村散策
やはり、村レベルの規模となると人が少ないな。必要最低限の人と建物しかない感じ。交易街サザンカと再生都市ディフィカルトの間にあった集落と規模はこっちの方遥かにが大きいけど雰囲気は同じだ。
「プレイヤーも5……6か。まぁ村の外で活動してるプレイヤーも含めれば10から15人くらいか?」
やっぱ奮迅街ホープに人が流れてるんだろうな。活動するならフューチャーで正解かな。
村にある建物で一番デカいのが宿屋。次に冒険者ギルド。後は似たり寄ったりだな。
店の類はくたびれた道具屋だけ。覗いてみないとわからないけど、装備の更新は難しそうだ。
「とりあえず宿取るか」
ぐるっと一回りしたけど教会がなかった。ここから先リスポン地点は金で買えということだ。辛いねぇ。
「いらっしゃい。おや? 見ない顔だね。歓迎するよ」
「あっどうも」
サバサバ系お姉さん。綺麗だなあ。開拓村のオアシスかな?
「部屋取りに来たんだろう? 何部屋取る?」
「一部屋だけしか取らないよ?」
「……もしかして君、ここまで一人で来たの?」
「そうだけど?」
「あぁわかった。護衛依頼とか受けたくちね」
「無かったから一人で来た」
「……呆れた」
呆れられた。
「やってみれば結構なんとかなるもんよ。それにお姉さんだってこんな危険な村で宿屋営んでるじゃんか。同じ同じ」
「あのね……私がここにいるのは安全な所で過ごすよりも精一杯生きてるって実感できるし、頑張ってる仲間を見るのが好きだから。同じじゃない」
「そうかなぁ」
「ぜんっぜん違うからね。私は君みたいにディフィカルトからここまで一人で来ようなんて絶対考えない。しかもそんな装備とすら言えない普段着でなんて……自殺願望者か何かよ」
「フッ! わかってねえな姉ちゃん。これ。見てみろよ。魔法のアクセサリー。四個も身につけてるんだぜ?」
自慢してやったわ。これで評価も変わるってもんよ!
「大差ないじゃん。君変人って言われない?」
変人認定された。手厳しい。
「くぅ――」
「最近君ほどじゃないけど、一人で来る人多いのよ。護衛依頼も定期的に出てるんだから一緒にくればいいのにって思うね」
一人で来た人は全員プレイヤーだろうね。長期間パーティー組んで移動とか長年付き合いのある身内ならともかく野良だと難しいだろうしさ。
「それで一泊いくら?」
「あ、言ってなかったね。一泊1500ピアだよ」
「安くない?」
集落の時は1000ピアで、出る前は2000ピアに値上がりしてたけど。村だから安いのか?
「実際は5000ピアさ。ただ再生都市が負担してくれてるんだ。魔鉱石の確保の為に必要だからってね」
「なるほど」
「それで、何泊する?」
「んじゃとりあえず10泊頼もうかな」
情報収集すればそのくらいは必要だろう。そろそろ本格的にレベル上げとかダンジョン攻略とかやりたい。
「毎度あり!」
初めて借りた部屋の感想はどうですか? と聞かれれば、普通と答えるでしょう。ベッド一つにテーブル一つに椅子一つに窓も一つ。手荷物をある程度置いておける、ごくごく普通の不便もない部屋。ここが俺のリスポン地点になったわけだ。
次は冒険者ギルドに拾った素材を売りに行こう。道具屋でもいいけど、何となくギルド。
「人少ないな」
依頼掲示板見てるプレイヤー一人に、くつろいでるNPC3人組だけか。依頼受け放題か?
