72話 初依頼
ルンフォードは、モンスターとの戦闘に危機感を覚えたのか、最初のあの戦闘から、なるべく敵の数が少ないものと戦う意向のようだ。
俺の無駄に広い感知範囲のおかげで、彼女の敵感知能力がどれ位か分かった。彼女が普通の行動を取ってれば分からなかっただろうが、はぐれのモンスターを見つけると急に走り出すのを、何度も繰り返したので知ることができた。
彼女の感知範囲は意外と広い。
正直、この広さを感知で拾えるなら、敵を避けて次の街まで進むことができるだろう。でも、ルンフォードは敵を見つけると一目散に突っ込んでいく。
これは……。
どうしたものか。まだ街道沿いで罠を仕掛けるようなモンスターがおらず、群れからはぐれて、どのみち死を待つだけの個体を狙っているから平気だが、少し知能の高い俺みたいなモンスターが相手なら敗北は確実だ。
取り敢えず、モンスターを見つけたらいきなり駆け出すのだけは、止めさせたいな。自分より相手が強かったら、自殺でしかない。
それと、モンスターを倒した後の剥ぎ取りも問題がある。獣人特有なのか、ルンフォードだけなのかは分からないが、大雑把過ぎる。と言うか、剥ぎ取りと呼ぶのに差し支えるレベル。死体損壊とかのが正しいと思う。最初なんか、倒したモンスターがまだ生きてて、追い討ちを掛けてるのかと思ったほどだ。
剥ぎ取り方を学ばないと、路銀がすぐに尽きそう。剥ぎ取った皮はどう見ても使い物にならず、そもそも剥ぎ取りのナイフの切れ味が悪過ぎる。メインウェポンの斧は大事に扱ってるんだから、剥ぎ取り用の短剣も、もっと気にかけて欲しい。
ウルフの牙と皮を剥いでいたので、そこが換金部位のはずだが、買い叩かれるとかじゃなく、一銭でも買い取ってくれれば御の字だろう。素人目に見ても買い取りたくない。それほど状態が最悪だ。
ルンフォードに剥ぎ取りというスキルが有れば、レベルはマイナスかも知れない……。
どれぐらい歩いただろうか。
俺は歩いてないが、ルンフォードが出立した街から、かなりの距離を歩いたはずだ。
……遠くないか?
俺は地図もないし、土地勘も無いので、道が間違ってるかどうか分からないけど、街と街って遠いんだな。
エルフの行軍は例外過ぎるし、アリアなんかは馬車だったからな。アリアが雇ってたグララウス達は、上位の傭兵団で移動速度が速かったのかもしれない。
モンスターが跳梁跋扈する世界で、主要都市以外の道の整備なんて狂人の類だろうから仕方ないっちゃ仕方ないだろうけど、もっと看板とかいっぱい欲しいな。まあ、看板がいっぱいあっても、文字とか読めないんですけどね。
俺が街と街の遠さに疑問を抱いてから二日半ぐらいだろうか、ようやく街に着き、検問?城門?の入場列に並んでいる。途中から道が平らになり始め、門が有り兵士が居る。そこそこ大きな街だ。
モンスターを積極的に狩っていたということは、街でそういうギルドに所属する予定なのだろう。俺の擬態を看破する奴が居るとは思えないが(なんせ俺は進化の壁を越えた上級モンスターだからな!)絶対に居ないとは言いきれない。上位モンスターという割には、感知と隠密に特化しすぎて、戦闘力は微妙だけど……。
街に入ったルンフォードは、キョロキョロしながらも、かなりのスピードで道を歩いて行く。そんなに急がなくても……。
いや、これは転生者である俺の感覚だな。この文明レベルで夜遅くまで開いてるのは酒場ぐらいだろう。急いだ方がいい。
モンスターという人類の天敵によって、科学的な進化が遅れ、攻撃魔法が研鑽される世界では、文明の発展が遅々として進まないのは仕方の無いことか。地球にも人間の天敵が絶えずいれば、もっと原始的な生活をしていたに違いない。魔法が無い分こっちの世界よりも文明は遅れてたかもな。
「ここかしら?」
大きな建物に、大きな看板が掛かっている。グララウス傭兵団とは別で、傭兵の登録では無さそうだ。という事はいわゆるところの冒険者と言うやつだろう。この世界で対モンスターの専門家を、冒険者と呼ぶのか、グララウス達みたいに傭兵と一括りなのかは知らないけどな。
問題無く登録を終えると(いやに簡単な登録だった)バンクルと言うんだっけか?
