62話 潜入エルフの里
目の前にある気がする大樹に、歩けども歩けども着かない。目の前にあるのに着かないという精神的苦痛だけでも、エルフの里を襲わない理由になると思う程だ。
気長な植物系モンスターでもうんざりするのだから、普通の人間ならかなり苦痛だと思われる。エルフ達は、相変わらず黙々と歩いてるので、慣れてるのかもしれない。
気分は修行僧。法衣が欲しいね!棘でズタボロになるけど。
そんな気の遠くなる旅路を続けていると、空が暗くなる。雨か?
意識を上に向けると、どうやら大樹の葉の影に入ったらしい。
『おぉもうすぐかな!?』
思わずアルテミスの肩を叩いて声をかける。
『ええ、後数日ですね』
葉の影に入ってから、まさか更に数日掛かるとは思わなかった。
『本気で言ってる……?』
『……?ああ、意外と遠いですよね』
『意外と……?』
意外となんて通り越して遠いんだが……?
それから更に進み、エルフの里を囲むという鬱蒼と茂る森の手前まで来ると、一気にモンスターの出現頻度が増えた。魔力反応の大小が多過ぎて、目がチカチカする。いや、目は無いんだけどな。心は人間なので、目がチカチカするで気分的にはあってる。
や〜これはヤバいな。
確かに緊急事態のようだ。
「モンスターが森の中から出てくるなんて……」
「しかも、見た事の無いモンスターばかりだ」
エルフ達がざわざわしている。砂糖食べたい。もしくは、顎が尖るまである。砂糖はざわわか。
ゲームのイベントなら、眼前にでっかく魔王軍襲来!みたいなのが、凄まじいインパクトをもって出てきてもおかしくないな。
『あーアルテミスさん?どうすんのこれ』
『倒しながら進んでいたら、里もこちらも全滅するでしょうね』
まあね。アホみたいな数だもの。もしくは、既に陥落している可能性も高い。
『なぁ、もうダメなんじゃないか。加護も弱まってるんだろ?』
『大丈夫です。ハイエルフ様達は、普通のエルフとは比べ物にならない魔力量を有していますから。それに、長であるソフィア様は半神と呼ばれる程の魔力を持っています』
ソフィア様か。何語か忘れたけど、叡智みたいな意味だった気がする。
『なら、ソフィア様が居れば大丈夫なんじゃないのか?いくら魔王軍といえども、魔王が直接乗り込んで来る訳でもないのに、半神には勝てないだろ』
『前にも言いましたけど、ハイエルフ様達は護りの術しか持っていないので。それに、膨大と言っても無限では無いんですよ?』
『逃げる先は考えて有るのか?ハイエルフ様御一行を、このモンスターが縦横無尽にいる中を連れ回すのは無理だろ』
『えっと……』
『なぁ、行き当たりばったり過ぎないか?』
『認めます。作戦立案等はもっと上の役職の人の仕事だったので、散り散りになってからしか、こういう事やったことないので』
そういう事か。
じゃあ、素人&素人で、作戦を立ててモンスターの集団に突っ込んで救出しなきゃいけないわけか。
……無理じゃね?
街の救出作戦も、そういえば結構雑だったな。相手が思いの外残念で助かったけど。きっと西のエルフ達は、捕まった時相当弱ってたに違いない。南のエルフ達の時もしらみ潰しだったしな。
『はっきり言って詰んでないか?』
『しかし、やるしか無いのです。貴方も何か考えてください』
無茶振りが過ぎるだろ。この劣勢を覆したり、この状況から要人を救出したいなら、諸葛孔明連れて来なさい。それ以外は無理。
と、無い物ねだりをしても意味が無い。無い頭を絞るしかないな。
チートとか降ってこないかな?いきなりIQが30000になるとかでもいいんだけど。もう、IQ300の時点でちょっとバカっぽいな。
う〜ん。いつも通りにやるか。奇抜な作戦は、天才軍師がやるから成功するのであって、素人がやっても、ちょっとしたドッキリで終わる可能性のが高い。
それに、所詮人の街で得た情報だしな。中に入ったら、意外とのんびりしてるかも知れない。天然の迷宮が滅茶苦茶仕事してる可能性もある。
一応聞いてみるか。
『なぁ、アルテミス達はどんな状況で逃げ出したんだ?』
『巡回中にです』
『中央のエルフ軍は全員逃げ出したのか?』
『すみません。実はよく分からないんです』
巡回中に襲われて逃げ出したんだから、全体の状況なんか知らないか。聞く必要無かったな。
エルフの里にモンスターが侵攻したのは事実だが、軍も健在で、防御に優れたハイエルフ達がいるなら、さほど緊急事態じゃない可能性が高い。
もしかして加護が弱まったのも、伝言ゲーム特有のバグというか何と言うか、そういうのの可能性が高い気がする。アルネアお嬢様みたいな人間の情報と違って、エルフは人間社会に極一部しか干渉を許して無いはずだしな。
西や南のエルフ達が逃げ出したのは、中央と違いエルフの外様大名的な感じで、郊外に有るから、中央に比べ襲われやすかったとか?
『神王樹が安全って結論に至ったって言ってたけど、三人で話したのか?』
『そうですよ?』
これは、俺やアルテミスが深刻に考え過ぎてたパターンかも。隠れて里に入り込んで、詳しい状況を中央軍やハイエルフ達に直接聞いた方が良さそうだ。
……でも、誤情報を流したとなれば、ああいう所は信用問題じゃないのか?いや、魔王軍の策略の可能性もある……か?散り散りになったエルフが連絡を取り合うのは困難。しかし、同胞を大事にするエルフ達であれば、ハイエルフの危機となれば無茶な人数でも戻ってくる。そこを各個撃破とか。
……考え過ぎだろうか。まあ、完全に陰謀論ではあるな。
キュプロクスのような、個にして軍に匹敵するモンスターを従える魔王が、そんなちまちました事をするだろうか?
『三姉妹と俺だけで、一度中に入らないか?』
『戦力は多い方が良いと思います。もし、里の中に侵入されていたら……』
『もし、侵入されて無かったら、こっちが全滅するんじゃないか?』
『それは、そうかも知れませんが……』
『まあ、俺も作戦なんか考えた事あんまり無いし、アルテミスの判断に任せるけど』
『一応アリシャは実績が有りますから、それに乗りましょう!』
『失敗しても怨むなよ』
『来世まで怨みます』
『それ、未来永劫じゃん……』
ウィットに富んだ、エルフのブラックジョークがキツいぜ。
アルテミスの口から、先程の作戦とも呼べるか微妙なものを、皆に説明してもらう。
案の定反論が多かったが、アルテミスと思慮深い南の代表のおかげで何とか説得する事ができた。
西のと南のは、モンスターに気付かれない位置で、待機してもらう事になった。
「御三方に任せ、待つだけと言うのは心苦しいですが……」
「ック……仕方が無いとはいえ不甲斐ない」
「増えれば増える程、見つかりやすくなってしまいますから」
「この数のモンスターを、一体魔王は何処から……」
「分かりません」
「しかし、人間め。偽の情報を流すとは!」
「まだそうと決まった訳では無いので、あくまで外から見たらモンスターが溢れていると言うのは、充分危険でしょう」
「なら、何故加護が弱まったなど!」
「モンスターがいきなり増えたから、憶測で……と言うのは、充分理由としては有り得るかと思います」
さて、もう少し作戦を煮詰めて……まずはルートの確認だな。アルテミス頼んだぞ。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv5/70
HP554/554
MP498/498
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.9》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人
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