50話 エルフ救出作戦①
『……って、作戦なんだがどうだ?』
『不確定要素が多過ぎるわ』
『三人で特攻よりは、大分マシでしょ……』
『確かに他の案はないけど』
『失敗しても犠牲は少ない方がいいだろ?』
『そうね。各地に売られて、バラバラのところを探すのは難しいし、貴族に買われたら助け出すのがもっと難しくなるわ』
『その通りだよ。分かってくれて嬉しいな』
この作戦、成功確率が不明。普通に軍師なんかが聞いたら目を白黒させるレベルで雑。
いわゆる、スニーキングミッションだ。
捕らえられてるエルフの数が、多ければ多い程成功確率が下がる。
エルフの健康な男女ばかりなら良いが、子供やご老体、身体の弱いエルフが捕まってれば、失敗はほぼ確実だろうな。
静かに、迅速に。……無理無理。
暗殺者集団でも雇って、エルフ捕らえてる奴らを皆殺しにする方が現実的。
でもなぁ……こいつら助ける気満々なんだよなぁ……。
もう、地図とかいいから見捨ててこうかな?いや、地図は欲しいよな。現在地が分からん。方角も分からんでは、探しようがねぇ。
「アリシャなんだって?」
「早く助けに行かないと!」
ルナとセレナに一通り俺の話した作戦を伝えると、二人からは反対があったが、アルテミスはピシャリと、最後にこう付け加えた。
「アリシャの作戦通り、夜に私とアリシャだけで侵入します」
「なんで!?」
「アルテミス姉さん私達も行けます!」
「これは決定したことなの。外で安全な場所に、誘導をお願いね?」
「う〜分かったよ。外で頑張るね!」
「まさか、外から援護できるとは……同行できないのは残念ですが、お気をつけて」
夜に向けて、街のそばまで行きながら、水をパンパンに吸い上げる。
街を俯瞰で見ながら、魔力感知を全開にする。
魔力量が多く、それでいておかしなところを探る。
……!
ビンゴだ。貧民街の地下。
強い魔力反応が複数ある。
領主の屋敷とかなら分かる。防御魔法でも、展開してるんだろうってなるが、貧民街の地下に動く気配のない強い魔力反応が複数。
《魔力感知Lv.9》なんて、化け物級の感知力に、対策なんてしてる訳が無い。流石は上位モンスター!
とは言っても、集中してないと分からないし、気が逸れて他のものに集中したりすれば、あっという間に感知出来なくなるので、チート呼ぶには程遠いな。
今のところ、逃げるのと人探しぐらいしか役立ってないし。
だんだんと空が暗くなる。少し月明かりが想定より明るいが、風は無い。よく晴れた夜だ。
外壁まで走ったら、見張りや巡回兵に見つかりそうなもんだが、俺の感知範囲に引っかからないことは無いだろう。
聞くに、モンスターは警戒してるだろうが、エルフとは戦争でもなんでもない為、人影ならすぐに戦闘にはならないはずだ。
貧民街は、どこの街でも外壁近くにある為、侵入は容易だろうな。
かくいう俺は、隠形を使うためになるべく動かないようにしている。
触手の多くをアルテミスの髪に紛れ込ませ、頭に髪飾りの様な形でくっ付いている。触手さえ見えなければ、タダの白い花だからな。髪飾りに見えないことも無いだろう。
アルテミスに移動を依存している形だな。
にしても、実はよく見たら触手がガッツリ絡んでるエルフって、大分ヤバイよな。何がとは言わないけど。
問題無く城壁まで近付けた。巡回兵も、さっき通り過ぎたばかりだ。
《触手Lv.10》と進化のおかげで、更に長くなった触手は、余裕で外壁の上まで届く。
外壁上の兵士達に見つからないように、慎重に下のアルテミスを触手で引き上げる。
もう一度俯瞰で見ると、街の光源は月明かりと巡回兵の松明。娼館に金持ちの地区の魔法の灯りぐらいだ。
街全体に、防御魔法や感知魔法は展開されてないようで、すんなり入れた。
同じ手順で今度は、上から下に降ろす。下からずっと見上げて慎重に降ろしていたので、色々見えていたが、俺は植物なので一切問題は無い。
というか、360度の視界と俯瞰図が見えてる状態なので、見えないものなど殆ど無い。