ブレスレットとペンダント、イヤリング、指輪型の四種類からタグを選べるらしかった。取り敢えず目に見えるところに着けとけばいいのだろう。まあペンダント型とかだと、無茶苦茶動く拳闘士とかは鬱陶しいだろうし、見えるように着けとかなければならないなら、鎧の装着者はペンダント型だとぶつかり合って五月蝿そうなので数種類有るのは納得のいく所だ。
指輪型と言うと何となく高そうな感じがするが、装飾はほとんど無く、のっぺりとした寂しい丸。と言った感じなので、俺が思う指輪のイメージとはかけ離れるな。なんかこう指輪イコールキラキラしたイメージのせいだと思われる。まあ、現代社会で最も身近な指輪って結婚指輪ぐらいだしな。絶対にイメージの原因はそれだと思う。
ルンフォードが掲示板に貼られている依頼書と睨めっこしている。
俺は読めないので、モンスターの人相書き?覚え書き……なんて言うんだろう。とにかくそれっぽい絵が載っている。写真が無いのだから、モンスターとであった話を聞いて書き上げてるのだろうから、大変な仕事だ。俺には無理だな。そもそも絵心……はどうだったかな?多分芸術系は全滅だったと思う。
普通に考えて、普通に生きてて絵を描けるようになる訳が無いんだよなぁ……。どれだけ絵に時間を費やしたら、あんなに細かく書き込めるんだろう。
お、ルンフォードが依頼書選んだみたいだな。絵から分かるのはゴブリンっぽいモンスター。俺はやめといた方がいいと思うな〜
ゴブリンって、罠張ったり意外と頭いいでしょ。まあ、まとめ役が居て始めてそういう事をするんだろうから、下級のゴブリンだけなら、何体いても大した脅威にはならないだろう。
いや、戦ったことのあるウルフ系と悩んでるみたいだな。
上位種が居ないなら、動きも遅く知能も低く連携も無いゴブリンのが楽だが、ルンフォードの実践での動きの悪さでは、少し上のゴブリンが居るだけで勝てなさそうだから、ウルフのがいいんじゃないかな。
ウルフでも三体いたら当然のように負けるだろうけど、獣人持ち前の防御力(毛皮)で致命傷は防げると思われるので、やっぱりウルフかな。
「決めましたわ!」
一時的でいいから、依頼よりパーティ決めが先だと思う。武者修行の旅で、仲間をゾロゾロ連れてるのもおかしな話だとは思うけどね。安全第一でいってほしい。せっかく予言の光の一人なんだから、死なれると困る。
俺の思惑とは裏腹に、一人で討伐に向かう事を決めたようだ。受付の人も一応一人の危険性を説いてくれたが、方針は変わらないらしい。
大きな街の近くだ。危険度の高いモンスターは、余程運が無い限り遭遇しないはずだ。魔王の復活のせいで生態系が変わってるかもしれないから、何とも言えないけど。
街道から外れた場所でモンスターを探す。俺のような俯瞰視点の視界なら森は脅威にならないが、人型で前方にしか目が付いてない生物には、森は厳しい世界だろう。
感知範囲内に、ウルフの集団がいくつかいる。まあ、俺の索敵範囲はかなり広いので、複数の反応といえど距離と距離がそこそこ有るので、一グループと戦っている最中に、他のウルフ集団と戦うはめになるようなことは無いはずだ。
しかし、あれだな。流石に運良く単体はいないか。それより、剥ぎ取りを習ってから、街を出て欲しかった。あの惨状を討伐の証として提出するのは戸惑われる。いや、戸惑ってるのは俺だけなんだけどね!ルンフォードはなんで何とも思わないの!少しはおかしいと思えよ!ぐちゃぐちゃの毛皮(?)を見ておかしいとは思わんのか!
「毛皮」じゃなくて「毛皮(?)」である事に疑問を持って欲しい。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv8/70
HP570/570
MP510/510
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.5》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.1》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.9》《植物成長速度Lv.8》《植物鑑定》《水汲みLv.10》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.3》《指し示す光》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.7》《打撃耐性Lv.7》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.3》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人 導かれしもの 光を集めるもの
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