表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔血都市  作者: 龍空
8/9

リファレンス:情報分析官ジョウホウイン・デエタのメモ『ドールメーカー』

リファレンスって?:参考文献と参考資料とかそういう感じの意味らしいのである

つまり?:つまりリファレンスエピソードはエピソードといいつつこの物語に出て来る物や事件についての情報とかをまとめてる様な資料に近い、そんな感じのものなのである。

 さてさて、何処から始めたものか迷うところだけれども。

 とりあえずは疑問点や軽い仮説でもまとめる事としよう。


・3つの事件と疑問点


 あの夜多くの場所で例の紙人形が関わる事件が起きたが、我らが番犬部隊が比較的密接に関わったものは3つ。『第7地区某所の倉庫内での野良犬虐殺事件』『自称魔術師達による体育館立てこもり事件』『会社員の男による同僚女性殺害未遂事件』だ。

 これら全てにおいて、『特定の人物の姿を為し、まるで本人の様に振る舞う能力があると推察される紙人形』が登場しているのだが、それぞれの事件における『紙人形』の立ち位置、各々の事件で紙人形達がどういった役割を果たしていたかを改めて振り返ってみよう。


『野良犬虐殺事件』……何者かによって殺害された被害者

『立てこもり事件』……人質を取り、崇高な儀式とやらを行っていた犯人達

『同僚女性殺害未遂事件』……同僚によって殺害されかけた被害者


 こう書いてみると、パッと見は共通点が無い様に思える。だが、ボクはそうは思わない。

 共通点が無い様に見える主な原因は、立てこもり事件の犯人達の動きだ。

 あの野良犬達でさえ、今回の件に関しては完全に被害者の立ち位置でいるにも関わらず、魔術師を名乗る彼らは人質を取り体育館に立てこもったれっきとした加害者である。ここが話をややこしくしている様に感じる。


 だがよく考えてみて欲しい。『ドールメーカー』が悪人で、そして『自由に姿を変える紙人形を作る超科学兵器』の使い手だったとしたら。むしろこの使い方の方が自然と思えないだろうか。

 つまり『紙人形を用いて悪事を為す』『紙人形を利用して人を殺す』……などなど。犯罪の道具として使われる方が話の流れとしてしっくり来るんじゃないかとボクは思う。


 にもかかわらず、だ。第7地区の倉庫と裏路地でおきた事件に関しては、紙人形は『被害者』の立ち位置に居る。紙人形が犯罪を行っているのではなく、だ。しかも紙人形が『被害者』の立ち位置に居るという点は、あの夜に紙人形が関わった事件のほとんどに共通している。ほとんどの事件において、紙人形は『被害者』なんだ。

 ここにボクはとても違和感を覚える。

 紙人形を作るのにどの程度の手間がかかるかは分からないが、どうやら製作には髪の毛、恐らくは成り代わる人物本人の髪の毛が必要だと推定されるが、わざわざ殺させる為にそんな手間をかけて紙人形を作ったと? 一体何の為に?


 その理由の本質までは分からないが、その手前の動機に関しては、事件の立ち位置に関する共通性の高さから、そのまんまストレートに考えていいんじゃないかとボクは思う。

 要するにドールメーカーの目的は『自分が作った紙人形を殺させる』事そのものだったんじゃないか、とね。


・殺人者について


 いやそうだとしても立てこもり事件については10割加害者だし犯罪者だしおかしいだろどうやって説明付けるんだよ、と思うかもしれない。ここまで書いててボクも思った。

 けどボクのデータによるととても優秀なボクの頭脳を以てすればすぐに答えを導きだせた。


 要するにこうだ。紙人形が被害者となった全ての事件には、明確な『殺人者』となる特定の人物が想定されていたんだ。きっと。恐らく。多分。

 つまりあの夜紙人形が関わった事件において『殺人者』となった全ての人間は、自分の意思で殺人を犯したのにも関わらず、『ドールメーカーの想定したシナリオに沿って殺人を行わさせられていた』んだ。仮説だがかなり自信がある。

 そう考えると同僚女性殺害未遂事件に関しては、きっと何らかのイレギュラーが発生して未遂に留まったのだと思う。


 ではあの立てこもり事件における『殺人者』は誰か。あえて言うならそれは『クロサキ・アカネ』くんだ。『クロ』くんも含めてもいいかもしれない。

 あの立てこもり事件においては『エナジーフィールド』が使われた。非常に破壊困難な厄介な代物であり、周囲一帯を壊滅させずに突破できる方法はそう多くは無い。ジュリくんの超科学兵器すら防がれてしまう。

