63話 半神
「じゃあ、ルナ、セレネよろしくね」
「任せてください姉さん!」
「らくしょーだよ!」
三姉妹の双子が先導してくれるらしい。アルテミスのが詳しそうだけどな?
エルフの里の天然の迷宮をクリアするぞ!と、意気込んで見たはいいものの、エルフの先導がいるので、迷ってる気配も無いし、トラップにかかる気配も無い。エルフからすれば、自分が暮らしてるのだから当然なんだが、何と言うか拍子抜けだ。納得がいかない。
順路を正確に把握しているセレネと、抜け道を知ってるルナのナビゲートは非常に優秀で、危惧するような事は何も起きなかった。戦闘も俺がいるので、敵が多いところは、避けて通れたのも大きいだろう。
「もうすぐだよ〜!」
「今回はいつもより速かったわね」
「2人ともありがとう。本当は私が報告に行くべきなのだけど、アリシャが居るから、どちらか行ってくれる?」
「セレネ行って〜!」
「じゃあ、お願いねセレネ」
「……はい」
三女めっちゃしぶしぶ行ったな。姉権限最強である。ルナじゃなくて良かったとも思うけどね。ルナ能力は高いけど、細かい事を気にしないので、報告が大雑把そうだし。
ちょっとアルテミスに気になった事を聞いてみよう。
『いい?』
『どうぞ』
『ここ入口じゃないよね?』
『ルナは昔から好奇心が旺盛でしたから』
『なんて簡潔で分かりやすい説明なんだ……!』
きっと、子供の頃迷子になりまくって迷惑かけてたんだろうなぁ。容易に想像できる。
しばらくアルテミスと雑談していると、セレネが何人か引き連れて戻って来た。
偉そうなエルフ一人と衛兵っぽいエルフが十人。ちょっと仰々しいな。
「報――」
「――まて、ハイエルフ様達が直接話をお聞きになられる。……早急に身なりを整え謁見せよ」
「ッハ!」
ハイエルフが直接聞いてくれるなんて凄いな!身なりを整えさせるって事はさほど緊急事態でも無さそうだな。流石に緊急事態に悠長に着替えてるやつも居ないだろ……居ないよな?
「エルフは規則を重んじるので、例えモンスターが目の前に居ても、ハイエルフ様達に謁見する時は水浴びします」とか、言いそう。偏見かな?いや、あの面倒な西とのやり取り忘れてないからな?あながち偏見とは言いきれない。
「そこの植物系モンスターは従属していると聞いているが本当か?」
「特殊個体であり意思の疎通が可能であった為、報酬を約束し従わせております」
「モンスターの傭兵か……?まあ、いい。ハイエルフ様達が直々に判断される。お前達が離れてる間こちらであずかる。所詮モンスターだしな」
「はい。では、よろしくお願い致します」
アルテミスが丁寧にエルフ式敬礼と思われる動作をすると、ルナとセレネもそれにならい、すぐにここを離れた。
俺は今、見知らぬ里でたった一人で衛兵に囲まれてる状態だ。モンスターだからと理由で、うっかり殺されそうで怖んだけど……。身なりを整えるって言ってた女性に、ついて行く訳にも行かないし仕方ないんだけどさ。
「しかし、こんなみすぼらしい花が本当にモンスターなのか?」
「なぁ、この花って薬草じゃ無かったか?モンスターには見えんな。動かないし」
いや、空中に浮いてるんだから、少なくともモンスターには見えるだろ。あ、待てよ?異世界だから空に花を咲かせる植物とかあっても、何らおかしくは無いな。
「アルテミスさん凄いよな」
「あぁ、まさかモンスターまで従えるとは」
アルテミス大人気だな。まあ、気持ちは分かる。
「取り敢えず、檻にでも入れといた方がいいんじゃ?」
「バカ。檻に入れてどうするんだよ。すり抜けられるだろ」
「それもそうか。でも、ちょっと不安だろ?」
「そんなに強そうじゃないし、道案内ぐらいの役割だろ。それで、思いの外報酬が良かったから、余計に着いてきたんじゃないか?」
「……植物系モンスターがもらって嬉しいものってなんだろうな?」
「……さぁ?水とかじゃない?」
「その辺にあるだろ」
「だよなぁ……」
兵士達のくだらない雑談に耳を傾けながら、棒立ちしてると、アルテミス達が戻って来た。
目を釘付けにする程、三姉妹の装いは華やかだった。決して豪奢では無いし、時間のかかるものでも無いだろうが、戦闘用の服から着替えるだけで、こんなに可憐だとは……。
