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Freedom Utopia  作者: ごっこ
本編
51/58

初めてのカミン沼地

 カミン沼地へとやって参りました! お金を預けて、現実の1日かけてようやく到達したのは、以前、自然再生実験場へ護衛依頼の関係で出向くこととなった場所。その近くに入口があるカミン沼地は見渡す限り泥の沼地となっています!


「ちょっと視界が薄暗くなってるな。これが魔の瘴気か……黒く染まってるというか……」


 ホントにごくごく僅かに視界に影響がある程度。とりあえず今のところは誤差だな。歩くのに支障はないから気にする必要はない。


「ん〜、これがデバフ……なのか?」


 ちょっとだけ――ほんのちょっと、体に何かがまとわりつくような――気がしないでもない気がする。


「1歩入ってみただけなんだけどな」


 1歩下がる。うん消えた。1歩進む。うん――びっっっっっみょーに違うね。うっっっっっすい布……いや糸が絡んできたような感覚。鬱陶しいから振り払いたくなるような――ね。ほっとけば慣れる。その程度。


「さて、どう進めばいいんだ?」


 見渡す限り沼地。泥だらけ。靴がねちょ〜って少し沈む。足上げるとぬぽっぬぽって音が鳴る、面白い。


「あ〜……これもデバフっちゃデバフか。歩きづら」


 その場で立って足踏みしてるだけでもぬぽっぬぽって抵抗ある。ジャンプしても同じ。泥が重いというか貼り付くというか粘着性があるというか。戦闘に支障が出るような抵抗力がある。


 走ったり、前転したり、膝ついたり、手で触れたり、どんな行動にも泥の妨害が入る。たぶん俺が考えている以上に厄介で面倒。VRだからな、実際に不快感があるのは辛いところ。子供の頃だったら泥遊びして楽しめたろうね。あとは友達と一緒だったとかね。


「行くか」


 初めての沼地だ、ここは1つ慎重に行くしかない。


 ぬぽっぬぽっぬぽっぬぽっぬぽっ


「あっ――やべ――おっとっと」


 歩き辛過ぎて足上げきれなかったわ。バランス崩しちゃって横に倒れちゃったよ。どっこらよいしょ――。


「あん?」


 おい? 抜けない。手が……抜けない。横に倒れた時についた膝が動かない。っていうか――。


「力入らない」


 おいおいおい……ちょっと待ってくれ。片足以外動かないんだけど……嘘だろ?


「なぁ……沈んでない?」


 さっき入口近くで足入れた時はさ。くるぶしよりちょい下辺りで止まったんだけど……手首飲まれてる……膝もう埋まってる……おいおいまさか……そんな……。


「……底なし沼か? えっ、あの――10歩進んでない。えっ……あのあの……嘘だろ……」


 肘まで埋まってる。ズブズブなんですけど。太もも以外見えないんですけど。


「だ、誰かーー!? 助けてくれーー!? 嫌だ!! 死にたくない!! 死にたくない!!??」


 やばいやばいやばいやばいやばい!! 動かない動かない動かない動かない!! 魔法!! 発動!! 何を!? へ、変質!! 爆発!!









 ぽこっ








「いやいやいやいや!! ぽこっっじゃねえから!!?? ちょーー!? ちょーー!?」


 ぽこっ

 ぽこっ

 ぽこっ


 しゅ、集積10びょ、秒!! あっ、まにあわな――。









 ぽこっ









「うっぶ――変わらねえ!!?? あっあっあっ……あーー!!?? あーー――……」


 口塞がれた。視界真っ黒。HPモリモリ減ってる。詰んだ。詰んだ……詰んだ……。






 さて! カミン沼地へとやってきました! 現実の1日をかけてこんな遠くまでやってくることになりました! カミン沼地。以前来たことあるんですけど……相変わらず辺り一面泥だらけです。あ、あと、魔の瘴気って聞いたことありますか? 動植物に悪い影響与えちゃうやつです。そう、それです! カミン沼地はその魔の瘴気が……本来目に見えないはずのものが、見えちゃってる危険な場所なんです!


 そんな危険な場所に、僕は今日挑んでみたいと思ってるんです! 僕も冒険者の端くれですから、攻略してみたいって気持ちが強くて――大丈夫! 僕頑張ります! 行ってきます!


