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Freedom Utopia  作者: ごっこ
本編
7/58

SP無駄遣いオジサン

フリージア大陸東部へ続く街道を走る。時折どこからか現れるモンスターと戦う。周囲を見るとまだまだプレイヤーがたくさんいる。同じ初心者がパーティーを組んで一匹のモンスターと戦い勝利し喜びを分かち合う。様々な武器を持ちフリユピを本気で楽しんでいる様子が見てわかる。


(目的地まで走り続けるのもいいけど、寄り道も悪くないだろ。ちょっとあそこの森に入ってみよっと)



気まぐれを起こしたツバサがたまたま視界に入った小さな森へと足を運んだ。


森と言っても辺り一面木しかない深い森ではない。2、3分で抜けられるような小さな森だ。周囲には他のプレイヤーもいなければ、拾えそうな素材の類もない。モンスターもいない何もない森だった。


「魔法でも覚えてみるかな。シンプルで使いやすい魔法があればいいんだけどな」


理想は魔法剣士。剣と魔法の世界なら両方使いたい。そんな理由だ。ど迫力な大魔法なんて必要ない。ど迫力な必殺技なんて必要ない。キャラクリ間違えて男にしちゃったからな……せめて理想の戦い方くらいは出来てほしいぞ。


日本で生まれたおかげでアニメや漫画の影響は大きい。小中学生の頃は自分の理想の戦いを妄想したもんだ。今もそれなりにするけど、VRゲームをするようになってからはゲームをする理由の一つに妄想を現実にってのが入る。ただ強ければいいってもんじゃない。俺の理想の強さや戦い方を追い求めてこそ楽しめるってもんさ。


その妄想は日々変わる。その都度変える必要は出てくるけど今を楽しむためにやってんだから何も問題なし!


近くにあった切り株に座ってスキル画面を開く。


「火属性魔法――水――闇――属性か……」


何にするか悩むな。属性のあれこれは全然わからないな。耐性や弱点があるなら火は風に強くて水に弱いとかか? ちゃんと聖都の魔法学院に立ち寄っとけば良かったな……まぁいいか。俺の外見は男――女で登録出来てりゃなぁ……気にするな! 思うがままにやるんだ!


決心したツバサがスキルを取得した。


『光属性魔法を取得しました』


情報ログにそう表示された。


黒髪赤目の女性が光の魔法を操る。はずだった。その夢は潰えてしまったが、理想を追える!……男だけど。ま、美しく戦うってのは無理だけど、カッコよく戦うことくらい出来るだろ。


SP(スキルポイント)を消費して覚えた光属性魔法にタグが追加され、覚えられる魔法が増えていた。


「おぅ……覚えただけじゃ魔法は使えないってか。しかもこれまたポイントいるじゃん」


無駄にしてしまった気分だ。やっぱ聖都の魔法学院行くべきだったか。今から戻ってもなーんんーいっか。テンションが下がる。戻っても戻らなくてもだ。失敗した気になってため息が出る。


「とにかく一つ魔法を覚えないと始まらないな。よし!」


『ライトアローを取得しました』


「これでいいな。んじゃさっそく――ライトアロー!」


パシュ……ペシ


……いやパシュペシじゃなくてさ……もうちょっとこうあるじゃん? いや装備とか初期だし、スキルレベルも1だし、レベルも低いけどさ、もうちょっとこう……あるじゃん?


魔法を唱えると、利き手に設定した右腕が自動で上がった。中指と薬指の2本から体から指先に勝手に何かが集まる感覚が起こり、即座に発射された白い光が3mくらい離れた木にぶつかり四散した。魔法を受けた木は皮に傷がつく程度で想像を遥かに下回る威力だった。


たぶんあのよくわからない指先に集まった光が魔力なんだろな。体の内側に少しだけ何かが巡るような感覚。不思議な体験だ。MPがちょびっとだけ減ってる。でもあんな皮に傷つく程度の威力でMP使い切ってもモンスター倒せなくないか? 表示されてないだけで熟練度でもあんのか?


「ライトアロー! ライトアロー! ライトアロー!」


パシュ……ペシパシュ……ペシパシュ……ペシ


虚しすぎるぞ! なんだこれなんだこれなんだこれ!


「はああああ〜」


夢は何処までも遠い。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。わかってる。理想は近すぎてもダメだって、でもさ、遠すぎてもダメなんだぞ?