 そしてあの事件は、『偶然非番で体育館近くのラーメン屋で食事する為に出かけていたアカネ君のすぐ近く』で発生し、『偶然エナジーフィールドを突破できる我らが番犬部隊の怪力番長リアくんがすぐに来られない状況』であり、『人質に危害を加えられないような作戦遂行が望ましい状況』でもあった。

 そしてアカネ君はあれでいて案外正義感が強く、厄介事には思わず首を突っ込んでしまう性分だ。程なくしてギル副隊長から出動の連絡が来たが、そうでなくても勝手に作戦に合流していただろう。

 つまりはあの状況においてはアカネくんが立てこもり事件の解決に加わる可能性が非常に高く、恐らくその過程で立てこもりの犯人が1人は殺害されるだろう、と。そう予測する事が可能だったかもしれないという事だ。


 ……ここまで書いていて、自分の言っている事が良く分からなくなっている。

 本当にそんな予測の下に立てこもり事件を紙人形に起こさせ、それがアカネ君に誰かを殺させる為だったとしたら。ドールメーカーの情報収集能力は恐ろしく高く、警察内部の情報にまで精通しているという事になる。

 しかもそこまでの情報を駆使して起こした事件の動機の本質が未だにさっぱり不明なのが不気味でもある。

 なんだか気分がどんよりしてきた。話題を変えよう。


・紙人形の性能について


 例の同僚に殺されかけたナツエさん。の紙人形……長いな。『ナツエ人形』と直接相対していたジュリくんに、ナツエさん本人の写真と見比べてみてもらった。

 ジュリくん曰く『鼻の骨格』『目元のしわ』『頬のにきび跡』『歯並び』に明らかな違和感を覚えたらしい。

 つまり紙人形の、あえて言うなれば『擬態』は決して完璧なものではないらしい。が、『あーし以外だとほとんど気づかないと思うっす。みんな節穴っすよねぇ。たはー!』とジュリくんが言っている事から、かなりの精度で本人に似ている事は間違いないらしい。野良犬人形も自称魔術師人形も、恐らくはきっとそうなのだろう。

 

 ジュリくん曰く、ナツエ人形はその言動があまりにも曖昧で、殺されかけたショックという一言だけでは違和感が残る程、あまりにも話す内容が漫然だったという。

 居住地、好きな食べ物、好きな飲み物、好きな漫画、趣味、同僚との関係、家族は居るかどうか。聞きすぎな位にジュリくんはとにかく場を和ませる為にナツエ人形に質問を投げかけていたらしいが、これら全てにナツエ人形は答えず。居住地位は応えても良さそうだがあいまいに濁すだけ。ジュリくんが『そもそも答えられなかったんじゃないか』と思うのも無理はない。

 

 というかそもそもの話。泥酔し、超科学兵器を手にして気が大きくなっていた同僚の男とは違い、身を護る手段も何もない女性が『あの』第7地区にそれも夜中にわざわざ1人で行くなんて馬鹿な事をするのがおかしい。誰かに命令でもされていない限り。


 ここまでをまとめるとドールメーカーは自らが作った紙人形を特定の人物に似せて作成し、そのある程度の行動を指定させる事は可能であり、傍目から見れば本人と同様の振る舞いをして見せるが、実際は本人の記憶等はほとんどトレース出来ないのではないかと推測出来る。


 そしてもう1つ。紙人形には特筆すべき点がある。

 それは元となった人物が『適合』する超科学兵器には紙人形も『適合』するという点だ。

 立てこもり事件における犯人の1人はエナジーフィールドを使っており(よく考えたらこれを用意できたのもおかしい)、アカネくんとクロくんの友情コンビネーション脅迫に屈した彼もまた紙人形であった。

 そして後にボクが紙人形の元となった人物を特定し、ギル副隊長とクロくんが捜査した結果、元となった人物もエナジーフィールドの適合者だったらしい。

 これは……これはとても恐ろしい話だ。正直ボク達が当初想定してたよりも、ドールメーカーは恐ろしい能力を持っている。

 単独犯か複数犯かもわからないが、とにかく早いところ隊長辺りがふんじばってボコボコにしてリアくん辺りが身体を四つ折りにでも畳んで牢獄地区にでもぶち込んでくれれば、少しはこの都市も平和になるだろう。


 追記があれば、また。――情報分析官ジョウホウイン・デエタ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