94話 不自然な感情
次の街までの街道に出てくる小型のワイバーンを駆除し、次の街で報告するというクエストを受注し、野営の準備を双子の潤沢な資金でキチンと整えた後、街道を歩く。
いつも通りというか、一緒に居た頃と同じように、アリアとアルネアお嬢様は、俺に乗って移動している。ルンフォードとアレクは、頑張って疲れない植物系モンスターに付いてきている。
アレクがさっき買った装備品の重量でヘロヘロなんだけど、大丈夫か?
「ちょっとペース速くないかな……」
「何よ?もー疲れたの?」
「……アリアは街から出た後、一歩たりとも自力で動いてないじゃないか」
文字通り、視点的にも態度的にも上からな姉の物言いに、弟は静かに抗議をする。
「何を言ってるの?弟が姉を仰ぎ見るのは当然でしょ?」
アリア本気で言ってやがる。声の抑揚がマジだ。え、お前何言ってんの?って、のがすごい伝わってくる。鬼の血統かな?
アルネアお嬢様もルンフォードも、流石にこの物言いには苦笑を隠せない。
アリアの性格からして、自分ではなく、双子の弟が勇者に選ばれたことを随分根に持ってるようだ。アレクは慣れてるようで笑っていた。勇者メンタル強くね?
まあ、俺は寝ずにずっと見てられるし、アレクが本気で嫌がったり、苦痛に感じてそうだったら、アリアを注意するか。アリアは子供っぽいからな。アレクが大人にならざるを得なかったのか?
一人ぐらいビシィッ!!!と言う大人が居た方がいいよな!うんうん。あ〜大人……だったんだろうか?分からん。思い出せないけど、多分大人だったはず。
「アリア……ワイバーンの目撃情報は?」
「ん〜もうすぐね。このペースなら、半日程行けば出てくると思う」
アリアは座ってるだけかと思いきや、大商人やその部下に叩き込まれたであろう、世界の地理の知識を存分に発揮し道案内をかっていた。アリアの尊大な態度に誰も何も言わないのは、自信に裏打ちされた優秀さの賜物もあるのだろう。
お嬢様も、少ない魔力をしきりに移動させていた。あんなに真剣な表情でやってるんだから、訓練なんだろう?魔力量でも上がるんかな?
ルンフォードも警戒を怠らず、アレクも剣の振り方を確認したりしている。
皆真面目過ぎない?ただのほほ〜んと歩いてるの俺だけなんだけど。感知範囲が広過ぎて、過度に警戒するまでもないってのが大きいけど。それにしても、全体的に肩肘張ってる気がするな。
アリアがずっと足を忙しなく揺らしている。ワイバーンってそんなに強いのか?いや、俺らで受けられるんだから、極端に強いことは無いか。
「そろそろね」
――っ来る!
駄、駄龍如きがァァァァァァァァ!!!!!
小型のワイバーンが感知内に入った途端、内側から激情がとめどなく湧き上がる。煮え滾るマグマのような怒りが、腹の底に巣食うモンスターが咆哮をあげた。
抑えられない!?!?
なんだこれは!雪山で遠くにワイバーンを見た時の比ではない。
「モノリ!?」
アルネアお嬢様の声で、ほんの少し理性が戻ると、気付けば俺は怒りに任せて走り出していたことに気付いた。B級モンスターの全力で、全てを置き去りにして疾走する。
憎い……!
長い距離を走破し、アルネアお嬢様の姿すら見えなくなった俺は、憎悪と憤怒の虜になった。
憎い!ニクイ憎イ!下賎な毒龍め!目にもの見せてくれるわ!
生かしてオケルカァァァァァ!!!!!
無限にも思える触手の一本一本を、ちぎれんばかりに無茶苦茶に振るう。
防御など考えない特攻。
触手を、撹乱の霧を、持てる魔法の全てを攻撃にのみ注ぎ込む。
ステータス見ずとも、群れで反撃してくるワイバーンの攻撃で、急速に命が削り取られてる感覚が分かる。
いかに小型のワイバーンと言えど、龍種は龍種。えげつない爪に毒の尾。口から漏れ出る炎は全身を焼く。
どうにも俺が持っていた旅の荷物は、全力疾走で全部落としたらしく、荷物は燃えてないな。なんて、数体を地に落とし、少し鬱憤が晴れた頭が考えていた。
許せるか!くたばれ!朽ちろ!平伏せ!絶望しろォォォ!!!
冷静な思考は直ぐに痛みと殺意に塗り替えられる。
爪で俺を裂こうと、上空から急襲する三体のワイバーンの目を穿ち、翼膜を削り、足を絡めとる。
仕返しとばかりに、四方から火炎のブレスが飛んでくる。
焼ける灼ける。
幾本もの触手が炎上し、焼け落ち、灰になる。
喧しい!煩わしい!