「よぉし! やるぞ!」


 初攻略だから、慎重に行かないとな。底なし沼とかあるかもしれないし、歩き辛くてバランス崩しちゃうかもしれないからね。注意していこう。


 初攻略って凄く危険なんだ。まさに命懸け。だから色々確かめないとな! 形成、集積10秒、変質爆発。


 何しようとしてるかって? 簡単さ。もし底なし沼があったら復帰できるかわからないからね。その検証をしないと大変な目に遭うかもしれない。予め対策を講じるのは冒険者として必須さ。対策を怠れば人なんてすぐ死んじゃう。僕はよ〜く知ってるんだ。


 うん、もしかしたらと思ったけど、やっぱり僕の魔法の威力じゃカミン沼地の泥を吹き飛ばすことなんてできなかったよ。事前に知らなかったらどうなってたかわからないだろ? 底なし沼があったら落ちないように気をつけて行かないと……。


 うわ、歩きにくいなぁ……これは事故が起きやすいと思う。バランス崩して足踏み外して底なし沼にハマっちゃったら手に負えないね。底なし沼があるかどうかわからない。でもあるって考えて進まないと痛い目見ると思う。


 いまいちだなぁ。泥の色合いの違い的な。ここで魔の瘴気の視界妨害が効いてくるというか……泥濃過ぎて地面見えない。回れ右してちゃんと入口まで帰れるか心配になってきた。う〜む、むむむ。


「おっ初エンカウント来ましたよ! どうやらマッドワームのようですね――1――2――3……8匹います!」


 多いですがマッドワームなら何度も戦ってますから、大丈夫。余裕です! 多少身動きが取りにくい足場だとしても、行動パターン把握してるんで安心して戦えます!


 用意する武器はこちら! 光の大剣です! 光の矢はまだまだ不安があり、ニョロニョロ動く相手ですから当たりにくい。光の剣は二刀流でカッコいいんですが、今回は大剣で行きます! 大剣なら一撃でぶった斬れますからね!


 形成に集積は6秒で大丈夫です。剣には維持が必須です。維持の特性使わないと何かに触れた瞬間消えちゃいますから。今回は貫通の付与はいりません。光の剣を2本を集約して1つにします。これで光の大剣の完成です!


 えっ? 集約必要かって? 大剣の形作るだけなら要らないです。でも集積6秒積んだ光の剣2本合わせるから大剣としての攻撃力になるんです!


 形成、集積6秒、維持、集約で作った光の大剣の威力とMP消費。形成、集積10秒、維持で作った光の大剣の威力とMP消費。どっちの方が威力高くて、MP消費効率いいかって?


 やだなぁ……僕は調べてないよぉ……だって、光の剣2本を合体して光の大剣にした方がカッコいいじゃないか。効率なんて二の次さ! 僕基準の効率で進めていくつもりだよ。僕のプレイスタイルは理想の魔法剣士に近づけるためであって、効率良くゲームを攻略するためじゃないからね!


 おっとごめんねマッドワーム君達! 待たせたね。戦おうじゃないか!


「フルスイングは距離を取れば当たらないよ!」


 くっ! 足場が悪いせいでフルスイングの硬直に間に合わない!? 攻撃する前に動き出しちゃうのか〜。派手に動き回ったら底なし沼があった時困っちゃうな。


「これキツいな。マッドワームだからって遊んでる余裕ないぞ……」


 攻撃そのものは単調だけど、泥のせいで回避から攻撃の移行が妨害される。マッドが名前につくモンスターって沼地フィールドだと強くなるのか? 水を得た魚みたいに。


 今まで戦ったマッドワームは人が歩きやすい地上。地面の中に潜っても、深く潜らないから移動すれば地面盛りあがってわかりやすかったし、硬直は他のモンスターより長かったり……甘く見てた。


 フルスイングした瞬間に動き始めて懐に入らないとダメだな。


「今!」


 ビュオッて風切音聞こえるくらいギリギリで避けないと間に合わないか。冷や汗出る。あれ、倒し切れない。


「もう1回――今!」


 魔の瘴気のせいか? 魔の瘴気のせいだろうな。微妙に攻撃力足りないのか――集積6秒の光の大剣で倒し切れない。沼地じゃなきゃ倒せてるやり方なのに。今から作り直す余裕ない。次は7秒にしよう。


 ようやく2匹。まだ6匹残ってる。


 あ、潜りやがった。泥の中に潜られると全く見えないな。後追いで気泡が出てくるくらい。どこに行った? 直接俺を狙う時とただ移動するだけの時があるから判断つきにくい……しまっ――。


「うおっ!?」


 全体の把握できてなかった。潜ったのは1匹だけだと思ってたけど、2匹だったか! 足元盛り上がってようやく気付いた――くっそ! 足元すくわれた! フルスイングくるッ!


