9話 拠点
「モノリ。あの赤い実食べられないかしら。結構上の方にあるけど、その触手彼処まで伸びたりする?」
シュルシュルっと、アルネアお嬢様の座っている部分を動かさない様に、触手を伸ばすと、難なく届いた。この木結構高いよ。俺もお嬢様も小さいから、正確な大きさは分からないけどね。
多分だけど、触手のレベルが上がったことにより、伸ばせる距離や、数、精度が上がったのだろう。
触手がメインなので、これからも最優先で上げていこう。
そういえば《土魔法Lv.0》は、いつになったら熟練度的なのが上がって、レベルが上がるんだろうか?
お嬢様が寝てる間とか、暇な時にちょこちょこ使ってる(発動してるつもり)が、一向に上がらない。どういうこっちゃ。
小ぶりなリンゴのような、ツヤっとした赤い実に触れ《調べる》を使ってみる。
……。
何も出ないな。やっぱり、薬草の時に調べられたのは、俺の体から直接生えてたからか。
因みに《植物鑑定》だと、どうだろうか。使えるスキルだといいんだけど。
ユゼルの実:赤くて手の平サイズの鳥のおやつ。大量に摂取すると麻痺の効果があるが、人の赤子ですら影響があるのは稀。
ほらね。麻痺の効果とかね。ユゼルの実は効果薄いらしいけど、他のだと触れただけで麻痺とか、有り得なく無さそうだし、気を付けよう。
結構詳細な情報で、有難い事だ。《植物鑑定》優秀じゃない!使えるぜ!
そういえば、俺の記憶でもゲームとかだと、植物系モンスターは、状態異常の搦手が多かった様な気がする。
取り敢えず、ユゼルの実をもいで、お嬢様に手渡す。いや、この場合は触手渡すかな?言い辛いから手渡すでいいか。
「あんな高い所まで届くのね!何処まで伸びるのかしら?まあ、それはともかく、ありがとうねモノリ」
お易い御用でさぁ、アルネアお嬢様。いや、お嬢!
……アルネアお嬢様の見た目は、貴族然としてるから、お嬢!って感じじゃ無いな。
従魔なんてもんだから、命令は聞いて当然だし、そもそも逆らえないし、素直にお礼を言われると頭が痒い。頭無いけど。
お嬢様は、従魔にもお礼を言う珍しいタイプのようだ。なんていうか、俺の中のでは、貴族は下の者に、お礼なんか言わないイメージだからかな。
「ところで、取ってもらったのはいいのだけれど、食べれるのかしら?」
不安そうなお嬢様の、右の手の平を叩いておく。
「あら、モノリ。これが食べられるかどうか分かるの?」
分かるよ!食べて大丈夫だよ!イエスイエスと右の手の平をペシペシする。
「同じ植物だから分かる。みたいな事なのかな。まあ、食べて見ましょうか」
お嬢様が恐る恐る口に運んで、その可愛らしい小さな口でかじると、途端に顔を顰めた。
驚いたのか、反射的に放り投げられたユゼルの実を、触手でキャッチしておく。俺ナイスキャッチ。
「きゅう!?酸っぱい!酸っぱいわこれ!うぅ、でも、飲み込んだけど身体に異常は無さそうだし、一応食べられるのかしら……」
アルネアお嬢様が、凄いジト目で、俺を睨んでくる。そういう性癖じゃないので、全然ご褒美じゃないです。
鳥のおやつ。なんて可愛い事書いてあるから、つい、何となく甘いもんだとばかり思ってた。が、よくよく考えれば、味については、一切言及されてなかったな。
あ、でも、麻痺効果があるんだから、酸っぱいイメージぐらいはついたかも。
いや、違うんですよお嬢様。ね?鳥のおやつ。とか、人の赤子ですら〜とかね、表現が柔らかじゃないですか。そしたら、甘い様な気がするじゃないですか。いえ、わざとじゃ無いんです。本当ですよ!
