に私は崖を転がり落ち、木に頭をぶつけたり、脚が変な方向に曲がってたりで全身に激痛が走っている。沢の水が冷たいのに動ける気がしない。


 さっきの予想通りポツポツと雨も降ってきた。


 あぁ、寒い。視界が歪んできた。


 走馬灯が見えるくらい、死の間際って意外と思考が活性化するのか。

でもこの場面から生き残る方法なんて分からなかった。分かるはずも無いけれど。


 辛うじて僅かに動かせる右腕を持ち上げようとするが無理そうだ。


 私は何で死ぬのか。失血か、低体温症か、全身打撲か。多分失血だ、体中から血の気が引いていく。


 ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのこと、狩る方も狩られる覚悟をしなくちゃいけない。


 あぁ、せめて誰かに看取られながら死にたかった……。


 あれやこれやと考えた後、私、新井朝日は()()生涯に幕を閉じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 猪を撃つところ [一言] 猪を殺すところで簡潔に重厚に命の重みを表現できていて感心しました。
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