「どうした? そんなにため息を吐いて」


「うおお! 足音聞こえなかったぞ!?」


「ははは! 俺くらいになれば誰にでも出来ることだぞ!」


突如ツバサの背後に薄汚いローブを羽織るおっさんが現れた。


なんだこの変質者は!? そう声を出さず、逃げ出さなかった俺を褒めてほしい。NPCだとわかってもプレイヤーと大差ない挙動、技術力を褒めるべきかNPCはもっとわかりやすくしてほしいと要望を出すべきか悩む。


名前の表示でわかるようにはなってる。白がプレイヤー、赤がPK(プレイヤーキラー)をしたことのあるプレイヤー、青が守護者プレイヤー。守護者プレイヤーってのはPKKとか呼ばれるような他プレイヤーを守ったことのある実績がPKより多い人のことだな。


んでもってNPCが黄色だ。設定で変えられたりもする。まぁこれはちょっと不便な仕様でもある。


フリユピを始めたばかりだからまだまだわからない事だらけだけど、ちょっとした豆知識。初めて戦うモンスターや初対面のNPCは名前の表示がされてないんだ。


モンスターの場合は、先人達の集めた情報も加えると、名前を始めとする情報収集は戦いの中で得る、街のNPCから話を聞く、冒険者ギルドから情報を買う、プレイヤー間で共有するといった方法で集めなければならない。


NPCの場合、初対面だとモンスターと同じく非表示だ。プレイヤーは最初から名前が表示されてるからそれでも見分けはつく。表示させる方法は本人から直接教えてもらうか、プレイヤー間で情報共有するの二つ。NPCからの又聞きだと表示されない、そのNPCが嘘をついていたり、曖昧な外見を教えてもらうだけでは情報としては不十分だと認識されるらしいからだそう。面倒だ。


とにかく俺の背後に立つ不審者は名前が未表示。NPCだ。


「それで、俺に何か用?」


「フッ。君が魔法を使っていたのを感じ取ったのでな、気になって来てみたのさ」


「不審者というより変態だったか」


「変態とは……失礼なことを言う男だな」


うん凄いな。普通に話出来てる。感動。


NPCって登録されたワードにしか反応しないと思ってた。プログラムがしっかりしてないとイベント飛ばされるせいで挙動がおかしくなったりするんだよな。一度きりのクエストを無限に受けることができるとか結構あるんだよ。助っ人NPC無限増殖バグとか、こういうバグを見つける人の嗅覚ってどうなってんだろうな。


「ゴホン! 見たところ手慣れてないようだ。どうだ? 君さえ良ければ魔法の知識を伝授してもいい。私の話を聞くだけで他の魔法使いより一歩先へ行くぞ?」


魔法を覚えて使ったらいきなり出て来たからな、初めて魔法を使ったプレイヤー向けのチュートリアルかイベントか。スルーしても問題無さそう――いやでも、あんな皮に傷つく程度の魔法を使ってゲームなんてやってられないし、攻略サイト見ながらやっても面白味半減しそうだし、今から聖都の魔法学院に調べに行くのもな……


「ん〜〜」


「大いに悩みたまえ、選ぶのは君だ」


俺の考えを読んでるような言い方だ。NPCと会話が出来るって感動だ。話好きなプレイヤーだったら狂喜乱舞するなたぶん。


「よし! オッサン、俺に教えてくれ!」


「言葉遣いがなってないが……フッ、俺が君くらいの年頃は同じくらい生意気だったからな。いいだろう! 我が知識、伝授してやる!」


ドヤ顔オジサン。ちょっとイラッとするな。


「俺が教えるのは基礎であり魔法の根源でもある! 耳をかっぽじって聞くがいい!」


「頼んだ!」


「やはり言葉遣いがなってない……ゴホン、まずは君の名前を聞こう。君の名は?」


「ツバサだ。オッサンは?」


「ツバサか。良い名だ。俺の名は知る必要はない」


教えてくれないのか。んじゃ変態魔法オジサンでいっか。


「ツバサよ。魔法の知識を深めるには、魔法を扱えなければならん。ツバサが扱える属性の魔法を身につけよ」


「ライトアローだけじゃダメなのか?」


「そうだ。一種類の属性魔法の基礎である。ボール、アロー、ショット、カッター、ボムを全て身につけなければ知識を深めること叶わず。根源に至ることなど不可能!」


「……」


胡散臭ぇ


「さぁ! 属性魔法のスキルを会得しているのなら覚えられよう! さぁさぁ! さぁ!!」


押し売りセールスマンか何かか? 少年のように目を輝かせても見た目は不審者のオッサンだ。嫌な予感しかしない。


悩む、悩むが、覚えよう。


『ライトボールを取得しました』

『ライトショットを取得しました』

『ライトカッターを取得しました』

『ライトボムを取得しました』


「どうだ? 覚えたのか?」


「あぁ、身につけられたはずだ」


「よし! ならば俺が魔法の知識を授けてやろう! 立て!」


胡散臭さがどうしても抜けない。ただ、もうSP(スキルポイント)使っちゃったしやるしかないんだよな。


ツバサは仕方なさそうに立ち上がった。それを見た変態魔法オジサンは頷き口を開く。


「ならばまず、ボールを使ってみろ」


「――ライトボール!」


魔法を唱えた途端、体の内側から自動で構えた右手に力が流れていく。開かれた右手に白い光の玉が発生する。手のひら大の大きさまで自動で大きくなると、視界にあった皮が僅かに傷ついた気に向かって飛んでいった。


ボン! バチン!


