48話 エルフ達の事情
『そうだ。聞かせてくれ。この辺りはエルフの街があるのか?』
『いえ、ありません』
『なら、何故君達は……』
『ここにいるのか。ですか?魔王が復活し、凶暴化したモンスターに森を追われたのです』
『そんな事を初対面の俺に話していいのか?』
『やだ。モンスターで、花じゃないですか』
そりゃそうだ。花相手に見栄張ってどうする。
俺が多少でも人型っぽければ、ちょっとはプライドが働いたかもしれんが、今の見た目は、完全に花だからな。
しかし、魔王の影響か……。
あの化物の影響力は、身をもって知っている。納得するしかないだろう。
『色々聞かせてくれてありがとう。そう言えば、何処に向かってるんだ?』
『昔、人間の狩人が使っていた小屋です。汚くて快適では無いけど、雨風を凌げて寝れます!』
あぁ、逃げてる時、苦労したんだな。後、人間好きじゃないのね。声に滲んでる。
「やっと着いたわ!」
しばらく歩いていると、双子の快活な方セレネが声を上げた。
……。
想像の数倍はボロいな。
Q.これは、小屋ですか?
A.いいえ、廃墟です。
ダメじゃん。
『おい、これ』小屋?
おろ?
「あ、魔法切れちゃいましたね」
「そうなの?花何だって?」
「花って!」
ルナが俺を指さして、ケラケラ笑っている。
笑うなルナ。名前が上手くエルフ語に翻訳できないんだから、仕方ないだろ。
「花だと不便だからなんか名前付けよ!」
「賛成」
「えっ、でも、ちゃんと名前有るんですよ?」
「良いじゃないアルテミス姉さん。不便でしょ?」
「確かにそうかもしれないけど……」
「じゃあ、花はよかった名前の人の後ろに移動してね!」
そういう意思の疎通方法も有るのか!
「確か音は3つでした」
「じゃあ、私はレモン!」
「そうだな?リンゴかな!」
「えっと、イチゴでどうでしょう?」
モノリとレルレゲントから大分可愛くなったな。
いや、全部却下だよ。吸血するBランクの凶悪植物の名前が「レモン・リンゴ・イチゴ」とか、名乗りづらいにも程がある。
「……命令の入力されてないゴーレム並に動かないわね」
「お気に召さなかったか〜!」
「残念です。えっとじゃあ、食べ物から離れましょうか」
おねげぇしやすアルテミスの姐御!
「素直に、ホワイト・クリサンセマムでいいんじゃない?もう」
飽きんな!諦めんなよ三女!もっと、興味を持て!
「セレネは安直だなぁ〜」
「ルナに言われたくないわ」
「それにホワイト・クリサンセマムじゃ、長くて不便だし!ホワイトからホを取ってワイトにしようよ」
それは、違うだろ。ワイト、アンデットじゃん。
「ん〜アリシャにしましょう!決定です!お姉ちゃん権限です!」
「おーぼーだー!」
「そうですよ!アルテミス姉さん!」
アリシャか。意味は分からんが、モノリやレルレゲントよりもしっくりくるな。
アリシャはそう言えばどっかの国の言葉だったな。人名だったかな?まあいいや、どんな意味だったかは忘れた。
ちょっと女性っぽい名前な気もするが、俺今花だしいいか。
名前に夢中になっていると、空は既に逢魔時の赤に支配されていた。
夜に向かって支度をしていて分かったのは、エルフも保存食は美味くないらしい。
ルナが凄い形相で突っつきながら食べていた。
エルフがどれだけ美人でも、あれでは台無しだ。
まあ、セレネも難しい顔をしながらシワを寄せて食べていたし、アルテミスも唸りながら食べていたので、相当不味いんだとは思うけど。
翌日、魔力の回復したアルテミスが、すぐに魔法を使った。
『おはようございますアリシャ。あ、勝手に付けちゃったけど良いですか?』
『いいよ。最悪名前花も覚悟してたし、有難い』
『良かったです』
『それで、こんな朝早くに魔法を使ってまで伝える事があったのか?』
『はい。妹達はアリシャを弱いと思ってる見たいですけど、強いでしょう?』
『強いぞ。そこそこな』
『それでお願いが有るんです!私達は森から世界各地に追いやられた同胞を探しています!手伝ってもらえませんか?』
世界各地を回るのなら好都合だ。
アルネアお嬢様は貴族だ。そして、貴族達は「高貴なる者の義務」により、魔王復活によるモンスターへの対処に動いているはずだ。
あれ?凄い今更だけど、卵じゃない従魔を獲得する試験が進級試験って事は、二年から三年への進級試験だよな?
