辿り着いた集落
交易街サザンカから発って2日目。NPCから聞いた集落にはあと1日必要なのか? 話通りなら折り返してるはず。マップは俺が走った道のり以外は全く埋まってない。だから今俺がどの辺りにいるか正直よくわからない。マップも多分買うんだろうな。自分で埋めて楽しむか、誰かから買うか……うーん。
俺はなんとなくだけどフリユピ長続きする気がしてるんだよな。グラは綺麗でおかしいと思うようなことは今のところない。戦闘もラグは全くないし、ヌルヌル動く。現実と一緒っていいくらいしっかり作り込まれてる。ただ移動に時間かかるのがネックかな。ま、1日で端から端まで行けてしまうのもそれはそれでいいことないしな。
決めた。自分で埋めよう。どうしようもなければ妥協すればいい。世界の端から端まで自分の足で歩いて、見て、聞く。現実は、どこに行っても人がいて、未開の地なんてそれこそ技術的に行けないとかって理由しかない。フリユピには人がたくさんいる。けど未開の地はたくさんある。製作者がオープンにしない限りは。未知の世界を歩くスリル。現実では難しい。けどゲームならそれこそ無限に味わえる。俺がゲームにハマった理由だ。巡るぜ世界!
「着いたどー!!」
石造の街道を他の人に敬遠されながら走り抜け、土の道に変わってからしばらくは他の人達の狩り場を走り抜け、人を見かけなくなって心細くなりながら、モンスターに襲われること3回。息も絶え絶えなんとか走り抜けたどー!
トカゲを2回、二足歩行の犬っぽいの(たぶんコボルト)1回。なんとか勝利して辿り着いた。ナイフとライトショットが役に立った。特にライトショット。これをゼロ距離で放つ時の威力はバカにできなかった。確証はないけど、距離によって威力が違うんだろうな。ゼロ距離で使った時とそうでない時のモンスターの怯み具合が違ったからそう考えただけだけど、間違いではないはず。
集落にプレイヤーは十数人くらいか? だいぶ減ったなぁ。ま、ここまできたらさっさと再生都市ディフィカルトに行った方がいいもんな。クエスト関係か、俺と同じで人がいない場所を拠点にするつもりなのか。メイン層をちょっと抜けたくらいだからだらだらしてるとここもすぐに人で溢れるだろうな。
集落自体はしっかりしてる。NPCの話にもあったけど、中継地点として使われてるらしいし、宿があるからリスポン地点を更新して活動することもできそうだ。宿場町……そんな規模じゃない。宿場村……うーんやっぱ集落だよな。NPCも10人そこらしかいないし、いやでも村と呼んでいいのか? うーん。集落だよなたぶん。
「いらっしゃい」
「宿屋でいいんだよな?」
「あぁそうだぞ」
「この辺のこと聞きたいんだけど、いいか?」
「構わんが、この辺は何もないぞ。冒険者……には見えないが、ダンジョンの類が見つかったなんて話は生まれてこの方聞いたことない」
半袖長ズボンの俺を見て言い淀んだ。見た目で話し方を変えるとは細かい。聞きたいことは先に答えてもらったから、聞くことなくなったぞ。
ダンジョンあれば宿に泊まって金策できると思ったけどそう甘くはないか。フリユピの世界広いからな。何日もかけて念入りに探さないと見つからないのかもしれない。困った。
「そうなのか……どうするかな」
「冒険者ならここにいるより、再生都市ディフィカルトに移った方がいいぞ。ここは交易街サザンカと再生都市ディフィカルトを行き来する冒険者や、行商人の休息の場でしかない。お宝探しには不向きさ。あるとしてもせいぜいモンスター退治くらいだな。集落を襲うモンスターがたびたび出るんでね」
「人が少ない理由がわかったよ。宿を借りたい。一泊いくら?」
「一泊1000ピアだ。どうする?」
「1000ピア!? サザンカは200ピアだったんだぞ!?」
ぼったくりかよ!!
「言いたいことはわかる。ただ、サザンカは東部地方が目と鼻の先にあるが中部地方。聖女様の加護があって安全で、土地も豊かだ。だけどここは東部地方。他の地方に強く依存してる地方だ。そのせいで物価が桁外れに高い。そしてここは規模はとても小さいがサザンカとディフィカルトを繋ぐ重要な場所だ。ここが潰れれば休める場所が無くなる。そうなれば冒険者も行商人も自力でサザンカとディフィカルトを行き来しなければならなくなる。そうなれば再生都市は衰退する。この辺のモンスターは他の地方より手強いから尚更だ。さっき言ったろう? たびたびモンスターが集落を襲うってな。一泊1000ピアの中には、襲撃に備えるため、冒険者へ依頼する分も入ってる。悪いな」
ぼったくりじゃなかった!! 東部を諦めて他の地方へ移ることを決めた理由にはこれも入ってるな。うん。スタートダッシュを決めようとしても何日も移動する羽目になるし、金策もままならないし、運が悪ければリスポン地点まで戻される。東部の人口が少ないわけだ。多少のストレスを許容してサザンカで装備を整える方が正解だったか。
「ちょっとびっくりしただけだ。こっちこそ悪かったよ。東部地方がここまで大変なことになってるなんて思わなかったよ」
「いいさ。最近見るようになった天上族は大抵同じ反応するからな。一応言っとくが、これでも安くなった方なんだぞ。俺が20歳の時――あー……34、5年前は3000ピアくらいだったからな」
「うげ」
「ここ最近、再生都市が大きく成長してくれたおかげでかなり安くなったもんだ。衰退すれば値を上げなければならなくなる。もっと安くしてほしいなら、冒険者なんだろ? 活躍して東部地方を安全な土地にしてくれよ」
「あまり期待するなよな」
「なに、気長に待つさ。でどうする? 泊まってくか?」
ふぅ……今あるアイテムを退魔の石以外全部売っても届かないな。半分いけばいい方か……どうする?
「金が足りない。やめとくよ」
「そうか……よくここまで来れたな……」
驚き半分、憐れみ半分ってとこか、やめろ! そんな目で見るんじゃない!
「集落の外の適当な場所で寝るのはお勧めしないからな。モンスターに襲われるかもしれない――あぁ、そうだ。外で寝るより安全な場所がひとつある」
「どこ?」
「馬小屋だ。この集落で最も大事な宿屋の次に重要な建物だ。この2つの維持がこの集落にとって最優先される。壊される時は壊れるだろうがね。あと臭いぞ」
「情報ありがとう」
金策を後回しにした弊害が早くも……結構いい時間だから落ちるか。仕方ない――くっさ! 匂いの再現しなくていいだろ! やぁ馬さん元気? 俺は先に寝るね。おつかれ――くっさ!




