32話 コール・ウォー・サンドラス南方小都市群
イジャールの狂信者達を打ち倒した俺達は、護衛の追加依頼と都市への報告、馬車の修理を兼ねて、南方にある小都市群に向かう事になった。
なんでも、金持ちの乗ってる馬車は特別仕様らしく、南方で使われている特殊技術が用いられてるらしい。近くの村では、とてもじゃないが直せないと、匙を投げられてしまった。
売買用の生物も積んでいないので、馬車の修理を優先する事にしたらしい。
壊れた馬車を馬に曳かせるのは不可能なので、俺が引き摺って行く事になった。
訓練された軍馬でも無い馬は、魔法の爆音に驚いて、四方に散ってしまったし、運悪く魔法受けてしまった馬もいた。
この中で、最も力の強いモンスターである俺に、お鉢が回ってきたのは極当然である。
本当に雑用しかして無いな。雑魚っぷりが半端ない。イジャールの狂信者達と戦った時も、よくよく考えたら感知しかしてないし。後は、アリアを釣り下げて逃げ回ってただけだ。
世界広しといえど、雑魚っぷりと、雑用っぷりと、逃げ足に定評のある植物系モンスターは、俺ぐらいだろう。
『コール・ウォー・サンドラス南方小都市群』
な、長ぇ……。
こんなん明日にはスッパリ忘れてる自信がある。
馬車に使うような特殊技術を有しているが故に、こんな世界でも生き残ってる都市なんだろう。もしかしたら、技術の保護の為に大国に条約で護られてるかもしれないな。
小都市群って呼ばれてるけど、都市国家とか言うやつじゃないかな。まあ、俺は国家の形態に詳しい訳じゃ無いから、多分とかおそらくを多様する羽目になるが。
「全く、イジャールの狂信者に襲われるなんてツイてないわ」
お、実はその話題ずっと待ってたんだよね。
口ないから俺から聞けないし、おお、不便不便。
襲撃を受けてから、ずっと雰囲気が重くて聞ける雰囲気でも無かったんだけどな。仲間が少なからず殺られてるのだから、当然といえば当然だけど、アリアは空気読むのとか苦手そうだしな。
「で、イジャールの狂信者って何なの?」
如何にも知ってそうな口振りなのに、知らないんかい。アリアちゃんマジ自由の体現者。
「奴等は本物の狂人です。もし、次に遭遇しましたら、即座にお逃げ下さい」
「分かったわ。それで、どんな集団なの?」
「死と疫病、餓鬼と悲涙を愛する邪神を信奉する者共です」
「はぁ〜私にはさっぱりだわ。どうせなら、もっと気分が良いのを信仰すればいいのに」
何処の世界にも破滅願望や、終末論者はいるんだな。その神が邪神イジャールか。
魔法という現象が身近な世界では、神はより身近なのだろう。
言葉も文化も、地域も歴史も違う民族が、共通して神や火、言語を持つ事を何と言ったかな。異世界でもそれは変わらないらしい。俺が哲学者や神学者なら、狂喜乱舞しただろうな。
そうだ。『神々の図書館』そんな名前だった気がする。
もしそうなら、異世界の人間の無意識すらも、神々の図書の一ページだと言えるだろう。神的領域で、我々の世界と、あらゆる異世界は通じている。
魔力という事象が、神を介在し、魔法という現象を引き起こす。
魔法をそう定義するので有れば、俺が目にしているステータスは、神々の図書館から引っ張って来た、データーの一部の閲覧と呼べるのではないだろうか。
地球の人間は閲覧する権限。つまり、魔力を持つ事が出来なかっただけであり、地球人にもステータスは存在すると思われる。
一部の人間にだけ権限(魔力)が、イレギュラー的に発生したとすれば、魔女人狼吸血鬼なんかは、実在したかもしれないな。日本でいえば、雪女やぬらりひょんの類いも、居たかもな。
「奴等は、邪神に魂を捧げる為に、多くを殺す事を教義としている、正しく狂人なのです」
「世界には変なのが沢山いるのね」
「いますよ。人肉を喰らう人間もいれば、人間と共生しないと生きれないモンスター、他人の為に働く事を史上の喜びとする精霊まで、思い付きもしない変なのが沢山いるのが世界です」
「レルレゲントも特殊個体だものね!……聞いてるレルレゲント?」
ん?
