東部地方突入
サザンカから出る前に俺が目指す東部地方の最寄りの街の情報を集めてみた。俺が話しかけた全てのNPCが割に合わないとか、無茶するなとか他の地方へ行った方がいいと忠告してきた。でも俺は挫けない。だってもうこの街の教会で祈ったから。少なくとも今は進む方向でいく。
俺が目指す最寄りの街は再生都市ディフィカルトというらしい。東部地方の西地区にある都市だから道なりに進めば辿り着けると教えてくれた。ただ、都市まで1週間かかる上に手強いモンスターが彷徨いているようだ。モンスターの強さが期待外れであることを祈るばかりだ。
移動は1週間、つまり現実でも2日と少しかかる。NPCから散々警告されて、移動だけで2日必要なんて、普通は引き返すよ。力つけてから挑戦するのが堅実だもんな。
俺は攻略サイトに情報が載る前にあちこち行ってみたいって気持ちがあるから突き進むぜ! 初期装備のままだけどな!
一応サザンカとディフィカルトの中間辺りに集落があるようだから、そこが目標だ。1日走りっぱなしは疲れるから、モンスター避けの効果があるアイテムを2つ用意した。
フリユピはログアウト中もゲーム内時間が進み続ける仕様で、ログアウトしている時の俺のキャラはログアウトした場所に残り続ける。PKはできないようだけど、モンスターからの攻撃は普通に通る。ログインしたらリスポン地点に戻ってましたなんて事が結構起こるらしい。寝落ちしてしまったら最悪だな。間違いない。
街の外でログアウトする場合、仲間になってくれたNPCや雇ったNPCに守ってもらうのが一番安全って掲示板に書き込まれてた。NPCだけでモンスターに勝てる場合に限るともあった。勝てるかわからない場所で放置すると最悪、NPCはやられて自分もリスポン地点にひとっ飛び。やられたNPCはどうなるか? ロストするってさ。ロストを防げる身代わりアイテムがあるらしいけど、ログアウトするなら安全な場所にした方がいいね。
他には俺が買ったアイテムは退魔の石ってやつ。使うと現実の4時間、モンスターから攻撃されなくなるらしい。まだ使った事ないからよくわからんのよね。道具屋の店主に聞いたら置いて使うんだってさ。
退魔のテントとか隠れ蓑とか退魔の水晶とかログアウト用の対策アイテムは色々あったけど高くて買えなかった。エンカウントしたモンスターから拾ったアイテムを売り捌いて得た全財産で石2つ。世知辛いぜ。
とにかく、この退魔の石2つ持って、再生都市ディフィカルトを目指すしかない。集落にたぶんリスポン地点変更できるっしょ。
「準備よし! 行くぞ!」
手持ちは身に付けている半袖長ズボンにナイフ一本。道具袋に退魔の石2つ。周囲のNPC達が心配そうな顔で見てる気がするけど……俺、死んでも生き返るから大丈夫ですよ。
出発進行! という事で、東部地方に入りました。PK可能エリアに入った瞬間に襲われるようなことはありませんでした。PKするとランダムで相手のアイテムと金を取れるらしい。俺の手持ちは退魔の石と余った少しばかりの金のみで襲っても旨味がない。退魔の石取られるとキツいんだけどね。
中部地方から出たばかりでプレイヤーもそれなりにいるけど一定の距離を保って行動してるね。近付きすぎるとPKかもって警戒されちゃうんだろう。俺と同じ初期装備のプレイヤーもなんだかんだ結構いる。目に映る半分くらいが初期装備だ。初期装備のプレイヤーは他のプレイヤーから敬遠されてるように見える。かく言う俺も敬遠されてる。
なんでだ? ってことで考えてみた。初期装備がPK試しても失うものは何もない。PKを成功させて得た物を売って金にすれば、装備を得られる。他には〜PKをするのは今だけ、楽しむなら人が密集してる今! みたいな感じか?
ま、初期装備でうろうろしてるプレイヤーなんて怪しいわな。距離を取ろうとするのも頷ける。
俺も積極的に交流するつもりはないし、距離を取って道を開けてくれるなら移動しやすいからよし!
モンスターも人が多いから滅多にみないし、いたとしても他の人が戦ってくれるから今のところ問題なしだ。
交易街サザンカを発ってからゲーム内時間で12時間が過ぎた頃、ようやくプレイヤーが少なくなり始めた。ツバサは最大限警戒しながらモンスターを避けて進む。
(今は何とか戦闘にならずに済んでるな、でもそろそろ厳しいか? この分だと、メイン層は抜けたのか? 再生都市ディフィカルトに行ってみないとわからないけど、最前線に近づきつつあるかもしれない)
プレイヤー密集地帯を抜ければ、自分の思い通りにゲームを進めやすくなる。そのためには最低限の強さが求められる。強くならねば!
東部地方を目指すメイン層はツバサの読み通り、交易街サザンカにいた。手強いモンスターに阻まれたプレイヤーがレベルを上げたり、装備を整えたりと四苦八苦している。後追いの初心者がメイン層に加わり、交易街サザンカ人口は更に膨れ上がる。ある程度装備を整えたプレイヤーと初期装備のプレイヤーが入り混じっていたのはそのためだ。
競合を避けるため、効率を求めるため、一部のプレイヤーは遠出をするようになるが、片道現実時間で4時間くらいの移動を強いられる。そこで活躍するのがエンカウント回避の為の退魔系アイテムだ。数日かけて狩りをして街へと戻る。これをできるようになることが冒険者プレイヤーの最低基準となる。
人口が多く、資金繰りが難しい今現在、各地方に分かれたプレイヤー達が金策をしやすい場所を求めて更に細分化されていく。
最前線を進み続ける者、人の少ない場所を探す者、金策法を考え編み出す者、仲間を求め交流を深める者。多種多様な在り方を生み出す黎明期となった。




