クロサキ・アカネ
某日。とあるイかれた少女がチンピラ達を虐殺した日。あの夜。
ドーム状の謎のバリアに包み込まれた第11地区の大きな体育館を、大量の警察車両が取り囲んでいた。
警察車両――この超巨大都市レジェイルにおける警察とは、都市警察団ガルディアである。つまりガルディアの車両という事だ。
幾人ものガルディア団員が武器や通信機を手に、遠巻きに体育館の様子を警戒していた。巨大なバリアに攻撃し破壊を試みているものもいたが、いずれも成功はしていない。
「愚かなるガルディアの犬共に告ぐ!! 速やかにここから立ち去れ!! 我らは今現在神聖なる儀式の準備を進めている!! 儀式さえ終われば直ちにこの場所は引き渡そう!!」
彼らガルディア団員の視線の先、体育館の正面入り口の真ん前には、1人の男が居た。白いローブを身に纏い、その手にはメガホンが握られており、バリア越しに何度も何度も同じ主張を繰り返していた。
体育館内にはこの男と同様に白いローブを纏い、武装した人物が百人近く存在しているという情報をガルディアは入手していた。
今から1時間ほど前、突如としてこの体育館に押し寄せたこの白い集団は、内部にいた一般人達を人質に取り、現在まで立てこもりを続けている。
「その儀式とは即ち、魔神降臨の大魔術!! 我ら魔術師連盟に受け継がれし偉大なる魔術書、そこに描かれている大魔術だ!! この大魔術により、この世の真実を世界中に知らしめるのだ!」
男の声色には一切の淀みが無い。魔人降臨の儀式とやらも魔術とやらも、心の底から信じ切っている様だ。
「ハア、くだらねえ……つーか声デケエよあのおっさん……魔術だか幻術だか呪術だか知らねぇけどよぉ……人様に迷惑かけんじゃねぇよ……あークソ」
体育館を取り囲む警察車両の1つ、そのボンネットに腰かけていた赤髪の女、クロサキ・アカネは大きく溜息を吐いた。
当然アカネもガルディアに所属する警察官の1人であるのだが、彼女が所属しているのは都市警察団ガルディアの中でも特に異色とされる部隊の1つ、『番犬部隊』と呼ばれる部隊である。
「あー……こちらアカネ。こちらアカネ。副隊長補佐殿。まだ現場には到着しないのでしょうか。こちとらいい加減クソ飽きてきた次第でございますが。つーかもうアタシ1人でカタぁつけていいでしょうか。どうぞー」
アカネは耳に装着していた小型通信機に手を当て、呼びかける。するとすぐに優しい声色の女から返答があった。
「『こちらクロです。当然ダメですよアカネさん。そもそもアカネさんのチェーンソーは私が持って行ってるのに、どうやって障壁を突破するつもりですか。ギル副隊長と一緒にもうすぐ着きますからもうちょっと待っててくださいね? どうぞ』
「はぁ……了解了解。クソ、なんでせっかくの休みにこんな事件に出くわしちまったんだか……」
「『通信機でグチるのは止めてくださいねー、どうぞー』」
「…………りょうかーい」
通信機から手を放したアカネ。ふと視線を前に向けると、相変わらず白フードの男は激しく、たっぷりの熱量を込めて力説していた。
「貴様ら犬畜生共が『超科学兵器』と呼び、あろう事か恒常的に使用している代物!! あれは忌まわしき旧時代、太古の昔に栄え、愚かにも世界戦争を引き起こしたとされる国家レジェイルの呪われし遺物だ!! 速やかに使用を禁止し、廃棄すべきだ!! あれは由緒正しき魔術を冒涜せしめんとした、邪法の――」
「もうなにいってんか分かんねぇよ、ハァ……つーかテメェらが使ってるバリアも超科学兵器じゃねーか……! ボケがぁ……!!」
腰かけていた車両のボンネットにヒョイと飛び乗ったアカネは、あぐらをかいて苛立たし気に頬杖を突く。
「そもそも!! この超巨大都市レジェイルとはいったいなんなんだ!! かつての戦争を忘れない為だかなんだかしらないが、何故かつての忌まわしき国家の名前をそのまま使う!! 愚かにも程がある!!」
