97話 立ち往生
「う〜ん……困ったわね」
「どうしよっか?」
「どうなさるおつもりですの?」
「アレクのせいでしょ!アンタが何とかしなさいよ!」
俺はアルネアお嬢様達と、次のクエストを受けるために、ワイバーン駆除の翌々日、一日休みを挟み合同ギルドに来ていた。
見た目は集落だが、傭兵ギルドと合同とはいえ、ギルドが街にある以上比較的大きな街だと言えるだろう。流石はアリアに、サンドス地域最大の街と言わせるだけはある。
ここより南にも街や村なんかは有るだろうが、アリアの話と、この街の規模でヴァンガードギルドが独立してない以上、ここが最南のギルドかもな。
「そんな無茶苦茶な……」
アルネアお嬢様達が何を言い争ってるかというと、南サンドスに程近い、ここ数十年静かだった火山が急に噴火し、あらゆるクエストが遂行不可となった為だ。
中央に抜ける大橋も火山灰と噴石の影響で通行できず、多くのヴァンガードや商人、旅人がこの街で足止めをくらっている状況だ。
現在、ギルドに貼られているクエストは1つのみ。
『火山が噴火した原因の調査』
これが終わるまで、皆街からおいそれと出られないし、他のクエストも碌に発注されないだろう。
俺の感知では、ギルド全体の内緒話だろうと聞こえる為、たった1つしか掲示されてないクエストが、どうして不人気なのかすぐに理解することができた。特にギルド職員や上役の話は情報が纏まっており、大変美味しい。
ギルド職員や周りのヴァンガードの話を纏めるに「火属性、熱耐性の高いモンスターが活発になっている」ことが原因のようだ。
言われてみれば確かに、無限反射バリア的なものでも無い限り、荷物や服を燃やしたり、剣を溶かすような高温のブレスや攻撃をしてくるモンスターと、連戦したいやつなんぞ存在するわけが無い。
しかも、前衛は金属鎧のタンクやアタッカーが多い。蒸し焼きになること請け合いだ。全身鎧の騎士なんかは、歩いてるだけで死ぬだろうな。主に脱水症状とか熱中症で。
異世界で熱中症や脱水症状なんて夢がねぇな。
着けるだけで、高温・高熱を無効化する腕輪とか、不燃・耐熱マントとかねーのか。というか、俺自身も火耐性が低いし、弱点属性なので行きたくない。行きたくないったら行きたくない。
「さて、勇者様?皆困ってるみたいよ?まあ、私達もクエストが無くて困ってるのだけれども」
「やぁ……僕に言われても」
「あら、皆困ってるのに見捨てるの?」
「パーティ分の火山地帯装備も無いし、上位ヴァンガードなんかの装備が整ってるパーティが解決するまでジッとしてるか、前の街まで引き返して船で渡るしか無いんじゃないかな?」
「船は無理ですわ。パーティ分の乗船代が稼げるとは思えませんし」
「それは大丈夫だと思う。お爺様の名前を出せば、乗せてくれると思うよ」
「残念だけれど、テイマーの私とモノリは渋られると思うわ。逃げ場の無い海上で、いくらテイムされてるとはいえ、わざわざ隣にモンスターをおきたい物好きが居るとは思えないわ。魔王の復活で、いつ暴れ出すか分かったものじゃないしね」
至極真っ当な意見だな。俺も自分が人間なら、モンスターの居る船で何ヶ月も寝起きしたくないわ。
「ウィウィはいい子ですわ!」
すかさずルンフォードが反撃するが、アレクに一瞬で納得させられてしまう。
「それを船の乗客全員が分かってくれるとは思わないけど……魔王復活の予兆以来、モンスターが活発化・凶暴化してるのは確かだしね」
「……残念ですわ」
「そもそも、どうして来た道を引き返さないといけないの?」
そうなると、今まで辿ってきた道のりを戻るしかないか。まあ、中央に急いでる訳でも無いし、俺は安全策を取りたいな。
しかし、しかしだ。そんな面倒なことを、アリアとアルネアお嬢様とルンフォードが、認めるはずが無い。
先の発言通り、アリアに来た道を戻るといえば、語るまでも無くノー!と高らかに宣言するだろう。我が道を往く獄炎の大魔法使い様に、後退の二文字は無い。なんなら、慎重の二文字も無いまである。
何より弟に勇者の座を奪われたお姉様は、弟の提案により引き返すなど、言語道断なのである。
南で婚活がしたいアルネアお嬢様には、長期滞在は悪くない出来事だ。ゆっくりと人脈作りと、品定めに時間をかけれるのだから。
アルネアお嬢様のお眼鏡にかなう、若くて金持ちで爵位が高くて優しくてイケメンで、お嬢様を愛してくれる男がさっさと見つかって欲しい。
