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Freedom Utopia  作者: ごっこ
本編
58/58

魔王軍襲撃戦1

 襲撃まで残すところあと僅か。衛兵も冒険者もほぼ全員開拓村の外にいる。防衛施設は木の防柵に進行を阻む馬防柵。罠は落とし穴。


 主要の部隊は衛兵の防衛部隊。衛兵長自ら率いる部隊が主力。冒険者は遊撃。天上族の俺たちプレイヤーは各自で冒険者の中に一緒になってたりする。

 パーティーを組んでスカルソードマン討伐を目指す人達は、閉じられた入口を中心に左右に分かれた。

 2パーティーが固まって行動してスカルソードマン討伐に行くと、その場所が空白になってモンスターに突破されるかもしれないからってさ。


 ちなみに1パーティーは最大5人。2パーティー……つまり10人がボスモンスターが出たからって一斉に突出すると隊列が崩れて、モンスターにつけ込まれるらしい。それで1回開拓村に侵入されて被害が出たって桜月夜さん言ってた。


 開拓村へ襲撃に来るモンスターは50〜500って聞いた。200位までなら余裕あるけど、それ以上になると大変だってね。

 開拓村の人口低いから仕方がない。開拓村は常に人材を求めています! と村長談。ここまで来るのに相応の実力と時間が必要なのに、あるのは魔鉱石採掘場くらい。

 天上族であるプレイヤーの皆さんは田舎より都会がお好きのようで、奮迅街ホープへ進んでます。

 東部再生を願うフリージア大陸の住人は、開拓村に人を割くほど余裕が無く進みあぐねている。


 人が増える訳ないね。


 我々開拓村で活動する者達は少数精鋭で頑張ってます!


 ともかく、魔王軍襲撃の規模がどの程度なのかわからないから、なるようになれとしか言えないね。手持ちのポーション切れたら、死に戻りして補充することも視野に入れないとな。


「敵襲!!」


 見張り台からの伝達。俺にはまだ見えないけど、見張り台か、目視できる距離まで迫ってきたか。


「総員! 武器を取れ!!」


 衛兵長の命令。空気がピリッとする。もうすぐ戦いが始まる。

 緊急が高まっていくのが俺にも伝わってきた。身体中に電気が走ったように鳥肌が立つ。


 見えてきた。モンスターの軍が。

 スケルトン軍団の骨のカタカタって鳴る音が聞こえる。

 見たことない、でもそいつだってわかるイビルデーモンの翼の音が耳障りだ。


「雑軍って言ってたけど……まとまってすらないな」


 スケルトン軍とイビルデーモン軍の周りを取り囲んでる。


 うん、間違いなくこっちの防衛部隊より多いな。パッと見、2倍、3倍くらいだ。

 大丈夫、1人3匹倒せばいいだけ。何も問題ない。


「―――――!!」


 スカルソードマンが悲鳴のような叫び声を上げる。その声を聞いたスケルトンはゆっくりとした歩みから、次第に早足となり、一斉に走り出す。

 イビルデーモンはコウモリのような羽を大きく広げ、ゆっくりと羽ばたき空を飛ぶと、スケルトン軍に混ざるように飛び1つの群れとなして開拓村の防衛部隊に突撃する。

 周囲に群がる寄せ集めのモンスター達は、攻め始めた軍の後を追うようについて行く。


「皆の者奮起せよ! 背に負うは同胞! 眼前には怨敵! 我らが盾となり、剣となりて――モンスター共を打ち倒せ!!」


「「「うおおおお!!」」」


 ぶつかり合う直前、衛兵長の雄叫び飛び呼応するように衛兵達が一斉に武器を掲げる。

 そして、隊列を乱さぬよう訓練された動きでモンスター軍とぶつかり合った。


 落とし穴に落ちるモンスター、馬防柵にぶつかるモンスター、馬防柵の合間をすり抜けて衛兵と戦うモンスター、馬防柵を飛び越えて衛兵と戦うモンスター。

 普段は物静かな開拓村の出入口も、戦いが始まり戦場と化すと、途端に騒がしくなる。戦場の端まで響くような衛兵長の指揮、衛兵や冒険者の叫び声、耳障りなモンスター達の叫び声。その全てが戦いの激しさを物語る。


 目まぐるしく状況が変わる。モンスターを倒す者、モンスターに倒される者、傷つきながら戦う者、突出して武勇を誇る者、静かに情勢を見守る者、声を荒げる者。

 小さな村、小さな戦場、千にも満たない者共の戦い。それでも、状況は激しく変わる。その全てを把握できる者などいない。


「きっつい」


 その辺で沸くモンスターの群れと軍として機能してるモンスター軍じゃ全然違う。命令はただ1つ、攻めろとか殺せとかそんなんだろう。けど、動かなくなるまで、引くとか逃げるとかしないから厄介。