「んな事アタシらに言うなよもっと偉い奴に言えよ……管理者とか」
「『偉大にして公正なる管理者』による統治だと?? ハッ!! その結果はどうだ? 表面上は平和が保たれている様に見えるが、毎日の様に事件が起き、超科学兵器を所持している殺人鬼なんてのも居る程だ!! それもこれも貴様らガルディアの怠慢、ひいては私欲で各々の担当地区を好き勝手する管理者共の愚かさが招いた――」
「それとテメェらの魔神降臨の素晴らしー儀式に何の関係があんだよ……つーか魔神で神聖な儀式ってなんだよ……アホかよ……起きながら寝言を言うなよ……寝とけよ……」
ついにボンネットの上に寝転んだアカネ。足をバタバタと上下させながらブツブツと愚痴を吐き続ける。
「人の休みを邪魔してよー……下らねぇ寝言垂れ流してよー……つーか急に呼び出されたからアタシだけ私服で浮いてるじゃねぇかよー……本当なら今頃馬鹿みたいに濃い味のラーメンを馬鹿みたいに啜ってた筈なのによー、アホがよー……ボケがよー……ダイナミックストロングロイヤルアホがよー……あー、クロの奴まだ来ねぇのかよー」
「来ましたよ」
「んあ?」
ヒョイとアカネ顔を覗き込む黒髪の女。名前はクロ。番犬部隊特有の黒地に赤いラインが入った制服を身に纏っており、首には特徴的な黒い首輪を付けている。
アカネと同様番犬部隊に所属している隊員で、役職は副隊長補佐。名義上ヒラ隊員であるアカネの一応上司にあたるのだが、それが態度に現れるかと聞かれれば微妙なところだ。
「遅ぇよ……」
「ごめんなさい。第7地区でもちょっと騒ぎがあって……」
「他にもこんな騒ぎがあったってのか?」
ヒョイと身体を起こしたアカネがクロに問う。
「ここまで大規模ではないですけど……超科学兵器を所持した会社員による殺害未遂事件、それと廃倉庫での虐殺事件ですね。とある女性が……」
「おしゃべりはそこまでだ。今はこっちが最優先事項だ」
クロの言葉を遮りズイと姿を現した、無精髭を生やした長身の男。腰には白い刀を提げている。
この男の名前はギル。都市警察団ガルディア番犬部隊の副隊長にして、大都市レジェイルにおいても名の知れた剣士の1人である。
が、やはりアカネの態度は変わらない。いつも通りだ。
「わざわざ副隊長サマが出てくるとはな……そんなにヤベェのか? あそこに引きこもってる奴ら。正直アタシには頭のイかれた素人にしか見えねぇんだけど?」
「素人に見えるのは俺も同じだが……奴らは強力な超科学兵器を持っている可能性が高いらしい。あのエナジーフィールドもそうだ」
アカネの言葉に憮然と返し、巨大なバリアに包まれた体育館を指さすギル。アカネとクロも釣られてそちらに視線を向ける。
『エナジーフィールド』。本体は小さな端末の形状をしたこの超科学兵器は、『適合者』が所持した状態でのみ起動可能であり、指定した範囲を包み込む円状のバリアを形成する。
体育館を包み込むバリアは地上においてドーム型に見えるが、実際は地下までバリアは届いている。この状態では誰も通る事は出来ない。しかし時間が経てば内部の酸素が薄くなるという訳でも、バリアの境目に置かれた物体が切断されるという訳でもないらしく、数多の超科学兵器がそうである様にはっきりとした仕組みはわかっていない。
バリアの硬度は非常に高く、通常武装で破壊するのは不可能ではないが困難を極める。仮に爆薬を用いてこのバリアを破壊しようとした場合、辺り一帯が焼け野原になる覚悟が必要だろう。
「……まぁ、確かに。あんな便利なモンどっから仕入れたんだか……」
「だからこそわざわざ休みのお前に現場待機して貰ったんだ……リアにもアレは壊せるだろうが、今アイツは13地区に出張ってる。それに……」