一年から二年に上がるのに、卵じゃない手間暇かかったモンスターを、従魔に選ぶ必要無いもんな。俺以外は強そうなのばっかりだったし。
アルネアお嬢様は結婚できるから、成人の十五歳は越えてるとして……。
って事は、アルネアお嬢様あんなちんちくりんで、十七歳か十八歳ってことか!?
……衝撃の事実だな。
いや今はそんな事はどうでもいいな。
『条件が三つある』
『聞かせてください』
『一つ目。これが一番大事だ。昨日も言ったが俺は従魔だ。なので、主人が見つかれば当然そちらに行くし、主人を探すのを優先する。これは良いか?』
『えぇ。まあ、主人が見つかれば命令されるでしょうから、当然着いてこれないでしょうね。分かりました。ただ、主人を探す行動が、私達を危険に晒す場合は、敵対または見捨てさせてもらいます』
『至極当然だな。もっともだ。それでいい』
後、アルネアお嬢様を探すのに必要なのは……。
『二つ目。これは成功報酬で構わない。地図が欲しい。人間の支配地域も載ってれば最高だ』
『詳細で高度な地図は軍事物ですよ?人間の側にいるアリシャに渡すとでも?』
『分かってる。だから、上に掛け合ってくれるだけでいい。エルフの情報を全部省いた上で、人間の支配地域だけを書き写したものをくれれば文句は無い』
『エルフの隠れ家や領土が載っていなくて良いのなら、交渉の余地は大いにあると思います。三つ目は?』
『三つ目は、条件というか、お願いだな。魔法を教えて欲しい。使い方とか』
『それは無理ですね。エルフの魔法は、魔力は消費しますが、魔法というより精霊にお願いや命令をしているだけですから、魔法発動までの流れが全く違います』
『精霊……ね』
『精霊は親和性を喜びます。力の集合体とも言えるモンスターには、精霊は力を貸さないでしょう』
折角のエルフに、魔法を習えないのは残念だな。
『魔法は仕方ないな!じゃあ、条件は二つだけだ』
『問題無いと思います。二人にも伝えてきますね』
『何か問題が発生したら、また話し合いでお願いしたいものだね』
『場合によります』
『そりゃそうだ』
アルテミスは真面目な話をして疲れたのだろう。
息を吸って、肩をいからせた後、大きく息を吐きながら、妹達の方へ向かった。
取り敢えずだが、話は纏まったな。地図が得られる可能性が出てきたのは最高だ!大きく前進したと言えるだろう。
戦闘面は、俺が前衛を全て受け持つしかなさそうだな。後衛一に中衛二か。場合によっては、弓使いの一人が前衛に出ると考えると、そんなにバランスは悪くないのか?
ルナに後ろから撃たれそうで怖いな。しかも「ごめ〜ん」ぐらいで済まされそう。
しかし、あれだな。アルテミスは見た目と声と違って策士だな。
俺が強いモンスターって分かってて、自分達の事情を話してたのか。
何が「やだ。モンスターで、花じゃないですか」だよ。やってくれるぜ!
アルテミスには、常に警戒を怠らないようにしておこう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv1/70
HP513/513
MP471/471
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.10》《魔力感知Lv.9》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.7》《植物成長速度Lv.7》《植物鑑定》《水汲みLv.8》《血液吸収》《猛毒Lv.1》《噴霧Lv.3》《情報開示Lv.3》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.5》《刺突耐性Lv.6》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.6》
魔法:《土魔法Lv.2》《水魔法Lv.3》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.2》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