"凪ぐ夜にの街に、ひっそりと霧の化物が、森の貴人と共に降り立った。この街の人間はまだ、すぐ隣にこの恐怖がある事を知らない"
なんて、カッコイイナレーションが入るところだな。
さて、霧の化物らしく、路地に霧を立ち込めさせますかね。足元からゆっくりと、侵食するように、這出るように。
魔力反応が密集している近くまで来ると、古び汚れた貧民街の家に似つかわしくない家が一軒。
鉄の扉に鉄の錠。立て付けの悪い窓からは、強いアルコールの臭いとキツい男達の体臭が漂っているような気がする。気がする。アルテミスが今にも吐きそうな顔を代弁しただけ。
まあ、中世の山賊みたいな悪党が、身だしなみに気を使ってるなんてことは無いだろうから、確実に臭い。
扉の見張りは一人。
出入口は二つ。熱反応の家の中の人数は八人。
観察している間に、だんだんと霧が濃くなってきた。
見張りは急に霧に囚われ驚いている。
だが、まだただ霧が出ただけだ。何も騒ぐようなことでは無い。今日は風がなく、霧がなかなか晴れずとも、誰も気にかけないだろう。
舗装されていない貧民街の道は、水汲みに支障は無く、更に霧を深めていく。
霧も夜も更に深まった頃、外からルナとセレネの魔力を感じると、風と水の魔法によって、霧が固定される。
精霊にお願いするから、魔法の自由度が高いんだな。俺が発動すると大体攻撃系になるもんな。それとも、モンスターだから、攻撃・防御魔法以外は覚えられないとか?可能性は大いにあるな。
霧に潜み、見張りの背後に忍び寄る。触手を気付かれないようにゆっくりとゆっくりと伸ばし、男の頭・喉・手足を細い針のような棘で包囲する。
包囲した棘を一斉に突き刺すと、男は悲鳴を上げる間もなく、赤い歪なハリネズミに成り果てた。
《血液吸収》を使用して、軽くなった身体を、屋根の上に隠す。体内の血液を啜られきった男の体は、随分と軽い。まるで、元からミイラだったような気がするほどに。
いくら救出作戦の為とはいえ、人間血を吸うのは抵抗があると思ったが、衝撃的な程罪悪感も背徳感も感じなかった。いや、楽しいほどだ。
俺の人間性とやらは、どうもとっくに、何処かのスライムの腹の中にでも行ったらしい。
さて、後は中の八人をどうするかだけど、正直何も浮かばない。
見張りは静かに屋根に上げたし、多少の間は、どっかでサボってるぐらいにしか思われないだろう。
屋根の上でアルテミスと作戦会議だな。
事前に決めておいた合図で、アルテミスに魔法を使わせる。
『見張りは排除したが、室内には男どもが八人もいる。どうするべきだと思う?』
『仲間を呼ばれず、騒ぎにならないように、排除したいですね』
『ん〜無理だな。霧を充満させても襲撃だと思われるだろうし、モンスターから散り散りに逃げたとはいえ、エルフを捕らえるだけの力のある連中が、外部との連絡手段を持ってないと考えるのは流石に楽観的過ぎると思うんだが?俺は人間やエルフなんかの事には詳しくないんだ。どう考える?』
なんなら、モンスターにも魔法にも、この世界の何にも精通してないまである。
『ん〜…………では、今度は私の作戦に従ってください!』
たった三人で、エルフの仲間を探してる精鋭だ。存分に頼ろうじゃないか。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv1/70
HP513/513
MP471/471
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.8》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.3》《情報開示Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約
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