51話 エルフ救出作戦②
『ゆっくりしていたら、敵の仲間が来るかもしれません。人数がハッキリしているうちに突入してしまいましょう!』
『それ、結局騒がれたら誰かしら来ないか?』
『う〜ん。でも、一人殺った以上時間もないし……』
『……お、思い付いた!成功すれば全滅させられるけど、失敗すると襲撃がバレただけで終わりになるけど、どうする?』
『突入は人質を取られる可能性が高いので、思い付いた方法とやらにお任せします。街の兵士が来ても困りますし』
そうだ。うっかりしてた。
現状人間は敵だから、エルフがバレること自体が争いの種になるのか。
てか、作戦って強行突破だったのね。いや、強行突破も立派な作戦だけどね。
『じゃあ、窓の方で見張ってて、アルテミスは強いんでしょ?』
『ええ、人間の賊になど負けません』
よし。
無駄に長い、城壁の上まで余裕で届く触手で、家?小屋?一軒を雁字搦めにする。
まあ、それも、最初の無数の棘を全部避けられればだけどな!
部屋の中に霧を一斉に噴射する。
瞬く間に視界を奪われてパニックが聞こえてきた。
「うわぁ!?なんだ!」
「クソ!敵襲だ!」
「武器は何処だ!」
「知るか!足元も見えないんだぞ!」
いや、霧濃すぎるだろ。確かに全力で噴射して、地面から吸いまくってるけどさ。
あ、街があるって事は井戸があるのか、じゃあ水脈から吸い上げてるのな。そりゃ家の中でも足元見えない訳だよ。
その辺なんも考えて無かった。
……こっちに有利な分は良いか。
家に向かって、縦横無尽に針を走らせ、抜き差しする。
「痛てぇ!なんだ!?」
「ぐあぁ…!」
気持ちはザクザク。時折グチュとかバキィとか聞こえる気がするが、気のせいだろう。家がボロいのが悪い。
「クソ!煙の中になんかいやがる!」
「ごぼっ、ゲホッ!」
「なんかってなんだよ!」
「窓も扉も空いてないのに、どうやって!?!?」
地下への階段は完全に鉄製の扉で塞がれてるから、予想されてた襲撃は、奴隷の移動中とかだったんだろうな。
家ごと攻撃される事を想定してるやつは、そう居ないだろ。
「ぎゃぁぁぁ!!!」
「ぐはぁ!」
「建物から出るぞ!」
「ダメだ開かねぇ!」
特に扉は念入りに固めてるからな。窓は弱めに。
少し賢ければ、扉が開かないと分かれば、窓から逃げるだろう。家の隙間から見える図体で窓から出れるかは知らないけど。
地獄のような一分間が終わると、悲鳴は聞こえなくなった。
窓には向かわなかったな。拍子抜けだ。
あっさり勝ってしまった。高い魔力の中に不純物は混じってない。
地下に逃げた奴もいないらしい。
指揮官クラスは一人も居なかったのか?
居たけど、パニックになって死んだかもな。
霧の中に何かいるって言ってたし、武器を持ってたやつは、仲間に誤って攻撃した可能性が高い。同士討ちの可能性は考えて無かったな。
『終わったぞ!』
『えぇ、凄い悲鳴でしたけど、大丈夫でしょうか?』
『多少は……ね?』
家と地下の鉄製の扉を、Bランクモンスターの膂力で破壊する。
……。
進化してから初戦闘(これを戦闘と呼んでいいのか分からないけど)だけど、もしかしてBランクモンスターって尋常じゃなく強いんじゃないの?
