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Freedom Utopia  作者: ごっこ
本編
28/58

新たな力

「デカい」


ただその一言に尽きる。死を遠ざけ、生を近づけることができたツバサの感想の第一声はそれだった。大口を開けられ迫られている間、口の中しか見えない状態だったのだが、今はクリティカルヒットを与えたおかげでその巨体を吹き飛ばし、モンスターの全容を視界に収めることができる。


木の擬態は薄れ、姿形がはっきり見える。ワニのようなカメレオンのような姿。硬い岩であろうと抉れそうな分厚い爪。強靭さを強調するような岩のような刺々しい鱗。全長は10メートル前後はありそうだ。


「よく吹き飛ばせたな……」


奇跡と言っていい一撃のおかげ。ツバサはそれを実感する。


「っと、まだ終わってない……逃げるか?」


カメレオンが倒れて腹を見せている間に逃げるか、攻めるか。その2択を前にツバサは迷ってしまった。それがカメレオンの体勢を整える時間を与えてしまう。


カメレオンとツバサの目が交差する。カメレオンは必ず仕留め、腹を満たすという意思を示していた。ツバサはそれを感じ取り、逃げきれないと腹を括る。動き出すのは同時だった。


「こんな奴いるなんて知ってたら開拓村なんか目指さなかったぞ!! 畜生!!」


左手に弓、右手に矢を生み出して駆け出した。身に付けたばかりの魔法だが、理想とする魔法剣士の在り方を想像しながら戦い続けてきた。そのおかげでなんとか形にはなっている。


弓の心得の示す先を狙いながら射抜く。けれど、今のツバサの射撃に正確性は皆無だ。10発撃って1発当たればラッキー程度でしかなかった。知力の指輪を4個装備したことで威力は上がっている。だがそれは命中力ではない。射抜けど射抜けど光の矢はブレにブレてあちこちへと飛んでいく。


そんな素人の射撃も、的が大きいおかげでそれなりに当たる。光の矢を受け、刺々しい鱗が欠けていくがカメレオンはモノともせず、ツバサを追いかけ地を這うような動きで四足を動かしている。


「鱗は削れるけどダメージないってか! うひぃ!!」


ワニのように大口を開けながらツバサに迫る。光の矢を連射していて開戦直後のように溜め込めていなかったツバサが攻撃を諦め逃げを選択。


柔軟な体をしているようで、カメレオンは頭を直角に曲げ地面と水平になりながら、ツバサをその目に捉え襲う。辺りの地形を整地するよう削りながら迫る姿は恐怖でしかない。


ツバサは大口を閉じられる前になんとか高く飛び上がる。回避できたことに安心するのも束の間、カメレオンが柔軟な体を活かしで大きく尻尾を振り回してきた。


「あぶあぶあぶ!」


ツバサが必死の形相で両手を伸ばす。ミシミシと不安になる音を立てる木の枝に捕まり、逆上がりをして難を逃れる。


「このままじゃジリ貧でしかないぞ!」


光の矢が本体に攻撃が届いてない。巨体相手に接近して戦う余裕がない。引き摺られただけでHPが消し飛びかねない。


目が弱点か? 口の中は弱点だと思うけどさっきみたいな光の矢を撃てる気がしない。口を開けて詰めてくる間ぶち込み続けるか?


「アイツ口開けて何を――!?」


攻略法を考えていたツバサに向けてカメレオンが舌を伸ばした。あまりの速さに反応できなかったツバサの片足に舌が巻かれる。カメレオンが顔を振ると鞭のようにしなる舌に引っ張られて体制が崩された。そのままツバサは地面に叩きつけられる。


「クソッ! カメレオンっぽいもんなあれ。体全体が痺れて思うように動かねぇ……」


ツバサのHPが3割削られる。上体を起こして足元を見ると、カメレオンの舌はまだ足に巻き付かれたままだった。ヤバい。そうツバサが思った瞬間、再び体が引き摺られ始めた。


