57話 東の街-休息
人が増え、話し合いになるかと思ったが、今度は意見が三組とも一致した。
一度東の街を経由しエルフの大樹(中央の街)に戻るという方向のようだ。
話を聞いてからずっと疑問だったことを聞く為に、アルテミスをちょいっと触手の先端で叩くと、すぐに魔法を繋げてくれた。
『なんですか?今はあまり消耗したくないのですが……』
『すまんな。一つだけ聞かせてくれ、何故北に行かない?』
『怪我人に子供達、それに加え食糧が足りませんから』
『本当にそれだけか?』
『……私は、折角助けた者達を、無闇に危険に晒すつもりはありません』
『なるほど。北の砦の向こうは危険なんだな』
『……いえ、怪我人と子供達がいるからです』
『……そうか』
『もういいですよね』
そう言うやいなや、魔法的な繋がりが、ぶつりと切れる。
ふむ。どうも、北は危険らしい。
エルフの精鋭部隊の隊員が躊躇するほどに。
エルフの怪我人達は、俺の薬草で大分良くなった。万全とは行かないまでも、北の砦に着くまでには十分戦力になりえるほど回復しただろう。
亜人・獣人・人間が相手であれば、意気込んで行ったことだろう。ならば……。
予想としては、人の住む領域でない可能性が非常に高いと思われる。
魔王に従属するモンスター達は、最低で俺と同等のランクの強さを持つモンスターであり、高い知性を持つ可能性が高い。
まさに人外魔境だ。
それ以外の下等なモンスターも上位種に従ってる可能性がある。いや、確実に従っているだろう。であれば、数も馬鹿にできないだろう。
エルフの精鋭を以てしても、自殺行為でしかない。であれば、モンスターの恐ろしさを良く知るこの世界の住人であるならば、口にするのも恐ろしい領域である事は間違えない。
そういう事なら、想像よりも血気盛んなエルフ達が躊躇する理由も分かるというものだ。憶測でしかないんだが、当たっているとは思う。
まあ、人間側の、侵略戦争を主眼に置いた、軍事国家の可能性も無くはないか?
分からんな。
……地図をもらえば分かることか。
交渉がダメだったら、地図は強奪するかなぁ……。正直なところ、もう闇雲に探すのは嫌だ。精神が悲鳴を上げている。徒労というのが、かくも精神を削るとは思わなんだ。
食料を現地調達しながら、東へ数日。
ようやく街が見えてきた。食べ物は完全に尽きており、一日半程は強行する羽目になったが、水という生命線が確保出来ていた為、事なきを得た感じだ。
ここはやけに、獣耳が多いな。亜人の街か?
「食糧を買い込んだら、一刻でも早く出よう」
「そうだな。耐えられん。本来ならば我らが踏み入るような場所では無い」
「そうですね。私もあまり……」
柔軟なアルテミスでも、ダメなのか。エルフって、エルフ以外の事嫌い過ぎじゃない?
高値で取引されるからと、追い回される身としては、当然の反応かもしれんが。
豹・ライオン・うさぎ・猫・犬・エリマキトカゲ?(リザードマンの亜種的な感じ)
多種多様だな。爬虫類慣れしてない現代っ子の感覚としては、エリマキトカゲっぽい亜人めちゃくちゃ怖いな。特に尖った鱗とかで切り裂かれそう。表情読めないし。
ケモレベルは3ぐらいだな。耳と尻尾だけが、って感じではなく、顔の造形も、犬は犬っぽいし、猫は猫っぽい。鼻のせいだと思う。鼻がその種類の、犬なら犬の鼻だからケモ力が高いと思われる。
犬のタイプに限って説明するなら、狼人間をもう少し人っぽくした感じだな。二足歩行で、全体的に人間寄りの骨格。顔は割とケモってて、毛が生えてるので、上半身には普通の防具等は付けていない。
強いて言うなら、心臓の部分だけ革の防具をつけてる感じだな。本当に急所だけ守ってるって感じ。
獣人は、男女共に露出が多いな。元々野生側だから、服とか防具とか嫌いなんだろう。毛を考えれば露出は逆にないのか?
う〜ん。
でも、人間の残滓が残ってる身としては、服を着てない二足歩行の生物はちょっと驚くな。
なんというか、携帯電話があれば通報したい。
冗談はさておき、獣人は肉体能力が高い事が多いだろうし、下手な防具より、自分の毛の方が信頼出来るのかもしれない。見た目はモフモフだ。モフモフのフだ。めちゃくちゃモフり倒したい。多分殴られるけど……俺モンスターだしね。
新しい街を今の俺のスペックなら、問題無く街を見て回れそうだから、見て情報収集したいんだけど、南のエルフ達に却下された。
三姉妹の監視下から離れないで欲しいと、再三お願いされてしまったので、仕方なく前回同様アルテミスの髪飾りになっている状態だ。
いくら助けてくれたとはいえ、得体の知れないモンスターを野放しにしたいと思う奴はいないから、当然といえば当然だな。甘んじて受け入れようじゃないか。
ゲームのオートラン機能だと思えば、そんなに悪くもないかな。
街を北と南に分ける大きな道に出ると、景色は一変した。
獣人は殆ど居らず、人間ばかりだった。
人と獣人が、共生しているのか?
あ、エルフ……ハーフエルフか?俺の周りの敵愾心が一気に可視化された気分だ。
頼むから、街中で問題を起こしてくれるなよ。
ハーフエルフが、気まずそうに退散すると、険悪な雰囲気が数段和らいだ。
これが「敵よりも裏切り者の方が腹立たしい」ってやつか。
エルフからすれば、生涯をかけて守るべき森を捨てた、憎き同胞の子孫ってところなんだろう。
「着いたぞ。先ずはここで使える硬貨が無いとな」
「そうですね。装飾品を売りましょうか」
「では、私達の物をどうぞ。幸い状態が良いですから」
南のエルフ達が、首飾りや腕輪などを外し、アルテミスに渡した。
ん?他種族が嫌いな割に、自分達の物を売るのは、嫌じゃないのな。
嫌悪感は別として、国交ぐらいはあるのだろう。鏃とか鉄を仕入れる必要はあるだろうからね。
異世界とはいえ、木から鉄鉱石とか採れたりしないのな。
アルテミスが店から出てくると、結構な量の金を入手したようだ。
何をそんなに買うんだろう。食糧を買い込むとしても、そんなに要らんだろう。物価とか分かんないし、もしかしたら必要なのかも……いや、ないな。
いくら人数が多くても、あの量の金を全部食糧に変えても持ち歩けないだろ。どうすんだあれ。人間の硬貨を装飾品や献上品に使ったりするんだろうか?
「貴方は馬を買ってきてください」
「お任せ下さい」
「貴方は馬車の荷台をお願いします」
「はい」
「貴方達は、食料の手配を」
「分かりました」
「すみません。宿をとってもらっても?」
「こんな所で泊まるだと!」
「怪我人がいますから、すみませんがお願いします」
「不愉快だが、仕方がないか」
あー、馬とか買うのか!馬車馬とはいえ、馬を買うとなれば、今度はあれで足りるのか不安だな。
馬を買うとなれば、かなりの金額がするだろう。だから、あんなに換金したのか。納得だな。
「姉さん。私達は何を?」
「アリシャを自由に動けるように手続きをしておいた方が、何かと便利でしょう?」
「あーそっか!じゃあ、登録だね!」
俺何回登録されるんだろ。毎回姿は変わってるけど。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv5/70
HP554/554
MP498/498
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.9》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人
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