スコーピオンスパイダーの巣穴
ヒューカッコイイね。ズバァっと一振りで倒しちゃったよ。あれっ……涙出てきた。いつか……俺もあんな風に倒せるようになりたいな……ぐすん。
鉱夫救出作戦ってようは時間経過で自動でクリアできる系のクエストだったってことだよな。急がずのんびりやればよかったかな。メスも放置で逃げ回るのが正解かね。
「衛兵長強いな。俺いらなかった」
「謙遜する必要はない。君達がいてくれたからこそ、他の者達の負担が少なくなった。私もあのデカブツに集中できたのだからね」
またまたぁ、1人で余裕で倒せそうな火力持ってるくせに。
「俺は、あんたは後ろで待機してるだけだと思ってたんだが」
「見てるだけでなんとかなる場合であればそうしていた。部下の体力の消耗はそれを許さないと判断できるものだった。その時のために私がいるのだ」
「あなたの目から見てもギリギリでした?」
「結果論だが、私が出なくとも死者が出なかっただろう。だがその後の活動に決して小さくない影響が出てしまっていただろうね」
ギリギリではないけれど、相応の被害は出ていたかもしれないって評価か。もっと強くならないとダメね。課題はいっぱいです。
第5採掘場のスコーピオンスパイダーはほぼ倒し終えたみたいだ。巣穴の入口前に待機してる衛兵と、残り少ないスコーピオンスパイダーを5人10人で囲って倒してる。
騒がしかった採掘場もようやく静かになってくれましたな。祭りの後は急に寂しくなるな。眠くなってきた。そろそろ落ちるか。
これにて鉱夫救出作戦は無事全員救出作戦成功で決着がつきましたとさ。めでたしめでたし――。
「さて、救出作戦は一段落ついたわけだが……」
終わりじゃないのか?
「まだ重大な問題が残っている」
「「「それは?」」」
おっとハモった。3人とも終わったと思ってたんだな。
「スコーピオンスパイダーの巣穴だ」
「「「あ〜」」」
またハモった。入口に衛兵待機させてるってだけで、まだまだわらわらスコーピオンスパイダー沸いてきてる。鉱夫救出はできたけど、根本的な解決にはなってないもんね。
確か村で話し合われてるはず。どうするのか結論出たのか?
「村の会議ではまだ方針が決まっていない。衛兵を動員したのは鉱夫救出のため。今、私達衛兵にこれ以上のことはできない」
「じゃどの道今日はここまでじゃねえ?」
「うん、私達が好き勝手に動いていい問題ではないのでしょう?」
開拓村フューチャーが出す特別緊急依頼とか何とかだったっけな。勝手な行動するなら報酬とか出さんよって釘刺されたし、巣穴もそういう話になるんじゃないの。
「そうだね。作戦行動とは別に個人で動き、それが原因で鉱夫が命を落としてしまうのを避けるためだった」
プレイヤーって自由奔放だもんな。NPCだから死んでもいいやって考えは開拓村からすれば大問題だ。
「だがスコーピオンスパイダーの巣穴は別だ。鉱夫達を救出し、ある程度の安全を確保した。今なら冒険者もしくは個人で動いてもらって構わん」
「村が動く前に巣穴潰してくれてもいいよってか」
マスポンさん代弁ありがとう。巣穴問題どうする? って話の結論が出る前に好き勝手していい……ね。
「そういう事だ。そこで、私の裁量で出せる依頼を君たちに受けてもらいたい」
「内容は?」
「巣穴の主の駆除だ。報酬は600万ピア」
「「「おお〜」」」
またまたハモった。探せばそれなりに見つかる報酬額だ。でも、どれも遠かったり複雑だったりして面倒だからな。目の前の巣穴駆除するだけで貰えるならかなり美味しい。主の強さ次第ってのもあるけど受けて損はない。
「ただし条件がある。巣穴駆除に挑戦できるのは1度までだ。君達天上族が何度でも蘇るとわかっていても関係ない。無謀な挑戦を続けさせるつもりはないからね」
1度きりの挑戦か……どうしよう悩む。受けない時の理由は1つ――眠気だ。動かないとこのまま寝落ちしそう。
依頼を受けなくても、巣穴が残っていれば冒険者ギルドに依頼出されるだろうけど、報酬額は下がりそう。
「私達衛兵も余裕があるわけでは無い。この場に居続けることは難しい。方針がどうなるにせよ巣穴が駆除されるまで第5採掘場は放棄されるだろう。ここを維持できるのは今だけという理由もある。あぁそうそう、依頼を失敗した後再び君達が挑戦するのを止めはしない。私は君達を縛ることはできないのでな。何か質問があれば聞いてほしい」
