護衛の仕事
護衛依頼を受けたツバサは開拓村を発って、道なき道を進んでいた。それは開拓村フューチャーが東部地方の人の生存圏の境界線ギリギリに位置していることを指している。
道なき道にあるのは馬車が何度か通った形跡と、消えかかっている人の足跡と、僅かに生える草が踏まれた跡のみ。道としての形をしているわけでも、人が歩きやすいように整備されているわけでもなかった。
何度か通ったことのあるであろう研究者もまだ慣れていない様子で地図を何度も確認し、自身の記憶と照らし合わせている。遠征隊や冒険者にも確認を取っていた。
護衛を始めて3日、落ちてた時間を引けば2日は護衛したことになるな。あと1日分インしていれば全額報酬だ。そしたら放置していても大丈夫なんだけど、ここ東部地方なんですよね。んでもって、奮迅街ホープと同じでNPCが活動してる最後の村なんすよ。
何が言いたいかっていうと。今オレ達が歩いてる場所って人の手が及んでない地域なんすわ。未知の領域って高確率でモンスターと鉢合わせするんだ。俺が聖都から開拓村まで続いていた道とはわけが違うんだよね。
「モンスター確認! 敵襲!!」
同僚の一人が大声上げたな。ま、こんな感じで護衛依頼でモンスターの襲撃が無いなんてありえない場所で護衛してるんですわ。わかってたんだけどなぁ、これまでの3日襲われてなかったのが奇跡だった。あと何回襲撃されるんだろ。落ちて戻ってきたら全滅してましたなんて嫌なんだよなぁ。
「はぁ……やっぱきたかぁ……」
「開拓村で活動してんなら、モンスターに襲われないことの方が珍しいってわかりきってるだろ兄ちゃん」
「まぁそうなんだけどさ」
「ボサッとしてないでさっさと片付けるぞ」
「ふぅ……仕方ないか。馬車の上、乗らせてもらうぞ!」
状況把握!
研究者は馬車を止めて、荷台に避難。遠征隊の2人は馬車を囲った。村所属の遠征隊の最優先は当然研究者の安全確保。防衛慣れした手練れだ。冒険者が取り逃がしたモンスターを処理してくれる。数が多すぎると馬車が傷付く。最悪馬がやられる。俺はまだ経験したことないけどな。
冒険者の1人はスタンダードな装備だ。長剣に盾持ち革装備。攻撃を受け止めシールドバッシュからの長剣で止めの一振り。ひゅう! やるぅ!
もう1人は槍持ち革装備。槍の間合いを維持して近づけさせない、位置取りが上手いな。
開拓村にいる冒険者は一人一人の実力が高い。戦いの派手さより生き残るための堅実さを優先させてる。地味だけど渋くてカッコいい。
モンスターの数は11。方角は東。でもさっき冒険者の1人が倒してたから10。カミン沼地近くだから沼地に生息するモンスターが多い。俺が倒したことのあるカマキリ、正式名称シーフマンティスが4、マッドスケルトン4。マッドワーム2。
シーフマンティスは沼地から出てきたのか? あいつの生息地は森林の奥地って聞いたぞ。生態系どうなってるんだ? いや待てよ。カミン沼地を越えた先に森林地帯があるとか聞いたな。そこからここまで出てきたのか。いや、考察は後回し! こいつは戦ったことあるから大丈夫。
次マッドスケルトン。開拓村手前で戦う羽目になったガイコツ……スケルトンの沼地バージョン。何故か泥に覆われて本体が見えないけど、目の辺りと胸の辺りが赤黒く光ってるからわかりやすい。スケルトンは手に持ってる武器で戦い方が変わるタイプ。泥に覆われてるせいで何持ってるのか見えないのが厄介。けど持ってる武器さえわかればスケルトンと同じだ。何とでもなる。
次マッドワーム。大きさは2メートル位かな。人並みにデカいミミズだ。攻撃方法は自分の体を振り回す、泥?を吐く、地中に潜ってからの奇襲の3つ。地中に潜られると厄介なだけだ。でも火力高いから油断すると痛い目に合う。経験済み。
シーフマンティスが長剣と盾の冒険者。マッドスケルトンが槍使いの冒険者。俺がやるべきはマッドワーム。潜られる前に終わらせる。
よし! 状況把握お終い。さぁやるか。
人がいる時に光の矢は使えない。何故かって? 俺がノーコンだからさ! 未だにブレる。よくわからないんだけど左に飛んでくんだ。練習してるんだけどなぁ。
とにかく、光の剣を2本生成。形成、集積、維持。集積は6割チャージ。6割っていうか、6秒だな。今の俺は集積が最大チャージされるまで10秒必要だから。装備次第で早くなったりするのかな?
