鉱夫救出作戦
採掘場入口に簡易拠点ができてる。数名の衛兵に、衛兵長、親分がいる。作戦本部? 作戦司令部? まぁ同じようなもんか。鉱夫救出作戦はもう始まってるっぽいな。
負傷者もそこそこいる。後方支援者が忙しそうに動き回っていて、あちこちで指示が飛んでて騒がしい。邪魔にならないようにさっさと採掘場に行っちゃおう。
「……君はさっきの」
入口塞がれて進まなかったわ。何してるんだ!? って衛兵2人に両腕掴まれて簡易拠点まで連れてこられちゃった。テヘペロ。
「あ、どうも」
事情を衛兵から聞いて俺を見てきた。第一声を悩んでる感じ。
「……正義感が強いのは伝わった。仲間を助けたいという気持ちもね。しかし今は作戦実行中だ。君一人の勝手を許すわけにはいかない。それに君は十分戦った。私達に任せ、休んでくれ」
鉱夫を助け出すのは当然。もちろんだ。助からなかったなんて目覚めが悪い。ま、欲というかね。この作戦に参加して報酬貰おうって考えも無いわけじゃないんですよ。報酬欲しいって本音は隠しますがな。
「十分休んだ。体はもう100%全力で動かせる。準備も済ませた。後は助けに行くだけだ」
「…………」
自分の意思を曲げないって相手に伝える時は目を逸らしちゃいけないってどこかで見たか聞いた。
「おう新入り。行けるんだな?」
「へい親分!」
「新入りはあの群れの中を生き延びた実績がある。しかもキチッと仲間が死なねえように対策取った上でな。十分すぎる戦力だ。なぁ衛兵長」
「……実力を疑っているわけではない。冒険者として開拓村にやってきた時点で実力は申し分ないのだからね。体ももう大丈夫のようだ」
「なら――」
「だからこそ手順を守って貰わねば困る。この救出作戦は村の総意によって始まったもの。参加するのであれば責任者である私を通して貰わんとね。冒険者として報酬を貰いたいなら尚更だ」
バレてら。ニヤけてますよ衛兵長さん。
「君が勝手にやって勝手に助けただけだと言えば報酬は受け取れない。それで構わんかな?」
「それは困る!」
「ならしっかりと参加してもらう」
「わかった。救出作戦に参加する」
「手続きはこちらで済ませよう。では現在の状況を伝える」
簡易拠点を作って、人員確保に動いている間にスコーピオンスパイダーが第4採掘場を占拠。集まった衛兵部隊と緊急依頼を受けた冒険者が第1採掘場に向かった頃、スコーピオンスパイダーは第1採掘場の半分ほど勢力を伸ばしていたらしい。
勢力の伸ばし方がかなり早いことから、相当な規模の巣穴と繋がっていることが予想された。総力を挙げて巣穴駆除に動いても全滅する可能性が高いくらいには大きいかもしれないって。
今は第4採掘場の入口まで押し込んではいる。でも次から次へと湧いてくるスコーピオンスパイダーのせいで負傷者も多い。
「じゃ、俺は第4採掘場に行く」
「第4採掘場に行ってもらうのは少し後になるね」
「なぜ?」
「鉱夫長から話を聞いた。回復魔法が使えるそうだな? 今現在負傷者の治療が間に合ってない。回復魔法で軽症者を回復してから向かって欲しい。治療を終えたらまた前線で頑張ってもらわねばならん。前線崩壊して救出どころでは無くなってしまうからな」
「……わかった」
「人手はどこもかしこも足りていない。動ける者が最善を尽くさなければならんのだ。頼んだよ……鉱夫長、第4採掘場の詳細を教えてくれ――」
「第4採掘場は――」
忙しそうに話し合ってるな。作戦会議を進め始めた。俺が口出すことじゃない。さっさと怪我人の回復して前線に行くとしよう。
大雑把だけど、衛兵は100人動員してる。冒険者は20人。プレイヤーは俺を含めて7人。衛兵は簡易拠点に10人。部隊を30人に分けて3部隊運用。冒険者は個々にパーティー組むなりソロなりで遊撃だって。
第1採掘場を取り戻す時に全部隊を動員して、第4採掘場の入口まで押し込んだ。今は入口確保のために動いてるから、負傷者の多い部隊を下がらせて2部隊で作戦実行中。
第4採掘場の制圧に向けて回復作業。1部隊の回復が終わり次第、2部隊の内の負傷者の多い部隊と交代して前線で戦うサイクルを作るらしい。冒険者は任意でことに当たれだそう。最優先命令は死ぬなだって。
村の存続には自由に動ける冒険者も必須だと。大切にされてるね。
村の後方支援者はこれから鉱夫救出達成まで、負傷者の手当てで働き詰め。
「残ってくれても――いいんだよ? ポーションは村持ちだから!」
「僕は前線に行きます。ニコッ」
丁重にお断りさせていただきました。救出作戦終わるまで回復作業とか、深夜回ってる今やったら間違いなく寝落ちしますわ。それに体動かしてる方が好きなんでね。
「第3部隊、治療完了しました」
「わかった。第2部隊と交代。交代と同時に第4採掘場の制圧を開始。作戦通り第1部隊、第3部隊を中央に配置。冒険者は個々に遊撃。そして可能ならば第5採掘場入口を制圧、分断、殲滅を。各部隊は状況に応じ進行後退の判断を」
「伝令承りました」
「頼んだぞ」
衛兵長と第3部隊長のやり取りを聞いた。遊撃任された俺はどうしようかな。
第3部隊と一緒に第1採掘場を通って第4採掘場入口へ。
