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Freedom Utopia  作者: ごっこ
本編
52/58

フリユピ逃避

 コンコン

 コンコン

 コンコン


 コロッ


 コロコロ


「ふんふん――悪くない原石だ」


 ココンコン

 コココンコン

 コン――コン


 コロッ


 コロコロ


「少し力足りなかったか。力加減難しい」


 コンコン

 コン

 コンコンココン


「採れん」


 コンコン

 ココンコン

 コンココ――コン


「ぬぅ」


 ココンココン


「新入りぃ! いつまで同じ鉱石相手にしてんだ!」


 先輩にどやされ、顔を上げる新入りの姿があった。その新入りの名はツバサ。鉱夫の服を着て、魔鉱石の採掘アルバイトをしている最中だ。


 ここは開拓村フューチャーの魔鉱石採掘場。つい最近、巣穴開通事件の騒ぎがあったばかりだ。しかし、鉱夫達にとっては既に過去の話となっている。


 開通した巣穴は1箇所を残し塞がれている。巣穴への入口には衛兵が待機し、中へ冒険者がモンスター駆除に出向いている様子が見られる。


 完全に安全と判断された訳ではないが、かといって鉱夫達が働かない訳にはいかない。元より開拓村は常に危険に晒されているようなもの。開拓村で働く鉱夫達は図太かった。


 といっても、開拓村から巣穴の入口がある第5採掘場への立ち入りを禁止されている。鉱夫達の親分も安全を優先するために、開拓村に近い第1採掘場以外での仕事はまだ当分するつもりはないらしい。


「すいやせん先輩! コイツなかなか手強いんすよ」


 ツバサは先輩の物言いに文句がある訳ではないが、思ったことを口にした。それを聞いた先輩は作業の手を止める。


「しばらく見ないうちに鈍ったんじゃねぇのかよ? ええ?」


「くっ……しかしですねぇ先輩。俺は慎重な男。鉱石傷付けちまうわけにはいかねぇんすよ!」


 悔しそうにするツバサ。腕が落ちたと言われ、プライドを刺激されたツバサはムキになった。そんなツバサを見た先輩はどこか面白そうに口角を上げる。


「見せてみろ!」


「ヘイ! コイツでさぁ……先輩でも苦戦すると思うっすよ」


「ほぉん? なるほど、デカい魔鉱石じゃねぇか。どれ――」


 苦戦すると言ったツバサの言葉の一部を認めるように頷きながら、力強く手に待つツルハシを振り上げた。そして、失敗を恐れず、自信を持って力強く振り下ろした。


 ガッ!


「ちょ!? 先輩! 傷ついちまいますよ!!」


 驚くツバサ。ツバサには荒々しく振り下ろすように見える先輩の行動を心配する。せっかく見つけた価値のある魔鉱石を傷つけられたら堪らないと。しかし、そんなツバサに目もくれず、先輩は続け様にツルハシを振り上げ、声を荒げた。


「うるせぇ! 黙って見てろ!!」


「……ヘイ……」


 先輩を止めることができないと判断したツバサは、力無く返事をするしかなかったようだ。視線の先にはツバサが見つけた大きな魔鉱石がある。


 ガッ!

 ガツン!


 コロッ


「な、なんだと……」


 なかなか採れなかった魔鉱石を先輩が瞬く間に採掘したことに驚きを隠せないツバサ。それをみた先輩は自慢げに口角を吊り上げた。


「新入りぃ、お前ちっとばかし慎重になりすぎだぁ! 鉱石傷付けねえように慎重になるのは間違いじゃねえ。けどな、傷付けねえように慎重になりすぎるのは、ただビビってるだけのチキン野郎だ!」


「!! で、ですが先輩! 先輩のやり方じゃあ傷だらけになっちまいますよ!」


 チキン野郎と言われたことに動揺するツバサだが、反論の余地はあると、魔鉱石を指す。


「馬鹿野郎! よく見てみな!!」


「!? な……なにぃ!? 傷一つないなんて……そ、そんな馬鹿な!?」


 先輩に言われ、すぐに地面に落ちていた採れたての大きな魔鉱石を手に取って、何度も何度も丁寧に調べた。しかし、多少荒削りではあるものの、傷一つない品質の高い魔鉱石だった。ツバサよりも圧倒的に早く、正確に、傷一つ付けずに採掘した先輩の実力と言葉にぐうの音も出ない。出せる訳がなかった。


