チョコバナナ6いちごクリーム3ベリーカスタード2ツナたまご5ハムエッグ2コーンマヨ2タマゴサラダ3みかんクリーム2、あとチョコバナナ1
「いやー……それにしてもお腹空いたねイバンくん」
「はい、そうですね。体力使いましたもんね」
「だねー、私も流石にイバン君の腕から鉄線みたいのが飛び出してきた時は驚いちゃったよー、それに避けるのすっごく難しいの!! おかげで1回腕ズタズタになっちゃったし!」
「僕もサヤさんの蹴りを避けようと頑張ったんですけど全然ダメでしたね、首の骨も折られちゃいましたし」
「まあまあ、練習すればすぐに避けられるようになるって! 私も次があれば完璧に避けちゃうよ~?」
「そうだといいんですけどね~、ははは」
「アハハ!」
第1地区の裏路地で血みどろの殺し合いを終えてなんやかんや一段落ついたイバンとアカツキ・サヤ。サヤの案内で和やかな日常会話を交えながら第2地区までやってきた。
『普通過ぎてつまらない』と都市の空気に染まりすぎた連中から揶揄される、治安が良いが大した娯楽も無い、普通の住宅や普通の商店が立ち並ぶ。ある意味ではどこよりも平和な第2地区である。
尚ここで使われる『治安が良い』『平和』『普通』はあくまでも他の地区との比較でしかない事に留意されたし。
「そういえばイバンくん、何か食べたいものとかある? 甘いのとか、辛いのとか。大体この辺は無難に何でも揃ってるんだけど~」
「…………」
「……あ! これは本当にね! 真っ当な意味で甘いのか辛いのかって話!」
「デッドオアアライブの話じゃなくて?」
「デッドオアアライブの話じゃなくって!! ほんとに!」
露骨に渋い顔をするイバンに、サヤはわたわたと両手を振りながら弁明する。
「じゃあ、まあ…………甘いので」
「さっきは辛いのって……」
「今はそういう気分なんです」
「そ、そう? じゃあ……クレープ屋さんでも寄ろうか」
心の底から疑っていたイバンだったが、サヤに手を引かれるがままについていくと、そこには本当にクレープ屋があった。
「てっきり『お前を蹴り潰してクレープ生地みたいに薄く地面に広げてやるよ』って意味かと」
「だから違うって! もう!!」
サヤは拗ねた様な顔で頬を膨らませる。
しかし冷静に考えると先に鳩尾と首を蹴り潰してきたのはサヤの方なので、拗ねる資格も無い気がする。
ので、イバンは特に気にすることも無くメニュー表を眺める。
「チョコバナナ……いちごクリーム……ベリーカスタード……」
「うんうん、無難すぎて安心するラインナップだよね」
「ツナたまご……ハムエッグ……チョコバナナ……」
「…………」
「いや、やっぱりチョコバナナを更に2つ追加して……」
「あ、え、今注文してたの!?」
完全に油断していた店員にイバンは改めて尋常ならざる量の注文を通していく。
「サヤさんは何食べます?」
「…………あ、もう注文終わった? 日が暮れるのが先かと思ってた」
「はは、面白い冗談ですねサヤさん」
「え、うん……あ、私の注文ね。じゃあチョコバナナで」
「か、かしこまりましたー……!!」
店員はおたおたと明らかに動揺しながら、大量の注文を読み上げていく。
「えーと、えーと……そしてそちらのお客様がチョコバナナをお1つ……ですね! 以上でよろしいでしょうか」
「はい!」
正直な所、思うがままに注文していたせいで自分が注文していた内容を覚えていなかったが、イバンはとりあえず元気に返事した。
「えー、それではお会計が……こちらになります……!!」
「なるほど……」
イバンは店員が指示した金額に思わず神妙な顔つきになる。
そういえば僕ってお金持ってたっけ。ジェルってなんだっけ……と。
いやそういえば、とイバンは地面にキャリーケースを置き、中に手を突っ込んだ。
何かが手に当たったのでそのまま引っ張り出してみると分厚い札束らしきものだったので、とりあえずそれを店員に突き出した。
「これで足りますカベッ!!」
呑気な笑顔を見せたイバンの後頭部にサヤは思い切りデコピンを放ち、イバンの腕を掴んで札束を無理やりキャリーケースの中に押し込んだ。
「馬鹿なのかな?」
「え……ダメですよサヤさん、自分の事をそんな風に言っちゃあ」
サヤはイバンの額にデコピンをかました。さっきより強めに。
「馬鹿なのかな?」
「ごめんなさい」
「あのね……ここは確かに比較的平和な第2地区だけど。とは言えこんな店先でそんな大金チラつかせじゃダメだよ。誰が見てるか分かんないんだから。殺されるよ?」
「金目当てでもない感じで蹴り殺してきた人がなんでいきなりそんなマトモな人みたいな事言うんですか?」
「ほら……あの店員さん見て見なよ。これまでの人生で見た事無い様な大金をいきなり見せつけられて、手足どころか鼻の穴まで震えてるじゃん……かわいそうに」
