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色々と思うことはある。けど、今は我慢だ。目的地になんとか辿り着いた。メイン層から抜け出せてようやく狩りに集中できる。他のプレイヤーがこの辺りになだれ込んでくる前に、ここから離れる準備を済ませてみせる。
まずは武器屋だ。盗賊ちゃんからもらったダガーあるけど念のため。
短剣、長剣、突剣、大剣、棒、杖、鞭、槍、鎌、斧、鎚。豊富だな。魔法剣士を目標にしてるけど、これだけあると目移りするな。
「このナイフ買い取れる?」
「ずいぶん使い込まれてるな。ん〜まぁ100ピアだ」
「おいおいおい、聖女様からもらったもんだぞ!」
「はぁ? それが本当なら売るなよ。こりゃただのナイフだ」
「…………」
聖女のナイフ安すぎ!! ボロいけどさ! もうちょっとこうあるだろ! 付加価値とか!
「これ新品だったらいくらで売る?」
「あん? まぁそうだな500ピアだな」
初期装備だけどさ。聖女さんもうちょっと俺に期待してくれてもいいんじゃない? よくここまで来れたよホント。
いやでも待てよ? 天上族は何人フリージア大陸に来たんだ? 1000万ダウンロードってあったかな。もっといってた気がする。仮に1000万いたとして、500ピアだから50億ピアか。聖女様お疲れ様です。使わないから売ろう。ナイフよここまでご苦労だった。
盗賊ちゃんはここを拠点にしてるって言ってたよな。あるかな?
8万ピア!?
最低額は3万ピアか。お下がりとはいっても商人さんからもらった報酬より高いのか! 大事にしよ。
武器は貰い物が優秀だったから必要ないな。ただこれだと防具一式買えるかわからんな。
「うーん」
一番安くても一式揃えると8万ピアか。厳しいねぇ。一式買えるまで貯めるか、今ある分で揃えるか。どうするかな
「試着ってできる?」
「構わんぞ」
「あざす!」
重装備一式は高いね。防御力を重視してる分金かかるみたい。当然か。一番安くても一式揃えるのに23万。
「あれっ? 動けねえ」
「非力な奴だな」
「ぐぐぐ……ん〜!! プハッ! 無理だ」
ステ上げないと無理だ。俺の理想とする魔法剣士は技巧派だから力いらないんだ。無条件で装備出来たら良かったのにな。
次は身軽さを優先させた革装備だ。最低でも一式14万か。
「よっ! ほっ! はっ!」
うーん。慣れが必要かな。捻ったり伸ばしたりすると引っかかったりするな。半袖長ズボンのような軽やかには動けないか。
軽装備行ってみよう。最低一式8万はこれだ。
「あ〜、気づかなかったけど、革もそれなりに重かったんだな」
布とかの柔らかい材質だから軽くて動きやすいのは当たり前。思い切り動くときに重みや引っかかりを感じないのは重要だと思う。安さは関係ない。
安さ関係ないなら半袖長ズボンでも大丈夫だな。攻撃? 当たらなければどうということはない!
