東の街への道のり
クソ! あまりにもおかしいと思って調べたらこれだよ! 変態魔法オジサンからSP無駄遣いオジサンにジョブチェンジだと。やってらんねー。
ネガティブに考えるからダメなんだ! ポジティブにいこう。ボール、アロー、ショット、カッター、ボム。ようはこの五つの魔法を使いこなせれば良いんだ。やれるやれる! 俺なら出来る! はぁークソ。
いずれスキルを振り直したりするんだ。俺に合った最適なスキル振りを見つけるまで我慢すれば良い。振り直せるよね? とにかく東へ行こう。必要最低限の戦闘に抑えて進めばいい。街に着いたら武器変えるか。金ないけど……。
小さな森から出て、再び街道沿いを走る。しばらくすると、夕日になり、日が沈む。そして月が昇った。
(ゲーム始めて3時間経ったのか。なんだかんだ夢中になってるんだな)
フリユピの1日は昼4時間夜4時間周期だ。現実の1日でフリユピは3日進む。やり過ぎ注意だぞ! でも俺は時間にルーズだし、夏休み中なんでね。気の済むまで遊ぶ予定さ!
「おっ、ゴブリン。俺の経験値になってくれ」
人がまだ多い中で二匹のゴブリンが襲ってくる。ゴブリンの装備はボロそうなナイフと木の棒、恐る必要は何もない。
まずは出鼻を挫く!
「ライトアロー!」
初級魔法だからか、魔法を唱えると自動で手が動くけど足は俺の思うがままに動くことができる。走りながら最速の魔法で頭に当ててやる!
遠距離攻撃は視線で決めることができる。放たれる直前に視線をずらすと変な方に撃ってしまうから注意が必要だ。
俺の視線に合わせて腕が勝手に動く。僅かな魔力が指先に集まるのを感じる。瞬間、俺の視線通りに直線的に最短最速で一匹のゴブリンの頭へ放たれた。
「グギャ!?」
「オッシ! 一発命中! やっぱ一撃で倒せないか、予想通りっちゃ予想通りだけど、なんだかな」
ライトアローが命中したゴブリンは少しだけ仰け反った。その間にもう一匹のゴブリンが距離を詰める。
「間に合うか? ライトショット!」
腕が自動で握り拳を作る。拳に魔力が込められ、力を溜め始める。
「近づきすぎたか!」
魔法が不慣れなこともあって、チャージタイムを見誤る。後数秒はかかる。そんな時、ゴブリンがジャンプしてツバサの頭を狙った。
走って避けようとしても動き出すよりも先にゴブリンの攻撃が入る。動き出せても脚に当たる。そう瞬時に判断したツバサが横転した。
ゴブリンの攻撃は地面に吸い込まれ、ツバサの魔法も横転中に発動し同じく地面に吸い込まれていった。
「魔法使い辛いな! 構えたら固定するのやめろ!」
ボムは絶対使えないわ。体固定されるの不便すぎ。初動上手くいったのにミスったせいで合流されたし。魔法だけで倒そうってのは無茶だぅたか?
ゴブリン2匹が左右に分かれてツバサに挟撃を試みるようだ。
「負けたら聖都に戻るんだよなたぶん。2時間の移動が無駄になるけど――ええい! 気にするな! 負けも経験! やってやらぁ! ライトカッター!」
左右に目配せをするツバサが魔法を唱える。右腕を左肩付近まで自動で動く。
(対複数の鉄則は――見失わないこと!)
左右から迫るゴブリンを視界に収めるためにバックステップをして距離を稼ぎ、挟撃を避ける。
「狙うはナイフ持ち! 理由は棒で殴られるより、ナイフで切られる方が痛そうだから!――右!」
体内を流れる魔力が右手に集まっている。体をナイフ持ちのゴブリンへと向け、胴体に視線を合わせる。
「当たってくれよ! おぅ……グロ」
放たれた横一閃の光の刃がナイフ持ちのゴブリンを襲う。回避しようと光の刃から離れるが、アローの次に早いカッターをツバサに近付きながら避けきるだけの素早さがゴブリンにはなかったようだ。ライトカッターはゴブリンの細い腕に命中し、切り落とした。
頭の外だった部位破壊の様子を見たツバサが足を止めてしまった。それに加え、魔法を命中させるために一匹のゴブリンを視界から外していた。
「グギャ!!」
「ぎゃー」
思い出してもう片方のゴブリンを見た時には既に目の前にいた。ジャンプしたゴブリンが木の棒を振り抜こうとしていたのだ。反射的に身を守るためにあげた腕にクリーンヒット。
「グエェ」
今度は片腕を失ったゴブリンの殴打を受けた。血のエフェクトを出しながら下がることのない戦意でもって攻撃態勢に入っていたようだ。
「ゴブリンのクセに!」
ツバサはナイフを抜いていた。
使わないって決めたつもりが結局使っちゃったよね武器。ボムは使わずともわかる。ソロの戦闘中に当てられないね。使うにしても足止めしてからだな。ボールもダメかな。少なくとも俺にはダメだ。魔法を飛ばす前に目に見えるから警戒される。魔法使用中に別の攻撃が出来るならやりようはあるだろうけど……素の状態で当てるのは無理。使えるのはアロー、ショット、カッターかな。速度大事。
聖都付近にいるモンスターでこれなんだから、これからどんどん強くなるモンスターに当てられる気がしない。フリユピに慣れてきても怪しいな。そもそも魔法を使うと自動で体動いて固定されちゃうのも辛い。初級でこれだから上級とか身動き取れなそう。魔法剣士の道は遠い。
聖都の東西南北にある街って意外とってかかなり遠いな。スタミナ切れをおこしたからついでに昼飯休憩挟んでスタミナ回復、再度走り出す。
フリユピで戦闘含めて1日走って聖都から東の街まで3分の1と少し。このペース、ゲーム内時間で3日ほどかかることになるな。現実で丸1日使うのか。リアル重視とか人口密度軽減だとかそんな理由だったはずだけど移動に時間かかりすぎると人減ると思うな。俺は移動も楽しんでるから気にならないけど。
気づかなかっただけで、ワープ出来るのか? と気になって調べた。現状存在しないらしい。唯一の手は死に戻りだ。各地にある宿屋や教会のような施設でリスポン地点を登録出来る。今の俺は初期設定の聖都だ。聖女の加護がある中部はモンスターも弱いし、PK不可エリアだから滅多なことが無ければ死に戻りすることはない。といっても調子に乗って複数のモンスターを釣ったりすれば負ける可能性ば十分ある。気をつけよ。