その為には、この火山の異変を勇者様のパーティが解決した!という名声があるに越したことはない。
アルネアお嬢様は、勇者パーティの実績作りに余念が無いはず。ルンフォードの船の提案を断ったアレクに、すごくいい笑顔を向けていた。怖い。
ルンフォードは、武者修行の旅に出たのだから、一度戦ったモンスターとは戦いたくないだろうし、新しいモンスターにそれはもうワクワクしてるはずだ。それでも、アレクに次ぐパーティの常識人なので、一応引くことも考えているだろう。
最近では、単騎特攻も少ないが、性格や気質が変わったわけじゃない。今にも新しいモンスターと戦いたくて、飛び出すのを我慢してるはずだ。
ここで、姉にすら勝てない勇者様の、及び腰の意見が通るだろうか?答えは否だ。今のアレクにパーティメンバーを制御する術は無い。
『おおゆうしゃよ しりにしかれるとは なさけない』
そういえば、今まで気にしてなかったけど、勇者パーティって、どれだけの知名度なんだ?ここに来て特に注目されていることも無いので、勇者が現れた報せすら、世界に出回ってないのではなかろうか。
あぁ、なるほど。だから、中央に抜けることが出来る、この街へのクエストを受けたのか。
中央の王都に、勇者誕生の報せをしに行くところだったのか!
流石に弱いままでは格好がつかないからとアリアに言われて、グララウスに戦い方を教えてもらってたのだろう。それなら、アリアが「勇者といえば剣が使えなきゃね!」みたいなことを言ってたのも頷ける。
俺ってもしかしたら、名探偵なんじゃないの?『犯人はこの中にいる!知らんけど!』おっと、危うくアルネアお嬢様の名にかけて、触手探偵モノリが誕生するところだった。
この時代なら、真実とか知らんけど「あいつが犯人だ!」って、適当にいえば、魔女狩り的に考えて一方的に犯人にできそう。
魔女は水に浮くらしいので、判別は楽勝だな!でも、沈んだら人間って言われても、普通に考えて沈んだら溺死しちゃうんだよなぁ……誰かこの判別方法を疑問に思わなかったんだろうか?
「熱とか、風の魔法で何とかできないの?」
「それは、火山地帯にいる間、僕にずっと魔法を使ってろということ?一応言っとくけど無理だよ?」
「つっかえないわねー!だから弟なのよ」
アリアさん?某世紀末の四兄弟の仮面の人でも、もうちょい理不尽じゃないと思うよ?
「はぁ……こうしてても埒が明かないわ!街で火耐性の防具を、揃えられるだけ揃えましょう?」
「そうですわね!」
「モノリ焦げないかしら?」
「モンスターに装備ができるアイテムなんて無いと思うよ?」
あぁ、これは焦げるやつ。花の丸焼きは美味く無いと思うんだけど、行くのやめませんか?皆さん行く気ですね。あ、そうですか。上手に焼ける前に原因解明したいなぁ……。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv49/70
HP421/693
MP16/593
状態:怒(小)・魔力残量低下
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.7》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.6》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.10》《植物成長速度Lv.10》《植物鑑定》《水汲みLv.10》《血液吸収》《猛毒Lv.4》《噴霧Lv.6》《情報開示Lv.7》《指し示す光》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.9》《打撃耐性Lv.9》《刺突耐性Lv.10》《火耐性Lv.3》《風耐性Lv.5》《水耐性Lv.10》《土耐性Lv.8》《雷耐性Lv.5》《氷耐性Lv.10》《邪法耐性Lv.8》《不快耐性Lv.3》
魔法:《土魔法Lv.6》《水魔法Lv.7》《氷魔法Lv.5》《魔導の心得Lv.5》《魔力の奔流Lv.6》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人 導かれしもの 光を集めるもの 斧の精霊(?) 罠師 害鳥駆除 鳥類の天敵 虐殺者 怨敵を討つ者 復讐者 亜龍の天敵
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