あ、俺か。
よく分からんが、適当に触手をブンブンさせておく。
ヤバいなぁ……。最近人の話を聞いてないで、ボーッとしてる事が多いんだよな。
アルネアお嬢様と居た時もそうだけど、眠くならないし、お腹も大して空かないし、弱点以外痛みも無いからか、ボーッとしてる事が偶にあった。
最近はその時間が長い気がする。
植物系モンスターっていう、天敵が少ない事も影響してるだろうな。こちらから攻撃しなければ、森の中で脅威なのは寄生植物ぐらいしかいない。
人間と体感時間が違いすぎるせいで、少しボケっとしてたら、それだけで数日経ちそうである。
こっちの世界じゃ、俺の見える範囲にはカレンダーも時計も無かったから尚更だ。感覚がさっぱり分からない。
この植物に流れてる時間に慣れきる前に、アルネアお嬢様を探し出さないと、取り返しのつかないことになりそうで怖い。
っと、今日はこの辺でテントを張るらしい。また、無意識で歩いてたな。余分に引き摺ってしまった。
「じゃあ、レルレゲント。見張り頼むぞ」
「私も起きてようかしら!」
「お嬢様。休める時にしっかり休んでおかないと、いざという時に身体が動きませんよ」
歴戦の傭兵は良いこと言うな。
「貴方たちだって、夜起きてるじゃない!」
「そりゃあそうですお嬢様。俺らの仕事は護衛なんですから。いくらレルレゲントが睡眠不要だからといって、全てに対処できる訳でもないですし、レルレゲントは見張りにおいて最大の欠点があります」
「なによ。レルレゲントにケチつけるの?」
そうだそうだー!俺が最強の見張りに決まってるぜ!グララウス許せん!
「レルレゲントには口が有りませんから、皆を一斉に起こすのは殆ど不可能でしょう」
流石歴戦の傭兵は良いこと言うな!
そうだよ。お前ら雇われてるんだから、ちゃんと見張れよな!
「周りに何も無い平原なら、全体を見渡せるレルレゲントだけで十分ですが、この辺りはレンジャーじゃない俺から見ても、隠れやすそうなところが沢山あります。レルレゲントのように、擬態を使えるモンスターなんかがいたら、俺らはいい餌ですよ」
「護衛って意外と面倒なのね。私もやってみたかったのに」
「お嬢様が傭兵になっても、依頼は殆ど来ないと思いますよ」
「私じゃ力不足とでも!」
「違いますよ。貴族に護衛を頼める平民なんていません。確かに、貴族には領地のモンスターを倒す義務が有りますが、傭兵となれば話は別です」
一見似たようにも感じるけど……。
「それに、いくら傭兵の名目で雇ったとしても、貴族に命令する度胸なんて、大抵の平民には有りませんから」
最も過ぎて、ぐうの音も出ないな。
「そんなもんかしら」
世の中そんなもんだって。俺もアリアに命令できるかといえば出来ないしな。したいかで言えばしたいけど。
アリアに、ワガママに付き合わされる側を、是が非でも体験してもらいたいと思ってる。
アリアの瞬く間に潰えた傭兵の夢を拾ってる間に、設営は終わっていたみたいだ。
「おやすみ。レルレゲント」
おやすみ。アリアのお嬢ちゃん。
青く淡い月明かりに照らされる中、先程の喧騒が嘘のように静まりかえっている。
魔力感知には小動物が三匹。
モンスターが出ない青い夜は、小動物達の宴で満ちていた。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv3/30
HP90/90
MP60/60
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.4》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.4》《魔力感知Lv.4》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.2》《植物成長速度Lv.2》《植物鑑定》《水汲みLv.3》《血液吸収》《毒Lv.4》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.4》《斬撃耐性Lv.5》《打撃耐性Lv.3》《刺突耐性Lv.2》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘
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