特性をうまく利用する
いやーワン左衛門の散歩はいい気分転換になりますわ。嬉しそうに尻尾ふりふりしながら歩くの見てるだけで癒される。どこかの大陸のカメレオンの殺意ありありの尻尾ふりふりはやめてほしいもんだね。可愛げがない。
まぁねのんびり休憩ついでに飯食って風呂入って、いつでも眠れるように準備しておく。スヤー。
…………
インして移動するか悩んでやめちゃった。退魔の結晶置き直して落ちて寝た。睡魔には勝てなかったよ。
「こうして改めて見るとあのカメレオン暴れたんだなあ」
一言で言うなら悲惨。あちこちの木は折れてるし、爪で攻撃してきた付近は穴だらけの凸凹。舌攻撃で切り刻まれた岩とかあるし。修復機能ないなら当分このままか。
ちなみにあのカメレオン、ロッククロコダイルカメレオンって名前だった。素材にそう書いてあったね。鱗と爪と魔石拾ったよ。魔石は高く売れそう。
激戦の跡からおさらばしてさっさと次へ進もう。
「弓少しは使えるようになったと思ったんだけどなぁ! 当たらない!」
ディフィカルトから出発して既に8日分は移動を続けた。折り返し地点は間違いなく越えたと言える。緑は少なく、荒廃したような景色が続く。中部地方のような豊かさはもはや全く感じられない。
鉱山地帯だからというわけではない。周囲から元気を感じられない雰囲気でどんよりとしている。魔王と戦った影響のある土地という実感が湧く。そういう意味では再生都市ディフィカルトの活動は一定の成果を挙げたと認められる。
そんな場所にいるツバサはモンスターの集団と必死に戦っている。目に映るモンスターは小賢しさを感じない正々堂々とした戦い方だった。
「ういぃ!? 長剣維持できねえ!」
ツバサはそのモンスターと刃を交えるが、一方的に魔法剣をかき消されていた。
モンスターは人型で二足歩行のカマキリのような見た目をしている。特徴的な部位は腕だ。腕そのものが刃で物を掴むという機能を捨てている。その分腕の刃の扱いに長けているため接近戦を得意としていた。力より速さに特化していて、体術も得意のようだ。
ツバサはモンスターとエンカウントした当初、光の矢で対抗した。しかしロッククロコダイルカメレオンのような巨体ではなく、2メートル弱の細身のモンスター。今のツバサの腕で光の矢を当てることは至難の技。狙った場所に的確に射抜けないことが幸いして偶然当たることが一度あっただけだ。
「形成と維持だけじゃかき消されるってのは、耐久力が足りてないってことか? 耐久力の根本は魔法か? ステか? スキルか?」
両手に持つ光の剣を発見したばかりの『集約』を用いて一つに合わせる。一回り大きくなった光の剣を両手に持ち、前方に構えるカマキリを狙う。腕に自信があるようで、カマキリは真正面から受けて立った。
「どうやら、消費MPで耐久力決まってそうだなっと!」
鍔迫り合いの末、ツバサは答えを導き出した。カマキリの腕は手先から肘あたりまでは刃だ。しかし肘から肩までは人の腕と変わらない。カマキリの戦闘力を削るために、ツバサが狙うはカマキリの二の腕。一撃で倒しきるだけの火力もPSもないツバサの現実的な選択は功を奏した。長剣の心得に示されるままに腕を一本斬り落とす。
とはいえ、カマキリ達の戦いは連携もあって非常に厄介なもの。気を抜けばツバサ自身が切り刻まれて生き絶える。それほどの切れ味と鋭さがカマキリの刃にはあった。
カマキリ達は攻撃力も速さもツバサより上だ。そんな相手に対抗できているのは、ツバサが色々なVRゲームを経験したことと、ゲーム人生の大半がソロ活動によるものだったから。対複数が基本のソロは敵の動きを瞬時に把握して、経験則を元に自分にとっての最適な行動を取ることが求められていたからだ。
ツバサのこれまでの経験と、フリユピのゲームシステムと、ツバサが求める理想の戦い方。バラバラだったそれらが一つに合わさり纏まろうとしている何よりの証だった。
ロッククロコダイルカメレオンとの戦いがツバサ自身のPSを高めるきっかけとなったのだ。
「ふぃー、疲れた。一戦するだけでこの消耗。カマキリくんとは当分やりたくない。楽しかったけどな」
最後の一匹が黒い粒子となって消える。戦いはツバサの勝利で終わった。
「さて進むか」
光の剣のあれこれをまとめながら移動しよう。まずは単純にスキルの心得補正を受けるには『形成』を利用する必要がある。そんでもって、耐久力を使った魔法に適用したけりゃ『維持』を使わなきゃならない。
たぶん耐久力の素はINTと光属性魔法のレベルだろうな。ディフィカルト周辺じゃMP切れ起こさない限り消えなかったからな。
それ以外で耐久力高くしたいなら魔法そのものの威力を上げる必要がある。両手に持ってた2本の光の剣を『集約』でまとめる前と後で消されるか消されないかの違いがあった。
だから『集約』の代わりに同じように威力を上げる『集積』で試してみた。結果はうまくいった。時間経過で威力を上げる分時間はかかるけど、二刀流でも消されなくなったから両手持ち以外でもなんとかなりそう。
『集積』を使うと時間経過で威力が上がる分、消費MPもガンガン上がる。最大まで上がると今の俺じゃ1分持たない。任意で『集積』の効果を止める方法がないかなって思って試行錯誤してみたら、これもできた。
光の剣を作る時に『形成』『維持』『集積』の順番で作ってた。それを『形成』『集積』『維持』に変えたらうまくいった。
『集積』を最大限活かすならどっちも同じなんだけど、『集積』の効果を半分で止めたいってなると前者の方はできない。
形を使って、維持して、その後に溜める。これだと最大まで勝手に溜まっちゃう。これが後者になると形を作って、溜めて、維持するになるわけだけど、言葉で並べるだけならどっちも同じじゃんてなる。
でも溜める後に維持をするをフリユピのゲームシステムで考えると見えてくるんだ。ま、俺もまだゲームシステムなんて全然理解できてないけどな。
魔法を想像し創造する。これはなんとなくだけど、システムに組み込まれた特性を想像して組み合わせて魔法を作るって考えるとある程度わかると思う。
『形成』の特性を利用して形を作り、『維持』の特性を利用して作ったものを維持し、『集積』の特性で維持した物の力を溜める。これが前者。何の邪魔も入らないから最後まで溜まっちゃう。
『形成』の特性を利用して形を作り、『集積』の特性で作ったものの力を溜めて、『維持』の特性を利用して作ったものを維持する。これが後者。溜める動作中に別のことをしようとすると、途中で『集積』の効果がとまる。
ゲームシステム的に溜めながら別の特性を追加することができない。だから溜めてる途中で別の特性を利用すると『集積』の効果が中断される。たぶんあってる。実際に消費MPも威力も違ったから。
今回のことでわかったことは、いろいろ試して特性把握した方がいいってことだ。『集積』を言い換えるならチャージ。チャージキャンセル技みたいなもんだな。うん。
「今日はこんなもんでいいか。明日には開拓村フューチャーに着けそうだ。ポーション切れたけど……まぁ何とかなるでしょ!」




