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66話 黒鬼蜘蛛

 こんな恐ろしくデカくて凶悪な蜘蛛に、狙われる覚えが無い。なら、今感じてる敵意は錯覚か?相手がデカ過ぎて警戒したか?


 いや、違うな。俺が動くと、蜘蛛もあわせて動いている。完全に俺狙いだ。と、取り敢えず情報開示でHPを出しておくか。


 勝手に縄張りに入ったか、知らないうちに巣を破壊していたか、食性が草食なんだろう。


 ……。


 草食だけは無いな。蜘蛛だし。


 よし、逃げよう。俺は簡単に突破できるルートを見つけるために、わざわざ来たんだ。如何にも強そうな奴と戦いたくない。


 複雑に入り組んだ木を盾にしながら、触手を使い立体的に逃げ回る。


 おぉ!触手が長いから、次の木に飛び移るのが、ものすごく楽だ。身体が花で身軽なのもいい。この速さなら蜘蛛も諦めるだろ!


 て、うぉぉぉぉぉおぉぉぉ!?!?


 速!?あいつめっちゃ速い!


 俺が触手を伸ばして、次の木に捕まるスピードに比べ、蜘蛛が糸を飛ばして飛び移るスピードのが速い。


 スパイダー○ンを相手にしてる敵は、こんな気分なのかもしれん……。


 空でも飛べないとやってられないな。


 ここは俺得意の霧で……。


 ……が、ダメ。


 隠密型は同時に感知型でもあるらしい。蜘蛛が俺に向かってくる速度は変わらずだった。

 立体的な機動力も、木の上での素早さも相手が圧倒的に上。


 どうも、生き延びるには、ここで奴を倒すしかないらしい。


 相手は虫だから、弱点は火か?


 まあ、仮に弱点が火だとして、森で使ったら大事故か大顰蹙(ひんしゅく)間違えなしだな。後、おそらく俺も燃える。巨大蜘蛛とHP耐久レースをする気は全く無い。勝てる自信も無い。


 《猛毒Lv.1》は、多分効かないと思う。蜘蛛だし。《血液吸収》は、速度がゆっくりだから、モンスター相手だと死体ぐらいにしか使えないしな。


 《噴霧》も撹乱には向いてなかった。


 なれば、後は触手と《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》だけか。


 蜘蛛から糸が飛んでくる。


 捕獲して安全に仕留めたいのだろうか?どうも、知能が高いみたいだ。


 この距離なら、モンスターらしく巨体を活かして、飛んで噛み付いて来るかと思ったけど、慎重派だな。


 返礼品といってはなんだが、お返しに大量の触手と棘を叩き込んでやる。


 蜘蛛は向かってきた触手に慌てたのか、糸で触手を迎撃しようとするが、蜘蛛は一本ずつしか糸を飛ばせなかった。こちらは同時に複数の触手を放てる。手数だけでいえば、こちらが圧倒的に有利だ。


 何本かは絡め取られたが、無数にある触手のたった数本だけ。更に細い棘は全く捕えられず、糸に絡め取られ無かった触手とともに、巨大蜘蛛を襲う。


 棘は四方から蜘蛛の全身に突き刺さり、触手は蜘蛛の胴体、いや尻か?あの蜘蛛特有の膨らんだ部分を打ち据える。


 表示していた赤いゲージが一気に……減らなかった。


 触手も棘も効果は薄いみたいだ。HPバーの10分の1も減らなかった。効かないわけじゃないし、硬い殻に守られてる訳でも無いし、じわじわ削っていけば勝てるな。血が出る生き物なら殺せるってね。


 棘を引き抜くと蜘蛛から、紫色の体液がダラダラと溢れた。


 うげぇ、気色悪い。


 逃げ回りながら、タイミングがあれば触手で叩く。実に地味な戦いだ。堅実にダメージを重ねていくと、ダメージにか、なかなか捕まらない俺にかは分からないが、蜘蛛が怒りだした。


「ジュゲゲエジゲェェェジュ」


 怒りの咆哮と撒き散らす毒液が周囲を溶解する音と合わさり、最悪な不協和音を奏でている。


 速度は速いが突っ込んで来ないで、ある程度の距離から糸を放ってくるばかりだったのが、頭に血が上ってからは、素早さと巨体を活かして攻撃して来た。


 蜘蛛の残り体力は半分ほど、まだ俺が優勢のように思うけど、攻撃パターンを把握するまでは面倒だな!


 厄介だ。早く倒さないと不味い。相手の方が速いので、突進を避けるのが困難な上に、立体的な動きでも糸で軌道を変えてくるせいで避けれない。


 あの巨体の体当たりは、喰らったらタダじゃすまなさそうだ。


 動きをよく見て回避しないと……!


 痛てぇ!?


 HP510/554


 体当たりを喰らってしまい、慌ててHPを確認する。植物系モンスターの体のおかげで、痛みはすぐに無くなるが、この避けるのが難しい攻撃を一発受けるだけで四十以上のダメージ。


 外見によらず、B級のモンスターは頑丈らしい。見た目だけなら、どう考えても一撃でぺちゃんこだったからな。思ったよりダメージは大きくなかった。


 でも、俺には回復手段が無いから早くしないと!四回に一回ぐらいしか避けれない。このまま触手でじわじわ削る戦法だと、こちらが先に削りきられてしまう……。


 蜘蛛……蜘蛛の弱点。火以外で!