副隊長のギルの言葉に、アカネは渋々ながらも頷いた。
「人命被害を最小限に抑えるには、アタシが適任って言うんだろ? ……ま、仕事ならちゃんとやりますよっと……あ、アタシのチェーンソーは?」
「ここにあります」
乗ってきた警察車両の中から、ゴテゴテと派手な装飾が施された大きなケースを引っ張り出すクロ。
「寄越しな」
重そうにケースを引きずるクロからヒョイと取り上げたアカネは、乱暴に地面に置きケースを開く。
「よしよし、今日もイカしてるぜ、アタシのチェーンソーちゃんよ……!!」
ケースにしまわれていた武骨なチェーンソー。だが、なぜかこれには刃が取り付けられていなかった。
しかしそれをアカネが手にし、持ち手に取り付けられたトリガーを引くと、
「キタキタキタ!!」
チェーンソーが眩い赤い光を発し、けたたましいエンジン音と共に半透明な赤黒い刃が出現した。
『猛牛』の名を冠するこのチェーンソーもまた、超科学兵器の1つである。
「……ああそうだ。クロ、他の部隊との連携も大丈夫だよな?」
「ええ。あくまでバリアを突破し、内部に突入するのは私たちだけ。他の方達は周囲の封鎖と逃亡者の確保、保護に努める様に伝えてあります」
「上出来」
アカネは満足そうに頷き。そしてギルが言葉を続ける。
「アイツらはエナジーフィールドを突破されるとは夢にも思ってないだろう。わざわざ人質を確保し、周囲に民家も多いこの場所に引きこもったのは、人質を含む多くの人間といくつもの建物を吹き飛ばしてまでエナジーフィールドを破壊しないだろうという考えの事。あそこでわめいている男以外に外の監視要員を配置している様子もない。俺たちは裏に回り、フィールドを突破し、一気に体育館内部まで突入。作戦を実行する。あと、これは言うまでもないが……」
ギルが目を鋭く光らせ、声を低く、念を押す様に続ける。
「この作戦の主役はお前達2人だ。俺はあくまで補助に回る。バリアを破壊し、全員で数に任せて中を制圧するのは容易い。だがそれでは犯人達が激昂し、我々のみならず内部に囚われた一般人の多くも被害が出る可能性が非常に高い。犯人達にもな。それを最小限に抑える為の作戦だ。慌てず、冷静に、だが急いで躊躇なくやれ。この作戦はスピードが肝心だ」
ギルの言葉に、珍しく神妙な顔でアカネは頷いた。クロもまた同様に頷く。
「分かってますよ副隊長サマ。『コレ』をやるのは初めてじゃぁないんだ……それじゃあ、まあ……やるか」
「はい」
「ああ」
そして番犬部隊の3人は、グルリと体育館の裏まで回り込んだ。ギルの言葉通り、体育館の周囲には見張りの1人も居なかった。
「……行くぞ」
アカネはクロとギルに言い、勢いよく走りだした。そして手にしたチェンソーを振り上げ大きく跳びあがると、バリアにチェーンソーの刃を振り下ろす。
超硬度を誇るバリアだが、まるで熱したナイフでバターを切るかの様にあっさりと切り開かれた。そこから更に何度もアカネがチェーンソーを振るうと、人が通れる程の大きな亀裂が生じた。
『猛牛』。クロサキ・アカネが所持している超科学兵器の1つ。
『悪魔の腕』、『エナジーフィールド』等の超科学兵器とは違い、この世に(確認出来る限りは)1つしかない。
適合者が手にした時のみ起動が可能となり、トリガーを引くと刃が出現するこのチェーンソーは、荒々しい獣の如きエンジン音を奏で、凄まじい切れ味を発する。
特にこの『エナジーフィールド』等のバリア、シールド系の超科学兵器に対してその切れ味の良さは顕著で、恐らく障壁突破用に製造された代物ではないかと推測されている。
「そう!! つまり我々魔術師連盟の偉大なる目的こそ、世界に真なる安寧……あれ?」
未だに元気いっぱいに体育館の外で騒いでいた白フードの男。しかし目の前のバリアに若干の揺らぎが見えた。