「おっ新入りか?……いや新入りなのか?」
俺の姿見て判断は良くないね。
「おいおい。この俺の装備の凄さがわからねえのか?」
「悪いこと言わねえから、一度装備を見直した方が賢明だと思うぞ」
両肩掴まれて本気で心配された。ここまで来て帰れなんて言われても困る。もう宿取ったしな。
「同じような人がいたって聞いたぞ」
ソロで来たのはだけど。
「流石にお前ほどじゃねえな。まぁいい。依頼を受けるのか?」
「着いたばかりだから今日は見るだけだ。素材を売りたい」
「わかった。こっちきな」
受付のおっちゃんに促されるまま部屋に案内された。他のギルドもそうだったけど、素材の買取場って結構汚い。皮とか毛とか砂とか骨のかけらとか色々落ちてる。
ま、俺もその部屋を汚す一人なんだけどな。パンパンに膨れてる道具袋を解放する時が来たぜ。パンパンになってる理由はあの馬鹿デカかったカメレオンの素材のせい。カマキリとかガイコツとかの素材は泣く泣く選別する羽目に。売れてくれなきゃ泣くぞ。
「お前これは……」
「倒すのも運ぶのも苦労したんだぞ。ちょっとくらいオマケしてくれよな」
「この鱗と爪、どの辺で拾ったもんだ?」
「ディフィカルトから3日くらい移動した場所だったかな? あんまり覚えてない」
「……ちょっと待ってろ」
受付のおっちゃんが部屋から出てって地図持ってきた。結構しっかり書き込まれてるね俺のマッピングとは大違いだ。いつか俺もこのくらいマップを埋めてやるんだ。
「どうしたんだよ」
「あぁ。お前が持ってきたこの鱗と爪はロッククロコダイルカメレオンのもの。擬態を得意とするデカいモンスターだ」
「確かにデカかった。あんなもんがウロウロしてるのを知ってたら寄り付かなかったぞ。そういう意味じゃこの村の人達は凄いよな。当たり前に倒してるんだろ?」
「馬鹿言え。お前のその価値観が普通だよ。危険だから寄り付かない。倒しに行こうにも被害がデカくなるから、情報共有して避けておこうって類のもんだ」
やっぱ強い部類に入るモンスターだったんだな。よく生き残れたもんだ。
「でだ。恐らくお前が倒したのは、大型の手配モンスターの一匹の可能性がある。もしそうで無かったとしてもどこで戦ったのか知りたい」
だから地図持ってきたのか。
「この辺りかな。岩場と枯れ木が多かった場所だ」
「間違いないな?」
「あぁ。この辺で野宿しようと思ったら目の前にいたんだ」
あれはビックリした。食われる側に立つって現実じゃ滅多にない経験だろうし、ゲームの醍醐味の一つかな。
「後の祭りだが教えてやる。出発する前にちゃんと確認しといた方がいいぞ。死にたくなけりゃあな」
「あ、はい」
「とにかく、お前の証言が正しければ討伐依頼に出されていたモンスターだろう。確認できるまで時間かかるが認められれば討伐報酬が出る」
「おぅマジか」
「それで他の仲間とかと一緒に狩ったのか?」
「一人旅だから当然一人だ」
「お前……」
呆れられた。
「聞きたいんだけど、ああいうデカいのが定期的に出たりするの?」
「他の地方じゃ滅多に出ないだろうが、東部地方だとそれなりだな。ロッククロコダイルカメレオンってのはロックアリゲーターカメレオンの成長した個体で、そいつらは普段渓谷や岩山の奥地に生息するモンスターだ。その中一体が餌を求めて降りてきたんだろう。その個体とお前がたまたま出くわした訳だな」
やな話ね。たまたま外に出たら熊と会っちゃいました的な。ゲームで良かったよう。
「しかしなんだ。最近はお前みたいな向こう見ずな奴を多く見る。風向きが変わり始めたのかもな」
「どういうことだ?」
「この村にやってくる冒険者や商人職人は10人20人の集団で来る」
えっ嘘でしょ……いやでもあんな強いモンスターなら普通なのか?
「流石に大袈裟じゃ? せいぜい5人とかじゃないの」
「死にに行くレベルだぞそれは。ここいらは最低10人の護衛は必要だ。それでも全滅する恐れがある。再生都市が推奨してる人数は30人だぞ。それを一人旅なんて異常でしかない」
「その話ってどこで聞けるの?」
「お前……よく生き残れたな……」
盛大に呆れられた。
「ギルドに聞けばいい話だ。すぐ教えてくれるぞ」
「そうなのか……知らなかった」
「お前みたいな奴ばかりか天上族ってのは」
攻略を優先させるあまり、ゲーム内知識が欠けてる言われた気がする。戦闘民族じゃないよ! 生産職になるって頑張ってるプレイヤーも多いよ!
「他の人もそうなのか?」
「あぁ。この村にきた天上族はほとんどが1人。一組が2人もう一組が3人だった。その全員がお前が倒したレベルのモンスターを討伐してる」
天上族は戦闘民族だった?
「強いのはいいことではないかね」
「強い分融通が効かん。お前が討伐した奴も何度か討伐依頼を持ちかけたんだがな。遠いから嫌だとか往復面倒とか言って聞く耳持たんな」
すまん、それに関しては俺も同じこと言うだろうな。今の俺の能力じゃもう一度やって勝てるかどうかもわからんしね。
「ま、村に貢献してくれているのは間違いないがな」
素材も売り終わったし、次は道具屋だな。