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魔血都市  作者: 龍空
5/10

ガールミーツボーイ&バイオレンス&……

 唐突にやたらと高級なホテルの一室で目覚めて自分の事も含めあらゆる事を忘れていた。

 唐突にやたらとかわいい女の子に声をかけられ、

 唐突にやたらとかわいい女の子に手を引かれ、

 唐突にやたらとかわいい女の子に裏路地に連れ込まれたと思ったら、

 唐突にやたらとかわいい女の子に鳩尾を蹴られて壁に叩きつけられた。


「カッ……ハッ……!!」


 一瞬だけイバンの意識は飛んでいた。しこたま打ち付けた後頭部と背中に鈍痛が奔る。

 

「ゲホ、ゲホ、なんで……」


 イバンの掠れた問いかけは淀んだ空気に融けて消え。目の前の少女、サヤは凄まじい跳躍力を発揮して宙に舞っていた。

 サヤが履いているブーツが白い輝きを発している。


「あんまり苦しませる趣味は無いから許して、ね?」

「流石にかわいいから許されるって範疇を超え……うわっ!!」


 サヤは壁にもたれかかっているイバン目掛けて急降下。落下の勢いを乗せた凄まじい勢いの蹴りを突き刺そうとするが、ギリギリの所でイバンは横っ飛びで回避。建物の壁に綺麗な穴が空いた。

 そのまま後ずさりとにかく距離を取ろうとするイバンだったが、サヤは地を蹴り一瞬で間合いを詰める。

 そしてポンと優しくイバンの肩に手を置いた。


「大丈夫、逃げなければ一瞬で終わるから。何も怖くないよ?」

「どの辺が!?」


 肩に置かれた手を振り払おうとするも、意外と力が強い。そのままサヤはイバンの胸元に跳び膝蹴りを加えると、浮き上がったイバンの身体を地面に叩きつける。


「い……ったぁ……」


 しかしあまりの急展開に付いていけない頭を必死に動かし、精いっぱいの呟きを発するイバン。あまりの痛みに身体がいう事を聞かない。動かない。

 もう何もかも意味が分からない。突如死の淵に立たされたイバンの頭を、様々な疑問と怒りと不満が駆け巡る。


 何故自分は殺さなければならないのか。

 というかそもそも自分は誰なのか。

 結局レジェイルってなんだ。世界最後の都市ってどういう意味だ。

 都市を取り囲むあの意味不明な高さの塀の外はどうなっているんだ。

 管理者ってなんなんだ。

 こんなに治安が悪いなら手紙にもっとちゃんと書いといて欲しかった。

 手紙の主は何を知っていて、何故自分を都市に放り出したのか。

 ていうかやっぱおかしいなんで自分は殺さなければならないのか。

 なんだこの女の子は。

 自分を殺そうとしている癖に変わらず魅力的な笑みを浮かべる彼女がとても腹立たしい。

 確かにどうせ殺されるならかわいくて、なんか素敵だなって思える子に殺される方がいいのかもしれないけど、でもむかつく。何かないのか。何か。

 何か。


 仰向けに地面に叩きつけられたイバンの頭上で、サヤがポンポンと宙を蹴って高く浮き上がる。


「やっぱり締めはギロチン……かな。この間のおじさんには未遂だったし……よし」


 サヤはニコッと笑みを浮かべた。


「じゃあね、イバン君。君と話せて楽しかったよ」

「ふざ……けんな……」


『【犠牲の指輪】と呼ばれるその指輪(私はサクリングの方が良いと思う)は、指に嵌め、自らの身体の部位をイメージして念じる事で効力を発揮する。するとそのイメージした部位が欠損し、欠損具合に応じてなにか凄い事が起きる。』


「(ああ……書いてたな……そんな事……)」


 サヤが更に高く浮かび、急降下を始める。ギロチン、というからには。恐らく首を踏み砕くかあるいは踏み千切るか何かする気なのだろう。

 集中力が増し、やたらと時間が遅く感じる。どうにか視線と左手を動かし、その指輪を眺めた。


「(欠損って何だよ……まあいいか……今まさに首を欠損しそうになってるし)」

「(そうだな……)」


 イバンは掠れる声で呟いた。


「両腕……持って行っていいよ……サクリング……」


 瞬間、『犠牲の指輪』が眩い青色の光を発した。急降下していたサヤが異変に思わず動きを止め、空中で制止する。


「一体何が……イバン君?」


 困惑してイバンを見下ろすサヤに、イバンは唇の端を歪めて笑う。何とも悪い笑顔だ。


「タダで死んでやると……思うなよ……」


 意外とこんな表情やセリフも出て来るんだな、ちょっとかわいいかも。と、サヤは思った。

 瞬間、イバンの両腕が弾けた。


「ッ!?」

「ハハ……良い顔で、ゲホ、驚くじゃん……サヤさん……」


 驚くサヤと全てを受けいれているイバン。両腕が弾けて消えたかと思うと、そこから無数の蔓……あるいは触手? 無数の棘に覆われたソレが幾本も放たれ、サヤ目掛けて襲い掛かった。