「確かに。ほぼ気絶しかけてますね」
イバンがカウンターの先に立つ店員を見上げると、確かに手足も鼻の穴も震えていた。
「じゃあどうすればいいんですか」
「さっきの札束から何枚か抜き取って…………いや、ていうか、ほんと、イバンくん何者? 大金持ってる割にお金の事も全然知らないっぽいし……」
「何者? って質問は僕もサヤさんにしたいですけどね」
「私は唯の趣味多き美少女」
ともあれ。イバンは無事に正気を取り戻した店員相手に会計を済ませると、しばらくの後にクレープの山を受けとり、サヤと共に再び歩き出した。チョコバナナクレープを手に。
「ていうか、そうだよ。ありがとねイバンくん、クレープ奢ってくれて。大金のインパクトですっかり忘れてたよ」
「いえ、いいんですよ。拾った様なもんですしこのお金」
「その『拾った』は『銀行強盗でせしめた』の隠語?」
「はは、そんなサヤさんじゃあるまいし」
「だよね! あはは……そのクレープも捌かなきゃいけないし、ちょっと静かな所行こうか」
「その『静かな所』は『静かで殺しがしやすい』の隠語……」
「今回は違うよ」
「あ、そうですか……」
サヤの後ろをトコトコと付いていきながら、イバンは自分で自分の事がよく分からなくなっていた。いや、それは最初からそうだったか。
会ったばかりの少女に声をかけられ、裏路地に連れ込まれ、蹴り殺され、そして自分も少女を殺した。
そして2人共何故か生き返り、こうしてデートらしきものをしている。
意味が分からない。どうして自分はこの少女と一緒にいるのか。ここまでの流れだけで、大幅に倫理観の垣根が存在しない、あるいは超越した、あるいは壊れ切った少女だという事は分かりきっているのに。
顔が自分の好みだったから?
いや、違う。勿論一目見た時にとてつもなく自分の好みの容姿だと思ったのは間違いないが。最早そんな事がどうでもよくなる位の――結びつき? みたいなものを目の前の少女から感じる。
この少女も……自分に似た様なものを感じているのだろうか?
「ここだよイバンくん」
「あ、はいどうも案内ありがとうございま――なんですかここ」
サヤに連れてこられたのは、ボロボロに朽ち果てた、と形容するのが相応しい何かのお店――の廃墟だった。
「……いやほんとなんですか、ここ」
「ふふ、驚いてる驚いてる。ここは私の隠れ家の一つ」
「隠れ家」
なんだか心がくすぐられる響きだ。ちょっとかっこいい。
「私、大体の地区に1つは隠れ家を持ってるんだ。隠れ家作りも私の趣味の一つで……」
「へ~」
「ここはその中でも大分お気に入り!! なんてったってレジェイル帝国の――ま、とにかく入って入って」
「お邪魔します」
甲高い音を立てながらぎこちなく開く錆びたドア。その隙間を潜り抜け、サヤとイバンは廃墟に入る。
中は外観のイメージを全く損ねない荒れ果て具合であり、割れたガラスや家具、良く分からない壊れた機械などがあちこちに散乱していた。
「えーと…………素敵な隠れ家ですね」
「いや違うから。まだ着いてないから。イバンくん私の事どういう人間だと思ってるの?」
そういう人間。
「よい……しょっと!」
サヤはおもむろに床に敷かれたぼろ布を引っ張り上げると、そこには重々しい扉が隠されていた。ピカピカに磨き上げられたその扉には、蛇の刻印が刻まれていた。
「おお……雰囲気ありますね」
「でしょ?」
サヤは床の扉の隅にしゃがみこむと、蛇の刻印に手を当てる。
すると扉全体がぼわっと白い光を放つ。
「『認証完了』」
扉からそんな声が聞こえたかと思うと、扉は静かに開け放たれ、地下へと続く階段が晒される。
「お~」
隠れ家っぽさが増してきて思わずイバンは声を上げる。サヤも満更でも無い顔でニッとイバンに笑みを向ける。
そしてサヤが階段を降り、イバンもやっぱりそれに続く。
「うわ……うわうわうわ……なんですかこれ……」
想像以上に広い空間、そこにひしめくいくつもの機械。壁には凄まじい量の……ブキ、だろうか。刀に銃にチェーンソーに手錠にコインに首輪に鎌にハリセンに泡だて器にヘルメットにナイフに……今挙げたのはごく僅か。一部ブキじゃないものも混じっている気がしたが。ともかく大量の物騒な品々が飾られていた。
「ここ……なんなんですかサヤさん」
「ふっふっふ……」
サヤは待ってましたと言わんばかりに笑い、ガバっと大きく両腕を広げる。
「ここはかつての超科学帝国レジェイルが遺した研究ラボ……最早その全てが管理者達に破壊されたと世では言われている、超科学兵器開発所だよ!!」
「ほえ~」
イバンはまぬけな声を漏らし、とりあえずチョコバナナクレープを頬張るのであった。




