新スキル取得
体が動かなくなる。世界は変わらず動いている。けれど自分の体はどこまでもスローになる。視界がぼやけていく。途中、光の粒子が体から溢れ出す。ぼやけ、ぼやけ、ぼやけ、消える。
「はい死にました!」
防具がないから、レベルが低いから、ステを上げてないから、スキルを振ってないから、そもそもPSが足りないから、ソロだから。
「理由はわかってるけど、悔しいな」
……ツバサよ……力が……欲しいか?……
(い、いらない!)
……悔しく……ないのか?……
(く、くぅ!)
……お前自身が……一番よくわかっているのだろう?……
(し、知らない!)
……素直になれ……力を求めよ……
(黙れ! いい加減黙れよぉ!)
……ツバサよ……力が欲しいか?……
(……ほ、欲しい!……)
……ならばステータスとスキルを振れ……
はい振りまーす。
「でもなぁ、迷ってるんだよなぁ」
魔法剣士を目指してはいる。でも、今の俺って剣士じゃなくてちょっと魔法が使える短剣使いだよな。
剣主体で戦って補助的に魔法を使うか、魔法主体で戦って補助的に剣を使うか。だいぶ違う。
ステータスもスキルも理想に近付けるために振りたい。あ、でも魔法剣士を目指すことは決まってるんだから、基礎スキルを取ってみても問題ないか。複合スキルとか出るかもしれないしな。
「長剣……長剣……あった」
『長剣の心得を取得しました』
……うーむ。魔法剣みたいなものは出てこないな。最大まで振らないと派生しないとか? いや〜優柔不断で悪いけど調べるためだけに無駄遣いできないわ。
長剣の心得取ったら特技が覚えられるようになったな。アクティブ系は体が自動で動くからなぁ。あれ正直嫌いなんだよな。キャンセルできないのが更にダメ。まだ初級だからかもしれないけど、クールタイムが無いから連発できる。そこはいい。
フリユピやる前にハマってたゲームはスキルは任意で即時発動できた。その代わりフリユピほど精密じゃなくて、大雑把にスキルを当て合って勝敗を決めてた。敵に動かれる前に全てのスキル使ってハメ殺すのが気持ち良かったんだ。その分単調になりやすくてだんだん戦闘がだるくなってやらなくなった。
その他には、普段は派手に動けないけど戦闘フィールドの中なら飛び回れるゲーム。ぴょこぴょこ飛び回って裏取ったり、敵の攻撃潜り抜けたりするんだ。飛び回るとコンボを繋げられて、繋がるたびに移動速度が速くなって攻撃の威力も高くなるから爽快感溢れるいいゲームだった。コンセプトは良かったんだけどね、攻略のために必要なのはゲーム内で発見された技とかPSじゃなかった。装備重量を最大にした鈍器があのゲームを壊したよ。敵を怯ませてのけぞらせて叩き潰した。ボスが全部それだけで倒せちゃうのよ。ラスボスもな。対人も同じく叩き割られた、ハエを叩き落とすようにな。
とにかく、一部でも固定されるのは苦手意識が強い。最悪、自由に動かせる通常攻撃だけで戦うなんてのもありってくらい苦手だ。
「結局ダメじゃん。これじゃ何の解決にもならんな。よく考えたら長剣の心得とっても今の俺に長剣を買う金ないじゃん! はぁ、自分せいだけどやなこと続くなぁ」
今更だけどスキルの説明もなさすぎるんだよな。
光属性魔法Lv1
光属性の魔法を扱えるようになる。
これだけだぞ。
長剣の心得Lv1
長剣の扱いを身につけられる。
装備すると何か補正がかかるとか書いてくれよ! 自分で調べろってか。やんなっちゃうわ。情報調べるか。
ふんふんふん。ほんほんほん。ふむふむふむ。なるほどな。
まだまだ情報は少ないけどスキルに対応した武器の扱いが上手くなるらしい。通常攻撃の振り方とかシステムの補助受けるってさ。これは取って確認してみないと判断できない。特技は評価低いな。体が自動化される分使い所が限られてるとか、特技使うより通常攻撃の方が早く倒せるとか書き込まれてる。
魔法はやっぱりというか使い勝手が悪いって書き込みが多いな。体の動きが強制されるのは戦術の幅が狭くなるってさ。威力の高い魔法を使いたきゃL v4から覚えられる中級魔法は最低限必要だと。ただ消費MP高すぎてコスパ悪いとな。
なんだかなぁ、勿体無いぞフリユピ。魔法も特技も自由自在に使えればもっと楽しめると思うんだ。
『短剣の心得を取得しました』
「よし、違いを調べよう。囲まれても逃げ道を切り開くくらいはできるようになりたいねぇ。これは俺のPS次第か」
あるのとないのでどのくらい違いが出るのか気になったから取っちゃった。
「よし、リベンジだゴブリンとイノシシ!」
たぶんあの3匹の騎乗ゴブリンは斥候みたいな役割してる。その場で戦い続けると仲間がワラワラ集まってくる。たぶんな。
「ライトアロー!」
当たった! 気付いた。追いかけてこい!
