鉱夫仲間を救え
最優先すべきは親分達鉱夫の避難。できるなら逃げ遅れた鉱夫の救助。といっても。
「こりゃ無理でしょ」
1……2……3……わちゃわちゃしすぎて数えきれないな。30は軽くいそう。50って言われても納得する。1人でやるクエストじゃない。
「何人逃げ遅れたのか聞き忘れた。この中突っ切って探しても、その間に突破されるだろうな」
穴からまだ出てきてる。巣穴に何匹いるんだよ。100以上いるよな絶対。
「護衛クエストの後ポーション補充してない……今度からちゃんと補充しとこ……」
えーと、ポーションは……13本。ノーダメかつノーミスで50匹いけるか? 前提が無理すぎる。30……20匹は頑張って抑えよう。最悪10匹でもいい。
「さっき戦った分のMPは回復したな。逃げ遅れた鉱夫見捨てるなら待ち。少しでも助ける意思があるなら囮。さぁツバサ。お前はどうしたい?」
考えるまでもないな。現実なら救助隊を待つのが正しい。でもそれじゃあ間に合わないかもしれない。共倒れするかもしれないから待てと言われても気持ち的には助けてやりたい。
現実でできないことを俺はゲームでやりたい。現実で理性を優先させるなら、ゲームでは感情を優先させよう。
「再確認は済ませた。やってやろうじゃん!!」
やるべきことはまず一つ。ヘイトを集めることだ。スコーピオンスパイダーがじわじわと勢力を伸ばしてる。見つからないように鉱夫が上手く隠れていてくれることを願って、デカイの1発かましてやるぜ!
両手同時に形成、集積、付与、変質、集約だ。よくわからんけど特性を5つ以上にすると消費MPが一気に増える。ちなみに、光属性魔法は威力が上がるからレベル7まで上げた。威力が上がってるおかげで開拓村でもなんとかなってる。
「付与は打撃。変質は爆発。光の矢なのに打撃で爆発するってなんだろうな? まぁいい! これでも喰らえ! シャイニングアロー!!」
打撃属性+爆発バージョン!
ジャンプして、空中でデカいの一発。気持ちいいねえ!
「だいぶブレたな。やっぱり左にズレる」
鉱夫のいない開けた場所に撃ってやった。俺を見つけて迫ってきてた奴らだから問題なし。爆発って言っても5匹巻き込む程度の規模でしかない。十分か?
爆風と周囲に撒き散らした石ころと爆発音で一斉にこっち向いたな。圧が凄い!
直撃した5匹は打撃属性のおかげか、爆発のおかげかよくわからんけどひっくり返ってる。今のでMP消費が6割強。特性4つの光の矢で3割弱。俺のMPが少ないのかもしれないけど、多用できるもんじゃない。形成と集積だけの光の矢なら1割未満でバシバシ撃てるんだけどなぁ……まぁまず当たらないし、当たっても硬い甲羅に守られてるからダメージ与えられないだろうね。
「うおおおお!? やめろぉ!?」
人並みに大きいスコーピオンスパイダーが群れで追いかけてくる! カチカチ音が鳴るのが迫ってきてる感じがして余計怖いわ!
今俺はスコーピオンスパイダーを釣ってる。俺、範囲攻撃できる。範囲狩りできるのでは?
「やるっきゃねえ! 周囲に鉱夫はいなかった!」
適当に撃ってもあれだけまとまってれば何かしらに当たんだろ! 付与は貫通か? 打撃か? 変質使うか?
「さっきと同じでいいか! 空中から地に向かって撃たないとシャイニングアローじゃないよな……まいっか!」
両手に形成、集積、付与、変質、集約。5……4……3……2……1……おっしゃ!! 最大チャージの光の矢完成!! 反転してすぐ撃てばおっけい!
「これでも喰らいいいい!!??」
忘れてたーー!! コイツら尾から糸出すって言ってたじゃん!!
「あああああ!! 俺のMP6割どこへ行く!?」
糸をつけられた反動で手を離しちゃったよぉ!! 空の彼方へ消えていきましたとさ……そんなことより糸の粘着力強すぎぃ!