 なんか、なんか無いか?


 もう持ってる属性攻撃、手当り次第ぶつけるか。考えたが分からん。どうも、俺は蜘蛛に詳しくないみたいだ。


 まずは《土魔法Lv.2》を試してみよう。


 喰らえ土塊!


 バシュッ!


 という発射音と共に、蜘蛛に向かって飛んでいくが、難なく躱された。


 魔法を放つ為に立ち止まったところを、牙で攻撃されHPを大きく削られる。


 HP432/554


 のぉぉぉぉぉぉ!?

 いまのは……いまのは痛かったぞぉぉぉ!!!ちくしょう蜘蛛め!


 まあ、いい。痛みは一瞬だ。すぐに冷静になれる。


 土魔法なら……壁を生み出すべきか?


 蜘蛛の突進にあわせて、空中に土の壁を創り出す!


 蜘蛛が体当たりをかましてくる瞬間を……ここだ!


 しかし、技術が足りなかった。なんなら、魔法レベルも足りなかったようだ。


 地面に触れてない土魔法の構築速度は遅く、また、出た後も壁とは呼べない程度の塊が中に一瞬浮かんだだけだった。


 土壁で防ぐはずだった蜘蛛のボディプレスをまともに喰らい、一瞬視界が瞬く。目も無いし、脳に当たる器官も無いのだから、脳しんとうでも目眩でも無いはずなんだが、衝撃か?フラフラする感じだ。これだから人間の残滓は困る。


 HP347/554


 次は《水魔法Lv.3》を使ってみるか。


 水魔法のレベル3で使える技を使ってみよう。水の槍を形成し、相手を貫く事ができるはずだ。ただ、ジャベリン系の魔法は、アロー系の魔法よりも構築が難しく、魔法戦闘向きでは無い俺の消費MPはかなり大きい。槍に触れた事がないから、槍のイメージが微妙なのも原因かもしれない。


 前世で槍に触れる機会があったとすれば、槍投げの選手ぐらいだろう。


 狙って水の槍を射出する。ついでに触手のおまけ付きだ。触手を避けたり弾いたりしている間に当たればいい。と、思ったのだが……。


 水の槍は思ったよも随分とゆっくり飛んでいった。決して遅いわけではないが、蜘蛛には当たらないだろう。


 ダメだ。魔法での実戦経験が少なすぎる。


 その後も何度か試して見るが、上手くいかず、速度の速いアローに切り替えたが、低位の魔法ではダメージ量が少な過ぎた。


 蜘蛛の速さを意識的に追うのは、大分精神的に疲れる。


 体当たりと触手&魔法の削りあいで、双方とも満身創痍といった感じだ。


 つ、疲れた……。くっそ疲れた。しつこいし、速いし、集中力続かない。なんだコイツ。勘弁してくれ。


 蜘蛛もダメージの蓄積が効いているのか、最初よりは随分と攻撃に精彩を欠いている。


 蜘蛛のHPバーは、地道な攻撃のおかげで6分の1近くまで削り取れた。ゲームがゲームなら、体力の文字が黄色になっていたところだろう。


 でも、俺の体力はゲームで言うなら赤表示なんだよな。


 HP72/554


 この体力が三桁から二桁に下がった不安感と言ったら半端ない。ヤバいヤバい。ここで蜘蛛が逃げ帰るだけの大ダメージを叩き出さないと死ぬ。


 スピードタイプ相性悪すぎる。


 最後は《氷魔法Lv.4》だけだけど、どうか弱点属性であって欲しい。


 氷魔法を唱える。


 その直後蜘蛛が突進を仕掛けてきた。


 氷魔法は、水魔法の上位属性だ。弱点では無くとも、そこそこのダメージを見込めるだろう。


 しかし、その考えは、あまりにゲーム寄りだったと言わざるを得ない。


 上位の魔法は、より構築が遅く、詠唱時間が長い。


 蜘蛛の巨体はもう目の前だ。


 あー……こりゃ死んだな。運が無かったな。よりにもよってこんなところで死ぬとは。最期にアルネアお嬢様に会いたかったな。ついでにアリアとかその辺にも。


 目は無いが、思わず視界を手放す。


 グッと全身に力を入れ、最期の時に来るであろう衝撃に備える。


 ゴウという音が耳に届いた。そして、その次にドンともドシャともつかない音が聞こえると――


「アリシャ!大丈夫ですか!?」


 ――衝撃の代わりに、聞き覚えのある声が降ってきた。


 ……死の瞬間はまだ訪れない。


 意識をそちらに向けると三姉妹がいた。


 蜘蛛に意識を向けると、木の幹に衝突した蜘蛛は背中をズタズタに切り裂かれていた。


 三姉妹は構築も発射速度も一番の風魔法を放ったのだろう。蜘蛛の突進よりも風のが速いのは納得だ。そして、風魔法こそが、あの瞬間俺を助けられる唯一の手段だったのだろう。


 流石は魔法に長けたエルフの精鋭……死ぬかと思った……。

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 名前:モノリ 性別:不明


 種族:ラークスフォッグ(霧の湖)


 Lv5/70


 HP554/554

 MP498/498


 状態:普通


 常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》


 任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.9》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.3》


 獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》


 魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》


 称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人


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