複数ある入口を見張り続けるって大変だもんな。一歩引いて第5採掘場入口付近で構えた方が負担少なくて済む。
「その報酬は倒した人だけだよね?」
「もちろんだ。パーティーを組んでもらっても構わない。その場合山分けしてもらうことになるが」
「あとは……先に入った2人も同じ依頼を受けた?」
「あぁそうだ。彼らが別行動を取れば私達の利になり、いなくとも救出できると判断した……他には……ないようだ。では依頼を受けるかどうか教えてくれ」
あの2人がこの依頼でかなり有利だな。主を倒せるならって話だけどね。600万ピア……睡魔……600万ピア……むむむ。5人で山分けしても120万ピア。むむむむむ。
「俺は受ける」
「私も受けます」
むむむ! やるだけやって失敗したら寝ましょう。そうしましょう。
「俺も受けよう。600万は頂くぜ!」
「3人とも受けてくれるか。ならば頼む。村を救ってくれ」
依頼を受けたツバサ達は衛兵が持ち出した道具箱をポーションを取り出して、それぞれの道具袋に詰め込んだ。依頼を受けた3人への補給物資として衛兵長が手配したものだ。
ポーションは開拓村の道具屋で売られているもので、特別なアイテムというわけでは無い。スコーピオンスパイダーの巣穴に入る前に松明を渡された。
「どうする? パーティー組んで行くか?」
マスポンの提案を2人が思案する。ツバサと桜月夜が少しだけ目を合わせた。
「ソロでいいと思います」
「…………。そうですね。私もソロでいいと思います」
「んじゃソロでいいか」
桜月夜だけはどこか残念そうな雰囲気を出していたが、ツバサやマスポンはそれに気付いた様子もなく別れていく。それぞれが別々の巣穴の入口に立ち、意を決して中へと進んでいった。
「おいしょー」
第5採掘場を制圧したけど巣穴にはまだまだいるのね。ま、当然か。でもかなり数減らしたと思うんだよなぁ。
松明正直邪魔だ。スコーピオンスパイダーのオスが襲ってくるたびに地面に置く必要が出るのがめんどい。片手で戦うなら気にならないんだろうけど。
巣穴の主ってどうなんだろう。デカいのかな。メスと同じ位かな。というか、メスで苦戦したのに主って倒せるのか? 挑戦するだけなら問題ないと思う……でも倒すならパーティー組んどけばよかったかな……600万ピアに目が眩んじまったぜ……ま、いいか。
どの道ボス部屋に辿り着けなければ倒す倒さない以前の問題だしな。一本道なわけなかった。マップがなければ迷ってた。
「おっ! 光が見える! よし、中間地点的な場所か!?」
「おや、ずいぶん早いお帰りだね」
「どーもー」
衛兵長がいるじゃん。マップが第5採掘場表示してんじゃんなんだよ……俺が選んだ入口、メスが開けた穴と繋がってるんか。
「どうする? 終わりにするのか?」
「馬鹿言わないで! 何も始まってすらないわ!!」
「気をつけて行くといい」
「あ、はい。行ってきます」
回れ右! 前へ進め! 1、2、1、2! はぁ、時間かかりそ。寝落ちが先か、終点が先か。やっぱパーティー組まなくて正解だったな。寝落ちの可能性が急激に上がりましたよ奥さん。
巣穴探索していてわかってきたことは、かなり入り組んでいること、奥に進んで行くと通路が広くなって行くことだ。
たぶん、第5採掘場に空いた穴、入口が違うだけで全部繋がってる。大穴含めた6箇所ある入口の3箇所に辿り着きましたわ。衛兵長と4回エンカウントしましてよ。未開拓のマップを切り開いていけばいくほどぐるぐる回ってる自覚あります。迷子です。
目安は通路が広くなったか狭くなったか。オスが動き回って穴広げてるんだろうね。オス同士が行き来する通路であるほど広くなるとかかな。メスは平気でオス食べてたからな……滅多に動かないのかもしれない。
「おんどりゃー」
後は単純に奥深くまで潜れば潜るほどオスと出くわすことだな。前からしか聞こえてこなかった移動音、カチカチって音が左右からも聞こえてくるようになり、後ろからも聞こえてくるようになり、上下からも聞こえてくるようになりました!