 魔法剣を盾代わりに使えるのはホント助かる。吹き飛んだけど。慣れない戦いは厳しいね。アレは……泥飛ばしか。なんか体膨らんでる気がする。気のせいか? そんなことより沼地仕様の泥飛ばしはどうなるんだ?


「ヤベ、時間かけ過ぎた」


 追加モンスター来た。マッドスケルトンにマッドワーム。羽音が聞こえる。あれ……見たことない虫モンスターまでいる。不味いな。


 やたらめったに動き回ってもいいことなんて何一つない。いや、今は攻撃回避に集中しないと。うわっ、よそ見してる間に見たことない行動してんじゃん!


 何あの2匹。泥チュウチュウ吸ってる……泥の沼地。マッドワーム。泥飛ばし。う〜ん?


「それが本来の泥飛ばしか!?」


 体膨らんでるのって泥大量に含んだからか! 何してくるのかわからないのに! お前フルスイングはちょっと待って――あ、1匹潜った――泥飛ばしてきた。ホースから出る水みたいな感じなのね。足元から気泡が――ちょっと早くない?――俺が遅くなってる?――2匹が泥飛ばし――あああああ!?


「処理し切れない!! うおっ!?」


 足元すくわれた!


「うわっぷ! 泥顔にかけるんじゃない!」


 いや威力高! ダメージないけど押し出される! 3匹分の泥が! 身動き取れない! あああああ!?――あれ?


「……君達どうして急に攻撃止めたんだい?」


 なんで君達そっぽ向いてそそくさと立ち去ってくんだい? 俺いつからハイドスキル身につけたんだろ。いやこの場合はインビジブルなのかな。そうだとしても探すとかするよな。


「あれっ――なんかゆっくり沈んでるんだけど――体動かないんだけど――そういうこと?」


 もしかしてこれってアレなの? そんなわけないよな? またまたぁ〜冗談キツいぜ? あの――あの!!


「だ、誰かーー!! 助けてくれーー!! 誰かーー!! ヘルプミーー!! い、いやだーー!! 助けてええぇ――……」


 口が沼に! 視界が真っ黒に! HPがモリモリ減ってく……。






 さてさて! カミン沼地にやって来たぞ! 現実の1日をわざわざ使ってここまで来たぜ! カミン沼地自体は汎用討伐クエストなんかを受けた時に何度か目にしてるんだ。でも、入ったことはないんだ。けど、今回入ってみようと思う。


 俺も開拓村でそれなりに活動して、実力つけたと思うから、そろそろ先へ進もうかなって。不安はある。魔の瘴気っていう魔王が残した遺産みたいなやつが目に見えるくらいだから。かなり危険だって俺の本能が警告してる。でも……だからこそ挑戦して、乗り越えて、その先を見てみたいって思うんだ。これが俺の心に宿る冒険心ってやつかな――ヘヘッ!


 いつか必ず攻略してやる。そう思ってカミン沼地を見渡しながら考えてた。何が必要なのかを……な。カミン沼地って泥の沼地なんだ。泥のせいで地面が見えないから、踏み外せばどうなるかわからない。だから俺はコレを用意した。


 マスポンさん――俺の戦友なんだけど……その人に貸していたダガーを返してもらったんだ。マスポンさん鍛治技術を持ってるらしくて、耐久力の減ってたダガーを修理してから返してくれた。優しいね。