「うわあああ!! 俺を食べても美味しくないぞ!! やめろぉお!!」


ガリガリとHPが削られていく中、舌の伸びる先にある大口がツバサを迎える。ツバサに残された時間は僅か。


「やられてたまるか! 思い出せ、思い出せ! 最初の一撃を思い出せ!!」


ツバサが引き摺られながら上半身を起こして弓矢を作り出す。さながら水上スキーのように地面を滑るツバサは、体勢を崩さないようバランスを取り、一点のみを見続ける。


視線の先はカメレオンの大口。体から溢れる魔力を溜めて起死回生を狙う。


「慌ててた――両手に力が入ってた――迫力ありすぎてビビってほぼ同時に手を離してた――弓矢はどうなった――そうだ!」


舌に引っ張られ、大口に近づく中、意を決してツバサが大きく弓を構える。限界まで我慢する状況は同じ、違うのは放つ一撃に確信を持っていることだ。


「もう一度同じの喰らえええ!!」


光の矢がツバサの右手から放たれる。その直後に同じように魔力を溜めていた左手の魔力が光の矢と一つになった。より大きな力となった光の矢は光の大矢となり、カメレオンの大きく開けられた口の中に吸い込まれていった。


ドウ! という大きな音と共にカメレオンが大きく吹き飛ばされた。しかし、今度はツバサもただでは済まなかった。カメレオンの意地が舌で巻きつけている足を離さなかったのだ。


「ぬわーー!!??」


大きく投げ出されたツバサの体は空中に飛ばされ、なす術なく地面に叩きつけられる。


「あっ、体痺れすぎていうこと聞かねえわ……ポーション飲めない」


土煙が立ち込める中にある黒い影がゆっくりとだが動いていた。カメレオンはまだ生きている。


「このままじゃ――食われる。そだ、回復魔法覚えてたわ。ヒール! 自動で動いてくれるってのはこういう時便利だな」


震える腕がゆっくりと胴に近付き魔法を発動させる。残り1割だったHPが3割程度まで回復する。


「まだ痺れが解けないか。ヒール!」


ぐぐぐと痺れる足に力を込めて立ち上がる。体の自由が取り戻せたと同時に土煙が消えてカメレオンの姿が見えてきた。


「お前は準備万端か? 俺はもうちょっと休ませて欲しいんだけど……休戦しない?」


ツバサの提案はカメレオンの獰猛な分厚い爪による引き裂き攻撃によって却下された。


「ケチだな。俺ワン左衛門の散歩行かなきゃいけないん――だよ!! ったく!!」


回復魔法ってなんだ? 付与か? 変質か? 体の傷を癒す性質だから変質……ビンゴ!


カメレオンを視界から外さず、攻撃を避けながら、ポーションでMP回復させ同時に回復魔法を創造、使用する。


これでまた舌巻きつかれても耐えられるHPになった。MPも全快。でもこれ以上アイテムは使いたくない。開拓村に辿り着けなくなる。


「尻尾に爪。大口開けてくれない? ダメですかそうですか!」


カメレオンの攻撃パターンが変化した。ツバサはそう確信する。体の中を射抜かれることに抵抗が生まれたのか大雑把な攻撃は鳴りを潜め、ツバサにとって致命傷になり得る爪や尻尾の重いが隙の少ないコンパクトな攻撃に変わった。


「顔が上に上がった? 舌でも使うのか?」


チャンスか否か、ツバサは迷う。迷い迷い迷い避けることを決断。攻撃パターンが変わった、だから全く違う攻撃かもしれない。そう判断して。そしてその判断は正しかった。


「はっや! いぃ!?」


舌を真っ直ぐ伸ばすカメレオンの攻撃は速すぎて避け切れる攻撃ではなかった。ツバサはカメレオンの顔が動き出す瞬間に合わせて体を真横に逸らしたことが幸いした。


脇腹を削るその舌は背後にあった岩を貫通させるほどの威力。回避しなければ腹に穴が空いていたことを示していた。


攻撃はそれだけでは止まらない。舌を少し戻して岩から外すと、首を横に振りしならせる。しならせた舌に力を入れ固くした。再び首を横に振りツバサを狙う。


「あれ絶対切れる奴! うひゃあ!」


斜めに振り抜かれた舌は岩や木を切り倒すほどの威力。ツバサを仕留めるには十分すぎる攻撃だ。


「俺の魔法剣で受け止められる気がしない! 光の矢でなんとかするしかない!」


って言ったってあの鱗――あぶね! 硬くて光の矢じゃ無理だ――うおっと……どうする?