「前後左右上下から聞こえてくるせいで、視覚以外でモンスター確認できねえ……だる」
どんだけいるのさ。マジで。松明捨てなくてよかった! 視覚すら使えなかったらもう死んでるな。
おっ、開けた丸い部屋に出たぞ! おや、見たことあるお姿ですね。
「さようなら。私が会いたいのは貴方じゃないわ! 来ないで!!」
メスが鎮座してた! やめろ! 追いかけてくるな! オスでも食ってろって!!
「巣穴だもんなあ!! そりゃいるよな!! 何匹いるんだろうなあ!? 通路が広くなってる理由はメスが動いたからっていうのも当然あるよなあ!? 600万ピアってもしかして安くないか!?」
報酬交渉すれば値上げできたかな。俺の全財産より貰えっから二つ返事しちゃったよ。ひええええ!!
「あっこんばんは……いやおはようございます? お邪魔しました!!」
違う、違うんだハニー!! 僕は二股なんてしてない!! まずは僕の弁明を聞いてくれ!!
「入る部屋を間違えただけなんだ!! 今日の僕の相手は君達じゃないんだ!! えっ? 二股じゃなくて三股? やだなぁ。僕はそんなに――やめろおおお!!」
なんでだよ!! お前ら3匹怒りすぎだろ!! 1匹ですら衛兵長頼りだったんだぞ!! 1人で1匹すら倒せないんだぞ!! 倒せるレベルじゃないのに3匹は無理だって!!
「オスが轢き殺されるのに俺が生き残れるわけないだろ!! 小さい穴見っけ!! さいなら!!」
帰ったら絶対衛兵長に文句言ってやる。絶対! 600万ピアじゃ! 少ない!!
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
討伐依頼の報酬600万ピアって遠出すると往復でリアルで最低1週間必要とかそんなんだったよな。近ければ近いほど強くて厄介で、遠ければ遠いほどそこまで強くはないけど面倒とか。
「それにしたってメス3匹に追われるってどうなんだよ。メス1匹だって、開拓村に来る前に戦ったカメレオンと同レベルくらいな気がするぞ」
諦めても誰にも文句言われないと思う。てかマスポンさんと桜月夜さんはどこまで進んだんだろ。
マップ的にはだいぶ奥まで進んだんだけど……とりあえず進もう。入った小さい穴行き止まりじゃ――ない。セーフセーフ。
また広くなった。そろそろ最奥についてもおかしくないと思うけどな。松明の灯りで天井見えないし、メス3匹に追いかけられる前まで聞こえてたカチカチ音も聞こえない。
「吹き飛べーい」
まあオスがいなくなったわけじゃないんだけどさ。
「ん? 人の声? 反響しててわからん」
俺を呼んでる? 違うな。叫び声? んん??
「……――」
「あなたはだーれ!!」
「――――」
「近づいてるな。だーれーだー!!」
「――やーー!!」
「や?」
やってなんだ。
「いやーー!!?? 来るな!! 来ないで!! やめて!! いいやあああ!!」
女の叫び声。聞いたことある声。ふむ。
「受けるんじゃなかった!! 受けるんじゃなかった!! 受けるんじゃなかった!!」
大事なことなので3回言ってますな。落ち着いている場合ではなさそう。どうしよう――あっ、桜月夜さんさっきぶりですね! メス3匹にラブコールされたんですか?
「無理無理無理いいい!!?? ああああ!? ツバサさん逃げてええええ!!」
「――のおおおお!!??」
さっき逃げ切ったばかりなのにこれかよおおお!!
「聞いて!! 違うの!! 絶対に私は!! 巻き込むつもりは!! なかった!!」
「わかってる!! わかってる!!」
「「うあああああ!!」」
オスを淡々と倒せる桜月夜さんすら全力で逃げ出す相手だぞ!! 無理に決まってんだろ!!
「突然!! 音がして!! 振り向いたら!! 3匹来たの!! メスがいた部屋!! 注意して!! 避けてたのに!!」
あれ部屋に入らなければ追いかけられなかったんですね!
「マジかよ!! じゃああれ!! 俺がやらかしたやつ!!」
「どういうこと!? どういうこと!!??」
「部屋入っちゃって!! 逃げ回って!! また部屋入っちゃって!! 逃げ回って!! また部屋入っちゃって!! 3匹に追っかけられた!!」
「嘘でしょおおお!? 何やってんのさああああ!!」
「違うんだ!! わざとじゃないんだ!! 迷子になってたんだ!!」
「「いやあああああ!!」」
小さい穴、小さい穴、小さい穴――あった!!