 その返してもらったダガーを使って、その辺に落ちてた俺の身長と同じくらいの枝を杖っぽくしてみた。武器にはならないし、使えたとしても使わない。俺は魔法剣士だからな。


 まぁこの杖は地面の底を調べるために使うよ。モンスターに襲われた時に沼に足とられたら困るからさ。ただ闇雲に歩いて失敗なんてしたくない。


 これでも俺、冒険者だからさ、今までの経験で事前の準備を怠ったやつから死んでいくって知ってるんだ。俺の知人も、準備を怠ったせいで何人も死んだ。みんないい奴だったのに……すまない……感情に浸っちまった。あいつらの笑顔……今でも……思い出せちまうんだ。


 しんみりしちゃったけど、俺はあいつらのようにはならない。事前準備はバッチリだ! 泥の沼地。きっと環境に適したモンスターもたくさんいるはずだ。予想外の事態も起きてしまうかもしれない。それでも俺は先に進むぜ! なんてったって――冒険者だからな! まだ見ぬ大地を目指すんだ! ヘヘッ!


「慎重に……慎重に行こうぜ、ツバサ!」


 この自作杖、なかなか役に立つ。ほら! やっぱりだ! カミン沼地に入ってすぐ横に杖をついてみたんだ。杖がどんどん飲み込まれていくぞ。これは恐らく……底なし沼だ!


 なんて危険な沼地だ! 入ってすぐ横が底なし沼なんて誰が予想できるんだ? 事前準備の賜物だな! 杖を作っておいて正解だった! やはり俺は慎重さを身につけた! これまで多くの知人の死を見てきた。その結果だ。知人達よ、お前達のおかげでもある。ありがとう。


「ここは……底なし……ここは膝くらいだ……試すか?」


 どうする? ここはもう危険地帯だ。安易な行動は死を招く。でも無知を無知のままにしておけば、大きな失敗に繋がってしまうかもしれない。俺は慎重な男。無知を無知のままにしておく方が安易なのではないのか?


 ――やるしかない。毒を食らわば皿までと言うじゃないか。俺は慎重な男。だが! 俺は冒険者なんだ! 慎重さも大事だが、時には大胆なこともしなきゃならない時もある! 俺は慎重な男だ。けど、臆病な男じゃない!


 何度も試した。杖は膝くらいまでで止まる。底なしじゃあない。モンスターが来ないうちにやろう。モンスターと戦っている時に足を取られてしまえば、パニックになるかもしれない。その可能性を排除するのはとても重要だ!


「……膝までで止まった。更に動きにくくなる。モンスターと戦う時は注意しなければ」


 しかしどうしたものか。辺り一面泥だらけ。その違いがわからない。どこが浅く、どこが深く、どこが底なしなのか。


「魔の瘴気め……いや、俺が気づかないだけなのか?」


 くっ……己の無力さを嘆くばかりだ。ただいつまでも嘆いていたって問題は解決しないんだ。進もう。慎重にな。


 振り返ってみる。マップがなければどこから来たのかわからなくなっていたかもしれない。泥と魔の瘴気と――あれは――気泡?


「ちぃ! ついに来たか! モンスター共!!」


 魔の瘴気。こいつが薄暗い黒い霧になっているせいで、ここまで接近するまで気づけなかったなんて! 初めていく場所ってのはこういう危険性が常に付きまとう……けど俺は冒険者。胸が高鳴ってるぜ!


 辺り一面泥。色に例えるなら茶色。


 マッドスケルトン。奴は地上なら泥に覆われただけの骨の塊でしかない。赤黒い光が胸と目から発しているだけのな。だが今は奴が泥に覆われているせいで気づけなかった! その上距離感が全く掴めない!


 マッドワーム。気泡がポコポコ出てるってことは潜ってるんだろ? わかりやすすぎて困っちまうな! 他が表に出てるから気づけなかったかもしれない……が、俺は慎重な男、周囲を警戒しながら歩いていたからこそ気づけたのさ!


「ここは魔の瘴気が見えるほどの危険地帯だ! 息切れしない程度に飛ばしていくぜ!」


 俺にはわかる。魔の瘴気が俺の力を弱めているってことを。このまとわりつくような嫌な感じと俺の本能が告げてる。


 ――だから! 形成! 集積7秒! 維持! そして、集約!


「何度も倒したモンスター。けどここは魔の瘴気漂う危険地帯。油断はしない。この光の大剣で一網打尽だぜ!」


 やはりお前は俺の足元から飛び出してくるか! 予想してたさ。粘りっこい泥に気取られて、お前への意識を疎かにするような間抜けはしない!