「やばいやばいやばいやばいやばい!! 取れねぇ――あっどうもーそんな怒らないでくれよ」
死んだかなこれ。3分くらいは持ったか?
「ガハッ!?」
的確な心臓への突き見事だなぁ……。威力ありすぎてびくともしなかった糸が腕から取れてら。
「あ……れ? 生き……てる……」
岩壁に叩きつけられて体全体が痺れて口うまく動かせない。胸が特にビリビリする。HP9割減。間違いない。鉱夫の服でなければ即死だった。
「毒には……なって……ない……な」
早く回復しないとホントに死ぬ。最後にやられたのはマッドワームのフルスイング直撃だった。あれは初期装備だから、鉱夫の服に変えてからはまだ死んでない。どうせなら鉱夫の服不死伝説作りたいね。
「ヒール」
普段使う回復魔法は自作。瀕死の時はスキルで自動使用。この使い分け大事。回復量は同じだけどオートとマニュアルの差はフリユピをプレイしている間は絶対重宝できる。ソロだから誰かに教えるようなことはないかもな。
「ふぅ……範囲狩りなんて欲かくからこうなる。今の俺にはまだ早い。ヒール」
まだ追いかけられてる途中だ。逃げないと。
「1匹も倒せないままポーション残り9本。不味いなー」
穴からまだまだ沸いてる。数だけ増えて困っちゃうな。上限ないんですか? そうですか。
「これまでラグなし。限界を知りたい」
糸をやたら滅多に出し続けるのはズルいと思います。
「逃げ場なくなるからやめろ!!」
光の矢の打撃属性、爆発効果が糸に当たった! 爆発したのに糸切れてない!? 光が爆発しても意味ないのか? 爆発まで打撃属性になってんのか? いやそもそも糸に耐久力あんのかよ!
「クソ! 糸は斬撃属性付与しないと切れないのか! 打撃に強くて斬撃に弱いのか? 光の剣には斬撃付与して……光の矢には貫通にした方が……あぁもう! 頭こんがらがる!!」
無意識にできるようにならないとダメだ。今は無理だけど、練習しなきゃ。
「今の俺は釣り、救助。モンスター倒すのは二の次! 光の剣斬撃! 光の矢貫通! それだけ頭入れろ!! お前らこっち来い! 光の矢くれてやるから!」
貫通は防御無視だけじゃなくて、複数のモンスターに当たるのか! でも変質と同時使用はできないか。爆発したら光の矢に貫通付与してても消えた。ややこしい!
わちゃわちゃしてるからブレッブレでも当たる。けどMP消費ケチってるからヘイトは稼げるけどスコーピオンスパイダーは増えるばかり。今のところ突破されてはいない。死にかけたがな。
「もう完全に蜘蛛の巣と化したな。ぐるぐる逃げ回るのはもう許さないってか?」
デカい蜘蛛の口って気持ち悪い。捕食されるグロ映像垂れ流すのかな。食われるのは俺。絶対嫌だ。
「ん? あれって……」
蜘蛛の巣だらけになって包囲されてから鉱夫仲間見つけるかね……詰んでると思うぞ。
鉱夫仲間が必死に指差してんな。なんだよ? 俺詰んでんだわ……いるじゃん他にも……生きててくれたかー。でも俺が死ねば、どの道全員死ぬ。もっと早く見つけられていれば逃がせたんじゃないかな。
「4――5――6人。君たちもう少し早く自己主張してくれよ。いや、俺がここまで釣ったから顔出したのか?」
どうしようもないでしょう。ジリジリ詰められてるんですけど。蜘蛛の糸から伝ってくる蜘蛛が頭上にいっぱい。俺の周囲にもいっぱい。蜘蛛の糸飛ばされると逃げ場なくなるからNG。あっ、それは悪手ですよ蜘蛛さん。1匹倒せました! 我慢できなくてわざわざ1匹だけで突っ込んでくるとは愚かな……光の矢を常に構えてるんでゼロ距離射撃の餌ですよ。