「穴!! 穴穴穴!!」
セーフ! セーフ!! セーーーフ!!
「ちょちょちょ!? ズルい!! ズルいズルい!!」
「手伸ばせ!! 早く!! 早く!!」
「手を止めて!! 動かさないで――取った!!」
いやいや……もう必死ですよ。えぇえぇ。死ぬかと思いました。3度目は無しでお願いします。
「「はぁはぁ――はぁはぁ――はぁ〜〜」」
ズルズル2人で座り込みました。動きまでシンクロしてます。平和っていいですな。
「……生きてるね」
「……うん、生きてる」
「桜月夜さんって結構叫ぶんだ」
「ツバサさんが引き起こした事故に巻き込まれなければ、叫んでないよ」
「ごめんなさい」
「いいよ。気にしてないから」
よかった。安心した。怒る人は怒っちゃうからな。桜月夜さんが優しい人でよかった。巻き込んじゃってボロクソに言われたのを思い出しちまった。凹むぜ。
「諦める?」
「アキラメナイ」
あっ頑固モード。負けず嫌いなんだろうな。
「そうだよね。ゲームオーバーになるまで頑張りたいですよね」
「……そうですね。ツバサさんはどうするんですか?」
「ボス部屋までは辿り着きたいですね。なので進もうと思います」
「……そうですか」
ふむ。ここまで来てまた別行動ってのもな。なんとなくそろそろ着きそうな気がしないでもない。うーむ。
「……桜月夜さん」
「はい」
「一緒に行きますか?」
「――行きます!」
ちょっと嬉しそうな気がする。誘ってよかったかもしれない。うんうん。パーティー勧誘は……これだ。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「それじゃあ行きましょう」
「あの」
「なんでしょう?」
何か怒らせるようなこと言ってしまったか? さすがにないよな?
「敬語やめませんか? 嫌なら……このままで……」
「あっじゃあ、敬語無しにしましょうか」
「「…………」」
こ、ここは俺が率先して話した方がいいのだろうか。悩む。悩むぞ。対人関係の難易度の高さは異常だ。攻略できる気がしないぞ……ええいままよ!
「じゃ、じゃあ行こう。桜月夜さん」
「……うん、行こうツバサさん」
大丈夫だよな? 大丈夫だよな!? これ心配になって急に話せなくなるやつ!
んーどっち進もうか。とにかく前に進めばいいよな。
「ツバサさん待って! ストップ!」
「えっ――ぐえっ!?」
いきなり首根っこ掴まないで! く、苦しい!
「く、苦しい……死ぬ!」
「おっと。ごめん」
「どうしたの?」
「前見て前」
「前?」
あっ、メスがいる。メスは小部屋にいるのすっかり忘れてた。桜月夜さんが止めてくれなきゃまた追いかけられてたこと間違いなし。
「……おぅ……」
「また追いかけ回されるのは嫌だ」
「そうだね。俺も嫌だ」
慎重に、慎重に行こう。桜月夜さんがいてくれるおかげでやらかしそうになる俺を止めてくれる。なるほど、だんだんわかってきたぞ。
大穴通路がメスも利用する穴で、小穴通路はオス専用だ。地上に近ければ近いほどメスの利用する大穴通路は少なくて、地下深くであればあるほど大穴通路が多い。
マップ見るとわかる。オスの活動範囲が広くなるほど後追いでメスが地上に近づいて行くんだ。今のいる位置は大穴通路が多くて、小穴通路が少ないってことは……。
「もうすぐボス部屋か」
「うん、私もそう思う。マップ見ながら小さい穴を進んでいけば必ず主の元に着く。主は母親――マザー。マザースコーピオンスパイダーって呼ぶのかも」
「いやいや、スコーピオンスパイダー(母)かもしれない。巣穴進んでる途中で、俺もオスって表示されたからきっとそうだな!」
「ええ? スコーピオンスパイダー(オス)だからってこと? さすがに(母)はないと思うなー」
話しながらでもズバババっとオスを倒しちゃう桜月夜さんさすがです。メス相手に逃げ回ってた頃より余裕がありますな。まあ俺もなんだけどさ。
「桜月夜さん以外と会わなかったけど……皆ボス部屋着いたのかな」
「たぶんね。私は巣穴の法則に気付くの遅かったから」
「俺は桜月夜さんと合流しなきゃまだ気付けなかった自信ある」
おっ松明の灯りと人影がある!
「おぉ、2人とも着いたか」
マスポンさん!