 いつものように動けないなんてわかりきってるからな! 早めに動いておいて正解だ。いつもより半歩早く! いくぞマッドワーム!


「顔を出したのは失敗だったな! 失敗の意味を今俺が教えてやる! うおおおお!!」


 無警戒がすぎる! マッドワーム、まずは1匹撃破だ!


 それと、俺の勘は正しかった。早め早めに動かなければ奴にいいように翻弄されていた。魔の瘴気の影響も考慮して正解だった。この光の大剣なら斬れる!


 MP消費は高くなるけど、生き残るため、カミン沼地の先へ行くためだ! 手を抜けば死。これも知人から学んだことだ。圧倒的強者が、手を抜いたために自分より弱い相手にやられてしまう瞬間を俺は見た。そんなヘマを俺はするつもりはない!


「うおおおお! これで3匹! っ!?」


 くっ! マッドスケルトン。お前いつの間に!? 距離感が掴めないせいか! 泥のせいで音も聞き取りにくい。


 気づけなければ真横から叩き斬られるところだった! 奴も大剣持ち……だが獲物がわかれば対処できる!


 魔法生物だからか? 命令通りにしか動けないようなお前は、こんな簡単なフェイントに引っかかってくれるな。ありがたい!


「お前の弱点はお前の動力源になってるその赤黒い光。つまり心臓だ。わかりやすい弱点を作ってしまった主を恨むんだな!」


 目が慣れてきた。マッドスケルトンは赤黒い光を探そうとするからダメなんだ。奴は泥に覆われている。ここカミン沼地では輪郭を見る方が見分けがつきやすい。


 目を凝らしてみれば十分わかる。周囲の景色に溶け込んでいる分、苦労はする。だけど危険度で言えばマッドワームの方が遥かに高い。


「お前の存在に気づかなければ、奇襲されるってだけ。スケルトン自体は大したことない!」


 他の地方に比べれば強いんだろうけどな。それでもお前は俺と相性が悪いんだよ。魔法攻撃に弱いからな!


 あれは! 泥を吸っているのか? そうか。俺を倒すんじゃなくて、底なし沼に落とすつもりか!! そうはさせるかよ!


「マッドワーム……お前の敗因は、泥を吸うスピードが遅すぎるせいだ。隙だらけだったぜ。そんなもん受けて底なし沼に落とされるやつなんていんのかよ?」


 フッ! 決まった! 2匹の間に入ってからの連撃。綺麗に決まると気持ちがいい。ほぼ無傷で勝利を手にした。やはり俺は慎重な男! しかし困った。大したアイテムドロップしないモンスターだからよかったけど、ドロップ品見えない。探すのは骨が折れる……諦めるとしよう。


「――ない。杖がない」


 しまった〜……戦闘に夢中になって杖どこに置いたかわからないぞ。地面に突き刺したはずなんだが、どこを見渡しても見つからない。やっちまっただよ〜。ちょっと黒味のある茶色だから、完全に沼地に溶け込んでやがるぜ。必死に探し回って沼にハマるなんて馬鹿はできんぞ。


 くぅぅぅ、慎重な男がなんてくだらないミスを……いや待て、棒なんて自分で作ればいい。俺は思慮深い男。俺は魔法剣士であり、魔法使いなのだからな。形成で棒を作り出し、維持すれば――ふむ。


 コツコツ


 できるな。MPを常に消費することになるが、仕方ない。今は先へ進むことを優先するのだ! ポーションはまだ余裕あるからな。


 カミン沼地の中間辺りまで来れたか? 泥岩も多くなってきた。一瞬マッドスケルトンに見えてしまうのが面倒だ。こんなところでエンカウントしたら困っちまうな。対応が1手、2手遅れる。


 沼地らしく植物もあるにはある。魔の瘴気の影響で、元気はない。泥にまみれて全て茶色く染まってることもあって哀愁漂う。魔王が現れる前は美しい沼地だったんだろうか。


「あれは……モンスターか。こんなところでは戦えないな」


 カミン沼地は歩きやすい大広場、その場での戦闘を極力避けたい小広場、人が何人も余裕を持って通れる大きめの道、狭い1人用の道がある。


 俺は今狭い道にいる。マッドワームは底なし沼でも平気で泳いでくる。マッドスケルトンは道なりにだが、通路を塞いでくる。バランス崩して倒れれば、すぐ隣は底なし沼。回避行動なんて取れはしない。


