4話 暇つぶし
あれだな。異世界転生や転移した主人公って、何かいつも戦ってて、冒険してるようなイメージだけど、俺今スゲー暇。夜は当たり前か。
まあ、こんな気持ち悪い触手の植物系モンスターが、主人公なんて聞いた事ないし、俺モブなのかなぁ……。
主人公でも、主人公の従魔でも嫌だけどさ。 だって、アイツら常に危険に巻き込まれて、自分から厄介事を引き受けに行くんだぜ?俺からしたら、精神に異常をきたしてるとしか思えないね。
お嬢様に召喚されてから、一晩しか経ってないけど、植物系モンスターって眠くならないらしくて、それはもう滅茶苦茶暇だった。
具体的には、スキルレベルが上がるぐらいには暇だった。暇過ぎて、触手を人間だった頃の手みたいに、自在に動かせないか試していたら《触手Lv.2》になっていた。
本当は土魔法も練習したかったけど、朝起きたら部屋が砂まみれでした〜なんてなったら、お嬢様にしこたま怒られること請け合いだ。
お嬢様早く起きないかな。お嬢様が起きてくれないと、触手のレベル上げか、ステータスを眺めるぐらいしか、することが無い。
寝顔を見て揶揄ってやろうとも思ったが、揶揄う口が無い。文字も知らないので、揶揄いようがなかった。それに、美人のお嬢様は、寝相も寝顔も美人で、特に揶揄う点が無かったのも大きいな。非常に残念である。
お嬢様の頭に触手を複数くっ付けて、洗脳ごっことか、囚われのお姫様ごっことかしていると、ようやく起きてきた。
後ちょっと止めるのが遅かったら怒られてたな。危ない、危ない。
一応、もう一度ステータス確認しとくか。
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名前:無し 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.1/10
HP10/10
MP8/8
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.2》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔
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うん。変わってないな。触手もLv.2から伸びてないし。
お嬢様は手を口元に持っていって、お上品な欠伸をした後、軽く目を擦ってから、俺の方を見た。
「ッヒ!……あ、あぁ。モノリーフね。おはよう」
おい!俺今ハッキリ聞こえたかんな!自分の従魔見て悲鳴を上げるとか、どういう了見だ!
目を細め、触手で床を叩いて抗議する。あれ、目蓋無い状態で、目の細め方が分かんないぞ?
「そういえば、お前の名前を決めて無かったわね」
無視!?俺の抗議は無視ですか!や、まあ、床叩いたけど、弱いせいか大きな音がなった訳でもないしな。気付かれなくても仕方ないか。口ないの不便だな、おい。
「そうね。モノリーフだし、モノリにしましょうか」
安直!センスねぇ!もっとカッコイイ名前が良いんだけど。アルフレッドとか、レオンハルトとかさ。
敵キャラっぽい名前なら、バルザックとか、ジャンバルジャンみたいなのでもいいのよ?なんか濁点多いと強そうじゃん?
触手でバツマークを必至に掲げるが、どうも伝わってる気がしない。冷静に考えれば、国が変わればジェスチャーの意味も変わる。じゃあ、世界が変われば……。
最初から、伝わると考えていた俺がいけなかったね。そりゃそうだ。言葉が理解できるから、つい、伝わる気でいてしまった。
せめて「良いよ」と「ダメ」ぐらいは伝えられる様になりたいな。呼ぶ時は、流石に肩叩けば、こっち向くだろう。モンスターだし、セクハラとかも適用されないしな。
幼女の趣味も無ければ、少女の趣味も無いし。俺はボンキュッボンな、年上のお姉さんが大好きです。健全な触手を目指します!
うん。これいいな公約にしよう。『健全な触手を目指します!』公約の意味が、ぶっちぎりで違うけど、気にしない。ニュアンスが伝わればそれでいい。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.1/10
HP10/10
MP8/8
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.2》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔
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だぁぁぁ!!!登録されてる!キャンセルしたいんだけど。Bボタン、Bボタンは何処だ。Bボタン寄越せよ。キャンセル、キャンセル!
俺が、ふざけた名前に、全力で抗議する為にのたうっていると、お嬢様がトンチンカンな事を言い出した。
「あら、どうやら気に入ったみたいね」
ちっげぇーよ!
……はぁ。もう、登録されてるし、モノリでいいや。
「えっと……。どうしたものかしら?植木鉢なら、そのままお水をあげるんだけど……」
霧吹きで水を吹き掛けるか、水場に連れてってくれれば、勝手に触手使って飲みますよ。
伝えようが無いな。従魔らしく、後ろに引っ付いてればいいか。そのうち、上手い水のやり方を考えてくれるだろう。
「モノリのご飯は、外に出た時に考えるとして、着替えないとね。そういえば、植物系モンスターに言っても仕方ないけど、自己紹介がまだだったわね。アルネア・アッシュ・アーベンスよ。よろしくねモノリ」
アルネア・アッシュ・アーベンス。略すと「ああああ」だな。
「ッフン!」
痛ったぁ!?蹴られた!目がぁ!目がぁぁぁぁぁ!!!アルネアお嬢様思ったより気性が荒いんだけど!
どう考えても、俺目が本体なのに、躊躇無く目を蹴ってきたよ。
さっきまで、なんも伝わらなかったのに、なんで「ああああ」って考えた事が分かったんだ。
「なにか非常に不快なものを感じたわ。植物系モンスターに意思があるのかしら」
モンスターなんだから、俺以外の通常種のモノリーフにも、意思は有ると思うよ。じゃないと、従属しようがないからな。
それとも、従者みたいな感じじゃなく、魔物を魔力で操ってる感じなんだろうか?