「(あえて名前を付けるなら骨の茨……って所かな……やるじゃん、僕の骨)」

「(生き残ったら魚と牛乳を沢山取り入れる様にしよう……)」


 イバンの意思とは無関係に骨の茨は激しく動き回る。


「何コレ何コレ、完全に予想外……くっ!!」


 サヤ宙を舞い、迫る骨の茨を必死に避けていく。

『エアシューズ』。アカツキ・サヤが所持する超化学兵器の一つ。これまでの流れを見れば察しがついているかもしれないが、自在に宙を舞い、素早い移動を補助する便利な一品である。

 このエアシューズが無ければ、既にサヤは骨の茨に貫かれていた可能性が高いだろう。


「これは……何? 急にイバン君が青く光って両腕が弾けて……アアッ!!」

 

 思考を巡らせながら激しく移動していたサヤだが、掠めた骨の茨が鋭くサヤの左腕を斬りつけ、思わず声を漏らす。

 しかし一瞬動きが鈍った事により、そのまま左腕を骨の茨に絡めとられてしまう。鋭い無数の棘が腕に食い込み、叫びたくなるような鋭い痛みが奔る。


「カ……くっ……!! 考えを止めないで、考えて、アカツキ・サヤ……」


懐からナイフを抜く。しかし左腕に絡まる骨の茨は断ち切れそうになく。更に迫ってくる骨の茨をなんとかナイフで逸らしながら思考を続ける。


「(どこまで考えたっけ……そう、青い光、両腕が弾けて代わりにこの妙な茨が……)」

「あ……! クソ、なんで忘れてたんだろう私……」


 こんなの深く理由を考えるまでも無い。あの指輪だ。


「(刻印が無かったからすっかり忘れてた。やっぱりアレは犠牲の指輪だったんだ。イバン君は両腕を対価に、この茨を生み出した)」

「(って事はまさかオリジナル……? なんでそんなレアすぎる逸品を……)」

「(っじゃなくて!! って事は……って事は……あの資料には確か……)」 


 サヤは犠牲の指輪の詳細、その対処について必死に思い出す。


「(かつての超科学帝国レジェイルは犠牲の指輪を兵士に配った……『むざむざ死ぬくらいならこの指輪を使ってから死ね』と……)」

「(レジェイルと戦う4国がこの指輪を研究して導きだした結論は……)」

「(『使用者が死ねば効果はすぐに消える。だから殺すしかない。あらかじめ使わせたくないなら使われる前に問答無用で即死させるしかない』……だった筈)」

「(だから、結局……)」


 サヤの脇腹を骨の茨が掠め、鋭く斬りつけられる。


「結局殺さなきゃ延々と終わらない……!!」


 サヤは意を決し、再びイバンに向けて突撃する。絡みついた骨の茨がサヤを引き留めようと強く締め上げ、進行方向とは逆に引っ張る。腕の肉が斬り裂ける痛みに堪えながら、無理やりサヤはイバン目掛けて急降下した。


「う……アアアアアアアアッッッ!! これで……これで……!!」


 指一本動かせないどころか両腕が弾けていたイバンは、立ち上がる事も当然出来ずに自身の骨とサヤの攻防を眺めていた。そして、ついにこっちに迫ってくるサヤの姿を。


「ゲホ、結局、ダメ、だったか……そうだなぁ……」


 何か言い残しておくことは無いかとイバンは考えた。この(記憶上は)数時間足らずの短い人生を踏まえて。

 どうせ死ぬんだし何を言っても構わないか、と。


「これで……終わりッッ!!」

「ゲホ、キミみたいな、かわいい子と……一度くらいデートって奴をしてみたかった……」

「え……? ウグッ!!」


 バキッッッ!! と首の骨が砕ける音が裏路地に響き。

 そして終わった。首を踏み砕かれたイバンは全身の力が抜けていく。

 しかし同時に。イバンにトドメを刺し、無防備になっていたサヤの背を幾本もの骨の茨が貫いていた。

 サヤは力無くイバンのすぐ傍に倒れ込み、色を失ったイバンの頬に手を添えた。


「イ……イバン、君……」

「わ、たし、も……」

「デート、の、方が、たのしか、たかも……て……」

「ちょっとだけ、おも……」

 