「年季が違えよ新入り! 俺もお前みてえに最初は鉱石傷付けねえように慎重だった……だがな……親分に言われたのさ。最初は誰だって失敗して鉱石傷付けちまうってな。失敗しねえように慎重になるくれぇなら、全力でやって失敗しろ。そして考えろ、失敗した理由をな。それを次に活かせばいい。失敗しねえように慎重になるのはただのビビり――チキン野郎のすることだ! 新入り! 常に全力でやるんだよ! いいか? 今のお前はただのチキン野郎。もっと大胆にいけ! 大胆且つ慎重だ! そこを履き違えんなよ!! いいな新入り!?」


「!?」


 先輩の言葉はツバサの心に衝撃を与えたようだ。


「わかったのか?」


「うっす! 先輩!!」


「よぉし。それでいい」


「……俺のやり方は間違っていたのか……」


 ツバサの頭の中では先輩の言葉が何度も反芻している。今まで丁寧に慎重にやってきた作業をチキン野郎と一言で突き放されたことにショックを隠しきれていない。


「何気落ちしてやがんだ! 誰だって間違える時はある。それだけの話よ!」


 先輩はバシバシとツバサの背中を叩きながら豪快に笑う。先輩のフォローでツバサは元気を取り戻した。


「うっす!」


「それによ……俺がこんなことをわざわざ言わなくても新入りは理解してるはずだ」


「先輩? 俺ぁ先輩に言われなきゃ気付かなかったっすよ!」


 しんみりとした空気を出す先輩が、昔の出来事を思い出すように静かに目を閉じる。


「馬鹿野郎。新入り、お前が俺達を助けた時のことを思い出してみろ! あの時のお前は、俺ら全員の命を傷付けずに守りきったんだぜ?」


「それはたまたまっすよ。必死だった――それだけっす!」


 ゲームとはいえ、どうすれば鉱夫達を助けられるのかをツバサは考え続けた。結果は上手くいった。けれど、ただ運が良かっただけ。ツバサにとってはその程度の認識しか無い。しかし先輩は違うようだ。


「そうだろう? 俺らのためにお前は必死に……全力でてめえの命賭けてたじゃねえか!!」


「!!」


「気付いたな? お前は俺だったらチビって動けなくなるようなモンスター共の群れの中走り回って俺達を救った。とんでもねえほど大胆に! とんでもねえほど慎重に! 誰も傷付けなかった。誰も命を落とさなかった。お前は無意識にわかってんだよ。俺が教えなくてもな!」


 先輩の言葉を聞いたツバサは目を見開いていた。ゲームとはいえ、天上族で何度でも生き返るとはいえ、ツバサは確かに大胆不敵に、限りなく慎重に動いていた。鉱夫を助け出すという目的のために。


「いやぁ……俺は目から鱗が出た気分でさぁ……やっぱり俺ぁ先輩に言われなきゃ気付かなかったっすよ! 先輩! ありがとうごせぇやす! 尊敬するっす! 先輩と出会えて良かった!!」


「――ヘッ! やめろ馬鹿野郎! 嬉しくなっちまうだろうが!! 俺も新入りに出会えて良かったぜ……助けてくれてありがとな新入り……」


 ツバサの言葉を間に受け、気恥ずかしそうに笑う先輩。その先輩がふと真顔で、独り言を呟いた。独り言はツバサに届くことはなかったようだ。聞き取れなかったツバサが不思議がる。


「先輩? 最後何言ったんすか?」


「うるせえ!! 手ぇ止めてんじゃねえぞ!! 新入りぃ!! ほらさっさとやれぇ!!」


 気恥ずかしさを紛らわすように先輩は大声を出した。


「へ――ヘイッ!!」


「ヘヘッ」


 ガッ!


 コロッ


 パカッ


「馬鹿野郎! 全力でやれとは言ったが、鉱石割れとは言ってねえぞ!! 大胆にやりすぎだ! 大胆且つ慎重だ!」


「ヘイッ!!」


 ツバサは先輩に叱られながらも、教えられたように、大胆且つ慎重に採掘作業に取り組んだ。


 ―――――


「ってことがあったわけよワン左衛門」


「くぅん?」


「先輩と後輩の友情ってやつよ!」


 か〜〜!! 風呂上がりのレモンサイダーは堪らんなぁ!!


「ワン左衛門。いいか、にゃん吉と仲良くするんだぞ。友情はいいもんだからな!」


「わふ!」


「よ〜しよしよし」


 頭もふもふ

 背中もふもふ

 お腹もふもふ

 尻尾もふもふ


 堪らんぞぉ!! か〜〜!! 炭酸が喉を刺激していくぜ!! これだから風呂上がりの一杯はやめられんのだ!!


 もふもふ

 もふもふ

 もふもふ


「満足! 癒されたし寝るか」


「くぅんくぅん」


「今日はここまでだワン左衛門。また今度な」


 くぅ! 尻尾下げてトボトボ歩くとは……いやダメだ! 寝ると決めたのだ! また明日会おう!! おやすみ!!

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