耐えきれなかった木の皮がめくれた。弾けた皮が地面に落ちる。


強いんだか弱いんだかわからないけど、アローより威力がある分、遅いな。モーションが違うってのもあるけど、力――魔力でいっか、魔力の流れがアローと大分違ったな。消費MPもボールの方が多い。


「次、アロー」


「――ライトアロー!」


ツバサが唱えると自動で体が動く。手を真っ直ぐ伸ばし、中指と薬指に僅かな魔力が溜まりライトボールよりも早く木に当たる。ただ威力が低い。


「次、ショット」


「――ライトショット!」


自動で動く体は右手を握り、魔力を溜めた。


(一つ一つモーションが違うのか。このゲームやっぱ細かい)


手の平から魔力が流れ空中に形作られたライトボールとは違い、握り拳に魔力が溜まる。まるで力を溜めているように。右手にほんの少し、ダメージを受けた時のような痺れを感じた瞬間に魔法は放たれた。


バシュン! バァン!


「おぉ」


ボールやアローに比べて威力が高い。木が削れてるのが威力の高さを教えてくれてる。ボールより早いけどアローより遅い。そんでもって威力が高い代わりに溜めが長いな。素早いモンスター相手だと詠唱中に攻撃受けそう。


「フッ、覚えたての魔法を比べて楽しむ。魔法使いの俺にはよくわかる喜びだ。次! カッター!」


「よっし。ライトカッター!」


胡散臭いのは変わらずだけど、楽しいからオッケー。


自動で動く体が構え出す。右手を左肩まで持っていくと、右手に魔力を溜めてから振り抜いた。白い光の刃が木を裂いた。


シュン! スパッ!


中々の切れ味。皮を裂き幹も少し切り込みが入ったな。威力は比べるのが難しいけど、ショット、ボール、カッター、アローかな。速度はアロー、カッター、ショット、ボールくらい。溜めの長さはショット、ボール、カッター、アロー。MP消費量の高さも溜めの長さの順と同じだったな。


「最後だ、ボム」


「よし――ライトボム!」


今度は両手が動いた。両の手から魔力を出すようだ。グググググと大きな魔力がゆっくり体の内側を巡る。両の腕から両の手へ、手の平から重い魔力が外へと溢れていく。目に映るのはライトボールと同じくらいの手のひら大の玉。ライトボールは完璧な玉だった。けどライトボムは崩れかけているようで、いつ四散してもおかしくないような重みのある玉だ。細かい光の粒子が周囲に飛んでは消えていく。


ドム! ドカァン!!


重い玉を押し出すようにして投げられたそれは、木に触れた瞬間爆発した。5つの魔法の中で最も威力がある。木は抉り取られたような穴が空いていた。


最も遅い代わりに威力が最も高い魔法か。直接当てなくても爆発でダメージを与えられそうだな。溜めも一番遅かったから、ソロじゃ使えないな。使うならパーティーでだな。


「フッ、わかったか?」


「……何が?」


「ツバサが今身に付けた魔法は数多ある魔法の基礎。ツバサは今、基礎中の基礎である魔法を放ち、そして知ったのだ」


変態魔法オジサンは目を閉じて口角を上げ、満足げに頷いていた。


「何もわかってないけど??」


「ならば俺の魔法の真髄を、魔法の根源へと至る為の道を示そう」


何言ってるのこのオッサン


変態魔法オジサンは大きく両腕を開き、宗教団体の教祖のような、狂気に染まったような目で言い放った。


「魔法の基礎こそ魔法の根源へと至る近道! 魔法を扱いそして識れ! 知識を深めるために頭を使い、思慮深く考えよ! さすれば根源への道は開かれん! ツバサよ、お前が魔法を極められるかどうか。楽しみに見届けさせてもらおう!」


変態魔法オジサンはバサバサと大袈裟な音が出るようにローブをなびかせ、背中を向ける。まるでこの場から立ち去るように。


「おい待て」


おい待て。まさかこれSP(スキルポイント)を無駄に消費させるだけのクソイベか?


「俺はこう見えても忙しい。俺がツバサに教えてやれることは全て教えた。後はお前次第だツバサ」


クソイベだこれ。受けちゃいけない類のイベントかよ!


「待てって! 聞きたいことは山ほどあるんだよ!」


「ではさらばだ!」


「聞けよ!!」


変態魔法オジサンは聞く耳を持たずに突然消えた。小さな森に残されたのはイベントを進めたことを後悔するツバサ1人のみだった。


気に食わなかったツバサはすぐ攻略サイトや掲示板を調べるとチラホラとそれっぽい話題が上がっていた。


そこには魔法スキルを取得したプレイヤーがソロで魔法を使っていると確率で現れるNPCについて語られていた。


大層な話をする男の話を聞いても時間の無駄だからやめておけという主旨の書き込み。使わなくなること間違いない魔法スキルを全て覚えさせられただけで何も得られないチュートリアル。


そういった話の総評として掲示板ではSP(スキルポイント)無駄遣いオジサンと呼ばれ罵倒されていた。

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