 そして目を見開いたまま。アカツキ・サヤとイバンは死んだ。

 イバンが指に嵌めていた『犠牲の指輪』が、使用者が死んだことによって力が失われ、骨の茨は砕けて灰の様に消えた。

 2つの死体を残し、裏路地は静寂が支配した。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………そして、目を覚ました。


「…………?」


 紺色の髪の少年、イバンは目を開いた。

 ゆっくりと身を起こし、辺りを見回す。

 おかしい。何かおかしい。確か自分は首を砕かれて死んだ筈。それに何度も蹴られて全身ボロボロになった筈。でも今自分に何もない。怪我も無いし首もぐるぐる動かせるし、

 何より何故か両腕が綺麗に存在していた。


「訳が分からない……なんで僕……生きて……夢……?」


 そして思わず言葉を詰まらせた。自身の隣に、おびただしい血を流し息絶えていたアカツキ・サヤがいたからだ。


「サヤさん……」

「…………」


 目の前の少女は自分を殺そうとした。いや、多分殺したのだろう。

 そして自分もまた、目の前の少女を殺した。良く分からない指輪の力で。

 自分を殺そうとする相手に抵抗するのは当然の事だし、その結果として相手が死んでしまうのはしょうがない事なのかもしれない。

 どう考えても、人を殺そうとする方が悪い。


「………………」

「でも……」


 悲しいな、とイバンは思った。


「でももう、どうしようも……ウグっ!!」


 その時。イバンの頭が急に痛み出す。壁や床に叩きつけられたり蹴られたりしたからでは無い様だった。


 ――君は××として×××の力を――

 ――あるいはその力を――――る事を望めば――

 ――間に合えば――しかしそれは――

 ――を――とするという事でもあり――決して勧めは――

 ――――。


 誰かの言葉が浮かんでは消える。擦りきれたテープの様にノイズが入り、その全ての言葉が意味も無い様に感じる。

 だがしかしイバンは――思い出した。言葉に出来ない何かを。自分が望んでいる事を為す為に何をすべきなのか。

 意味も理屈も分からないが、何故か身体が勝手に動いていた。


「サヤ、さん……」


 イバンは近くに落ちていたナイフを手に取ると、自らの掌を迷わず切る。そしてその掌をサヤの口元に当てた。


「(なんで僕はこんな事を……これに何の意味が……)」


 そう思いつつも動きは止めなかった。屍となったサヤの首元を支えて持ち上げ、その身体に自らの血を流し込んでいく。流れる量が思ったより少なかったので再び掌にナイフを滑らせ、血をどんどん流し込んでいく。

 温度を失いかけていたサヤの身体に僅かな熱がこもる。ほんの僅かに。


「それで、ええと……」


 次はどうすればいいんだっけ。いやそもそも何をやっているんだ自分は。

 イバンは目を閉じ、思い浮かぶままに言葉を紡いだ。


「アカツキ・サヤ…………さん」

「キミが僕の………………」

「『牙』となる事を認めます」


 言い終えた途端、ぽわっとサヤの全身を青い光が包み込む。そして僅かにその身体が浮かび上がったかと思うと、全身に空いていた痛々しい傷跡がみるみる内に癒え、塞がっていく。

 そしてドン!! と心臓の辺りが跳ねたかと思うと、地面にストンと身体が落ちた。


「これで……いい……のかな」

「ん、んん……」

「!」


 サヤが弱弱しい吐息を漏らし、イバンは思わずびくっと身体を震わせた。

 まさか、本当に……?


「…………あれ? え? あれ?」


 パチッと目を開けたサヤがキョロキョロと視線をさまよわせ、そしてなんとも気まずそうな笑顔を浮かべたイバンと目があった。


「え、え……え?」


 あからさまに困惑しながら身を起こしたサヤは、ぺたぺたと自分の身体をまさぐる。

 身体に穴も空いていなければ、引き裂かれた腕もまるで何事も無かったように綺麗な形を保っていた。


「い……イバン、君?」

「は、はい……」


 サヤはようやく立ち上がり、ずっと地面に座っていたイバンも、固まった身体をほぐす様に立ち上がる。

 再び目があった。

 互いに何を言うべきか分からない様だった。大きすぎる疑問符がサヤの頭には浮かんでいた。イバン自身にも、だが。


「コホン、ま~……アレだねイバン君」

「はい」

「なんかこう……一段落? ついた、みたいだし」

「はい」

「とりあえずデートしよっか」

「…………はい」


 そういう形でこの場は決着するのであった。

 よく分からないが本当にこれで良かったのか……? という当然すぎる疑問を、イバンは一旦無視する事にした。

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