「どうしたの?急に動かれると座り難いわ」
伝わんねぇ!ちくしょう!必死に言い訳した意味!なんなのもう!
そりゃそうだよ。一文字たりとも言葉になってないもの。別に胸がいっぱいって意味じゃないよ!物理的に口がねーんだよ!
マヌケじゃん!バカじゃん俺!
「モノリには口が無いから、食べられるか分かっても、味までは分からないわよね」
お嬢様一人で納得しちゃってるしさ。俺のあの慌てっぷりを、返して欲しいわ。
背に腹はかえられぬ。という精神の名の元に、酸っぱくとも、食えると分かってるユゼルの実を、幾つかもいだ。
「一応持ってくのね。なんというか、やっぱり特殊個体だけあって、変に賢いわね」
変にとか要らんよ。普通に賢いで良いんだよ。
あっても困らないだろうから、触手を籠っぽい形状にした部分に、幾つか放り込んでおく。
椅子と籠作っても、まだ触手が余ってるので移動してみると、更に遅くなっていたが、どうも動けるようだ。
触手多過ぎんだろ。一体何本あんの?我ながら気持ち悪いな。や、便利だけどさ。これは、触手大納言と呼ばれる日も近いな。植物だけに小豆的なね。
「籠まで作れるなんて便利ね。椅子の部分と籠の部分と手と足も、全部触手で賄うなんて、人間の私なら、こんがらがっちゃいそうよ。手が沢山あるような感じなのかしら」
お嬢様がブツブツと考え込み始めてしまったので、極力揺らして邪魔しない様に移動する。
最初に思い付いた、より地面が湿ってる方向に水場があるんじゃないか理論で、触手を駆使して探すこと数時間。
途中から、地中の水分量が急激に増えたので、その方向に行くと湖があった。
湖は、より森の奥地らしく、周りの木々は、明らかに太く大きくなっていた。
「モノリ凄いわ!どうやって、見つけたの!」
湖はとても澄んでいて、身体が洗えそうな、飲めそうな水に、アルネアお嬢様大歓喜だった。
森の奥地で、モンスターいる可能性高いから静かにね。
子供とはいえ女の子。しかも貴族のご令嬢だ。昨日水浴びが出来なかったのが、余程堪えたのだろう。
俺製椅子に座ってから、ちっとも降りる気配の無かったお嬢様が、飛ぶように降りたのだから。
「うん。飲めるみたいね!モノリ、水浴びしたいから、見張っててね!」
周囲の警戒も疎らに、水に入りたがる。
視界が360度ある俺が居れば安全だけど、もうちょっと、羞恥心とかあってもいいんだよ。とも思ったが、植物系モンスターしか居ない状況で、森の奥地で羞恥心覚える訳が無い。寧ろあった方が怖い。
俺だって、ペットが雌だったら、目の前で素っ裸になるのが恥ずかしいかと聞かれれば、断じて無いからな。
お嬢様が水浴びしてるのを、ボーッと眺めてても暇なので、土魔法をなんとか使えないか試しながら、木の洞を探すことにした。
大きい木が多いだけあって、割と洞も多い。でも、これだけ奥地だと猛獣とか出そうだし、木上のログハウス的な方が良いかな?
猛獣が出そうとか、平和な事考えてたけど、ここ異世界だから、猛獣どころかモンスター出てくるの忘れてわ。
視界が広いから、湖に辿り着くまでは、モンスターを避けながら来てたけど、なんでこんな大きな湖にモンスター居ないんだ?良い水場だと思うんだけどな。
小動物や、鹿っぽい草食動物しか見かけない。角がやたら尖ってけど、パッと見牙無かったから、肉食では無いだろう。
つか、あれモンスターだよな。気性のおとなしいモンスターも、モンスターなのかな?異世界では、やたらと鋭い角の草食動物が、一般的だったりしないかな?