だが、すぐに元に戻った。男は僅かに首を傾げる。
「いや、気のせいか……ああ、何だっけ。そう! 世界に真なる安寧と真実をもたらし……ええと、なんだ。傲慢な権力者たちに鉄槌を……」
残念ながら気のせいでは無かった。バリアを突破したアカネ、クロ、ギルの3人は、アカネを先頭に体育館に突入。封鎖された扉をチェーンソーで破壊し、一気に『儀式』の場まで飛び込んだ。
「なんだこりゃあ……?」
アカネは目の前の異様な光景に思わず間の抜けた声を漏らす。
体育館の床に描かれた禍々しい赤い魔法陣。その所々には身体を縛られた一般人や、白いフードの男女が立っており、その中心点には1人の男が立っていた。その他大勢の白フードたちは、魔法陣から離れた場所で整列し何かの呪文らしきものを唱えていた。気味が悪い。
それに、どうにも生臭い。床に描かれた赤い魔法陣から異臭がする。一瞬それは人の血かと思ったが、体育館の端に捨てられた豚の死骸を見るに、幸いにも違う様だ。
「止まるな。やれ」
「了解。行くぞクロ!! 多分あそこのアレが偉い奴だ!!」
「はい」
ギルの言葉に頷き、アカネとクロは魔法陣の中心目掛け走り出す。侵入者の存在に気付いた白フードたちが一斉に視線を向ける。
「誰だ貴様らは!!」
「おまわりさんだ!!」
掴みかかってきた白フードの顔面をアカネが蹴り飛ばし、倒れ込んだ白フードの顔面をクロが勢いよく踏みつけ、アカネは魔法陣の中心にいた人物の首元を掴み上げ、その横腹にチェーンソーの刃を近づける。
「貴様、無礼だぞ!! 魔術師連盟の支部長の私に」
「マナー講座は来世に頼む」
そして躊躇なくチェンソーを振るう。バターの様に、とはいかなかったが。それでもあっさりと支部長の身体は両断され、切り離された上半身がべちゃりと倒れた。
アカネは支部長の上半身を掴んだまま、周囲に視線をやる。出来るだけ、最大限、狂気に満ちた目で。この目になるのは昔から得意だった。
「き、き、貴様!! 支部長を」
「全員そこを動くんじゃねぇ!! 殺すぞ!!」
アカネが怒号を上げると、白フードたちの大半の動きがピタリと止まる。
数人はそのままアカネに近づこうとしていたが、素早く背後に回り込んだギルが強かに殴りつけると、すぐに昏倒した。
本当に素人だな、とギルは小さくつぶやいた。
「言う事を聞いてくれてありがとう……フフ、だがもう一度念を押しておく。動くな。動けば、殺す……コイツみたいに……いや、コイツよりも苦しい方法でなぁ……フフ、フ。そう思ったらやっぱ1人位動いてくれてもいい気がしてきたかも……フ、フフ、ウフフフ、アハハハハハハ!!」
アカネは出来るだけ狂気に満ちた様な笑顔を浮かべ、狂気に満ちた感じの笑い声を上げた。普段のガサツさからは考えられない、可愛らしい少女の様な笑い声だった。
そんな笑い声を上げながら、切り取った支部長の身体を見せつけるようにグルリと動かす。
そして不意にポンと放り上げると、チェンソーを突き立てた。赤黒い刃は激しく回転し、辺り一面に赤いシャワーが撒かれ、ソレは砕け散った。
狂った演技は体力を使う。早い所終わらせたいとアカネは思った。
「【あの、ホントに動かない方が良いですよ? やると言ったらやる、殺すといった殺す人なので、この人。生きたまま内臓を引きずり出されたくは、ないですよね?】」
そしてクロは髪に付いた血をハンカチでふき取りつつ、白フード達に呼びかける。首輪に小さく手を当てながら。
「【まぁ、それ位なら良いんですけど。割と早い段階で死ねますから。この人は殺しのプロですけど、出来るだけ殺さないように殺すプロでもあるんです。だから、その、そうなりたくないなら動かないでくださいね? アハハ……】」
クロの言葉と小さな笑い声に、体育館内が静まり返った。何故だか分からないが、クロの言葉には妙な説得力があった。