「この辺でいいだろ。勝負!」
ツバサはダガーを引き抜いた。騎乗ゴブリンがイノシシを操り距離を詰める。3匹の騎乗ゴブリンの1匹が速度を落とし2匹の後ろに着いた。
「モンスターの癖に時間差攻撃かよ! やってやる!」
ツバサが勇敢に走り出し狙いを定める。後ろに着いた騎乗ゴブリンに。
(あっ違う)
左右から振られるシャムシールを潜り抜け、残りの騎乗ゴブリンにダガーを振るおうとして、すぐにスキルの効果を実感する。騎乗ゴブリンとすれ違うと同時に狙いの腹部を切り裂いた。ゴブリンはイノシシから落ちて消えていく。
(視界に少し軌道が見えた。たぶんあれをなぞると威力が最大になるんだ。補正ってそういうことか。足を踏み込む位置、ダガーの振るう位置が表示されてた。上手く合わせれば気持ちがいいくらい綺麗に振り抜けた。モンスターも攻撃してくるから常に最適な攻撃できるわけじゃないけど……それができるように立ち回ればいい)
周囲を視線だけで確認する。援軍は来てない。騎乗ゴブリン達は再び一列になって同時攻撃を狙う。
「見て避けられる攻撃するのはただのカモ!」
踏み込み、軌道をなぞる。ダガーの威力も相まってゴブリンは一撃で仕留められていく。乗り手のいないイノシシも突進するだけ、ツバサは攻撃を避けながら軌道に合わせるだけ。
「ラストー!」
思い通りに戦いを運べているツバサは油断していた。突撃する勢いを殺さずゴブリンがイノシシから飛び降り、器用にイノシシの尻を蹴り出した。蹴られたイノシシは更に速度を上げる。
「グエッ!」
引き倒されたツバサはイノシシに踏み潰され硬直する。その間に飛び上がっていたゴブリンがツバサに向かってシャムシールを突き立てながらトドメを刺しに来ていた。
「おおおらあああ!」
声を上げ必死に横に転がり難を逃れ立ち上がる。ツバサの意識は既に次に向かっていた。頭で考えるよりも先に体が動くように。ゴブリンがシャムシールを地面から抜こうとする中、ツバサを見た。その表情はどこか諦めが含まれていた。
スキルの補正はゴブリンの腹部を表示している。けれどツバサは無意識にゴブリンの首を切り裂く。ツバサの意識はさらに先を行く。視線の先にはイノシシがいた。イノシシはもう走り出し、ツバサに突進するため動いている。だがそれはツバサも同じだった。
体の向きを変えながら足を前に出してイノシシに迫る。小ぶりなイノシシの顔が合うほどに重心を低くしたツバサは、再び無意識にスキルの補正とは違う軌道の攻撃をする。
低くした重心を一気に上に持ち上げるように、足に力を入れながらダガーを振り上げた。それはイノシシの首を横から切る動きとなり、イノシシを確殺する威力となった。
「危なかったー!!」
ツバサはゴロンと地面に仰向けになった。