 1番辛いのは連携してくることだ。群れで襲ってくるとはいえ、その辺のモンスターは大味というか雑。お互いのことなんてお構いなしで攻撃してくるだけと言えばいいかな。たまにモンスター同士の攻撃がぶつかり合うなんてこともよくある。

 個々のスケルトンは余裕を持って倒せる。強さそのものはその辺に生息してるスケルトンと変わらない。でも、連携してくることで、個々の強さとは別にタチが悪い。たまたま同時に攻撃してきましたって感じじゃない。俺の動きに合わせて妨害してきたり、時差攻撃してきたり、攻守の役割を分担してたりで戦いにくい。


「意思でもあるのかお前ら」


 カタカタカタカタカタ


 ある訳ないよな。面倒だ。知能が高いわけでもない。目の前にいる敵を倒そうとしかしてない。

 なのに、隙を見て攻撃しようとすれば別のモンスターが邪魔をしてくる。俺の動きを見て行動を変えてくる。攻撃方法は変わらないのに、指揮官がいるってだけでここまで変わるのか。

 それに加えてイビルデーモン。お前もうざったい行動するよな。スケルトン諸共、闇属性魔法で攻撃してきたり、空から急降下して爪で引き裂こうとしたり……だるい。


 魔法自体は当たれば痛いけど、注意していれば当たらない程度。ダークボールかなあれ。強さ自体も突出してるわけじゃない。

 強くはない――強くはないけど性格が悪い。俺に嫌がらせするためだけにパタパタ空飛んでるように見える。イラつくぞ。


 木の防柵を越えることができない程度の低空飛行。でも空を飛べない俺にとっては攻撃の届かない危険なモンスター。意識せざるを得ない敵。


 光の矢?


 HAHAHA、当たると思うかい? 当てることできてたら、苦労は半減どころか、余裕を持って戦えるだろうな。


「ブレる……ブレるよぅ……避けられるよぅ……ぐすっ」


 もはやこれまで……光の剣で戦い続けるしかない。どれか1匹に集中すれば、他のモンスターが邪魔をする。俺1人の力じゃどうすることもできない。


 ――なら


 周りの冒険者を頼ればいいじゃない! 孤高の冒険者なんてクソよ。周囲の冒険者を巻き込んでしまおう。NPC大いに結構。俺は君達の実力が高いことを知ってる。


「おい、アンタ、俺と協力しようじゃないか」


「……話してる余裕があるとは、さすがは天上族様ってか」


 歓迎してない系冒険者。パーティーを組む必要はない。適材適所だ。


「そう言うなよ。余裕なんてない。今、確実にモンスターを減らすにはこの方が手っ取り早い。そう判断しただけだ」


「――ちっ、考えを聞かせろ」


「特に何も」


「――おい」


「攻守の役割を分担しようってだけだ。どっちがいい?」


 俺1人で連携するモンスターを崩して倒すことはできない。攻守の役割を分担して戦う相手には、同じ条件で戦う方がいい。

 NPCとはいえ、勝手に動いて勝手にやられていなくなるような存在じゃない。ちゃんと戦って、考えて、行動するAI(意思)がある。

 いきなり長年付き添ったような連携なんて無理。簡単でいい。どちらかの役割を担えれば。


「ふん、なら守りを担おう」


「わかった。なら俺が倒す。1匹ずつ、確実に」


「いいだろう」


 名前も知らない冒険者さん、頼んだぞ。


「まずはスケルトンの数を減らす! イビルデーモンの対処は最低限!」


 納得してくれたかどうかはわからない。でも今の俺には鬱陶しい飛行タイプのモンスターの処理は時間かかるんだ。後回し後回し。

 名無しの冒険者が俺の連れてきたモンスターまで面倒見てる。倒される前に数減らすには、多少のダメージ覚悟で戦うしかない。


 2本の光の剣で攻撃と防御を同時にする。最大威力の攻撃になる前に、体をぶつけて、武器の根元に光の剣を当ててで抑える。次の行動を起こされる前にもう1本の光の剣で突き刺す。

 骨の隙間から弱点の心臓を刺せば相応のダメージを与えられる。わざわざ斬る必要なし。


「おっと危ない」


 連携してくるスケルトンの面倒な部分はこれだ。俺がやったように、スケルトンも骨の隙間から武器で攻撃してくることだ。問答無用だもん。やんなるよ。

 んで、イビルデーモンだ。俺が攻撃するタイミングを見計らっての攻撃。まさに漁夫の利。


 アイツらスケルトンがどうなろうがお構い無しだもんな。

 あの爪の引き裂き攻撃受けただけで瀕死になりそう。攻撃力高そうだしね。アイツら。


「おい、イビルデーモンを通さないって約束してやる。だから存分に動け」


「……信じていいのかよ?」


「信じる信じないは、お前の目で見て決めろ」


「そうかい」


 なかなか渋いじゃないか。なら少しずつ試させてもらおうか。

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