「1匹倒したから警戒レベル上がったな? 死ぬまでの時間が少し伸びただけ――死ぬ直前ってゲームだとわかってても怖いね。即死だと何が起こったのかよくわからないままリスポン地点に戻れるんだけどな。こうジリジリ詰められてるとさ……実感せざるを得ないっていうか……」
誰に言ってんだか。何か言ってないと気が狂いそうな感じ。ホラーゲームのNPCがパニック起こす理由、今よくわかった。今までやってきたVRじゃ経験できなかったもんな。なんて言うか雑だった。濁してたのかもね。
やられる前にドロップ品でも……しけてんな……退魔の石に蜘蛛の毛……なのかあれは。フッ! 昔の俺なら喉から手が出るほど欲しかった退魔の石。今の俺は100個は余裕で買えるぜ! お金預けておいてよかった。
「おっと蜘蛛さん。頭上を取るのはいいんですけど、お腹丸見えですよ。射抜いてくれって言ってるようなもんですな」
やっぱ腹は弱点らしい。当然のようにブレた。外すかと思ったわ! 2匹討伐! あと1分もない命だ。大暴れするだけしてやろう。ドロップは……甲羅か、防具とかに使えるのかな。はぁ……6人も助けられないのはやっぱキツイ。逃がせなくても時間稼げれば……時間稼ぎか……ん?
「考えろ。考えろよ。何か、何か出てきそうだ。道具袋……ポーション……退魔の石……退魔の結晶……あ、煙玉売っちゃった。いらないって思って売っちゃったわ。今使えたじゃん!」
一斉に来れば俺死ぬのに何なの君達。1匹ずつなら負けないよ? 攻撃そのものは初見以外は避けられるんだぞ! 腹が弱点で側面苦手な君は慣れれば余裕なんだぜ! 集団だから困ってるだけなんだからな!
ドロップは……なになに……また退魔か。モンスターって退魔アイテム苦手なのにどうしてドロップするんだろ。フリユピの七不思議に入れていいと思います。あれ?
「退魔……苦手……時間稼ぎ!! そうか! そうだよ!? 退魔の石使えるか? 使えるなら鉱夫守れるかもしれないじゃん!!」
なんで気づかなかった? これでどうだ?
「攻撃は……退魔の石壊れた!? 退魔の効果範囲内で攻撃できないのか。そりゃそうだよな、流石にできたら反則だもんな。モンスターを範囲内に入れて使うとどうなる? あダメだ使えない。でもモンスターがいない間に使わせれば……見えたきた、見えてきたぞ! 鉱夫を救える可能性!!」
方法は思いついた。後は俺がこの状況から生き延びることだ。
「出し惜しみは無しだ蜘蛛共!!」
使うのを忘れてた特性も含めて全部使ってやる!
形成、集積、加減、付与、集約。おし、最大チャージ! 今更一斉に動き出しても遅いぞ! お前らは俺に時間を与えすぎたんだ!!
「倒す必要なんてない。そこを退け!!」
HP削ってたから3匹倒せたラッキー。ポーション飲んで残り6本。飲んで即回復じゃないからな。MP回復切れるまで光の剣で最低限の被害に抑えて突破する!
飛び降りから落下攻撃か!
「早いけど、尾で攻撃しようとしてんの見え見えだぞ!」
目が悪いのかどうか知らないけど、仲間押し倒して踏み潰すのはお勧めしない。その足刃物みたいに鋭いんだからさ、仲間痛がってるよ。斬撃耐性あっても踏み続けられればHP削られるでしょ。
糸を切り落とせば多少遅れさせることもできるだろ。どんどん行こう。
「無事か? 無事だな!? これ使え!!」
「これは……」
「退魔の石だ!」
「!! すまねえ助かる!!」
どうだ? 一度回って確認しないとダメだ。
「クソ邪魔! MPゼロになるけど仕方ない。押し通る!」
さっきと同じ特性でもう1発デカいの喰らえ!
