93話 勇者小噺
「それで、勇者について詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「詳しくって、さっき話したじゃない」
「雷が誕生日に降ってきた以外に、大した話は聞いてないわ」
「……先に聞いておきたいんだけど、アリアが強引にパーティだと言ったけど良いのかい?」
「良いわよ。勇者のパーティに居たとなれば、引く手数でしょうし、なんなら勇者様でもいいしね」
アルネアお嬢様……いくらなんでもアレクは歳が離れ過ぎだろ……ショタ好きなのん?
「なんの話し?」
「個人的な事情よ」
「そっちの獣人ちゃんは?」
「ルンフォードですわ」
「じゃあ、ルンフォードちゃんは?」
「私も構いません!勇者様のパーティに居れば強い敵には事欠かなさそうですし」
「さっすが獣人ね!戦闘狂って感じだわ!」
いや、ルンフォードもお前に言われたくねぇよ……。
そうだ、それはいいとして、グララウスは?あの化け物を超越した、超化け物集団はどうしたんだ?
アリア グララウス ?
「あら、覚えてたのね!」
いや、あの集団だけ世界観違うでしょ。正確にはグララウスだけ別の次元でしょ。あんなの忘れようがねぇよ。あそこだけドラ〇ンボールだよ。オラわくわくすっぞ……。
どっちかってーと身体がガタガタするんだよなぁ……。マジ怖い、マジ激怖い、マジ怖い。モノリ心の俳句。
「アレクが勇者に選ばれちゃったからねぇ……急遽剣を教えてもらってたの。まあ、あのレベルの傭兵を、戦争でも無いのに人ところにずっと留めておくなんてできないから、貴方達と出会う少し前に別れて来たばかりだけどね」
ソウカ
そりゃそうだ。しかも、あの団員の数だ。一回雇うだけでも凄い金額が動くはずだ。
それに、一貴族があのレベルの集団をずっと囲ってるとなれば、隣接する領地や王族、隣国は快く思わないだろう。誰だって、隣に虎が居るけど襲わないんでゆっくり寝てくださいと言われても「はい、そうですか」と言うやつは居ないだろうしな。
「グララウスって、もしかしてあの?」
「モンスターと敵対する種族の中で、最も弱いとされる人間でありながら、最強の傭兵等級にまで上り詰めた男……一手お手合わせ願いたいものですわ!」
グララウス生ける伝説なのな。あの強さだもんな。生ける伝説は言い過ぎかもしれないが、人間以外の他種族から一目置かれるほどの強者なんだな。
「こう言ってはなんだけど、アレク……さん?」
「アレクでいいですよ。パーティなんですし」
「……アレクは、剣に向いてないと思うわ」
「私もそれは思いましたわ!」
「うちの家系は代々魔法の血統だから……」
「なら、どうして剣なんか」
「いくらアレクが弟でも、ヘタレでも、勇者になった以上、矢面に立たないで女の子を盾にするなんてダサすぎるわ」
「ヴァンガードに男も女も無いと思うけど……姉さんのが強いし」
「それに何より、勇者といえば剣よ!」
大変だな弟よ。
「英雄譚には、槍を携えた勇者も、珍しいのだと斧の勇者も居たと思うけれど……」
「でも、一番多いのは剣でしょ?」
「それはそうだけど」
「そもそも、僕は近接戦闘は向いてないんだけど……」
「勇者が情けないこと言わないの!」
「好きでなったんじゃないんだよなぁ……しかも、痛かったし」
「そういえば、さっき何か言いかけてなかった?」
「あぁ、ここだけの話にしておいて欲しいんだけど、僕の知らない何かが、勇者を選定するはずの落雷に抗った感じがしたんだ」
ますます、神の雷霆が勇者を選ぶなんて話は、きな臭くなってきたな。本当に魔王が勇者を殺そうとしたんじゃないだろうか。だが、それはそれで、魔王の力の一端を知る俺としては整合性が無い。あの存在が相手を殺そうと思えば、世界のどこにいても確実に殺せるはずだ。それに抗ったとなれば、まさに選ばれし勇者の力だろう。
世界を滅ぼしうる存在に拮抗する(又は超える)力が、たった一人の人間に宿る。転生前じゃ、子どもの頃は勇者なんてのは、ゲームの中でも憧れるような存在だが、いざ目の前にすると恐怖しか感じない。
俺がモンスターだからか、ハッキリ分かる。あってはいけない力だ。この中でテイマーのお嬢様を除いて、最も弱いはずのこの男が、一番恐ろしい。
「取り敢えず、アレクは色んな武器を試してみましょう?」
「え〜なんでよ!」
「見た目を優先して負けました。死にました。なんて、笑い話にもならないもの」
「ロマンが無いわね〜」
「ロマンなんてモンスターに食わせとけばいいのよ」
切羽詰まったアルネアお嬢様が現実的なのは納得だが、商人としての経験を積んだアリアが、モンスターを手当たり次第焼く、ドレスより血が見たいという物騒な少女が勇者には理想を抱いてるのは意外だな。
いや、イケメンに嫁ぎたいからって、意味不明で不確かな旅に出るお嬢様が一番の夢想家か?