「広場に出るまで進むしかない。慎重にな」


 初めてみる飛んでる虫モンスターもいるが、焦りは禁物だ。焦って転べばそこは底なし沼かも知らないのだ。こんなところで棒を消すわけにはいかない。光の剣1本だけでなんとか対処――おい。


「マッドワームよ。そこは底なし沼だろ。なんでそこに留まって泥を吸うんだ!!」


 やめろ。ノックバックした瞬間死ぬ。それだけは避けなければならない。光の矢は無理だ。止まってるモンスターでも当てられる気がしない。


 やめろ、マッドスケルトン。お前いつの間に目の前にきた!? いや俺が慎重すぎるせいか? 全然前に進めてる気が――くっ――急がなければ!


 ペッ


「ペッじゃないよ。顔に泥かけるんじゃないよ! 視界が悪くなるだろうが!」


 今わかった。このモンスター共、嫌がらせ行為大好きな奴らしかいない。空飛ぶ虫モンスターもさっきからペッペペッペ泥吐きかけてくるだけだ。鬱陶しい!!


 慎重になんて考えてたらモンスターに突き落とされる。ええいままよ! 走るしかあるまい! 走りながら光の――。


 ズオオオオオ!!


「おい、なんだよ。やめてくれよ。沼地の主かなんかか? お前なんか相手にできるわけないだろ!!」


 10メートル級が沼地に潜んでるなんて聞いてないぞ。やめろ! 泥顔にかけんな! うお!? マッドワームお前! 足元すくうんじゃないよ!!


「うわっぷ!!」


 泥吸ってたマッドワームちょっと落ち着いてくれないか。ノックバックやめてくれ!! 頼む! 頼む!!


 ズオオオオオ!! ガシィ!!


「おい――たぶん主さんだろ? 初手投げは良くないんじゃないか。落ち着こう。みんな一旦落ち着こう」


 掴まれてる間も泥顔にかけるんじゃないよ!? 投げられたらどうなるか予想つかない。光の矢で牽制すれば離してくれたりしないもんかな。


 うん、ダメージ低そう。泥に覆われてるから全く見えない。今は投げられた後のことを考えよう。この暫定沼地の主の攻撃を注意しつつ、HP次第で回復か光の大剣作るか決める。


 暫定沼地の主がいるってことは少なくとも狭い道ではないはずだ。だから暫定沼地の主から距離を取りつつ、マッドワームを引きつけて倒し、マッドスケルトンを処理、んであの小虫を倒そう。あの小虫自体に攻撃力はない。顔に泥かけてきて視界を塞いでくるだけの嫌がらせモンスターだ。顔に当たらないように注意していれば問題ない。


「おっしゃ! いつでもこい!」


 ズオオオオオ!! ベチャ!!


「……おい……お前らなんで急にそっぽ向くんだよ。俺はここにいるだろうが」


 なんで帰っていくんだよ! 俺はまだ余裕で戦えるんだぞ! おい! 暫定沼地の主さんよ。なんで戦闘終了したみたいな雰囲気出して底なし沼に潜っていくんだよ!!??


「体……沈んでるぅ……真下に投げるのはダメだろぉ……やめろよぉ……身動き取れないよぉ……」


 そして誰もいなくなる。


「い、いやだーー!! だ、誰かーー!? た、助けてくれーー!!?? だれ、誰かーー!!?? ヘル――ヘルプミィィィ!! あぁぁ……くぅぅ……アイルビーバァァァク――……」


 口が沼に飲まれる。視界が真っ暗に染まる。HPがモリモリ削れていく。底なし沼に投げられた……投げられた……詰んだ。





 さぁ皆さんご一緒に! おはようございます! ここは開拓村フューチャーの宿屋の一室。カーテンの隙間から日が差し込んできます。ここ最近は悪夢にうなされていますが……今日も……僕は……ぐすっ……元気……ぐすっ……げん……げ……。


「うわあああああ!! もう嫌だあああああ!! あああああ!!??」

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