指一本でも動かせば、考えうる限り最悪な。いや、考え付かない様な方法で殺されるんじゃないかという、確信にも近い感覚を覚える程に。
この言葉は白フード達に向けられた言葉だったが、身体を縛られた人質達もまた、身じろぎ一つせず息を殺していた。
「……ああ、そうだ。ここにバリアを張った奴がいるだろ、誰だ? ソイツだけは手を上げる事を許可する」
「【安心してください、それで殺したりはしませんよ。でも隠してたら殺しちゃうかもしれませんね】」
アカネとクロがそう言うと、白フードの1人が恐々と手を上げた。その手には小さな端末――『エナジーフィールド』の端末が握られていた。
「バリアを消せ」
「【あなたが消されたくなかったら】」
「は、はいぃ……いますぐ消しますぅ……!!」
白フードは震える声でいうと、震える指で端末を操作する。すると窓から、バリアの消失が確認できた。
ギルは通信端末に手を当て、外で待機していたガルディア団員に突入を支持した。
「良い子だ。いいかお前ら、今から他のガルディア団員が来て、お前らを逮捕する。その間も、決して抵抗すんな。いや1人位はしてくれて良いが、まぁおすすめはしない。それから然るべき場所に連行して、いろいろ聞かれるだろうが……全部素直に吐け。ゲロじゃねぇぞ? もしそうしなかったら……まぁ、良いたいことは分かるよな?」
「【要するに、良い子でいてくれさえいれば良いんです。出来ますよね? 皆さん……私たちは皆さんの事をちゃんと見守ってますからね?】」
誰も答える者はいなかった。が、反抗の意を示すものも居なかった。
異様な程静まり返った体育館に団員達が突入すると、粛々と手錠をかけられ1人、また1人と連行されていく。
「ウ、ウ、ウゥ……化け物……!! 化け物よ、アイツら……!!」
保護に成功した人質の女性が、嗚咽を洩らしながらそう吐き捨てる。
すると不意にアカネと視線が合ってしまい、怯えた様子で顔を背けた。
「【アカネさん、今のは……】」
複雑な表情でアカネに話しかけるクロ。だがアカネは手で言葉を制する。
「やめろって。もう私には効かねぇんだよそれ……それにもう慣れた。お前だってそうだろ?」
「ええ、そうですね。ごめんなさい……」
「謝る必要もねぇって……全部片付いたらラーメン食いに行こうぜ」
「正直食の好みはアカネさんと合わないですけど……ま、今夜位は付き合いますよ」
やや疲れた笑顔を浮かべるアカネの言葉に、クロは微笑んで頷いた。
そんなやり取りを交わしていたアカネとクロに、ギルが近づいてくる。その表情は決して晴れやかなものでは無かったが、いつも通りであるとも言える。
「2人とも良い動きだった。犠牲は最小限に抑えられたと言っていいだろう。他の団員からもかなり評判が良いぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとさん」
そしてギルは懐から2枚の封筒を取り出し、クロとアカネに手渡した。
「これは?」
「急な出動に対応してくれたお前達に副隊長からの労いボーナスだ。他の奴には言うなよ……? 飯でも食った後はあのバーに行くんだろ? マスターによろしく伝えといてくれ……今日はもう帰っていいぞ。後処理は俺がやる」
そう言い、2人の返答を待たずギルはスタスタと去っていった。
「ボーナスか……お、結構入ってるぜコレ。やったなぁ飲み放題だぜおい!! ハッハハハ!!」
「フフ、ええ、そうですね」
ガサツな笑い声を上げるアカネのはしゃぎっぷりにクロも思わず微笑を浮かべ、2人は血に濡れた体育館を後にした。
クロサキ・アカネ。都市警察団ガルディア団員。番犬部隊所属。
アカネは誰よりも残酷に人を殺し、恐怖によって誰よりも『必要最低限の犠牲』と呼ばれる数字を減らす事が出来る、番犬部隊の主力の1人である。