7話 サバイバル開始
キュプロクスの足音は聞こえなくなった。
キュプロクスの足音が離れてから、お嬢様は直ぐに眠ってしまった。余程疲れていたのだろう。無理もない。
慣れない森、初の実戦実習、キュプロクスの襲撃。しかも、俺のところに来るには、キュプロクスという濃厚な死の気配に向かって、真っ直ぐ突き進まなければならなかったはずだ。
どれ程の胆力だろうか。彼女は人間で、植物系モンスターの俺なんかより、何倍も死がリアルで、恐ろしかっただろうに。
しかし、魔王の復活か。なんか学園生活で数日のほほんとしてたし、今日のモンスターもミニゴブリンがメインだったから、あんまり魔王復活の予兆とか感じられなかったんだけど、何で急に。
何か、世界の調和を乱すような、魔王が復活するような出来事が起きたんだろうか?勇者の誕生とかかな。
魔王といえば勇者。勇者といえば魔王。みたいな切り離せない存在だし。
後は、よく見る異世界から召喚された勇者とかか?後は転生者とか。
……転生者って、まさか俺じゃ無いよね?でも、俺が転生してきて、直ぐに魔王が復活したと考えると、些かタイミングが良過ぎやしませんか。
えっ、嘘でしょ?まさか、本当に俺原因なの。いやいやいや。いやいやいやいやいや。ナイナイ。絶対に無い。
雑魚植物系モンスターが、どうやって魔王倒すんだよ。しかも、主人は従魔を従えてる点を除けば、戦えない一般人ぞ?
他人どころか、他モンスターとも意思疎通に難ありの植物系モンスターが、魔王討伐?はいぃ。
不可能ですね。もし、俺に勇者的な使命が有るなら、この世界詰みましたわ。勇者だって、三人の仲間と魔王倒すんだぜ?俺一人にどうしろと?
うん。あれだ、俺が勇者の使命を背負ってない事を祈ろう。
俺は、アルネアお嬢様にこき使われつつ、勇者の登場を待とう。
万が一、億が一俺が勇者だったら、世界よ諦めてくれ。俺はアルネアお嬢様のお世話で精一杯です。人には向き不向きってもんが有るんだよ。精々俺が成れるとしたら、勇者が功績で貰った別荘の、最下級使用人が関の山ですことよ。
冷静に考えて、引き金は俺だとしても、引き金イコール勇者って方程式は無いだろう。無いといいな。
それに魔王がどうの、世界が使命がどうの、なんて考えても仕方ないし、今は目の前の問題を片付けないとな。
「んっ、モノリ?ここは」
おっ、起きたみたいだな。取り敢えず、お嬢様とこれからの事を相談したいんだけど、喋れないしなぁ……。
てか、お嬢様起きたけど、朝なのかな。ちょっと外見てみるか。
薄暗いな。夕暮れ時か朝焼けの二択なんだが、時間が分からないのが、こんなに不便だと思わなかった。もし、夕暮れ時なら、夜の森は危険過ぎるから、出ないようにしたいしね。
「そういえば、逃げてきたんだったわね。これからどうしよ?一旦、街に戻った方が良いかしら」
確かに、一案としては有りだな。
けど、アルネアお嬢様が寝てる間に気付いたんだけどね、視力のいいモンスターから、逃げるように入った深い森。
そんな、深い森を一心不乱に、隠れられて休める場所を探し求めて、それはもう闇雲に走り回った訳ですよ。
行き着いた答えは「ここ何処だよ」な訳で……。
逃げるのに必死で、現在地から街の方角すら分からないから、太陽や星で方角を確認しても無意味なんだよね。目的の方角が分からない、本格的な迷子だからね。
一難去ってまた一難。異世界ハードモード過ぎやんけ。
どうしよ?
チートとか、どっかキノコみたく生えてませんか。無い、あ、無いですか。売り切れですか、そうですか。
いや、お嬢様言い訳させてください。あの時はね、あれが最善だったんですよ。
「さて、モノリ。街へ帰りましょうか」
何一つ伝わってなかった!あんなに一生懸命触手をわちゃわちゃしてたのに!