機会があったら、モンスターのランクが、どんな基準で作られてるのか、調べてみよう。
『じゃあ、念の為先に入るぞ』
『分かったわ』
ひんやりとした地下空間。熱感知も地下の温度が低いことを示している。
石と鉄の世界に、視界を確保する為のロウソクが、等間隔で置かれている。
通路に人の姿は無く、牢には5人のエルフが居た。
乱暴に壊された鉄製のドアから、のたくった触手の化け物が入ってきたので、心底驚いたようだ。左の牢の女性エルフ二人は身を寄せあい、右の牢の男エルフ三人は力無く震えていた。
なんかごめん。
ダイジョウブヨー。コワクナイヨー。
子供や老人は居らず、脱出は容易だろう。今回はたまたま上手くいったが、イレギュラーが発生すれば、一瞬で崩壊するな。
「皆さん助けに来ました!中央の森の街のアルテミスです!」
暗い牢が一気に明るくなったような気がした。
「こっちは西のエルフだ!救助感謝する!」
一番背の高い、切れ長の目が涼し気な男エルフが声をあげた。
アルテミス達を見て、やっぱりエルフは軽装を好むんだなと思ったけど、男は殆ど裸だな。人類から乖離した圧倒的美男だから全く不快感は無い。
長身イケメン細マッチョを地でいくの、マジで凄い。
これみたら、人間と恋愛するエルフやハーフエルフが異端視されるの納得だな。生物としての格が違うわ。
アルネアお嬢様に迷惑かけてた、シン伯爵もキラキラしてて鬱陶しい感じだったけど、男エルフはキラキラが当社比十倍って感じ。
多分マイナスイオンとか、水素水とか、体内で作ってるんじゃないかな。
埃と泥で、大変みすぼらしい事になってるはずなのに、神が与えたもうた美しさは、全く損なわれていない。
天然の空気清浄機を檻から出してやると、感謝された。
「さぁ、早く逃げましょう!」
「待ってくれ。このモンスターは?」
「知性があり、魔法で会話が出来るんです」
「そんな馬鹿な!?いや、現に居て我々を攻撃するどころか助けたのだから、認めるしかないか……」
「私も最初は驚きました!」
和気あいあいで、助けが来て気が緩むのは分かるんだけど、早く出ようぜ。
エルフが六人も固まって歩いてると目立って仕方ないな。
『こいつら全員顔を隠すように言ってくれ』
『そうですね。何か良いものがあるといいんですが……』
う〜ん。
いや、これダメだろ。笑いが込み上げてくる!目も口も鼻も無くてよかった。いや、花はあるか。
ダメだ。想像するだけで絵面がやべぇ!
『なぁ、名案があるんだけど』
『なんで笑ってるんです?』
『思い付いたのは良いけど、見た目がちょっとな』
『今は見た目なんて気にしてる場合じゃありません!』
『まあ、そうだけど、絶対後悔するぞ?じゃあ、向こうの五人に巻き付いていいか聞いて』
絶対後悔するぞ。絶対。
「えっとアリシャ、この花からの提案なんですが、目立たない為に顔を隠す方法が有るんですが、抵抗しないでもらえますか?」
「信じていいんだな?絞め殺され……いや、それならもうとっくにやってるか。頼む」
「後悔する程見た目が悪くなるらしんですけど」
「我慢しよう」
後ろの四人もうなづいているので、賛成は得られたみたいだな。
「いや、ちょっと待ってくれ。一度あんたが試してくれないか?」
俺が全員に巻きつこうと触手を動かすと、待ったがかかった。
得体の知れない触手に巻き付かれるのに、嫌悪感がない方が凄いので、仕方ないけど、地味に傷付くなぁ……。
『アリシャ』
『はいはい』
触手がズルズルと、アルテミスの美しい顔を徐々に覆っていく。
完成して五人に意識を割くと、全員が方を震わせてプルプルしていた。
うんまあね。そうなるよね。
見た目の悪い木の仮面を、無理矢理貼り付けた不気味さと、エルフのハッキリした顔立ちに触手がピタリと引っ付いたチープさが、なんとも奇妙な笑いを誘う。
「フフ……ま、待ってくれ」
「笑わないでください!」
「クッ……フフ……いや、スマン。想像以上に……ックフ」
「置いてきますよ」
「すまない。取り乱した。皆いいか?」
「名誉も大事だが、今は命が先だな」
名誉傷つくレベルでおかしいのかよ……。言いたい放題だな。パケット割とか効きそう。通信料払えよエルフ。
……そうじゃないか。
俯瞰視点で見えるので、俺が先導し、誰ともかち合わないように移動し、アルテミスを街に入れた手順で、エルフ達を壁の外に出して行く。
うん。問題無いな。
あってよかった感知スキル!
良かったよ。こいつら全員聞き分け良くて。絶対偏屈な過激派だったら、このままでは帰れない!報復だ!とか、言い出すに決まってる。
街の外で待っているセレネとルナは、こちらに気付くと駆け寄ってきた。
このまま、一旦森に隠れる運びになったようだ。
ミッションコンプリートだ!
ただ、追手は増えるだろうな。後、背後にいる不気味な奴らにも気を付けないと。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv1/70
HP513/513
MP471/471
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.8》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.3》《情報開示Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約
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