護衛依頼受諾
「しばらく見ねえから村から出てったのかと思ったが……鉱夫に転職したのか？」
「おうよ。新入り扱いされて３日も働いちまったぜ！」
「そ、そうか。なら鉱夫として緊急依頼でも出しにきたのか。今動けるやつは……」
「待ってくれ。俺は心を入れ替えて冒険者として依頼を探しにきた。間違えないでくれよな」
鉱夫に間違えられるほど馴染んじまったらしい。鉱夫は俺の天職だったかもしれねえ……けど、今の俺は冒険者さ！
「なら丁度――」
「待て！ 俺が探しにきた依頼は討伐依頼だ。おっちゃんからの頼みは懲り懲りよ」
面倒な依頼なんて受けたくないんだ。手頃で自由気ままにできて楽な依頼がいい！
「そう言うな。自然の定期視察の依頼だ。お前の実力なら問題ないだろう？」
「実力の問題じゃない」
「まあまあまあまあまあ。モンスターが現れなきゃ美味い依頼だ。側にいるだけで５０万貰えるんだぞ？ この村以外なら奪い合いになるくらいのもんだ」
「ふん！ もう騙されないからな！ この前なんてたった一回の護衛で４回襲撃に遭ったんだぞ！ 割りに合わない！」
護衛仲間がいたとはいえ、最悪失敗する所だった。俺には護衛依頼は荷が重すぎる。
「そりゃあ運が悪かっただけだ。追加報酬も支払っただろう。人手不足なんだ、頼む」
「くぬぅ……わかったわかった！」
「助かるぞ！」
結局流されてしまった。断れる人にならないといいように使われてしまうんだよなぁ。今回みたいに。はぁ。
ギルド職員が護衛対象を呼びに行ってしばらく。冒険者ギルドにその対象と顔見知りになった冒険者数人がきた。顔は知ってるけど名前は知らない。コミュ障で滅多に話さないからな！
「えっと……この方が？」
鉱夫の服だから疑われる。俺は悲しいよ。見た感じ研究者とか学者とかそんな感じ……いや、見た目大事だな！ 研究者がトゲアーマーとか装備してたら疑う。俺の見た目で冒険者かどうか疑問に思うのは仕方がないね。
「こんななりをしてるが実力は保証する」
受付のおっちゃんフォローありがとう。信用されてるんだろうな。納得してくれたみたい。
「コホン。では依頼の説明をさせていただきます。今回の依頼は開拓村フューチャーひいては再生都市ディフィカルトから出された自然再生実験の定期視察のための護衛となります。予定としてはまずカミン沼地近くの実験場を訪れ、そこから西へ順に巡ります。魔鉱石採掘場を中心に反時計回りに移動する形ですね。ここまでで何か質問はありますか？」
カミン沼地ってのは開拓村の東にある。どうやらフィールドダンジョンらしい。開拓村から灰色の大地へ行きたければ必ず通らないといけない場所って聞いた。討伐依頼で近くまで行ったことあるけど、まだ入ったことはない。
「説明を続けますね。護衛期間は９日。カミン沼地近くの実験場まで４日、そこから２日おきに実験場へ巡り、最終日に村へ帰還の予定です。不測の事態が起きた場合に備え３日の予備日を設けます。予備日が必要になった場合、追加の報酬を別途支払いますが、故意に遅らせたと判断した場合、無報酬とします。依頼内容は以上です。質問はありますか？」
「予備日を超えてしまった場合は？」
「予備日を含めた１２日を超えて村に戻らなかった場合、村から捜索隊が派遣されることとなります。私の生存の有無によって状況が大きく変わりますが、依頼失敗となり報酬がなくなる可能性があります」
名前の知らない冒険者さんが色々聞いてる間に護衛依頼のことをおさらいしようかな。報酬は当然依頼者を守ることが大前提だ。でもそれだけなら護衛を受けるだけ受けてあとはNPCに任せて放置なんてこともできちゃう。フリユピはインしてなくても時間は進んでるからね。そうならないようにするための措置で護衛期間の１日は最低でもインして過ごさないと報酬を貰えない。
受付のおっちゃんが言ってた報酬５０万ってのは基本報酬の限度額。最低限の１日だけだと基本報酬の２０％。つまり１０万しか貰えない。
基本報酬を全額貰いたい場合は、護衛期間の３分の１インしてないといけない。今回は９日間だから全額欲しい場合３日だ。現実時間に変えると、最低８時間、最高２４時間インする必要があるってわけだな。
ただそれだとあまりにも割りに合わない依頼だ。それを解消するためだろうね、護衛依頼には色々追加報酬がある。例えば護衛対象が一度も攻撃を受けなかったとか、モンスターの襲撃を退けたとかな。
護衛依頼は必ず一台馬車がいるんだ。護衛対象に入ってる時もある。この馬車も護衛期間中一度も攻撃を受けなければ追加報酬。護衛中に馬車の中で待機できるけど、馬車の外で歩いてると積極的に護衛してくれたから追加報酬ってのもある。
探せばたくさんあると思う追加報酬が護衛依頼の特徴だね。あまり長くインできない人も上手くやれば稼げる。まぁでもこれは、あくまでも完全なソロで護衛依頼を受けた時の話だ。パーティーを組んだ場合は――っとそろそろ話が終わりそうだ。また機会があったらその時おさらいしようかな。
「他に何か質問は？ 無ければ各自準備をしてもらいます」
「質問じゃないけどいいか？」
「なんでしょう？」
「俺は天上族なんだ。護衛はするけど眠らないといけなくなる時がある」
「そうでしたか。護衛をしてくださるのであれば問題はありません。よろしくお願いします」
「よろしく」
ちなみに、今みたいに天上族だってことを事前に伝えておくと追加報酬だ。護衛対象は何も言わないんだけど、インした時と落ちる時の報告をしっかりすると追加報酬ね。これ大事。
「……よろしいですね。では、開拓村フューチャー所属遠征隊２名、冒険者３名、そして私を含む計６名が今回の定期視察のメンバーとなります。よろしくお願いします」
はい、よろしくお願いします。研究者さんが遠征隊の２人とギルドから出てった。馬車を入り口まで移動させるためだな。移動させてる間に準備しますかね。ポーション補充しといた方が良さそうだ。