お嬢様に外の状況を少しだけ見せてみると、暗いので、まだここに居るという判断だった。
「あら?モノリ、あなた葉っぱに何か生えてるわよ」
何ぞ!と、思って触手で触ってみるとなんか有る。なんだこれ?《調べる》使ってみるか。俺から直接生えてるんだもんな。多分出来るだろ。
エメム草:森の奥に沢山生えてる一般的な薬草。磨り潰して、膏薬として使う。磨り潰した物を飲んでも効く。非常に苦く不味い。
出来たな。今のところ《調べる》が自分にしか使えないから不便だ。
膏薬ってなんだっけか、確か湿布的なものだったような気がする。ようするに、貼るタイプの薬だな。患部に貼って良し、貼り付けられない場合は飲んでも良しか。意外と万能だな。
まあ、味はこの際仕方ないね。良薬口に苦しって事で。
今は取らずに生えたまんまにしておこう。だからね、アルネアお嬢様、取ろうとしないでくださいません?
「どうしたの?取ってあげるってば」
今度は、ブンブン横に首を振る。
「取るなって事かしら?」
慌てて縦に振って肯定する。
「肯定と否定だけとはいえ、本来意思疎通が不可能で、従魔にしても大まかで一方的な指示しか出せない植物系モンスターと、意思疎通できるのは有難いわね」
まあね。優秀だからね!
「じゃあ、今から2択で答えられるように喋るから、イエスなら右手、ノーなら左手の手の平を触手で叩いて」
イエスを示す為に、お嬢様の右手に触れる。
「伝わったみたいね。じゃあ、まずは、街に戻った方が良いかしら」
これはノーかな。キュプロクスがまだ居るなら、自殺行為だし。
「なんで、ノーなのかしら?……あの巨人や、それの変わりがまだ街に居るかもしれないという事?」
イエスだ。占領中ならキュプロクスが、占領後なら、統治するだけの高い知能を持ったモンスターが、いるはずだ。
もし、占領せず蹂躙して満足して去って行った後だとしても、廃墟に戻るメリットは、俺じゃ思い浮かばない。
希望的観測で、街の防衛機能でキュプロクスを倒し切った事にかける手も有るけど、生徒の数だけいた従魔の攻撃を、身一つで凌ぎ切ったキュプロクスを倒すイメージが湧かない。
「街に戻れないとなると困ったわね」
何が?なんか、困る事あったかな。アルネアお嬢様をボーッと見てると、困り顔で答えてくれる。
「水も食料も無いし、着替えも無いわ。あなたは植物系モンスターだから、水だけでいいかも知れないけど、人間の私は、そういう訳にはいかないのよ」
あーそっか。俺もう、人間じゃないから、さっぱり気づかなかった。
お嬢様、俺は下が土だから、水もなんとかなるんだなこれが。人の手の入ってない森だから、栄養も沢山。
「やっぱり、一度街に戻るしか」
ノー!ノー!
「もしかして、戻れない理由が有るの?」
イ、イエス。
「確かに、森のかなり奥の方へ来たようだから、強いモンスターと遭遇する可能性は高いわね。それでも、森の中にずっと居るよりは、良いと思うんだけど」
反応はノーで。
いやね、街の方角分からないから、帰りたくても帰れないのですよ。とは、口が無いので言えない。
「仕方ない。今日戻るのは諦めましょうか。明日街の近くまで戻って見ましょう!あの大きいのなら、相当遠くからでも居れば分かると思うし」
仕方ないので、イエスと反応した。
「じゃあ、取り敢えず外が明るくなり次第、今日の分の食料と水を、確保しに行きましょう」
イエスっと。食料はまあ、一日ぐらい食わなくてもなんとかなるけど、水は急務だな。流石に水丸一日飲まないのは辛いだろ。いや、一日空腹も辛いと思うけど、食料と水じゃ緊急度が違うよな。
水、水って、どう探すんだ……?
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名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.4/10
HP10/33
MP8/16
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.3》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き
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