「6逝ったな」
ま、それ以上に穴からわらわら出てきてるんですけどね! ポーションあと3本。まだ1人しか助けられてない。しかもその1人は……いや大丈夫だ。蜘蛛が退魔の石の効果範囲内に入れてない。あれでゲーム内で半日安全だ。
「もう一つオマケだ。それで1日持たせろ!」
取ったな。あと5人! 逃げろ逃げろ!!
「受け取れ! 6人で全員か!?」
「あぁ! 逃げ遅れたのは6人だけだ!」
あと4人! MP戻ってきた。ポーション追加! あと2本! 糸邪魔くさ!
「受け取れ!」
「助かるぜ新入り!」
あと3人! なりふり構わず糸連射するのはやめてください。当たったら追いつかれてしまいます!
「っ!? 横から!?」
あっぶねえ! 学習でもしてんのか? 回り込まれてるじゃん。反射的に反撃してなきゃ食いちぎられてたかも……怖っ!
「岩壁伝うのはやめてくれ……俺の前に出てくんな!」
忙しい忙しい忙しい! 状況が目まぐるしく変わりすぎて対応し切れない。
「前ダメ左ダメ右ダメ上ダメ後ろダメ――下からぁあ!」
滑り込みセーフ! 蜘蛛の口の下スライディングするの怖すぎ! もうやりたくない!!
「怪我大丈夫なのか!?」
「あぁ……死にゃしねえよ……」
「こいつの面倒は俺が見る。無茶言って悪いが残りの仲間を頼む」
「わかった。こいつを使え!」
「すまん、助かる」
仲間意識が強いね。さすが親分率いる鉱夫達だ。
「あと1人!」
前方には5匹かよ!? うじゃうじゃしすぎてもうヘイト稼ぎきれてないな。
「あの方向はやばい! 最後の鉱夫狙ってやがる!」
左側から集団が! 視線は間違いなく鉱夫に向いてる。一直線に鉱夫の元まで行かなきゃ間に合わねえわ。回り込む余裕ないなら、前5匹の中を行くしかない。
「やってやるさ!」
攻撃受ける前提か……上等だ! やられる前に退魔の石渡せば良い。
さっきと同じ要領でスライディング! ついでに光の剣で腹捌いてやるよ!
倒しきれないか、でも怯みは取った。十分!
一匹通り抜けて……あら皆さん準備がいいですね! 3匹同時に尾で突くのはやめてえええ!!
一突き、脇腹掠めて痛い! いや痛くはないけど痛い! HP2割減!
二突き、一突き目を受けてバランス崩したおかげで当たらなかった! ラッキー!
三突き、あっ無理。体勢崩されてます。
「ぐっあっ!!」
背中消し飛ぶような衝撃。痛い、いや痛くはないけど、痺れて感覚が無い。
……体は動く! 体勢崩してたのが幸いした? 突きの力の流れに逆らわずに回転したからか? 受け身取れたからか? わからん! HP残り2割。
「鉱夫の服じゃなければ即死だった!!」
走れ! 攻撃の硬直で動けない3匹を無視して進め! 最後!
「最後の最後でツキが回ってきたぜい! 踏み付けは怖くない!」
1本足を上げるモーションは反撃してくださいって言ってるようなもんだぞ。遠慮なく行かせてもらう!
光の剣に使った特性は形成、集積、維持。一から作り直してる暇ないからこのまま光の矢として使わせてもらう。追加する特性は集約。まとめてぷっばだ!
「回り込んでる余裕ないからな。腹の下から射抜いてやる! 最後の最後にデレ行動ありがとう。お礼にこれあげるね!」
ドカンと一発いってみよー! 腹は弱点だからか、逃げ回ってる時に俺の攻撃でも受けたか、仕留めたぞ!
通り抜けた! 間に合うか?――間に合わ――いや間に合う!
「おーーーい!」
「し、新入り!」
「受け取れ! 最後の一個は結晶だぞ! 高いんだからな!!」
「生き残れたらちゃんと返してやるよ!」
セーーーフ!! 全員生存!!
「どーだ!! やってやったぞ!! ヒャッホウ!!」
死からほんの少し遠ざけただけだけど、今の俺ができる最大限の成果だ。一度撤退しよう。もう限界。