触手を薙ぎ、氷魔法を中心に水魔法・土魔法と展開していく。燃やしてくれたワイバーン共を叩き、貫き、ワイバーン共を上回る猛毒を撒き散らす。
空に我が物顔で居座る偽物を引き摺り下ろす。そこはお前の場所じゃない。空は俺の、俺たちの場所だ。
堕ちる。
悶える。
慟哭する。
物言わぬ残骸となったワイバーン共の血を、手当り次第啜り貪り、なるべく残虐に思い付く限り冷酷に屠る。
モンスターが怨敵を討ち滅ぼさん。
何故、何故貴様らがそこにいる。居ていいはずがない!裏切り者がァァァ!!!
一度飛ぶことを忘れた地龍などに、空を渡してなるものか!穴蔵に帰れ蜥蜴風情が!!!
無数の牙と爪に、触手が阻まれ、もぎ取られていく。
最後の一本まで貴様らを殺す槍に!
おおよそ戦闘とは言い難い、化物同士の殺し合い。
ワイバーンの数はあと少し。こちらも弱点属性であろう火を、延々と浴びせかけられたせいか、溢れかえる殺意に綻びが生まれていた。
どちらも、傍から見れば死にかけだろう。
感知で見える自分の姿は、もう殆ど原型を留めていない。次のぶつかり合いが決着になるだろう。
殺し尽くしてやる!行くぞ!
「ファイヤー」
「ストーム」
「「ファイヤーストーム!」」
死の覚悟を決め、走り出そうとした瞬間。目の前に見覚えのある火柱が上がる。残り少ないワイバーンの悉くを焼き、魔法の範囲から咄嗟に逃れたワイバーンは一体だけ。
そのワイバーンも、フラフラと今にも落下しそうだ。
最後の力を振り絞り、俺にブレスの標準を合わせる。
俺の触手が届くのがはやいか、ブレスがはやいか。
ダメだ間に合わない。
「届けぇぇぇぇぇぇ!!!」
ワイバーンが俺を焼きつくそうとしたそれよりも一瞬だけ速く咆哮が届く。
トップスピードから跳躍したルンフォードの斬撃が、毒龍の首をグチャグチャに潰したのだ。
喉をやられたワイバーンは、上手くブレスを吐けずに爆発し、燃え落ちた。
「ま、間に合った」
「やるじゃないレルレゲント!流石私の従魔ね!」
「一体だけでも、倒せて良かったですわ!」
「モノリ!すぐに回復するからね!」
アルネアお嬢様の妖精召喚で傷を癒すと、アルネアお嬢様から勝手に飛び出したことへのお説教をいただいた。
「僕はレルレゲントが戦ってる様子を、アリアからこう……フワッと大雑把に聞いたことしか無かったけど、あの数のワイバーンを殆ど一人(?)で倒してしまうなんて、聞いてたよりずっと強いね」
「ふふん!」
「なんでアリアが偉そうなのさ……従魔が強いんだから、アルネアが自慢すべきでしょ?」
「まあ……強いって言うか、暴走?って感じだったけど」
「ウィウィが全力を出すとあんなに強いのですわね。モンスターの脅威を改めて痛感しましたわ」
「モノリのさっきの全力を見て思ったけど、強いモンスターに出くわしたらすぐに逃げ出せるように、強いモンスターの情報は集めるべきね」
俺の暴走は、モンスターの脅威を改めてパーティに実感させたらしい。モンスターの俺が死にかけただけで、アルネアお嬢様のパーティの意識改善ができたなら、死にかけた甲斐が有るな。や、まあ、死にかけたのは自業自得なんだけどさ。
残った死骸のワイバーンも、手当り次第に吸って経験値にしておく。
冷静なってアレクとお嬢様の話を聞いて分かったことは、ワイバーンは群れのはぐれた個体や、少数を釣り出して、毒を回避しながら慎重に戦うモンスターだということ。
ちゃんと討伐方法が確立されてるんだなぁ……次は、怒りに囚われずモンスターの特性を調べた上で、慎重に対応したいところだな。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv21/70
HP113/615
MP219/532
状態:中毒・強化・不安定
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.5》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.4》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.9》《植物成長速度Lv.9》《植物鑑定》《水汲みLv.10》《血液吸収》《猛毒Lv.2》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.5》《指し示す光》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.8》《打撃耐性Lv.7》《刺突耐性Lv.8》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.7》《不快耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.4》《水魔法Lv.4》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.3》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人 導かれしもの 光を集めるもの 斧の精霊(?) 罠師 害鳥駆除 鳥類の天敵 虐殺者
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