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Freedom Utopia  作者: ごっこ
本編
27/58

擬態モンスター

再生都市ディフィカルトを出発してゲーム内で3日が経った頃、周囲の景色やモンスターの種類がはっきりと変わった。植物の元気が落ち込んでいくような微妙な変化は東に進むにつれて大きくなってきた。


魔鉱石がどんなものか見たことないからわからないけど、開拓村フューチャーは炭鉱のある山に囲まれた場所にあるって勝手に思ってる。


今の周囲の景色を見ていれば、あながち間違いでもないかなって思う。一帯を見渡せた平原続きだった土地が今じゃ岩場が結構あるような丘になってる。このまま進めば傾斜もキツくなりそう。


モンスターは動物型や人型中心だった西地区と全然違うね。異形のモンスターが多い。一つ目の触手とか、デカイミミズに口があるようなのとか、デカイ芋虫とかね。魔術師っぽいのが一番面倒だったな。物理一辺倒だった西地区とは違って魔法を使ってくる奴も出てきた。なかなか苦労するモンスター達だね。6日後村に着くまでにどうなってるか、楽しみで心配だ。


「そろそろ休憩挟むか。ワン左衛門と散歩でも行くかね」


ツバサが周囲を探索して、手頃な場所を見つけた。


「散歩行って、ワン左衛門と遊んで……夕食食べたら……風呂入って動画漁りだなそれで4時間くらいにはなるな」


呟きながら道具袋を開き、退魔の石を取り出そうとしている途中、ふとツバサは顔を上げた。


「ん?」


VRの中にあっても失われないツバサの狩猟本能が反応を示した。何が視界に映る景色を変化させた。けれどすぐに戻った。気のせいかと思える程度のもの。VRの画面のバラつきか、ラグか。そう結論付けられる程度のもの。他のゲームであればすぐに視線を落とせていた。


だがツバサは視線を落とせない。フリユピにVRの画面のバラつきやラグなんてものは無いと結論付けていたから。ツバサは視線を左右に動かしたが、やはり景色におかしいところはない。


ほんの一瞬の変化が起こした事象。そこから起こる心のざわつきが消えない。その心のざわつきから起こる警戒心が消えない。道具袋に手を入れたままで、呼吸以外の動きを停止したまま立ち尽くす。違和感が拭えない。時間が経てば経つほど警戒心が膨れ上がる。


(何だ? 気のせいか? ここを休憩場所に選んだ時から目の前の木は変わってない。でも、他の木は先へ進むほど先細ってるのに、この目の前の木だけは太い。この目の前の木だけ太いのは何故だ? たまたまか? 何か理由があるのか?)


疑問が消えない晴れない深まるばかり。答えが出ない、試しに行動しようと思えない。もし何事もなければそれでいい。でももし何かあって死んでしまえばゲーム内で3日かけて移動してきたこれまでの全てを無駄にする。その思いと考えがツバサに安易な行動を取らせようとしない。


(不用意に動かない方がいいとは思うけど、動かなければわからない。さっきと同じようにしてみるか。退魔の石を取るふりをしよう)


ツバサが視線を道具袋に落として、道具袋を漁るふりをする。不安を募らせながら、気のせいであってほしいと願いを込める。


(――っ!!――いる!!)


しかしその願いは叶わない。視線を道具袋に向けながら、ツバサの意識は目の前にある太い木に向けていた。心のざわつきと警戒心が急激に高まり、感じていた違和感が消え、確信に変わる。


(あれは目だ。間違いない。視線を感じると動かないモンスター。擬態して捕食するタイプか。枝分かれしてる部分がおかしい。太さが極端に違う。注視しないと気付かないくらい巧妙だ。動物とか昆虫好きの人ならすぐに気づけたか?)


モンスターがいると確信したツバサは目の前の不審な点を間違え探しのように見つけていった。そして実感する。


(てかモンスターの顔目の前にあんじゃん!! デカ! 俺の股下から頭くらいまであるよな? 一飲みで腹の中に入れられそう……詰んでない?)


目と鼻の先にいる擬態モンスターはツバサが視線を自分から外す瞬間を待っている状態だった。逆さ向きで木に張り付いている――いや、爪を食い込ませている。体が大きすぎるために他のモンスターや人を捕食出来る様にそうしているのだ。戦って勝利して食べるよりも擬態して油断している獲物を丸呑みにした方がいいと考えているのだろう。生粋のハンター気質といえる。


(視線を外せば動き出す。逃げ出せば動き出す? 俺のできそうなことは少ないな。誰かが通るのを待つか? すれ違うことなんてなかったし、後追いやら追い越されることもなかった。落ちるのはまず無理……はぁ……ワン左衛門、散歩遅れるけど許してな)


頭の中でワン左衛門に謝ると、ワン左衛門が悲しい顔をしたように思えたツバサだった。小さくため息を吐いて目の前のモンスターと対峙することを決意した。


(食われる前にデカイのを一発ぶち込めるかが勝負。俺の最大火力は最大チャージの光の矢。最大火力は無理だ。でも限界まで引きつけて打つ)


オリジナルの魔法に名前はない。だからツバサは光魔法で使う弓矢だからとそのまんまの名前をつけた。


「……3……2……1……ゴー!!」


ツバサがカウントダウンを始めると同時に足に力を溜めて、カウントダウンを終えると同時にバックステップをした。左手に魔力を溜めて弓の形へ、右手には矢を作り出す。


擬態していたモンスターは捕食対象であるツバサが動き出した瞬間に気づかれたことを把握すると、擬態を解いて大口を開けてツバサに迫る。その大口はツバサの身長を悠々と越すもので、ツバサを驚愕させた。


「口デカいな! 頼む怯んでくれよ!? まだ! まだ!」


予想以上の大きさに恐怖すら感じ、両手を握りしてる力が強くなる。それでも限界ギリギリまで引きつけるために我慢した。


大口を開けたモンスターは間違いなくツバサより早い。バックステップで距離を取ろうと試みたツバサにあっという間に追いついた。


僅か3秒……いや4秒の出来事。5秒に満たない時間の中でツバサの体は恐怖によって鳥肌が立ち、心臓が張り裂けそうになる程激しく鼓動する。


だがツバサは耐え抜いた。ゲームの中であってもその恐怖は計り知れない。耐え抜いたツバサは命を繋ぐためにありったけの力をモンスターにぶち込んだ。それはモンスターの大口がツバサを飲み込もうと動き出した瞬間のこと。


「今! 食いやがれ!!」


ツバサの右手から放たれた光の矢は、偶然か無意識に起こした必然か。左手に溜め込んでいた魔力も吸収して、モンスターの大口に吸い込まれていった。


丸呑みする直前に予想外の攻撃を受けたモンスターがその衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされた。壁となったモンスターがしがみついていた木はその衝撃を受けて轟音と共に激しく折れた。その光景は威力の高さをありありと物語るものだった。

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