攻撃を避けながら必死で考えを巡らせる。ツバサが攻撃を回避してカメレオンが作った穴の空いた岩を目にした。


「あんな風に俺も鱗に攻撃できれば……待てよ?」


あのカメレオンみたいに鋭い攻撃さえできればいい。大体どのゲームも属性なんて多少の差があっても同じようなもんだ。


斬る、殴る、突く、射る。突くと射るは一緒か? 別の時もあるな。今はどうでもい――ヤバいヤバいヤバい――このままじゃ削り殺される。急げ急げ!


他は? 他、他、他ああ! えっとえっと防御無視? 近いけど違う。岩に穴が空くこと……岩を……つら……貫く!


「貫通! 貫通は属性に入るのか!? やっぱ防御無視か? 同じか? 別か? いやどっちも試せ!!」


ツバサの目の前には勢いをつけて飛び上がっていたカメレオンの姿がある。片足を振り上げ力一杯振り抜いた。大きく削り出された地面の破片が飛び散る中にツバサはいない。


「変質じゃなくて付与か! 防御無視!」


ツバサの光の矢に防御無視の力が付与される。射抜かれた光の矢はカメレオンの岩のような鱗を削る。


「何も起こらない! 次貫通! 頼むうう!」


ツバサが祈りを込めて射抜いた光の矢が岩のような鱗を削りながら、カメレオンの体の中に吸い込まれていく。そしてそのまま体を突き抜けた。


カメレオンの目に怒りがこもる。敵意をむき出しにしながら攻撃頻度が増えていった。それは間違いなく効果があったことの証だった。


「よしよしよし! お前また攻撃パターン変わったな? 口ん中にデカイの2発受けてかなり消耗してたんだな! 勝ち筋が見えてきた!」


ツバサの弓の練度は初心者並でしかないが巨体のカメレオンにはよく当たる。そして攻撃が激しくなる中でも、もうすぐ倒せるという実感がツバサをやる気にさせる。


余裕を持てるようになることでツバサの動きは格段に良くなり、カメレオンの攻撃を回避し反撃に繋げる結果を生む。


ツバサの攻撃を受けるその表情は苛立ちを募らせていくばかり。我慢できなくなったカメレオンが突進を繰り出しツバサを襲う。


ツバサが冷静になって突進を避けると、カメレオンは大岩に頭をぶつけて体を怯ませた。それをチャンスと見たツバサが駆け出した。


「ポーションあれで最後にしたかったけど……仕方ない、2本追加だ! 特別だぞ? お前にデカイのもう一発くれてやるよ!」


ツバサは両手に力を溜め出す『集積』。理想とする戦い方を貫くために弓矢の形を作り出す『形成』。


ツバサが魔法を創造しながら岩を利用して高く飛び上がった。それはカメレオンが見上げるほどの高さ。


「両手にある力を一つにまとめる……間違いなければ『集約』だ。そんでもって――」


別々の力を一つに集める『集約』。頑丈な鱗を貫き通す『貫通』。


「お前の鱗を貫く『貫通』! 完璧だ!」


力は更に膨れ上がる。狙うはカメレオンの背中。


「俺のMP全部くれてやるよ!! 落ちろ!! シャイニングアロー!!!」


ツバサの魔力が全て込められた光の矢は、弓に込められた魔力と一つになって、空高く飛ぶツバサから放たれた。


今のツバサが出せる全身全霊の一矢。その力は全長10メートルはあるカメレオンの体を仰け反らせる程の威力が込められていた。


シャイニングアローがカメレオンの体を突き抜けて地面へと吸い込まれていく。仰け反らせていた体は痙攣しながら倒れ込む。


「なんちゃって。カッコつけて叫んじゃったぜ。誰も見てないからいいよね。見られてたら黒歴史確定だな……いないよな?」


カメレオンが黒い粒子となって消えていく中、ツバサは周囲を見渡していた。

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