想像し創造する
やって参りました。わたくしが今いるのは小さな森でございます。森と言いましても、以前SP無駄遣いおじさんと出会ってしまったような狭い森にございます。モンスターの類も収集アイテムの類もない、ただそこに見栄え的な意味で木のオブジェクトを森っぽく見えるよう並べたようななんの変哲もない森にございます。
ディフィカルト周辺は中部地方に非常に近いので、多少の高低差はありますが、地形的には平地と言って差し支えありませんことよ。
冒険者ギルドの木偶の棒の前で訳のわからないことをやる変人に見られたくないのでね。人目のつきやすい平地も同じ。なんだかんだでディフィカルトに到着するプレイヤーもそれなりにいるからな。この森が俺を周囲の人からの変人認定を防いでくれる……はずだ!
人のプレイスタイルが細分化するのはディフィカルトを越えた辺りからだろう。東部地方を目指すメイン層が少しずつサザンカから離れて東部入りしてる前兆がなんとなく見られる。俺もその内の一人だと思う。
先行プレイヤーはもう護衛依頼を受けて活動拠点を移す動きを見せていてもおかしくない。追いつく必要はないけど、メイン層にぶつかって身動き取りにくくなる状況は俺も避けたい。
「ま、今の俺は避けるような行動してないけど……ま、そこは気分だよね!」
特技と魔法の違いがなんで無駄にあるのかを知りたい。運営のただのこだわりか、それとも理由があるからなのか。その疑問、解消しないと気が済まない。
「ってことで――ライトボール!」
体から力が流れて手に集まる。手のひらから現れるのは丸い玉。その丸い玉は視線の先へと飛んでいく。
魔法を使う、特技を使う、魔法を使う、特技を使う。
体から自動で流れる力って自分で出すことできないのか? 特技はただ体を動かすだけで何もない。魔法に割くならもっと別のところに力を入れそうだと思う。
「想像し創造せよね。決まり文句とかカッコつけてるだけのようにしか思えないけど、でもなんか引っかかる」
先人達が見出した原初の魔法とか書かれてたよな。確か。
「あー、形成、集積……後は、加減……えっと、付与に変質だったな」
形成ってのはどんな意味だっけ。形作るとかそんなんだよな。ボールがそうだよな。でもそれが原初の魔法じゃないのか?
誰にでも扱える魔法が魔法を世界から無くさないための魔法だったっけ。
「あ、スキルで属性魔法取得すれば覚えられる魔法。俺がSPで取った魔法は確かに誰にでも扱えるようになる魔法だな?」
無から有を生み出すことは難しいだっけ。何もない状態からじゃ当然だよな。それを成し遂げたものを人は天才と呼ぶ的な。
誰にでも扱える魔法が、属性魔法のスキル取得した後に覚えられる魔法としよう。俺の場合は光属性魔法だな。
誰にでも扱える魔法が、魔法の根源に触れるとやらのためのヒントだとしたら、俺はまだ駆け出しの魔法使いでもなんでもないってことだよな。
「魔法を自分で作るのか? 作れちゃうのか? んな馬鹿な」
いやでも魔法の初歩に書いてあることを鵜呑みにするならできるってことだよな……。
「魔法でろー魔法出てーまほおう出ろーまっほう出ろ〜」
イントネーションの問題じゃ無さそう。
「形成……集積……加減……付与……変質……想像し創造せよ……」
想像する。想像する。想像する。
形成は形を作る意味がある。ライトボールは手のひらに玉を作った。形成とも言えるな。
何となくわかってきたような〜そうでもないような〜。
集積は集めて積むこと。溜めることに近い。ライトショットがそうだな。拳に力を溜めてたし。チャージスキルといえばいいのか。
加減は加えたり減らしたり、ライトアローは一番速かった。速さを加えたと考えれば合うな。
付与は授けたり与えるって意味合いだな。ライトカッターか? ライトボムか? どちらにも取れるな。
変質は性質が変わることだ。これもカッターとボムどちらとも取れる。
いや待て、スキルの表示順から見るとボール、ショット、アローと来て、カッター、ボムだ。
もしそうならカッターが付与、ボムが変質だなとりあえずこれでいこう。
カッターは他の魔法とは違う属性があった。斬れるんだよな。斬る能力に変質……付与するって考える方が自然か?
ボムは爆発した。ボムだから当然だけど。魔法の効果に爆発を付与する。魔法の判定が変質した。難しいどちらにも取れそう。
ん? 斬撃を付与するだけならカッターがそのままショットとかアローみたいにただ飛んでいくだけでいいのでは?
利き腕を反対の肩近くまで持っていって、光の刃になるんだよな。うんやっぱりそうだ。斬撃が付与されたから? 形成と組み合わされてる? ありそうだな。
じゃボムは? 爆発するように魔法が変質。魔法が放たれるまで時間がかかるのは溜めてるから……集積。魔法が遅いのは変質したからってのもありそうだけど、加減もされてそうだ。巻き込まないようにするため、みたいな。
「あれ……ありえるのでは?」
形成、集積、加減、付与、変質。この五つを駆使して想像して魔法を創造する。ただのフレーバーテキストでした。だったら恥ずかしい。でも周りには誰もいないからセーフ!
「形成、丸い玉を自分で作れるか?」
想像はできる。ライトボールを使ったことがあるから。
「丸い魔法の玉……玉……あっ」
体から力が流れる。消えるなよ、消えるなよ。想像、想像。玉、玉、玉玉……玉!
「うわっ! 俺の作る玉歪みすぎぃ! でもできた!! マジか!!」
歪な光の玉が俺の意思で出てきたすげえ!! どうするんだ? とにかく投げてみよう!
「おいしょー! あー! ダメ判定出てるじゃん! 想像し創造する。どういう仕組みだこれ!? すっげえ!!」
これは、これは捗る! うおおおお!!