「ワームちゃんこんにちは! そんでもってさようなら!」
ツバサが馬車の上で周囲を確認している間、槍使いがマッドスケルトンを惹きつけていた。その槍使いにたまたま近くにいたからという理由でマッドワームが襲う。複数に攻められていても槍使いは冷静だった。何食わぬ顔で一定の距離を保ち、マッドスケルトンへの攻勢を緩めない。
そんな中にツバサが介入する。全力で走り、勢いよくジャンプする。両手に持つ光の剣を背中につけるほどに大きく振り上げ、体を弓なりにしならせ一気に振り抜く。マッドワームにとっては意識の外からの攻撃。体を怯ませるほどのダメージを受け、標的をツバサに向けるがもう遅い。怯んでいる間に一撃、二撃、三撃とツバサの連撃が刻み込まれていた。マッドワームは攻撃に転じる前に力尽きることとなった。
「弓が伸び悩む代わりに、剣の扱いはそれなりになったかな」
一匹をイメージ通りに倒せたようだ。しかし今は戦闘中。ツバサの意識が戦闘に戻る頃には、もう一匹のマッドワームが体を動かしていた。自分の体を武器にするマッドワームのフルスイングがツバサ目掛けて振われる。
「おっと!」
避けられない。そう判断したツバサが両手に持つ光の剣を集約を用いて一つの剣に変え、盾代わりにした。マッドワームのフルスイングはツバサを簡単に浮かせることができるほどの威力を誇っていた。
「うぇ! 耐えきれないか。2割飛んだ。やっぱ、基本回避じゃないとダメだな」
INT主軸のDEX、AGIのステ振りだもんな。鉱夫の服のおかげでダメージはかなり少なくなってる。初期装備ならガードしても5割は固い! フルスイング直撃だと10割。ハエ叩きみたいに叩きつけられたのはいい思い出。あの出来事が俺に鉱夫の服を買わせるきっかけになった。
「許せん。叩っ斬ってくれるわ!!」
お前が! 死ぬまで! 斬るのを! やめない!!
「ふぅ。スッキリだぜ!」
両手持ちで戦うのもそれなりになったな。目指せ変幻自在の魔法剣士!
シーフマンティスは残り2体。マッドスケルトンも同じく2体。あ、長剣に盾持ちのおっちゃんもう一匹仕留めた。槍使いも俺がマッドワーム引き受けてから2体倒して、武器ももう見えてるな。完全な消化試合です。さっさと終わらせますか。
……………
「馬車、研究者共に無傷。やっぱソロで活動するより圧倒的に楽だな」
「一発いいのをもらってたように見えたが……無事のようだな」
心配してくれてありがとう槍使いのおっちゃん。
「一応ガード間に合ったからな。じゃなきゃ動けなくなってただろうね」
「安心したぞ。しかし天上族の戦い方は皆独特だな。フリージア大陸の外から来たというのを納得できるくらいには」
「そう?」
「あぁ。他の天上族とも何度か組んだが全員違う。見ていて飽きん」
どんな戦い方なんだろうな。いずれ見る機会が出てくるのか……うーん、ソロ専だし無さそう。
「皆さん無事のようですね。そろそろ移動を再開します」
考えるのは馬車の中でいっか。さて、護衛再開といきますか。