「じゃ〜まずは短剣とか?」
「う〜ん。あんまり近付きたくないなぁ……」
「消極的だなぁ弟は」
「取り敢えず今手元にある私の斧なんてどうですの?」
「持ち上がらないよ……」
「軟弱だなぁ勇者は」
「思い切って素手とか?モンク的なね」
「武器が流通してるのに、素手で戦う意味が分からないよ」
それは、俺もそう思う。や〜カッコイイけどねモンクとか。
「片手剣か短槍かな?」
「う〜ん。攻めるのはルンフォードに任せて、守備に徹してもらったらどう?」
「確かに、無理にアレクを前衛にしても、ルンフォードに及ばないだろうしね」
「獣人と比べられたら、初速というか瞬発力というかで、普通に負けるよ」
リーチは欲しい。重いのは無理。ん〜ナックルガード的な鍔の大きめで、刀身自体は細身の方が軽くていいか?
レイピアかな。いや、異世界にレイピアがあるか知らんけど、細身の剣で、刀身が1メートル越えなければいけるんじゃないだろうか?
でも、勇者ならバスターソードとか、ドラゴンキラーみたいな、分厚い刃の大きな両手剣的なのを、ブンブン振り回して欲しい。
まあ、アレクの体格も考えると、現実的に魔法の掛かってる軽量化された武器とか、魔法のでる武器みたいなのがいいよな。
パーティ全員が貴族の子息子女なんだ。貧乏なアルネアお嬢様は除いても、家に魔法の剣の5本や6本置いてあるだろ。
「ここで考えてても仕方ないし、街の武器を売ってる場所回らない?」
「そうね。実際に振ってみたらイメージと違ったとか、絶妙にダサいとかあるかもしれないし」
「アリア……絶妙にダサいは悪意がないかい?」
「そうかしら?」
満場一致で、街に出ることになった俺らは、鍛治屋や武器屋を見てまわる。ちょっとした通りでは、露天商なんかも武器を扱っている。いいなぁこういう露天商に武器があるの。異国情緒ならぬ異世界情緒に溢れてて。俺ならこの露店だけで3日は飽きないな。
武器を見てて思ったんだが、アレクは魔法主体のバトルスタイルなんだから、杖的なメイス的な武器のがいいんじゃないだろうか?
アレク以外の3人が、ああでもないこうでもないと、店とアレクの精神を食い荒らしていく。そこに俺もこっそり混ざり武器を持たせた。
数時間後、最終的に小型盾に、片手剣という形で収まった。
う〜ん、俺が知る勇者っぽいな。そこはかとなくドラ〇ンクエストの2感が出てる。まあ、アレクは王子じゃないけどな。
「次は鎧?」
「鎧なんか着たら身動き取れないよ……」
……勇者貧弱だな。
「取り敢えず、何回か戦ってみて、感覚をつかみましょう?」
「しっくり来なくても、武器は高いから、いくら貴族でも、そんなにやたらめったら変えれないけどね」
「あら、おじい様のところから持ってくればいいじゃない!」
「それは、ちょっと。おじい様に頼りきりというのは……」
「兎に角、簡単な依頼受けましょうか」
「小型ワイバーンの街道駆除なんてどうですの?」
ワイバーン。
そういえば、アリアを見て思い出したんだが、ワイバーンって、胎生だったよな。龍は卵で産まれるから、ワイバーンは邪道なのかな?
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv21/70
HP113/615
MP219/532
状態:中毒・強化・不安定
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.5》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.4》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.9》《植物成長速度Lv.9》《植物鑑定》《水汲みLv.10》《血液吸収》《猛毒Lv.2》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.5》《指し示す光》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.8》《打撃耐性Lv.7》《刺突耐性Lv.8》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.7》《不快耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.4》《水魔法Lv.4》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.3》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人 導かれしもの 光を集めるもの 斧の精霊(?) 罠師 害鳥駆除 鳥類の天敵 虐殺者
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