71話 バレたくない
どうしよう……。
吾輩は斧の装飾である。名前はモノリだったと思う。色々付けられすぎて忘れそう。斧の装飾としての名は、まだ無い。あるわけが無い。斧に名前をつけるならまだしも、斧の装飾名前をつけるやつは流石にヤバいと思う。
鼻歌を歌いながら、ブンブン振り回されている俺は、三半規管がついてたら、既に一万回は(大袈裟)ドクターストップかけられてたと思う。
良かった。今俺マジで人間じゃなくて良かった。人間だったら内臓シェイクで殺されてた。
例え酔う器官が無くとも、常時上下左右に身体が入れ続けるのは、人間の残滓のせいで、あまり良い気分ではない。
しかし、今離れれば、驚かせてしまうだろう。心細い中お気に入りの斧から、お気に入りの装飾が居なくなるなんて、そんな可哀想な事はできない。前夜にあんな言葉を聞いてしまっては尚更だ。
何とか事を荒立てずに、斧から自律するにはどうしたらいいだろうか。
う〜ん。
こう、寝てる時とかにフワッと幽霊みたいな感じでだな……。
いや、幽霊じゃなくて……守り神?……守護兵?
……精霊!斧の精霊!そうだ。斧の精霊になろう!
ところで、斧の精霊ってなんだよ……。
武器の精霊って、装飾部分に宿るのん?イメージ的に刀身とかだよなー。
多分いきなり現れると、警戒されそうなので、なんか徐々に動くンです……よ?実は〜的な雰囲気の何かでいこうと思う。
まずは毎日、触手の巻き付き方が変わるところからかな。
「あれ?なんか昨日と少し違うぞ?もしかて……この装飾……動く……?」
ぐらいから始めて、なんか斧の装飾勝手に独立行動するようになっちゃったぜ!ビックリだぜ!みたいなテンションになってくれると嬉しいな。
まあ、俺なら毎日装飾に変化のある武器とか、呪いの装備だと断定して捨てるけども。
お父様からのプレゼント流石に捨てないだろ……多分。
ともかく、動くなら、彼女を助けるタイミングが良いだろう。自動迎撃システム(触手での攻撃)とか良さそう。取り敢えず、戦闘になるまで大人しくしていよう。武者修行の旅なんだから、遅かれ早かれ戦うはずだしな。
そういえば、この娘地図とか持ってないし、目的地のある馬車の旅でもないし、何処に向かってるんだ?まさか、あての無い武者修行の旅!?
慌ててスキルで確認する。
幸い俺の目指していた、更に遠い西の方の光に向かっているので、同行するのはやぶさかではない。
そういえば、この世界、神官とか少ないのかな?回復魔法をグララウス傭兵団以外で見た記憶が無い。俺から取れる薬草は傷に効くみたいだけど、エルフ程優れた種族の前線で、回復魔法を見かけないのはおかしいよな?
今はルンフォードのおかげで、自力で移動してないので、色んなことを考える時間がある。疑問に思った事を洗うべきだと思う。未知を既知とする事で、アルネアお嬢様の危険を減らせるはずなのだから。
防御と支援に優れたハイエルフが回復魔法を使えないというのは、ハッキリ言っておかしい。回復魔法が神官の所業だとするならば、エルフには、神が居ないのだろう。
そうして、回復魔法という目に見える実利がある故に、神は居ると考えるのが妥当だろう。
"回復魔法を探そう"
又は、覚えれたらいいなと思う。
アルネアお嬢様は、モンスターを使役できるだけでただの人間だし、回復魔法があれば安心だ。俺が考えるに、回復魔法は、回復魔法というジャンル以外にも、水と炎の魔法の上位魔法に回復が有るだろうと予想している。
命を司る水は、回復魔法にはうてつけだし、炎は再生を意味する。回復魔法としては有り得なくない。後はドルイドの系統が風に属するか土に属するかで、そのどちらか(又は双方)にも、回復魔法が有ると考えている。
まあ、全然外れてて、神聖属性や光属性だけが回復の可能性も充分に有り得る。
それは良いとして、回復魔法が有る以上、エルフにも神官が居ていいはずだ。人間の信仰する神とやらじゃないと、回復魔法は覚えられないんだろうか?そうであれば、モンスターである俺も、人間の信仰する神を信仰すれば、回復魔法を使える様になるかも知れないな。
後は、エルフが種族的に回復魔法を使えない、受け付けない場合。この場合は、神官が居ないのは仕方ない。
回復魔法自体が全く受け付けない場合は別にして、上位種であるはずのハイエルフが修得できてないのは、あまりにも奇妙だ。ハイエルフのソフィアは、魔力量も膨大で、巫女である。回復魔法の筆頭でもいいはずだ。
龍の巫女と言っていたので、ドラゴンは力のイメージが強いから、龍への信仰は回復魔法を使用できないのかもしれない。
「あ、モンスターですわ!」
お、モンスターのお出ましか。街道近くだし、強いモンスターでは無いだろう。にしても、感知が無いとこんなにモンスターと近くで遭遇するのか……危ないな。この距離じゃ逃げるのも一苦労だ。
ルンフォードは、獣人なんだから、索敵能力高くていいと思うんだが、俺の索敵能力が基準なので、もしかしたらこれでも高い方なのかもしれない。
敵はウルフ系か。相手の嗅覚と距離から考えて戦闘は避けられないな。助けるにしても、このルンフォードの戦闘能力を見ておきたいし、今回は助けずにみてるか。
はぐれなのか、敵の数は一体。
一応情報開示のスキルで、ルンフォードとウルフの体力を見ておく。
先手はウルフから。
ルンフォードを傷つけようと、突進してくる。
ルンフォードは、斧という重い武器を携えながらも、獣人持ち前の筋力と敏捷力で、軽々と回避する。
ただ、大きく回避しすぎだ。これじゃ、攻撃できない。
いくら相手がウルフといえど、命のやり取りは初めてだろう。
ウルフに比べれば、彼女の父親の方が何十倍と強い。それでも、命をかけたことは無いだろう。初めての実践に怯えるのも無理はないか。
ウルフとルンフォードが数度交差し、双方ダメージは無し。しかし、無駄に大きく回避し、緊張している彼女は呼吸が乱れており、ウルフの方が優勢に見える。
ルンフォードの打撃力があれば、一撃入れれば倒せるはずなんだがな。確かに一人旅での負傷は、痛覚のある生き物からすればかなり恐ろしいものだろうから、注意するのは仕方ないけど。
回避では埒が明かないと思ったようで、ルンフォードは、ウルフの爪の振り下ろしに対して、斧で受け止める事にしたらしい。
硬質なもの同士がぶつかりあった音がし、爪を弾かれたウルフが体勢を崩す。
そこにすかさずに斧をぶち当てると、予想通りウルフは一撃で倒れた。
この調子での戦闘では、相手が二体になったら勝てなさそうだ。斧の精霊の出番は早く来そうだな。
ピンチを颯爽と助ければ、斧の精霊として、信用してもらえるだろう。マジ話せる機能俺に搭載して欲しかったなぁ……。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv8/70
HP570/570
MP510/510
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.5》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.1》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.9》《植物成長速度Lv.8》《植物鑑定》《水汲みLv.10》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.3》《指し示す光》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.7》《打撃耐性Lv.7》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.3》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人 導かれしもの 光を集めるもの
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