結局買わなかったな。なんかこう色々来てみたけどなんも感じないというか。防御力だけ上がる感じ? 特殊効果無さそうだったから初期装備でいいやって思っちゃったよね。
お金貯めて武器優先にするか? おっアクセサリー店。魔法系統の店が少ないなぁなんて思ってたらそれっぽい店見つけた。
「どれどれ……げっ! 27万ピア!? 指輪ひとつで防具一式より高いじゃん!! うわっ! ネックレス72万!? 入る店間違えたわ」
「なんじゃ騒がしい」
おっとお婆さんいたの。
「魔法店にいそうな魔法使いの婆さんみたい!」
「お前さん、初対面の相手にずいぶんな物言いじゃな」
おっと本音と建前間違えた。
「いや、うん。ごめんなさい」
「カッカ! 実際その通りなんじゃがな!」
「やっぱそうなんだ」
「それで……なんじゃ……お前のようなひよっこが来るところじゃないわい! 帰れ帰れ!」
「人の装備見て判断するなよな!」
「人のこと言えた口か?」
「すいませんでした」
的確な指摘。婆さんやるな! しかしまぁ魔法使いの営む店らしく古臭いね。嫌いじゃないけど。雰囲気あってファンタジーしてる。
「とにかく冷やかしなら帰んな。どうせ金なんか持ってないんだろう? 店番すんのも疲れるんだよ」
「一つ教えてくれ。ここ以外に魔法店ある?」
「いんやないぞ」
「嘘つくなよ。いくつかあるだろ?」
「嘘なぞついてどうする? もし本当に他に店がありゃあこの店なんぞ潰れとるわ」
「その根拠は?」
「あたしのような偏屈な婆さんの店で買わなくて済むからさ! カッカッカ!」
「自分でわかってるんだ」
「頭で自覚しても心が認めないからねえ」
不思議な婆さんだなぁ。やっぱ嫌いじゃない。むしろ面白くて好きまであるな。
「魔法店がない理由ってなんかあるのか?」
「なに簡単さ。割りに合わない。これだけよ。東部で店開くより、他で開いた方が儲かるからねえ」
「じゃあ婆さんは?」
「それも簡単さあ。誰も店開こうとしないから儲かる。それだけよ」
「どっちが正しいのか。わからん」
「どちらも正解さね。ただ、今はあたしの一人勝ちさ」
「ふぅん」
「さあ、そろそろ出てきな」
「まあまあそういうなって、話し相手がいるのは悪いことじゃないじゃん?」
嫌そうな顔しないでお婆ちゃん。客来なくなっちゃうよ。
「はあ……何が聞きたいんだい?」
わかりやすい大きなため息ありがとう!
「これってホントに適正価格か?」
「当たり前さね。むしろ安くしてるよ! お前さんが騒いでた指輪は40万、ネックレスは100万だよ」
嘘くさ!
「嘘くさ!」
「魔法具は便利な分金がかかるのさ。嘘じゃないよ!」
「西部だとどうなの?」
「指輪15万、ネックレス50万が適正じゃないかねえ」
「なぁ、ぼったくり過ぎない?」
「東部価格だからねえ。東部にある人間の頑張り次第で値は下がるかも知れんが、今は無理さなあ」
「みんな同じこと言うよな。どうにかできないのか?」
「みんな同じ状況だから当然さあ。お前さんがどうにかしてみせな。天上族だろう」
なんで気づかれた? 俺言ってないよな。NPCの人族と天上族の見た目は変わらないはずだぞ。聞いた方が早いな。
「なんでわかる?」
「なんでわからないと思うんだい? そんな格好でここまで来る奴はフリージア大陸にはいないよ。無謀が過ぎるからねえ」
「あ、はい」
説得力ありすぎて困る。命あっての物種。死んでも大丈夫! なんて言って無茶できるのはプレイヤーだけだもんな。
「もういいだろう。あたしゃ腰痛いよ!」
追い出された。値段に目がいって効果全く見てなかったわ。もっかい入ろ。
「またきたぞー」
「ああん? 無一文相手にするほど心が広くないよ!!」
「いやちょっ!? 力つよ!? た、頼む婆さん! 売り物の効果見せて! 目標金額知りたいんだ!!」
「ふぅ……さっさとしな!」
原因は俺だけど、なんでこの婆さん店開いてんだよ!?
婆さんの目が怖い。テキパキ動こう。ネックレスはまだ当分無理だな。
「指輪指輪と……基本的にステ上昇か。毒軽減、麻痺軽減、おっ攻撃速度あるじゃん。婆さんのおすすめは?」
「そんなもんありゃしないよ!」
「……えぇ……」
もう完全に相手にされてない。出直すしかあるまい。最低値は27万。ステ能力上昇系だ。ダンジョンとかで拾うのかな。ダンジョンか。ダンジョン攻略も視野に入れないとな。
「悪かったな婆さん。次はちゃんと金持ってくるよ」
「そうしておくれ。さあ出ていきな!」
次の目標が見つかったな。27万ピア! 頑張るぞ!




