49話 気付いていたのに
アルテミス!
あ、魔法切れてんのか。面倒だな。
……考えるか。
こっちの情報をべらべら喋るのもよろしくないしな。特に長女のアルテミスは、頭がキレる。ほんわか系なのに……。
三人が、この目に悪いとってもブルーな夏の森にいると言うことは、散り散りになったエルフがこの辺にいるという解釈でいいのか?それとも、闇雲に探してるんだろうか。
「あ〜!カゴ!」
移動を開始して、三時間ほど経った頃、ルナが声をあげた。
カゴ?あぁ、籠か。そういや、会った時に持ってたな。後、ルナうるさい。
「もう!急に大きな声を出さないでよ!」
相変わらず「もう!」が滅茶苦茶可愛いな。どんな声帯なの?
「別にカゴぐらいいいじゃない」
セレネがそういうと、ルナはそっか〜という感じで、鼻歌を歌い出した。なんだよ。結局カゴどうでもいいのかよ。
「ルナ。もう少し静かに移動しないと!」
アルテミスがルナに小言を言っていると、遠くから声が聞こえた。
ガサガサと大きな音をたて、話しながらこちらに近づいてくる。
「おい、こっちから声がしたぞ!」
「ひゅ〜!エルフの目撃情報は本当だったんだな!こいつは高く売れるぜ!」
こいつらがこっちに来るまで、多少の時間があったが、アルテミスの隠れる指示よりも速かった。
魔法か手練か。
あの短時間で、こうも距離を詰めてくるとは。
アルテミスが、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
アルテミスを警戒し過ぎて、周囲の警戒を怠るとは、何たる不覚。
「人間め……!」
「へっへ、3人も居るなら、一人ぐらいもらっても良いだろ?」
「ダメだダメだ!エルフは、あの気持ち悪い奴らが欲しがってるんだぞ?下手なことしたら不味い」
「ッチ!まあ、あそこは、ヤバいもんなんでも捌いてくれるから、機嫌を損ねたくはねぇ……でも、こんなに美人なんだ。ちょっとぐらいいいだろ」
「まあ、ちょっとぐらいは良いかもな……?」
エルフを狩って売って、奴隷にしようってか?まあ、よくもこんなテンプレクズが居たもんだ。
こんなに都合良くというか、俺が合流したタイミングで、テンプレクズにピタリと会うか?神がいるならデバックとストーリーが雑。ゲームかよ。
「あ……!ルナ姉さん見て!」
「おい、人間!その首飾り、何処で手に入れた!」
「あん?エルフ語なんざ分かんねぇんだよ!大人しく捕まれや!」
最初に注意してた大柄な方が、近くのセレネに飛びかかる。
が、そうは問屋が卸さん。
俺が前衛を買ってんだ。通すかよ。
「何だこの花は!?」
「まさかテイマーか!?」
「バカ!エルフがモンスターなんか仲間にするかよ」
「じゃあ、こいつはなんなんだよ!」
「俺が知るかバカ!クソ!おい、触手を切れ!」
「さっきからやってる!凄い頑丈だぞこれ!」
進化して、しなやかさと頑丈さが増したとは思ったけど、鉄製のナイフでは、もう切れないのか。
『助かりました』
『おいおい。戦闘中に魔力使っていいのか?』
『アリシャだけで倒せそうですし』
周りに意識を割くと、飛びかかられそうになったセレネは全く動じておらず、ルナと一緒に下がって弓を既に番えていた。
冷静に考えれば、劣等種の人間の男に襲われそうになったからって、恐怖心を感じる事は微塵もないか。種族として、そもそもエルフの方が人間より強いもんな。
俺だって、今ゴブリン二匹に襲われて恐怖するかといえばしない。格が違うし、片手間で倒せるからだ。
「死ね人間!」
「死んじゃえ!」
セレネとルナが同時に弓を放つ。
「クソ!エルフなんか追わなければ!」
「やめろぉ!」
二つの矢が刺さる音が重なると、男達の体重が触手を一段と重くする。自立出来なくなり、宙に放り出されるはずの身体は、虚ろな眼孔から赤黒い川を作りながら、ダランと触手にもたれかかっていた。
眼球を一撃。
一流の狩人は毛皮や内臓を傷付けない為に、獣の目を射貫くというが、流石だな。
俺の細い触手を撃ち抜いただけはある。
てか、この強さなら、俺普通に要らなかったな。足止めしただけなんだけど。落とし穴のトラップかな?