「人型の従魔なら、着替えを手伝わせたんだけど、植物系モンスターじゃ、無理よね」
いえいえ、手伝わさせていただきますよー。
植物になったせいか、美人の先生を見ても、顔が整ってるとしか思わなかったしな。なーんも湧いて来なかった。
俺が人間だった頃なら、食事に誘ってみようと思うぐらいには美人だったんだけど、口説こうとすら思わなかったな。
クローゼットらしきところを開けて、服を出してやることにした。うわっ、服少な!女性のクローゼットとは思えない程、服が少ないな。
俺の無駄にいっぱい生えてる触手より大分少ない。
まあ、人生かかってる試験で、投げ売りの卵買っちゃうぐらいだもんな。
「ウソ。先生はモノリーフって言っていたけど、違うのかしら?植物系モンスターの従魔は、戦闘やそれ以外でも、大まかな指示しか与えられないのに……も、もしかして特殊個体……とか」
やっちゃったっぽいな。特殊個体で通そう。はーい、みんなーレアモンスターですよー。
「流石に無いわよね。数だけは無駄に多い、ウルフやゴブリンですら、特殊個体なんて、一生に一度遭うか遭わないかの確率だもの……秘密にしておきましょう。面倒に巻き込まれるのは嫌だし」
俺遠慮する気とかないから、早々にバレると思うし、先に報告しといた方がいいんでないの。
取り敢えず、うんうん唸ってるお嬢様に、メイドよろしく服を着せていく。
「少しぎこち無いけど、家ではメイドに手伝わさせていたから、懐かしい感覚ね」
貧乏貴族とはいえ、流石に従者の一人や二人は居るんだな。
アルネアお嬢様に着いて、朝食を食べに行くと、人とモンスターでごった返していた。
モンスターに転生して良かったかも。普通に人間の体に人間の精神だったら、この人魔入り交じってる空間に気絶してたかも知れない。
小型や人より少し大きいぐらいのは居るが、流石に広場?訓練場?みたいな所で見た大型のモンスターは居ないな。居ないっつーか、入らないもんな。
「やあ、アルネアさん。おはよう」
で、出たなイケメン伯爵。子供で、まだ爵位を継いでないだろうから、正確には次期伯爵なんだろうが、細けぇこたぁいんだよ。
相変わらず、何?お前喋るだけで背景変わるの?ってぐらい、キラキラしてんな。イケメンって「おはよう」だけで、新緑の爽やかな空気を運んでくるんだな。けっ。
「ごきげんよう。シン・カーディア・ウェルブレム伯爵様」
軽く挨拶を返すが、アルネアお嬢様顔が良いだけあって、凄い様になってるな。
美男美女のツーショットのせいで、無い胃がムカついてきましたよ。
「ははっ、伯爵様は止してくれ。それにフルネームとは、余りに他人行儀じゃないか。同じ学園の仲間じゃないか!気軽にシンと呼んでくれ」
「大変嬉しく思います。けれど、私のような者には、過ぎたものです。ウェルブレム様と、お呼びさせていただきますわね」
「君は相変わらずつれないな」
ちょっと残念そうな顔もイケメンとか、世の中不公平過ぎる。もう、絶対コイツが主人公だよ。
後、お嬢様への、嫉妬を通り越した殺意の視線凄いな。魔眼かなんかですか。
「そうだ。良ければ、朝食を一緒にどうかな」
気付けよ伯爵様。すげぇ迷惑だよ。お嬢様、眉間にシワが寄りかけてるもの。
「いけません」
「何故だい」
「恥ずかしいですわ」
お嬢様狙ってるなー。恥ずかしげに顔を紅くして俯いた後の上目遣い。
俺が人間の頃だったら、今の一瞬の動作の内に、三回は恋に落ちてるね。
無論、伯爵様もやられていた。横で見る植物系モンスターですら、可愛いと思うんだ。あの大きな瞳に、正面から捕まった男が、落ちないわけがない。
美少女が、自分の美少女っぷりを自覚して放つあざとい仕草は、狙ってやってるって分かってても、グッとくるんだよな。
アルネアお嬢様は、傾国の美女とはいかないまでも、外国の人気女優ばりの美人さんだもんな。
「そ、そうか。じゃあ、遠慮しておくよ。また、授業で」
伯爵様が照れ隠しに慌てて去っていくと、殺意の視線から解放されたせいか、体感温度が戻った。
デブ子爵に続きイケメン伯爵まで、アルネアお嬢様狙いかよ。いつから、ラブストーリーになったんですか。ここに来るまでの道中で、日光しか摂取してないけど、砂糖吐きそう。
「はぁ。早く領地に帰りたいわ。伯爵様に良く話しかけられるけど、万が一誘いに乗ろうものなら、命が幾つあっても足りないし、どうしたら誘われなくなるかしら」
嫉妬の目線で見てくる女の子達からすれば、贅沢な悩みだろう。しかし、力も後ろ盾も無いお嬢様からすれば、文字通りの死活問題だ。
デブ子爵がいじめる→イケメン伯爵様が助ける→女子の嫉妬を独占→ボッチ→イケメン伯爵様に対抗心を燃やすデブ子爵→最初に戻る。
負の無限ボッチ精製ループが、既に完成してる訳だ。なんとかしてやりたいが、原因はイケメンに好かれてる事なんだよな。
子爵は大した問題じゃなさそうだし。イケメンに、お嬢様を嫌えってのも、おかしな話だしな。
まあ、それはおいおい考えるとして、授業何するんだろうなーちょっと楽しみ。
名前:モノリ 性別:不明
種族:モノリーフ(リーフィリア)
Lv.1/10
HP10/10
MP8/8
状態:普通
能力:《共通言語理解》《調べる》《触手Lv.2》《薬草生成Lv.1》《植物成長速度Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