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春夢記

作者: 伊神讖

今朝は変な夢を見た。


 春休みに入って


 毎晩は朝方になってから寝ることが続くから


 時間的に


 昨晩ではなく


 今朝の見た夢だとわかる。





 夢に出てきたのはオレと


 最も仲がいい二人の友人。


 今より少しばかり幼く見えた。



 

 夢の設定はごく普通だった。


 時空を自由に飛びまわれる駅が一つあること以外なら。




 その夢の中、


 オレと一人の友人、


 ニコルとは親父同士が知り合いで、


 オレは毎晩のようにニコルの入れる甘い紅茶を飲みに行っているようだった。


 なぜか分からないが、


 それが習慣のようになっていたのかもしれない。


 そして、

 

 毎晩のように来るオレに対し、


 ニコルはいつも面倒くさそうな顔をするが、


 内心は満更でもなく思っているのが笑顔として顔に現れる。


 多分、


 ニコルといるなら


 いつでも楽しく笑えて、


 気持ちが甘い紅茶のようになれるから、


 大学が違くなった今、


 毎日のようにあえなくなったオレは


 たまに三人で会えるたびに


 待ち遠しかった。



 


 そして


 もう一人の方の友人。


 断じて不良ではないが


 普段は至って普通だが、


 時々に吐く毒舌と奇妙なことのせいで


 いつの間にか定着した呼び名だった。


 ニコルとは一味違うものをもつ。




 この二人はオレから見て、


 生クリームココアのようなもので、


 片方だけでも面白いが


 両方が揃ってうまさ二乗化するようなもの。




 夢は一旦そこで途切れた。


 いや、


 途切れたのではなく、


 ただオレが完全に覚えていないかもしれない。




 次に現れたオレは


 山間部ではよく見かける


 道傍の畑に立っていた。


 そこは本来にいた時空ではないことをなぜか分かっていて、


 戻らなくてはと思って


 駅に向かった。


 駅はJR新宿駅のような立派なものではなく


 地方にある地鉄の駅で


 なぜまだつぶれていないのと思うほどの路線の無人駅だった。


 そこにはニコルと不良もいた。


 このような


 はたから見たら、


 この上なく不自然なことでも、


 夢の世界ではすんなりと受け入れられる。


 不良はもう切符を買って


 改札口でオレたちを待っていた。


 未来なら何処行ってもなぜか驚くほどに26円しかかからなくて、


 過去に行く値段は憶えていない。


 26円の切符を買い、


 ホームで三人は待っていた。




 突然なこと、


 現代に戻る前に、近未来に行ってみないかと


 ニコルが頭もなく言い出した。




 「だったら、俺は過去に行って、フレーミングより先にペニシリンをつくるぜ」


 と続く不良。


 その時、


 さらに続くオレは何を言ったのかは覚えていない。


 ただ憶えているのは、


 低い夕日に、


 オレンジ色と暗い部分に塗り分かれた駅で


 いつくるかも知らない電車を待ち、


 楽しく話し合った三人のシルエットだった。





 おそらく夢はそこで終わったのかもしれない。


 目が覚めたのは朝の7:45頃。


 いつも朝開け前の3,4時に寝るオレには


 不思議なぐらい早い目覚めだ。


 つい先までに見ていた夢の断片を脳内でかき集めようとした。


 なぜか忘れたくなかった夢である気がする。





 一年前、

 

 オレら三人はまだ高校生だった。


 この先に広がる漠然として、


 未だぼんやりとした未来のことを強制的に考えさせられた。


 高校の頃の三年間は毎日一緒だった。


 三人で昼飯を食べ、


 三人で停めるべき場所ではないところに並んで自転車を停め、


 帰り頃に


 「誰だよ、あんなところにチャリを停めたヤツ」


 と変に主張しあった。


 この先も、


 三人での楽しい日々は当たり前のように続くことを


 根拠もなく信じ込んでいた。


 



 今日の夢は、


 おそらく昔に戻れたらいいなと思い、


 記憶の本のページを前に捲った産物だった。




 いつくるかも、


 どういう形をした時空をかける電車の姿をも知らないままだが、


 いずれ必ずやってきて、


 いやでも強制的に現代やその先の未来に連れて行かれることを知っている。


 おそらく、


 過去に行く切符の値段を憶えていないのも


 戻れないことを知っていたからではないかと思う。


 


 過去と未来


 手にしたものと未だ手に入らないもの。


 その新しいものを掴むためなら、


 今手に握っているものを離さなければならない場面は、


 これから先にも度々訪れるだろう。



 だけど

 

 まれだが


 今日のように、


 過去から届けられる懐かしきひと時の夢を見れるのも


 悪いものではない。


 

 


 未来はいずれ過去へと変わり、


 戻りたくなる頃になる。



 春夢から覚めたしばらく後に思えたことだった。

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