エルフ恐るべし。特にアルテミスのヒロイン力が高すぎる。一番俺が驚いたのはルナだ。どこの深窓の令嬢だ?髪型のせいなのか、視界がバグってるのか?服装と装飾品、髪型だけでこんなにイメージが変わるとは……。
セレネはいかにも優等生然としている。キリリとした雰囲気が、アルテミスよりも年上に見せている。かっこいい女性といった感じだ。前世ならパンツスタイルに角張った眼鏡を推奨したい。
周りの男達の空気も緩んだので、アルテミス三姉妹は、エルフの中でも美形なのだろう……多分。俺からすれば、アルテミス達にデレデレしているこの男達も、滅多にお目にかかれない美形である事は間違えない。外見インフレし過ぎだろ。俺が人間だったら、エルフに生まれなかったことを恨めしく思うだろうな。
兵士達に案内され、みすぼらしい花のモンスター一体に、十人が張り付くという厳戒態勢で、謁見の間に進む。
重厚そうな扉には、ふんだんによく分からない意匠を凝らした装飾がしてあり、俺がこの世界の美的センスの持ち主なら、感動で涙を流していたかもしれない。後は、木の内側の見た目が城。みたいな意味不明な状況下ではなく、最初から城だったら素直に感動してたと思う。
扉が完全に開くと、中にはハイエルフ達が居た。
エルフが金髪だったので、勝手に金髪だと思い込んで居たのだが、ハイエルフ達は銀髪で、背の高いエルフ達に比べ小柄だ。勿論、エルフにしては小柄という意味で、人間だったら普通に背が高い方に分類される。
後は、エルフの女性は男性と区別がつき難いが、ハイエルフの女性はすぐに分かった。何処とは言わないけど。
一番奥に座ってる方が、件のソフィア様だろう。まあ、名前から薄々気付いていたが、凄まじい美女だ。正直、三姉妹より美人がいるとはこれっぽちも思っていなかったので、口があったら塞がら無かったな。無くて良かった口。王女様の前で、あほ面晒すところだった。
エルフは女王で女性が優位の社会性を持つようである……。謁見の間にいるハイエルフの殆どが女性なので、多分あってると思う。もしくは、ハイエルフに男が少ないだけか。
「よく来ましたね……アルテミスだったかしら?」
「ッハ!この度は……」
私如きの名前を云々かんぬん。女王様におかれましては云々かんぬん。
本題に入るまでが長い……。かくかくしかじかで終わらせて欲しい。俺王様に謁見した事ないし、こういうものなんだろ。
「……以上がご報告になります」
「分かりました。しかし、そのような事態だったとはいえ、誇り高きエルフがモンスターの力を借りるとはあまり感心しません」
「しかし、あのモンスターがいなければ、我々は同胞を救えなかったでしょう。どうか、寛大な処置をお願い致します」
歓迎されないとは思ってたけど、助けた相手にしかめっ面をされるのは、あまり快くないな。
殺されないとは思うけど、兵士達も言ってたように所詮モンスターだしな。最悪地図だけ奪って逃げればいい。
俺はエルフ好きだし、戦う気は無いからな。
「分かりました。では、まずは、里の周囲にいるモンスターを倒してきてください。貢献によっては、その褒美も検討しましょう。しかし、渡せるとしても、最小限で大まかなものになります」
「ありがとうございます」
ん〜マジか。詳しい地図が欲しいな。もう随分貢献してると思うんだけど、地図をもらうには足りないってか?
これは……いや、敵対は愚策だな。貢献しつつ、詳細な地図を見る機会を伺うしかない。まあ、大まかな地図でも、自分が世界の何処にいるか、現在地が分かるだけでも大分進歩だけどな。大まかな地図すらも無ければ、俺はこの世界で自分が何処にいるかも分からず、世界中を探し回るはめになっただろう。そんな事をしていたら、アルネアお嬢様がお祖母様になってしまう。
ここは、快諾して言う事を聞くべきだな。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv5/70
HP554/554
MP498/498
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.9》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人
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