この森特別水場が多い訳じゃ無さそうだし、肉食系のモンスターが、水を飲まないなんて事は無いだろうから、何か肉食のモンスターが近付かない理由があるはずだ。
一番考えられるのは、肉食の獰猛なモンスターより強いヤツが、水場を占領してる。ってのが、一番分かりやすいけど、じゃあ、あの小動物達は何なのって話になる。
次に、ミューアみたいな精霊が湖の主で、入ってこれる生き物を選別している。一見これも有りそうだけど、人間好きの精霊は、珍しいそうなのでこれも却下。リーアがそんな話を自慢げにしてたので、覚えてる。
ダメだ。分からん。取り敢えず、お嬢様と俺が一緒に入れる大きさの洞は割と有るし、食えそうな草と木の実を探しておこう。
単眼の化け物だけど、視界が滅茶苦茶広いから、こういう時警戒しながら、他の作業が出来るから便利だな。
万が一の為に、お嬢様の近くの地面に、触手も忍ばせてあるし、気分はめっちゃ長い有線コードの人って感じだな。有線コードついてる時点で人じゃないか。
「モノリ。何か、大きな葉っぱは無いかしら?探してきて」
アイアイ。お嬢様の命とあらば、火の中水の中。嘘。俺今、嘘ついた。火の中は無理。消し炭になる。
暫く探していると、長い以外の形容が特に見当たらない、長い葉っぱがあった。長いな。誰が見ても、長い以外の感想を持ち得ないぐらい長いわ。あと緑。色が緑。
おい、五歳児でも、もうちょっとマシな説明するぞ。大丈夫か俺。植物系モンスターになってから、凄い馬鹿になった気がする。
センリの葉:長い。柔らかく、包帯代わりによく使われる。かぶれたりもしないので、非常に安全。ただし、長過ぎて持ち帰る時に、毎回何処までの長さを持ち帰るか、議論になる。
日本語的には千里の葉って感じだから、しっくりくるネーミングだな。
俺は議論する相手がいないので、触手に巻けるだけ巻き付けて、お嬢様の元へ戻ることにした。
戻った途端に、お嬢様の悲鳴が聞こえる。
「きゃあ!緑のお化け!」
なに!瞬時に神経を張り巡らせるが、俺以外は何も見当たらない。あっ犯人俺だわ。
大丈夫だよ〜と触手をブラブラさせる。
「も、モノリなの?」
目の部分を出して見せる。
「もう、驚かせないでよ」
安堵の溜息をお嬢様が漏らすと、へたり込んでしまった。ごめんね。包帯代わりになるっていうから、欲張り過ぎたよ。
へたり込んだお嬢様の手に服があったので、洗っていたのだろう。
包帯(仮)を適当にちぎって身体を拭くように渡す。軽く背中を擦ってやると、意図を察してくれた。お嬢様の頭が良くて助かる。
お嬢様が身体を拭いてる間に、服を型崩れしない程度に軽く絞って、陽の光が近い、木の高い枝に掛けておく。
お嬢様が丁度身体を拭き終わったようなので、残りの包帯(仮)を適度にちぎって軽く巻き付けると、服代わりにしろというメッセージを、読み取ってくれたらしく、自分で巻き付けてくれた。
包帯(仮)持って来過ぎたな。まだ、大量に触手に巻き付いてる。食べ物と別の籠に、グルグルして入れとこう。
「結んでくれる?」
そういうので、仕上げだけ手伝った。分かるよ。良いとこの子供って、他人に靴の紐結ばせるイメージだから。
それに、一人じゃ結び辛い体勢のところも有るだろうし、お嬢様が包帯を服代わりにした事なんて無いだろうしな。
アルネアお嬢様の顔が整ってるせいで、服が無い緊急時の包帯による処置っていうより、ミイラっ娘のコスプレにしか見えないな。緑だけど。
「水から上がったら少し肌寒いわね。モノリ、火はなんとかならないかしら」
ならんよ。植物系モンスターだもん。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.4/10
HP33/33
MP16/16
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.4》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》《植物鑑定》《水汲みLv.1》《擬態Lv.1》《恐怖耐性Lv.2》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者
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