『アルテミス。謀ったな?』
『なんのことでしょう?』
しらばっくれやがって。エルフなんて追わなければ!って、はっきり言ってたろ。追われてるの隠してやがったな。
「驚いたわ!ルナ、セレネ。よくやりました」
「なんだったのかしら?何か言ってたようだけど?」
「アリシャ褒めたげる!」
「そうね!アリシャありがとう」
俺の観察眼を信じるなら、ルナとセレネは裏は無さそうというか、何も知らなさそうだな。姉の本性とか。
『私からも、お礼を言います』
『そうかい。ありがとよ。お礼はいいから、誰に追われてるか話してもらおうか?』
『エルフは高く売れますから、たまたま見つけただけでは?』
それだと「あの気持ち悪い奴らが欲しがってるんだぞ!」の意味が分からんだろ。もし依頼者が貴族なら、貴族の名前が当てはまるなりなんなりするはずだ。
ただ、証拠が無い。有用性を見せつけて、信頼を得るしかないな。現状裏を取れない今、これ以上の追求は悪手だろ。
『疑って悪かったな』
『いえ、気にしてないですよ』
あ、神様デバックやってない扱いしてごめんな。こいつは、とんだ食わせ者だわ。
「アルテミス姉さん。ルナ姉さん。こいつの着けてる首飾りって」
「エルフの西の街男達が、好んで着けてるやつね」
「模造品じゃないの?」
「ルナ、お願い出来る?」
「はいはーい!おまかせ〜!」
「スキル《装飾図鑑》ん〜本物だね!この樹液結晶はエルフの森でしか採れないから」
ナニィ!?!?ルナに頭脳労働ができるだと!
「樹液なんて何処のも大差ないだろ」
あ、セレネは少し脳筋なんだ。ちょっと頭良さそうなのに。
「全然違うわ!魔力を蓄える木なんて、エルフの住んでる森にしかない、特別なものなのよ?」
「そうなんだ」
「ほえ〜」
ほえ〜って、うつってどうする!
俺は!バカキャラじゃない!……多分!
そういえば、こんなに簡単に倒せるのに、なんでアルテミスは、あんなに怖い顔をしてたんだ?
人間の血で森が汚れるのが嫌だったとか、単純に人間が嫌いだからとかかな。
アルネアお嬢様を見かけた時、万が一戦闘にならないよな?
アルテミスと最初に話した時にうっすら気付いてたが、エルフにつくのは、人間と戦う事が多くなりそうだ。
幸いこの身体と、対人戦闘経験があるおかげで、人間の死体に嫌悪感は無いが、アルネアお嬢様と同じ人間を殺しまくるのもな……。
いやいや、俺も前世人間なんだから、そこを気にするべきか?それを知ってるのは俺だけだし、どうでもいいか。
「この首飾りが本物ってことは、近くの街で、エルフが捕まって売られてるかも」
「でも、街を攻撃したら人間と戦争になるよ?」
「先に手を出したのは人間じゃない!」
「街に乗り込むなら、三人じゃ無理だわ」
おいおい。ちょっと考え事してるうちに、大分物騒な方向に話が進んでるな。
流石に人間大虐殺は、アルネアお嬢様に顔向けできんぞ?
『待て待て!』
あ、まだ繋がってた。
『なんです?』
『さっきの奴らは、たまたま弱かっただけだ。俺を含めて突撃しても、特攻兵にしかならんぞ?助けたいなら、人数を集めるか、こっそりやるべきだ』
『でも、その間に、酷い目にあってるかも』
『なら、こっそりいこう。人間も悪いヤツばかりじゃないし、こっちは三人と一体しか居ない。ことを大きくして、襲撃者がエルフだとバレれば、捕まえたエルフを盾にする可能性すらある』
『こっそりって、どうするのかしら?』
『俺に考えがある』
どうせ長い付き合いになる。ここで、恩を売っておいて損は無いはずだ。
見せてやろうじゃないか!進化した俺の力をな!
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv1/70
HP513/513
MP471/471
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.8》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.3》《情報開示Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約
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