特技と魔法と違和感と
釣って狩って休んで探して、釣って狩って休んで探して。50お終い。また受ける。その繰り返し
繰り返しの作業の間も短剣の扱い、体の扱い、モンスターの情報を集め、効率を求める。
自分ができないだけなのか、ゲームの仕様なのか、やり方が違うのか、何もかもがわからない状況を手探りで打破しようとする。現実と同じ、違うのはゲームを楽しめていること。嫌なことより楽しい割合が大きい。
「ゲーム序盤だから仕方ないけど、派手さが足りない」
重要な問題だ。フリユピが硬派なゲームとは思わない。特技を使わないで淡々と効率求めて狩りしてるだけだけど、爽快感もほしい。
短剣スキル一個取るか。自動で動くの嫌だけど、変化は欲しい。
『ダブルスラッシュを取得しました』
ツバサは2匹のオークと戦っていた。
「ダブルスラッシュ!」
やめろ、その場に止まって堂々と2連撃するんじゃない!
「早く早く! 動け動け! ひぃ!」
あっぶないな。特技一回で倒せるならともかく、俺の攻撃力じゃ倒せない。ダブルスラッシュは足まで固定される、どうしようもない。武器変えるか、ステ上げろって? まだ決め兼ねてるんだよ! 優柔不断なんだ許してくれ! 誰に言ってるんだか。
通常攻撃で戦う方が早い。まさにその通りだな。役に立たん。ってかダブルスラッシュって自分で再現できそう。ただの2連撃だし。
「オラオラぁ!」
2連撃してやったわ。虚しい。ダメージは特技の方が高そうだけど、自分でやる方が早い。
「オークさんよぉ! 俺の連撃見せてやるぜぇ! おっしゃあ! オラオラオラオラオラ――オラァ!!」
フッ! オークが動き出すまでに6連撃してやったわ。どうよ俺の華麗な攻撃、特技超えてるわー自分の才能に困っちゃうわー。
「相手の攻撃避けて、首とか通常攻撃した方が早い。ダメージも高そう。悲しいね」
その後オークを50体倒し終えるまで、通常攻撃で戦ったツバサはディフィカルトまで帰っていった。
別のスキル覚えてみるか? 同じようなもんだよな。あぁでもちょっと気になることあったな。
「冒険者ギルドに木偶の棒あったよな。確かめてみるか」
クエスト報告を済ませたツバサは、木偶の棒の前に立ち、短剣を構えた。
「ダブルスラッシュ!」
腰を落とし、短剣を顔の高さまで持ち、力を溜める。動き出すと袈裟斬り、勢いを殺さず顔の高さまで運び逆袈裟斬り。終わると体に自由が戻る。
「やっぱりか」
特技はスタミナを消費する。魔法はMPを消費する。ゲームはその違いしかない。ただ、特技と魔法の使用感が全然違っていた。
「ライトショット!」
手を握り、腕を伸ばして構える。体の内、胸から力が拳に流れ、力が溜まると拳が僅かに痺れを感じる。それが発動の合図となり拳からライトショットが飛び出した。
ツバサは特技と魔法を何度も使う。覚えたての特技と魔法を試し打ちするように。
違う。全然違う。ただスタミナとMP、特技と魔法だから違うだけか? 特技と魔法の使用感を変えるためだけにこんなことするか?
(何かある。理由がある。そんな気がする。ただの勘違いなら恥ずかしいけどな。違和感に気づいたからもうここに用はないな)
違和感を拭うために色々確かめる。攻略サイトやら掲示板やらにはそれらしいことは何一つない。魔法を使うと変な感じになるなとか、SP無駄遣いおじさんの話とか、魔法の威力を上げたいならステの魔力上げろとかだけだ。
俺の持つ違和感が何か。それに近い書き込みは今はない。同じことを考えている人はたくさんいると思うけど、情報共有より、ゲームプレイを優先させてるのかな。
魔法をこれ以上使っても解消されないと思うから、ゲーム内で情報を集めるしかない。攻略サイトや掲示板があるからゲーム内で調べるってことほとんどやらないけど、やるしかないね。苦手だけど。なんで今までやらなかったか? 楽だからさ!
情報収集といえば、ネットを使う。でもそれじゃ見つからなかった。なら次は本だ。紙を使うなんてもうほとんどないから、俺には馴染みがない。今はデジタル主流だし。
爺ちゃんと婆ちゃんの家に行ったりするとそれなりにあった。デジタル当たり前の俺にはよくわからないけど、本で読む方が頭に入るって言ってたね。
ま、それは置いといて。フリユピは剣と魔法の世界。近未来系のゲームと違って情報端末とかはない。メニューを開けばあるけどそれだけだ。
フリユピの世界を知るためには、適した場所へ行く必要がある。そこは図書館だ。図書館を見つけるのは難しかった。だって迷ったんだもん。
図書館の中は閑散としていた。プレイヤーは一人もいない。恐らく冒険者として活動しているのが大半だろう。ゲームの中にある施設の大半は作られはするが使われないことの方が多い。店のような需要があるような施設でなければ、理由のない場所に寄ることはないからだ。
クエストやストーリー、ダンジョンや移動エリア、転移エリアに図書館に指定されて何かしら理由があれば、プレイヤーが立ち寄るだろう。そうでないなら図書館は作られるだけ作られてプレイヤーに利用されない施設の上位に入ることだろう。
攻略サイトや掲示板といった外部の情報サイトの発展が、ゲーム内の情報を集め、答えを導き出すことをやめさせた。プレイヤーが面倒を嫌い、製作者がそれに応えた。不要な場所はことごとく消えていく。図書館はその中の一つに数えられる。余程の物好きでなければ。