「第3部隊到着! 第2部隊後方へ! 第1部隊、第3部隊、冒険者各位。作戦通りに実行せよとの伝令!」
「「了解!」」
第2部隊が後方に下がったのと同時に衛兵2部隊が第4採掘場に突入した。冒険者はその後に続く。
第1採掘場も途中からそうだったけど、糸だらけ。第4採掘場は俺が逃げて採掘場入口で様子を見てた時以上に蜘蛛の巣だらけ。全てが上手くいっても後始末が待ってるね。掃除大変そう。うへぇ。
衛兵部隊はスコーピオンスパイダーの攻撃を一手に引き受ける。入口付近の中央に陣取って押し返そうとするスコーピオンスパイダーの群れを堰き止めてくれる。体を覆い隠すような大きな盾で身を守りながら前へと進み、反撃を試みる。攻撃を引き受けすぎて体勢を崩す衛兵もいる。最小限の被害に抑えようとするが、巨大なモンスターの攻撃は最小限でも相応の威力となる。後方にいた衛兵が入れ替わり壁役を引き受けていた。
状況把握をするまでもない。冒険者は中央にいる衛兵部隊の両サイドから戦線維持。飛び出しているのはプレイヤーだな。俺も含めて全員ソロプレイヤー。遠くから見てると無茶してるように見えるもんな。
スコーピオンスパイダーの数が減り出すまで歩幅を合わせて進むのが常識って感じの冒険者NPC。一人飛び出せば集中的に狙われて死ぬだけだ。遊撃するのは数を減らしてからだろうね。プレイヤーと違うのは死んだら終わりって意識があるかないかの違いだ。
死んでも生き返るってわかりきってるプレイヤーはガンガン進む。全員軽装だ。攻撃優先の物理だな。全員武器持ちだし。役に立つならそれでいい、役に立たないならいなくなるだけってよく伝わってくる。我関せず、効率重視だね。2人が時々NPCの進行具合を確認してるな。崩れそうなら戻るのかな。結構離れてそうだけどフォローできる位置なんだろう。
集団になったスコーピオンスパイダーが危険なのはよくわかってる。俺にはあの6人みたいに密集するモンスターの中で戦える力はない。
あっ、1人避け損ねて糸つけられた。あっ、巣から飛び降りたスコーピオンスパイダーの落下攻撃片足に当たっちゃった。あっ、尾の強撃受けちゃった。あっ、起き上がれなくて踏み潰されて死んだ。ナムナム。無茶するから……。
プレイヤーはあと俺含めて6人。あの人復帰するかな? 深夜だから寝るかな? どうでもいいか。
俺はあんな風になりたくないから前線ラインを維持することにしよう。第3部隊は休憩挟んでるから元気あるみたいだけど、連戦してる第1部隊が遅れ気味。支援しながら戦うか。
「堪えろ! 押し返せ!」
「第4採掘場はどの程度制圧できたか知らせろ!」
「4割程です!」
「数が多すぎる!」
「第2部隊の治療はどの程度進んだのだ!?」
てんやわんやですな。第1部隊の体力の消耗が激しいせいだ。仕方ないね。
「負傷者はどこだ?」
「今はそんなことを答えている暇はない!」
「さっさと教えろ! 一番消耗してる奴はどいつだ!?」
「――毒を受けた者がいる。ポーションで無理やり回復している状態だ」
「解毒ポーションは?」
「先程底が尽きた。簡易拠点まで戻らなければ治療は受けられん」
状態異常の回復魔法は持ってなかったわ。ヒールと同じく変質でなんとかなるだろうけど、今の状況で色々試してる余裕なんてないからスキルで覚えちゃおう。
『キュアを取得しました』
「覚えておいて損は無いだろ」
戦ってた時に毒にならなかったのもたまたまだしな。これでいざという時には状態異常治せる。
さて、どこにいるかな? いたいた。顔青いな。苦しそうなのを気合いで我慢してるな。
「毒を受けたのはアンタだな?」
「……それどころでは無い。見ればわかるだろう」
「まぁいいや。キュア」
「!」
うーむ。効いてないのか? もしかして違ったか? 下痢気味なのを我慢してたとか……ありえるかもしれない! いや顔色良くなってきたな。下痢じゃなくてよかったな!
「キュアを使えたのだな」
「さっき覚えた」
「……天上族というのはわけがわからんな」
スキルによる取得ってNPCは適用されてないのかね。まいっか。
「他に毒の奴は?」
「今のところはいない。助かった」
「おう」
自分のHPしか見えないから、誰がどれだけ怪我してんのか自分で探さないといけない。面倒だから片っ端からヒールしよ。複数同時に回復できるようにするにはどうすればいいんだろうな。神聖魔法のレベル上げるしかないかな。スキルポイントないから諦めるしかないんだけど。
「おぉ。回復魔法を扱える冒険者がいたのか。鉱夫の服着た変人なだけだと思ってたぞ」
「馬鹿め、鉱夫の服のおかげで命拾いしたんだぞ! 仲間に退魔アイテム渡せたのだってこの服のおかげだ!」
「そ、そうか……すまない」
「わかればいい。大怪我した人が出たら教えてくれ。前線維持手伝ってるから」
「頼もしい限り」
歩幅合わせてスコーピオンスパイダー倒したり、邪魔な糸切って進んでるとちょっと楽になった。スコーピオンスパイダーの隙間から見た様子だと、プレイヤーが第5採掘場の入口制圧したらしい。いつの間に。
あとは殲滅して第4採掘場を制圧するだけだ。それに気付いた冒険者達も各自の判断で動き出した。一段落だな。




